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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
474/637

#474 父娘対決、そして未来の考察。





「ねえ、冬夜。僕、試合に勝つべきかな……?」

「難しい問題だなぁ……」


 訓練場への道すがら、エンデがこっそりと僕に尋ねてきた。

 試合とは言うまでもなく、目の前をみんなに囲まれて歩くアリスとの試合のことだろう。


「父親の威厳を保つためには勝たなければならんだろう。親父というものは越えるべき壁であり、子供にとって初めての目標となる人物と言っても過言ではないしな」

「や、やっぱりそうかな?」

「ただ、これは『男の子の場合は』と前置きが付くような気もする。女の子相手に本気になるのもどうかと思うし、なにより負かした時に『お父さんなんかキライ!』なんてなったら……」

「脅かさないでよ……! 結局どっちなの!?」


 エンデが心底困ったような顔をして僕に迫る。んなこと言っても、僕にもわからんですよ。正直、僕も同じ目に合う可能性が高いので、エンデの行動を参考にさせてもらう気でいる。骨は拾ってやるぞ、安心しろ。

 悩み続けるエンデをよそに、僕らは北の訓練場へとやってきた。ここは騎士団が使う訓練場とは違い、神気によるとんでもなく強い結界を張っている。つまりは大暴れしても大丈夫ってことだ。

 魔法の実験や試し撃ち、諸刃姉さんや武流叔父が技を見せる時などに使う。あとは魔獣を転移させてきて、騎士団との集団戦とかにも使うね。

 そしてその一角に一段高くなった武闘場があった。

 エンデとアリスはお互いに魔獣の皮でできたオープンフィンガーのグローブを着け始めた。ガントレットで殴り合うわけにもいかないしな。

 アリスの手に合うものがなかったのだが、リンゼが裁縫道具を取り出し、あっという間に普通のグローブを子供用に作り変えてしまった。ちょっと待って、なに今の?

 【高速裁縫】とでもいうのか、まさかリンゼの眷属特性なのか?

 サイズの変えられたグローブをアリスが握ったり開いたりして感触を確かめている。

 これは拳を保護するとともに、相手に与えるダメージも軽減するものだ。とはいえ、与える衝撃はそのままなので、殴られたら痛いことに変わりはない。本当に大丈夫だろうか……。

 時江おばあちゃんが止めないってことは大丈夫なんだろうけど……。


「よし、じゃあ始めようか」


 諸刃姉さんの言葉によってエンデとアリスが武闘場中央へと移動する。


「魔法の使用は禁止。それと武闘場から落ちたら失格だよ。制限時間は五分。試合続行不可能だと私が判断したらそこで終わりだからね。いいかい?」


 エンデとアリスが小さく頷く。並んでみると身長差がすごいんだが、本当に大丈夫かなぁ。エンデは170cm超えてるけど、アリスの方は120cmないだろ……。


「では、始め!」

「よーし、いっくぞーっ!」


 ドンッ! と、まるでロケットのような爆発力で突撃したアリスが、右の拳を振りかぶる。

 繰り出される拳をエンデが左手で受け止めた瞬間、今度は突き上げるような左拳がエンデの顎目掛けて飛んでいく。


「おっと」


 スッと身を引いてその一撃を躱したエンデに、追撃を放っていくアリス。かなり速い連続攻撃をエンデは的確に捌いている。


「動きはなかなかでござるな」

「ええ。小回りをきかせた無駄のない動きです。しかし、いささか真っ正直過ぎる感じもしますね」


 八重とヒルダがそんな感想を漏らす。真っ正直ってのはフェイントなんかを使ってないってことかね?

 横にいたエルゼに声をかけてみる。


「未来の師匠としてはどうですか、エルゼさん?」

「まだなんとも言えない。基本的なことしか教えていないのかもしれないし。……あっ」

ッ!」


 エルゼのつぶやきに視線を戻すと、アリスがエンデの正面から大きな『気』の塊を掌底に乗せて放っていた。あれって『発勁はっけい』か?


「くっ!」


 両腕をクロスさせてそれを防いだエンデだったが、発勁に押されて後方に一歩退がってしまう。その隙を狙っていたのか、アリスが両腕を前に突き出すと、その先から水晶のいばらが飛び出してきた。


「【薔薇晶棘プリズマローズ】!」

「なっ!?」


 数本の茨によって、あっという間にエンデの足が絡め取られる。すぐさま手刀を放ってそれを切断したエンデだったが、再び絡め取られるのを避けるためか後方へと跳び、アリスから距離をとった。


「メル様、今のは……」

「ええ。私の「【薔薇晶棘プリズマローズ】ですね……。驚きました」

「間違いなくあの子はメル様の娘」


 フレイズのお母さんズは感心しているけど、あれってルール違反じゃないのかね? 魔法じゃないからOK……なのか? フレイズにとっては手足のようなものだとすればアリなのかもしれない。諸刃姉さんが注意してない以上、たぶんOKなのだろう。

 引き戻された水晶の茨は、アリスの肘から先にぐるぐると巻き付き、拳の先端にさらに大きな水晶の拳作る。


「やあっ!」

「えっ!?」


 アリスの突き出した右拳からバネのようにぐるぐると茨を引きつけたまま、大きな水晶の拳がエンデへ向けて放たれた。まるでスプリングが付いているみたいだ。

 あんな感じのキャラクターが戦うゲームをネットで見たことあるな……。ボクシンググローブにスプリングがついて飛び出すようなやつ。


「あれも私の【晶輝断罪プリズマギロチン】の応用ですね。うまく使いこなしています」


 唖然とする僕とは対照的に、感心したようなメルが小さく頷く。母親フレイズの特性を活かした戦いがアリスのスタイルなのだろうか。


「くっ!」


 エンデに避けられた水晶の拳が、バネに引き戻されるようにアリスの方へと戻っていく。と、同時に今度は反対の拳が大きく弧を描くようにエンデを襲った。あ、あれは避けられんぞ。


武神流ぶしんりゅう響震きょうしん烈破れっぱ!」


 向かってくる大きな水晶の拳に対し、エンデは右の掌底突きを放った。

 パァンッ! と、大きな音とともに水晶の拳が細かく砕け散る。


「まだまだだよっ! 粉、砕ッ!」


 滑るように前方へと飛び込んだアリスの正拳突きが、エンデの鳩尾みぞおちへと繰り出される。まるでエルゼの動きをトレースしているみたいだ。師匠なんだから当たり前か。

 しかしそれはマズい気がするぞ。なぜならエンデとエルゼは、それこそ毎日のように武流叔父の下で試合をしている。相手の動きなんぞ、手に取るようにわかるわけで。

 だからその裏をかいたり、先の先を読んだりの駆け引きが大事になってくるのだ。エルゼに比べ、先ほどヒルダが『真っ正直』と評価したアリスの動きだと……、

 エンデはアリスの攻撃を横に引いて躱し、その手首を掴んでぐいっと下に引き寄せた。

 バランスを崩したアリスが前のめりの体勢になると、素早く足を払い、その胴に左腕を差し込み跳ね上げる。


「えっ? わっ!」


 空中に浮かんだアリスが綺麗にくるりと半回転して背中から地面に落ちる。すぐさま立ち上がろうとするアリスの顔面にエンデの拳が振り下ろされた。当然、その拳は寸止めされる。


「そこまで。勝者、エンデ」


 諸刃姉さんが手を挙げて試合終了を告げる。ふむ。勝ったか。いや、エンデが勝つとは思っていたけど、わざと負けるってパターンもあったからな。油断して負けたら思いっきり笑ってやろうとか考えてたのは秘密だ。


「むーっ! こっちのお父さんなら初見だし、いけると思ったのにぃ!」

「ははは。甘い甘い。いくらなんでも子供に負けるわけにはいかないさ」


 地面に倒れたまま悔しがるアリスに、エンデはそう軽く答えてこちらへと歩いてくる。


「……おい、顔が引きつってるぞ」

「いや、危なかった……! なんなの、あの子!? ビックリ箱みたいな子だよ、まったく……!」


 エンデが小さな声で僕とすれ違いざまにそんなことをつぶやく。なんなのってお前の娘だろ。実感ないかもしれないけどさ。

 そんなエンデを両脇からガシッとネイとリセの姉妹がホールドする。


「えっえっ!? なに!?」

「もう少し手を抜いてやれないのか、貴様は」

「うむ。エンデミュオンは娘への優しさが足りない」


 そのままエンデはズルズルと訓練場の隅へと連行されていく。うわ、理不尽。

 当のアリスは気にした風でもなく、ぴょんと立ち上がった。


「ねえねえ、陛下! 次は陛下が相手してよ!」

「え?」


 訓練場の隅で説教されるエンデをちらりと見て、僕は危険な状況にいることを悟った。エンデの横に並ぶ未来しか見えないんですが。これはなんとしても回避せねば。


「えっと、ありがたいお誘いなんだけど……」

「次は私が相手するわ。いいわよね、冬夜?」


 僕がなんとか言い訳をして断わろうとしていると、オープングローブを装着したエルゼがスッと前に出ていく。さすがウチの奥さん。助かった。


「若い時の先生とかぁ、面白そう! よーし、やるぞー!」


 テンションを上げたアリスがエルゼと対峙する。ワクワクした顔しちゃってまあ。やっぱりまだ子供だな。


「小さいながらなかなかやるでござるなあ。しかしこうなってくると……我らもうかうかしていられぬでござるな、ヒルダ殿」

「ええ。本分ではないのでそのままでしたが、ちょっと私たちも銀ランクに上げてきましょうか」

 

 八重とヒルダがなにやら頷き合っている。

 八重たちは冒険者ギルドに登録はしているが、それが本業ではないので、ランクを上げるようなことは特にしていない。僕の場合は金ランクの指名依頼とかもあるが、八重たちは時々ダンジョン島に行き、見回り目的に魔獣を狩るくらいだ。なので二人とも赤ランクのままなのである。

 アリスが時江おばあちゃんの言う通り金か銀ランクだとするなら、八重たちよりも上のランクということになる。もちろん実際は未来の冒険者ギルドに登録しているのだろうから、現在こちらでは無登録だろうけども。

 というか、よく六歳の子に登録許可が下りたな……。ギルドマスターであるレリシャさんの手回しだろうか。冒険者は実力主義とはいえ、そこんとこどうなんだろう。

 まあ、八重たちが本気になったら銀ランクなんてあっという間だろう。悪さしているドラゴンあたりをチョチョイと仕留めればいい。あとは巨獣を一匹倒せば金ランクに昇格するんじゃないかね。

 金、銀ランカーが賑やかなことになりそうだ。ほとんど身内だけどね……。





 エルゼとの試合後(試合はもちろんエルゼが勝った)、アリスが過去の城下町を見物したいというので、家族水入らずで送り出した。さすがについていくのは野暮ってもんだ。

 エルゼ、八重、ヒルダたちは冒険者ギルドに行った。さっそくランクを上げるつもりらしい。ブリュンヒルドでは大物がいないので、調べてもらったところ、ロードメアの山岳州でサイクロプスの亜種が二体暴れているとのこと。ドラゴンよりは見劣りするが、とりあえず討伐してくるという三人を【ゲート】でロードメアへと送った。終わったら電話するってさ。

 時空魔法を調べるためにバビロンの『図書館』に来た僕は、博士とエルカ技師、『図書館』管理人のファムにこれまでのことを話していた。


「なかなか面白いことになってるね。しかし時を超える魔法か。さすがに天才であるこのボクでもこればっかりはなあ。……いや? 未来へと帰るアリス君に次元門を持たせて、時空間における特異点を作り出せば時間転移を……」


 ブツブツと考え出してしまった博士を放って、僕は目の前のエルカ技師へと視線を戻した。


「確か黒の『王冠』、ノワールも時空魔法を使うんだよな?」

「あの子の場合はかなり限定的な能力だけどね。自分の時間を速めたり、他の時系列から力を引っ張ってきたり」

「未来や過去へ行くことはできるのか?」

「うーん、できなくはない……んじゃないかな? だけど時を遡るほどの能力を使用するには、かなりの【代償】が必要なはずよ。まあ、【代償】自体が時を遡っているわけだけど」


 ノワールの【代償】は契約者の『時間』である。記憶はそのままに肉体のみが若返るのだ。それだけなら実に羨ましいことであるが、一歩間違えれば胎児にまで巻き戻されてしまう。恐ろしい代償なのである。


「ノワールは時の揺らぎというか……時間を超えてやってくる者を感じることはできるのかな?」

「さあ……どうかしら? 常時能力を発動して、未来のノワールたちと感覚を共有すれば、わかるかもしれないけど。……まさかそのためにノルンに【代償】を払わせるつもりじゃないでしょうね?」


 ぐるぐる眼鏡をずらし、ジト目でこちらを睨んでくるエルカ技師に対して、僕はブンブンと首を横に振った。

 彼女にとってノルンは妹だ。僕が妹に危険なことをさせようとしてるんじゃないかと思ったのだろう。もちろんそんなつもりはまったくない。

 ノワールなら未来から子供たちがやってくる時期をなんとか予測できないかと思ったのだ。もちろん【代償】が必要となるなら却下するつもりだったぞ。

 アリスを見る限り、僕らの子供たちがそれなりに強いということはわかった。そこらの魔獣や魔物相手なら負けはしないのだろう。だけど世の中の危険はそれだけではない。

 子供を騙したり、利用して甘い汁を啜るクズもいるのだ。奴隷商人だっていまだに存在する。

 そんな奴らに関わったりしやしないかと……。子供たちが未来から来たら時江おばあちゃんが教えてくれるとは思うけど、アリスも冒険者崩れに絡まれていたし、正直心配だ。

 思い悩む僕をよそに、思考の海から浮かび上がった博士が尋ねてくる。


「それはそうと次元震の原因ってなんだったんだい? アリス君に聞いてみた?」

「あー、そういや聞いてないな。まあ、次元震の発生は揺るがせない未来らしいから、聞いたところで僕らにはどうしようもないだろうけど」


 未来でその次元震が起きたからこそ、アリスは過去ここに来たわけだし。

 海底地震によって海底に地震断層が生じ、それが津波を発生させるように、次元震にもなにかしらの原因はあるはずだ。

 かつて五千年前に起きたフレイズたちを次元の狭間へと追いやり、世界結界を『巻き戻した』、黒と白の『王冠』の暴走。

 今回の次元震も黒の『王冠』ノワールと、白の『王冠』アルブスの暴走かもしれないしな。

 あとでちゃんと聞いてみるか。教えてくれるかどうかはわからないけど。僕の子供たちに直接的な関係がなければ教えてくれるんじゃないかね。

 僕らはパレリウス老の残した時空魔法の本を片っ端から調べたが、これといって新しい発見はなかった。やはり狙って時を超えるのは難しいらしい。

 子供たちがこっちにやってきたら、素直に電話で連絡してくれると助かるんだが……。そしたらすぐにでも迎えに行くのに。

 まだ何も起こってないのに、すでに心労がすごい。お父さん、胃に穴が開きそうです……。





 そんなこんなでアリスが来てから数日間が過ぎたわけだが。


「子供っていいよねえ、冬夜」

「……お前は誰だ?」


 聞く人が聞いたら誤解を招きそうなセリフを、ニマニマしながら語るエンデ。なんだこいつ。締まらない笑顔浮かべてからに……。

 エンデはストランド商会の店先でカプセルトイを回して遊ぶ子供たちを、微笑みながら眺めている。……お前、捕まるぞ?


「いやー、僕も娘とか言われてもいまいちピンとこなかったんだけど、一緒に暮らしているうちにかわいいなあって思えてきてさぁ。笑った目元とかがメルそっくりなんだよ。あれだね、世の中の娘を可愛がるお父さんの気持ちがわかったよ」

「……だから、お前は誰だ?  そうか、エンデの偽者か」

「まあまあ、そのうち冬夜にもわかるようになるよ。楽しみだねえ」

「なんかムカつく」


 悟ったような顔がまたそれに拍車をかける。一回ひっぱたいてやろうか。正気に戻るかもしれない。


「そんな話を聞くために呼んだんじゃないぞ。で? なにか聞き出せたのか?」

「あー、まあ、いくつかは」


 アリスと一緒に生活しているエンデたちなら、彼女からいろいろと未来の話を聞けただろう。その情報を僕らにも聞かせろということだ。主に僕らの子供たちの情報をだ。


「まず、冬夜の子供は九人。男の子が一人であとはみんな女の子らしいよ」

「それは知ってる!」

「あれ!?」


 あ、エンデにはそこらへん説明してなかったか。まあいい。次だ、次の情報をよこしんしゃい。


「えっと、あとは……。上は十一歳、下は五歳だとか? 一番上の子はもう金ランクらしいよ」


 え、六年間に九人生まれてるのか? いや、二人、三人は同い年もあるだろうから、そんな感じになってもおかしくはないか……。

 しかし上は十一歳って、それってユミナと初めて会った歳とほとんど変わらないじゃないか。てことは、もう婚約者がいて、結婚まで秒読みとか? いかん、まだ会ったこともないのにお父さん泣けてきた……。

 娘を嫁にやる父親の気持ちってこんなんなのかなぁ……。


「いや、その子、自分より強い人じゃないと結婚相手として認めないとか言ってるらしいよ。金ランクより上なんてそうそういるわけないから、未だに婚約者はいないみたいだ」

「ッシャアッ!」


 大きくガッツポーズを取る。教育方針としてどうなのかと思わんでもないが、とりあえず今はOKとしとこう!

 小さくても王家は王家。王女として生まれたからには政略結婚という選択肢も出てくる。

 しかし僕としてはその選択肢は選びたくない。そもそも戦争回避や侵略推進、経済援助などが目的ならば、そんなもんウチならどうにでもなるしな。

 なので娘さんたちには自由恋愛で結婚してほしいと思っている。これは奥さんたちも同意見だ。

 しかし残念なことに、残念なことに! 国同士の付き合いというものがある。家族ぐるみでのお付き合いというものもある。

 そういった席で他国の王子などと出会い、恋をして、愛を育み、早期結婚────などというルートもあるからさあ!

 だからこの展開は悪くはないと思う。よし、最初の子はめっちゃ鍛えよう。僕が嫌われない程度に。

 ……あれ? これって未来からの情報で未来を決めてないか?

 確かなんとかのパラドックスって…………いや、まあ考えるのはよそう。時江おばあちゃんがなにかしたんだろう、たぶん。そこらの矛盾は神に任せた。

 僕が心の中で時江おばあちゃんに問題をぶん投げていると、唐突にエンデに肩を叩かれた。


「ところでさ。聞いたところによると、僕の娘は冬夜のところの息子が大好きらしいんだけど、それに関して君はどう思うかな?」

「え、なに? 肩痛いんだけど……」

「アリスがその子のお嫁さんになるとか言ってるんだけど、どう思うかな?」


 あれっ、エンデさん……なんかキレてます? 肩を掴む力が強くなって、痛い痛い、痛いから!


「六歳で結婚考えるって、どういうことさ! うちの娘はまだやらないぞ!」

「知らんわ! まだ会ってもいない息子にキレられても知らんわ! 気が早すぎるだろ!」


 娘を嫁にやる気持ちを現在味わっている奴が、目の前にいたわ。

 だいたい、それってうちの息子からしたらどうなのよ? 相思相愛なわけ? 幼馴染みの一方的な片想いってやつかもしれないじゃないか。

 てなことを口に出したら、エンデと取っ組み合いになりかけた。

 んもー、この親父面倒くさい!










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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