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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
478/637

#478 王妃報告、そして盗撮。

■『異世界はスマートフォンとともに。』14巻、今週 9/22(土)発売です。よろしくお願い致します。





「それでは報告を始めます」


 バビロンの『庭園』にある一角、『王妃たちのお茶会クイーンズティーパーティー』が開かれる四阿あずまやで、ユミナが厳粛に宣言した。

 円卓になったテーブルには九人のブリュンヒルド王妃が席についている。

 それぞれの手元には好みの紅茶や飲み物が用意してあり、ケーキもそれぞれの好みの物が用意されていた。


「今のところ、こちらの時代にやってきた私たちの子供は二人。八重さんの娘である八雲ちゃん、リーンさんの娘であるクーンちゃんです。このうち八雲ちゃんは武者修行の旅に出たまま行方不明ですが……」

「あれから連絡とかはないのかの?」

「まったくないでござる……。本当にもう……どれだけ親に心配をかければ気がすむのか」


 八重が怒りつつも目の前のホールケーキをバクバクと平らげていく。その横には二個目三個目のケーキも用意されていた。初めからヤケ食いするつもりだったらしい。


「クーンちゃんから何か新しい情報はないんです、か?」


 リンゼがこの中で唯一子供と接しているリーンに尋ねた。ユミナ以外の七人もそれは気になっているようで、リーンに注目が集まる。


「これといってないわね。あの子、アリスと違って基本的に自分以外の情報は漏らさないし」

「だけどとても気になるような言葉はちょいちょい漏らしますよね……」


 ぼそりとヒルダがそうつぶやくと、隣にいたエルゼが大きく頷いた。


「わかる! 私、『エルゼお母様の子供はいい子ですよ。ただ、エルゼお母様とは……ふふっ。いえ、なんでもありません』って言われた! 私とはなんなの!? すっごい気になるんだけど!」

「あれ、わざとですよね……。わたくしも『ヒルダお母様はフレイお姉様と違って……いえ、大したことではありません。お気になさらず』と言われました。逆に気になって訓練に身が入らなかったです……」


 それを聞き、リーンがなんとも言えない顔をして腕を組んだ。


「ごめんなさいね。どうもあの子、思わせぶりな態度で私たちをからかっているみたいで……。嘘はついていないみたいだし、大目に見てもらえるとありがたいわ」


 はぁ……と、大きくため息をつくリーン。間違いなくクーンはわかってやっている。自分たちの反応を見て楽しんでいるのだ。


「まったく性格の悪い……。変なところがダーリンとよく似てるわ」


 いや、それは父親だけの遺伝じゃないだろう……とみんな思ったが、口には出さなかった。夫婦間だけではなく、妻同士でも気配りは大事なのである。

 変な空気を変えるように、ルーがことさら明るく口を開く。


「そ、そのクーンさんは今なにを?」

「アリスのところに遊びに行ってるわ。というか、行かせたわ。放っとくと、あの子ずっと『バビロン』に閉じこもってるんですもの。不健康だわ」


 クーンは一日のほとんどを『バビロン』で過ごしている。なので、リーン以外、まだそれほど深く話したりはしてないのだ。


「アリスの方からは、誰か新しい情報を聞いてないのかの?」

「これ、ニャンタローからだけど」


 スゥがみんなを見回すと、桜が小さく手を挙げた。ニャンタローこと桜の召喚獣であるダルタニャンは城下町の猫たちを牛耳っている。町の噂など、情報という情報は桜へと集まるようになっていた。

 もちろん全てではない。ニャンタローの方で、桜へ伝えるべきもの、あるいは国王である冬夜、または諜報部隊の長である椿の方へと流すものと選り分けている。

 そしてその桜に伝えるべきものの中に、当然アリスの行動や言動も含まれていた。


「アリスが今、クーンと接触してる。で、ニャンタローがそのそばにいて、現在盗撮中」


 ざわっ、と他の八人が席を立ち、桜の周りに集まる。桜の手にしたスマホには城下町にある、喫茶店『パレント』の店内が映し出されていた。

 量産型のスマホはニャンタローたちにも配付されている。そのカメラ機能を使い、ニャンタローからリアルタイムの映像が主人である桜に送られてきているのだ。

 『パレント』の店内。どうやら空いたテーブルの下、テーブルクロスに隠れて撮影しているらしい。かなりのローアングルで撮られていた。なにかのこだわりなのかもしれないが。

 カメラの先にあるテーブル席には少女が二人。どちらも綺麗な白い髪ではあるが、片方はミディアム、片方はツーサイドアップ。アリスとクーンである。

 クーンの隣にはメカポーラこと、パーラの姿もあった。

 

『んー、おいしー!』

『時代を遡ってもこの美味しさは変わらないわね。未来よりメニューが少ないのは仕方ないのかもしれないけど』


 小さくだが、はっきりと二人の声が聞こえた。音声に問題はないようだ。未来のブリュンヒルドにも『パレント』はあるようだ。

 アリスはストロベリーパフェ、クーンはホイップクリームとフルーツが山盛りのパンケーキを食べていた。


『クーンお姉ちゃんが来てくれて助かったよ。ボク、ほとんどお金を持ってこれなかったからさー』

『私だってお金は未来むこうのギルドに預けっぱなしよ。お財布は持ってきてないわ』

『えっ!? こ、ここのお金どうするの!? ボ、ボク、もう食べちゃったよ!?』


 クーンの言葉にパフェをつついていたアリスのスプーンが止まる。すでにストロベリーのパフェは半分ほどなくなっていた。

 なんとも困ったアリスの顔を見て、クーンが堪え切れずに吹き出す。


『安心しなさい。私は持っていないけど……パーラ』


 クーンの声にひとつ頷くと、隣にいたクマゴレムはその口からチャリチャリ、と銀貨を数枚テーブルに吐き出した。貯金箱か。


『脅かさないでよ、もー! 相変わらず性格悪いな、クーンお姉ちゃんは!』

『ふふふ。褒め言葉ととっておくわ』

「褒めているわけではないと思うでござるが……」


 画面越しに会話を聞いていた八重が思わずつぶやく。こちらからの音声はオフになっているので、向こうに聞こえる心配はない。


「人をからかって喜ぶなんて、我が娘ながら呆れるわね、まったく」

「リーン殿も【リコール】を教える時、拙者と旦那様をからかったではござらぬか……」

「……そんな昔のことは忘れたわ」


 八重からのジトッとした視線をゆっくりと逸らすリーン。彼女以外の脳裏に地球で学んだ『この親にしてこの子あり』といった言葉が浮かんだが、誰もツッコミはしない。なぜなら明日は我が身だからだ。


『みんな早く来ればいいのになー。八雲お姉ちゃんも修業なんて適当に切り上げればいいのに』

『みんなも真っ直ぐここに来ればいいけど。リンネとか、ヨシノとかは食べ歩きでもしてそうね。そういえばあの子たち、お金持ってるのかしら?』


 クーンの言葉に九人の王妃たちが顔を見合わせる。ヨシノ。初めて聞く名だが、この中の誰かの子供であることは確かだ。


「えっと、八重さんの娘さんが八雲ちゃん、ヒルダさんの娘さんがフレイちゃん。で、リーンさんの娘さんがクーンちゃんで……。お姉ちゃんの娘さんがエルナちゃん、そ、それで、私の娘がリンネ……でした、よね?」


 リンゼが名前の判明した子供たちを指折り数える。消去法により『ヨシノ』という名の子供は、残りのユミナ、スゥ、桜、ルーの子ということになる。


「名前の響きからして冬夜の元の世界の言葉かの?」

「で、ござろうな。旦那様の暮らしていた『ニホン』とイーシェンは共通点が多い。『ヨシノ』はおそらく『ソメイヨシノ』ではなかろうか」

「ソメイヨシノ?」

「桜の一種でござるよ」


 八重のその言葉にみんなの視線が桜に集まる。視線を向けられた桜は画面を眺めつつも、「ヨシノ……」と小さく呟いて、笑みをこぼした。


「……いい名前。きっといい子」

「まあ、それだけで桜殿の子か決めるのは早急でござるが……」

「きっと私の子。断言する」


 くりっと、八重の方に首を向け、ふんす、と鼻息荒く桜が言い放つ。


「実は拙者の名前も桜の種類からきてござってな。拙者の二人目の子やも、」

「八重、意地悪。そんなんだから子供が逃げる」

「逃げてるわけではござらんよ!?」


 違う、と思いたいが、八重にも幼少のころ、あまりにも過酷な修業が嫌になって、逃げ出した記憶がある。子供の頃は兄の重太郎ほど剣術馬鹿ではなかったので。

 自分の娘にも同じことをしてないとは限らない。桜の言葉に少なからずショックを受けた八重であった。


『まあ、あの子たちならお金を稼ぐ方法はいくらでもあるだろうけど……。ヨシノなら【テレポート】ですぐ跳んでこれるだろうし』


 スマホから聞こえたクーンの言葉に、ほら、ほら、どうだ! とばかりに八重にドヤ顔を向ける桜。無属性魔法は遺伝しないが、クーンも母親であるリーンと同じ【プログラム】を持っている。可能性は高いはずだ。


『アーシアなら絶対に真っ直ぐここに来るのにね』

「キ、キタアァァァァッ!? こ、これ、たぶんわたくしの子供の名前ですわよね!? ルーシアとアーシア! 絶対にそうですわ! ねえ、ユミナさん!」

「え、ええ。そうですね……」


 隣にいたユミナが引きつった笑顔で言葉を返す。

 テンションが爆上がりのルーに若干みんな引いていた。気持ちは痛いほどわかるのだが。


『あの子はお父様にべったりだから、来たら来たで大変だと思うわ。こっちのルーシアお母様ともやり合わなきゃいいけど』

「えっ?」


 画面の中で不穏な言葉とともにため息をつくクーン。それを聞いてルーの笑顔が固まる。


「どっ、どういうことでしょう? 今の……」

「察するにルーと仲が悪いのかしら。そのアーシアって子。冬夜にべったりって言ってたし、お母さん邪魔! ……みたいな?」

「え、え、え、エルゼさん!? なんてことを言うんですの!? そ、そ、そんなわけないでしょう!?」

「あはは……。ごめんごめん。冗談よ、冗談」

「笑えませんわ!」


 ダメだよ、お姉ちゃん! と、リンゼが肘でエルゼをつつく。ルーの方は先ほどのハイテンションはどこへやら、急に不安な顔をのぞかせていた。


『大丈夫だよー。アーちゃんもルーお母さん大好きだし。ボク、来たらなんか美味しいの作ってもらおうっと』


 続くアリスの言葉にルーがホッと胸をなで下ろす。どうやらギスギスな関係ではないようだ。


『ウニャッ?』

「うにゃっ?」


 突然聞こえてきたニャンタローの声に全員が『?』と疑問符を浮かべる。

 するとカメラがアリスとクーンの位置から横にパンし、そこにドアップのパーラが映ってきた。


「あ、見つかった」


 桜のぼそりと漏らした言葉の直後、スマホの映像がガタガタと乱れる。ニャンタローがスマホを落としたらしく、画面にはテーブルクロスに囲まれた、薄暗いテーブルの裏しか映っていない。

 しかし音声だけはまだ聞こえていた。


『ウニャッ!? このゴレム、なにするニャ! ちょっ、ギニャ────ッ!?!?!?』


 バリバリバリ、というスパークするような音と、数回の閃光が桜のスマホに送られてきた。

 その後、パタリ……、となにかが倒れる音がして、落ちていたニャンタローのスマホに誰かの手が伸ばされる。

 画面が自撮りモードに変えられ、桜のスマホにクーンのイタズラめいた笑顔が映った。


『盗撮とは感心しませんわね、お母様方。子供にもプライベートというものはあるんですよ? ごめんあそばせ』


 ふふっというクーンの笑顔とともに画像はプツンと切れた。


「むう。ごもっとも」


 桜がテーブル上のスマホに手を伸ばし、電源を切る。確かにクーンの言う通り、知りたいからと言って、盗撮はよくないことだ。王妃たち全員が我を忘れて盛り上がってしまったことを反省する。


「子供に教えられるとは、こういうことなのかしらね」


 ふう、とリーンがため息とともにつぶやく。同じように他の八人からもため息が漏れた。ここ数日、突然の出会いに困惑していた王妃たちは、いささか冷静さを取り戻したようである。



          ◇ ◇ ◇



「まったく、騒々しいこと。パーラ、その子を騎士団詰所まで送っていって」


 子熊ゴレムはコクンと頷き、クーンからニャンタローのスマホを受け取ると、電撃を受けて倒れているその持ち主を担ぎ上げた。

 パーラはポーラとは違い、相手を攻撃する装備がいくつかある。あくまで相手を無力化するためのもので、そこまで強力なものではないが。

 パレントのドアを開けて、ニャンタローを担いだパーラが外へと歩いていく。


「あちゃー、撮られてたのかー。ボクなんかマズいこと言ったかな?」

「大丈夫でしょ。時江おばあさまもそこまでうるさくはないわ。()()()()さえ言わなければ、ね」

「うーん。なら、大丈夫かな。おばあちゃんの説明、あんまり聞いてなかったから、ボク」

「あなたね……」


 あははー、と誤魔化すように笑うアリス。呆れるクーンだったが、確かにそれなら心配はないわねと思い直す。


「でも本当に『ジャージの糸』なんて現れるのかなあ」

「……? あ。……言ったそばから漏らすなんて、なかなかできることじゃないわね、アリス。あなた本当に、弟君に愛想尽かされるわよ?」

「そっ、そんなことないよ!? 『アリスは悩みがなさそうで幸せだね』っていつも褒めてくれるもん!」


 クーンはそれって褒めているのかしら、と思ったが、あえて指摘はしなかった。

 弟の性格からしてなにも考えず、素直な気持ちを口にしただけな気もする。

 まあ、確かにアリスは時江のした説明をまったく覚えていないようだった。名前さえも正しくない。

 なによ、『ジャージの糸』って。一瞬考えたわよ。と、クーンは呆れたが、時の狭間に飛ばされたあの状況下で、よくここまで注意力散漫になれるもんだと逆に感心もする。


「とにかく余計なお喋りはやめなさい。あなたのお父さん、お母さんたちにもよ? そこからうちのお父様へ伝わることもあるんだから」

「はーい」


 返事だけは元気がいい。本当に大丈夫かしらと不安になるクーンだが、今さら心配してもどうにもなるまい。

 時江は言った。『未来は変わらない』と。しかし別の『神の力』が関わってくると、それは絶対的なものではなくなる。

 大きな川に多少の水を投げ捨ててもなにも変わらない。上流の水は決められた流れに乗って下流の方へと流れていく。

 しかし上流で豪雨が起これば、水位が上がり、川が氾濫する恐れも出てくるのだ。

 限りなく低い可能性であっても、それを無視するわけにはいかない。


「……現れなきゃ現れないでいいんだけど、ね」


 クーンは小さくつぶやくと、食べかけのパンケーキをナイフで切り分けて口へと運んだ。



          ◇ ◇ ◇



「冬夜、『ジャージの糸』ってわかる?」

「ジャージ……? なんだそれ?」


 隣で釣り糸を垂らしていたエンデが突然そんなことを口走った。

 ブリュンヒルドの飛び地であるダンジョン島に作られた漁港。そこの堤防で僕とエンデはのんびりと釣りを楽しんでいた。

 ジャージの糸? ジャージって糸とかじゃなく、編み方のことじゃなかったか? 前にリンゼがそんなことを言ってたような。

 素材って意味ならウールとかポリエステルとか?


「知らないならいいや。なんかメルがアリスからそんなことを聞いたらしいんだけど」

「……ジャージがなにか未来に影響を?」

「さあ。あっ、エサ取られた」


 トレーニングウェアが流行るんだろうか……? 『ファッションキングザナック』で売り出して冒険者の間で大流行とか。

 ジャージを着た冒険者……。動きやすさという点ではアリなのか……?

 わからんなあ、未来って……。


「おっと、釣れた」


 『工房』製のリールを巻き上げると、海面からアジに似た魚がピチピチと姿を現す。

 釣り針を外し、横に置いてあるバケツに放り込む。これで三匹か。魔法などを使えばあっという間に大漁、とできるが、それではつまらないとのエンデからの申し出で、普通に釣りの腕前だけで勝負ということになった。

 お互い、今日はなぜか嫁と子供からハブられていたので、そのための気晴らしという意味合いもある。いや、エンデはともかく、僕はハブられたわけじゃないぞ? うん、たぶん……。


「ああ冬夜、そういえばさ」

「んー?」


 エンデがエサを付けた針をポチャンと海へと投げ入れた。チラリとエンデのバケツの中を覗き見る。向こうも三匹か。負けられないな。


「冒険者ギルドで聞いた話なんだけどさ、騎士王国レスティアで、竜が町を襲ったらしいんだよ」

「……はぐれか?」


 竜は基本的に人里まで下りて来たりはしない。竜の盟主であり僕の召喚獣である瑠璃がそう命じているからだ。

 その棲息地域を荒らされない限り、人を襲うなと。なのでそれを無視する奴は、群れから追い出されたはぐれ者か、なんらかの理由で親から離されて育った孤立した竜だ。


「暴れていたのは棘竜スパイクドラゴン若竜ヤングでね。たぶん群れから追い出された奴だと思う」


 スパイクドラゴンか。トゲトゲでデカいんだよなあ、あいつ。瑠璃より大きいからな。確実に銀ランク以上の討伐対象だけれども。


「あ、ひょっとしてお前が倒しに行くの?」


 エンデは金ランクになるために、最近大きな依頼をこなしているらしい。今のままだと娘と同じランクだからなぁ。ここでも親の見栄だね。


「そのつもりだったんだけど、もう倒されたらしいんだ。で、話したいのはここからなんだけど……倒したのは冒険者じゃないらしいんだよね。ギルドに報告もなかったし、ドラゴンもそのまま打ち捨てて行ったんだって。町の復興に役立てて下さいって」

「ほほう。それはそれは。なかなかできることじゃないね」


 竜の素材は頭から尻尾までとにかく金になる。それを惜しげもなく引き渡すとは。

 僕もミスミドでのっぴきならなくなって黒竜の素材を譲ったことがあるけど、あとで金額を聞いてずいぶんと後悔したもんだ。懐かしいな。

 僕は昔のことを思い出しながら、置いてあった水筒の水を直飲みする。


「その竜を討伐した人物なんだけとね、目撃した情報だと、なんでも子供らしいんだな。黒髪黒目の女の子で、腰に刀を差したサムライ姿の……」

「ぶ────────ッ!?」

「あ、やっぱりか」


 エンデの言葉に、僕は飲んでいた水をアーチ状に海へと噴射した。散らばった水にキラキラと虹がかかる。

 ちょっ!? それって絶対、八雲(ウチの子)だよねえ!? ドラゴン討伐する子供なんてそうそういないし!

 なにやってんだ、ウチの子は!? でも人助けはえらいぞ! お父さん褒めちゃう!


「今からレスティアに跳んでももういないんだろうなあ……」

「たぶんね。ギルドも詳しい話を聞きたくて探したらしいけど見つからなかったって」


 【ゲート】使えるらしいからなぁ……。転移魔法を持ってる奴がこれほど厄介だとは。人のこと言えないけど。


「はぁ……。おっ、アタリがきた……よっと。釣れた釣れた」


 まだ見ぬ娘の活躍に対し、複雑な思いを抱きながら、僕は釣り糸を引き寄せた。

 それにしても『ジャージの糸』ってなんなんだろ?








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