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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第32章 めぐり逢えたら。
473/637

#473 友の娘来たる、そして未来の話。





「えっ、じゃ、じゃあ、本当にエンデさんの娘さんなんですか!?」

「どうもそうらしい……」


 ユミナに事情を話しながら、ソファーの上で横になり、メルに膝枕されて寝ている少女を横目で見る。

 とりあえずブリュンヒルドの王城へと帰ってきた僕らはアリステラ……アリスと名乗った少女から話を聞こうとしたのだが……。


「ねみゅい。ボクもう寝ゆ……」


 とだけ言い残し、電池が切れたようにメルの膝の上を枕にして寝てしまったのだ。マイペースな子だなあ……。

 その姿を黙って眺めているネイに僕は話しかけた。


「いったいなにがどうなってるんだか……。とりあえず、あの子がエンデと君らの子供ってのは間違いないのか?」

「いや、正確には違うと思う……。この子は間違いなくフレイズの特性を引いているが、響命音は私とリセのものではない。エンデミュオンとメル様の間の子……だと思う。響命音は嘘をつかないからな」


 まあ、髪の色はエンデに似ているし、目の色はメルのそれだしな。

 メルの子供ということは、エンデと同じく結婚しているネイとリセを母と呼んでいてもおかしくはない。

 十中八九、アリスが二人の子供ということは間違いないのだろう。となると……。


「できちゃった婚……いや、できちゃってた婚か……」

「冗談でも笑えないよ、冬夜……」

「私も産んだ覚えはないのですけれど……」


 アリスのご両親に睨まれた。ごめん、ちょっと場の空気を和ませようと思って。


「ま、未来から来たお前たちの子供って可能性が高いよな」

「未来から、ですか? どうやって……ああ、時空魔法!?」


 ユミナがパン、と手を叩く。その音に、ううん、とアリスが寝返りを打ったので、僕らは声を潜める。

 

「おい、お父さん。娘をベッドに運んでやれ」

「だから……! くっ、もういいよ!」


 エンデが静かにアリスを抱き上げて、メイド長のラピスさんの案内で別室へと連れて行く。その後ろを心配なのか、メルとネイ、リセのお母さんズがぞろぞろと付いて行った。

 ああやって寝ながら運ばれると気持ちいいんだよね……。子供の頃、僕も父さんに運ばれたことをぼんやりと思い出した。


「時空魔法ね……。確かにそれならわからないでもないわ。実例もあるしね」


 リーンがソファーで腕を組みながらつぶやく。

 パレリウス王国の始祖、時空魔法の使い手アレリアス・パレリウス。その息子で裏世界へと事故で飛んでしまったプリムラ王国の始祖、レリオス・パレリウス。

 彼は裏世界へと飛ばされた時、時を二百年ほど遡っている。まあ、飛ばされた本人は気がつかなかったようだが。

 確立された魔法ではないが、確かに時空魔法には時を超える力があるのだ。


「じゃああの子が時空魔法の使い手だっていうの?」

「いや、あの子が望んでこの時代に飛んできたのかはわからない。少なくともレリオス・パレリウスの時は事故だったわけだし……」


 未来の世界じゃわからないけど、時を越える時空魔法なんて聞いたことないしな。レリオスと同じようになにかの事故で未来から過去へ?

 未来でなにかとんでもない事件が起きたのだろうか……。むむむ……わけがわからん……!


「よくわからんが、時間のことならば時江ときえおばあちゃんに聞けばよいのではないか? 確か『時空神』なのじゃろ?」

「あ」


 ウンウンと唸る僕を横に、スゥがあっさりと正解を導き出す。

 そうだ、そうだった。時江おばあちゃんは時間と空間を司る『時空神』だ。今回のこともおそらくわかるはず。

 ……いや、ひょっとしてアリスを過去ここへ連れてきたのは時江おばあちゃんかもしれないぞ。諸刃姉さんの話だと、ちょこちょこ未来へ行ってたらしいし。


「おばあちゃんは?」

「ええと、朝はバルコニーにいつも通りいました、けど……」


 僕が尋ねるとリンゼがそう教えてくれた。日中、大抵おばあちゃんはバルコニーで編み物をしている。フレイズのせいでボロボロになった『世界の結界』を編み物を通して修復しているのだ。

 夜は僕らと食事をとったり、スゥやリンゼたちと話をしてたりするが、だいたいは早く寝てしまう。

 もう十時を過ぎている。さすがにもう寝てしまったか? ……お?

 僕がいつもの気配を感じ、後ろを振り向くと、その場に時江おばあちゃんが転移してきた。


「はいはい、お待たせしちゃったかしら」


 時空神であるおばあちゃんは、僕と同じ世界神様の眷属でもあるから、転移してくるその気配を感じることができる。

 僕が積もり積もった疑問を尋ねようとすると、おばあちゃんは手をかざして一旦それを制した。


「わかっているわ。アリスちゃんのことでしょう?」

「やっぱり知っていたの?」

「時間転移したんですもの。私が気付かないわけないでしょう。私が迎えに行くよりあなたたちが行った方がいいと思って、この時代に流れ着いてもしばらく放っておいたけど」


 おばあちゃんは微笑みながらそう語る。ずいぶんとアリスのことを知っているようだ。やっぱりアリスとも顔見知りなのか。


「あの子はやっぱりエンデとメルの?」

「ええ。未来で生まれる二人の子供よ。フレイズのように核から成体に進化するのではなくて、人間のように普通に育った子なの。もちろんフレイズの特性も持ち合わせているわ」


 ネイの言った通りか。あの子がエンデとメルの間に生まれる未来の子供だということはわかった。疑問なのはその未来からなぜこの時代へやってきたかということなんだが……。


「あの子を過去ここへ連れて来たのはおばあちゃんなの?」

「そうとも言えるけど、直接の原因は違うわ。あの子たちは『次元震』に巻き込まれたの。時と時の断層のズレに弾かれて飛ばされてしまったのよ。時空の歪みは水の波紋のように広がり、津波のように漂うものをどこまでも押し流してしまう。だからそうなる前にこの時代へと流れるように誘導したの」


 ということは時空の狭間を永遠に漂うかもしれなかったのを、おばあちゃんがこの時代に引き上げたのか。

 地球でも都市伝説とかで時空漂流者の話はでよく聞くけど……。あれも本当なんだろうか。僕にはわからん。


「漂っていた時にきちんと説明はしたんだけど、大人しく待っていられなかったようね。あの子、おてんばだから」


 大の男三人を相手に大立ち回りを『おてんば』の一言で済ませていいものか悩むところだが、問題はそこじゃないな。


「その『次元震』? によって、未来の世界はなにか大災害に見舞われたってことなのか?」


 よくタイムスリップ物なんかにある、崩壊した未来から過去を変えるためにやって来る未来人、なんてイメージが脳裏に浮かび、思わずごくりと唾を飲んでしまう。


「いいえ、特になにも起こってはいないわよ。次元震は時の歪み。水面に落とされた水滴が生み出す波紋のように、周りに大きく広がっていくけれどすぐに元に戻るわ。今回はたまたまその中心近くにあの子たちがいたってだけ。未来の世界は平和そのものよ」

「で、でも未来のエンデさんやメルさんたちは心配してるんじゃ……」

「未来の彼らは現在の彼らよ? なにが起こったかは全部知ってるわ」


 リンゼの問いかけに時江おばあちゃんが微笑みながら答える。あれ? でもおかしくないか?


「てことは、未来のエンデ、いや、僕らを含めて、全員その次元震が起こるのを知ってたんだよね? なんで防ごうとか、アリスを遠ざけようとかしなかったんだろ?」

「防ぐ必要がないから、かしらね。アリスちゃんたちは問題なく次元震が起きた数秒後に帰ってくるから。決められた過去からね。それに防ごうとしても防げないとわかっているから」


 えっと……未来は変えられないってことなのか? タイムスリップ物とかで過去を変えようと未来人が来るが、結局変えられなかった……てな結末を迎える物も少なくないけど。


「アリスが来たことにより未来が変わってしまうなんてことは……」

「私を誰だと思っているの? そんな心配は無用よ。この件に関してはなんの心配もいらないわ」


 おおう。さすがは上級神にして世界神様の眷属。なんて心強い。

 詳しく聞いてみたが時の精霊が事象の修復をどうのこうのとかよくわからなかったが、とにかく問題はないらしい。アリスから未来のことを聞いても、それで原因で歴史が変わることはないとか。変えようとしても、おばあちゃんの変えさせない力が働く……ってこと? さすが時の管理者、半端ないって、時空神……。


「アリスが過去に来たことも、無事に未来に戻ることも、すでに確定された未来……ということかしら……」


 リーンが再び腕を組んで考え込む。

 バビロン博士の未来を覗くアーティファクトだと不確かな未来しか覗けなかったのにすごいよなあ……。

 おそらく逆に未来を変えちゃうことも簡単なんだろうな……。なんだそれ。神かよ。神だった。

 地上の出来事にあまり干渉しないってのが神様たちの建前だから、未来が大きく変化するのはダメだとかなんだろうか?


「のうのう、おばあちゃん。それでアリスはいつまでこっちにいるのじゃ?」


 スゥがソファーの背もたれから身を乗り出し、時江おばあちゃんに尋ねる。

 ふむ。おばあちゃんの話だとアリスは必ず未来へ無事に戻るわけだ。明日帰っても一年後に帰っても、元いた未来の時代では数分しか経ってないとはいえ、あまり長くいるのはマズいかもしれない。下手したらこっちの時代のアリスも生まれて、アリスが二人になりかねんし。


「そうね、次元震の波が落ち着くまで……こっちの感覚だと数ヶ月かしら。みんな揃ったら私が責任を持って未来あちらへ帰すから心配いらないわ」

「あの、先程からずっと気になっていたのですけれど……」


 おずおずとヒルダが小さく手を挙げる。ん? なにか気になることがあったか?


「時江お祖母様は先程、『あの子たち』は次元震に巻き込まれた、って……。その、ひょっとして……」

「あら! あらあら、そうね! その説明がまだだったわね。ごめんなさい。一番大切なことを後回しにしちゃったわ」


 時江おばあちゃんが、パンッ、と手を叩いて苦笑いを浮かべる。え? なに?


「次元震に巻き込まれたのはアリスちゃんだけじゃなくてね。あなたたちの子供たちもなの。だからそのうちこっちの時代にやってくると思うわ」

『『えっ?』』


 ハモった。僕と僕の奥さんたちの声がそりゃあ見事にハモった。

 数秒の間、頭が真っ白になり、なにも考えられなかった。おそらくみんなも同じだったと思う。それこそ時が止まったかのように僕らは微動だにしなかったし。

 やがて僕らの時は混乱とともに動き出す。


「えええええっ! どっ、どういうことですか、お祖母様ぁっ!?」

「こっ、子供たち!? あ、あ、あたしたちの!?」

「おっ、おっ、落ちちちちち、落ちっ、着いて! お姉ちゃん!」

「み、未来から来るでござるか!? 拙者たちの子供が!?」

わたくしと、冬夜様の……!」

「お、お、おばあちゃん! それは本当かの!? 本当なのかの!?」

「さすがに驚いたわ……。でもダーリンとの子供が……? 本当に?」

「ま、まだ母としての心構えが! どっ、どっ、どうしましょう……!」

「もうお母さんに……! 早すぎる……!」


 大パニックだ。いや僕もパニくっているが、周りがこうだと逆に反応できない。狼狽するタイミングを失ったとも言う。


「えっと……おばあちゃん? その、それはいつごろ……?」

「巻き込まれたタイミングがそれぞれ違うからこっちへの到着に多少のズレはあるけど、全員数ヶ月以内かしら。アリスちゃんが一番早かったというだけでね。それぞれ近くにいた子たちならまとめて現れるかもしれないけど」

「そっ、そっ、そっ、その! 大丈夫なのでしょうか! 子供たちだけで危険なところに放り出されたりしたら……!」


 慌てながら迫るルーの肩をやんわりとおばあちゃんが押さえる。


「あのね、アリスちゃんもだけど、あなたたちの子供って、ほとんどが金か銀ランクの冒険者なの。巨獣とか生身で倒してるし。心配するだけ損よ?」

『『えっ?』』


 ハモった。僕と僕の奥さんたちの声がそりゃあ見事にまたハモった。

 全員、金か銀ランク? 嘘だろ……? 巨獣を生身で倒した? 僕、それフレームギアで倒して金ランクになったんスけど……。

 お父さん立つ瀬ないわー……。


「お、おばあちゃん! あたしの子供って金ランク!? それとも銀!?」

「あっ、あの! 私の子供っていくつくらいの……!」

「拙者の子の剣の腕前は……!」

「はいはい、そこまで。全部私が言っちゃったら、つまらないでしょう? それは会った時の楽しみにしなさいな。あ、アリスちゃんにも口止めしとこうかしら」

『ええー……』


 奥さん全員から、そんなぁ、という声が漏れる。

 大変なことになったぞ……! まさか出産とか育児とかすっ飛ばして、成長した自分らの子供たちに会うことになるとは。こう言ったら悪いがエンデの問題なんか頭からもう吹っ飛んだわ!


「と、とりあえず……」


 僕は検索サイトを開き、『子供との接し方』と打ち込んだ。



          ◇ ◇ ◇



 翌朝。

 抜けるような青空が大食堂の窓から見える。雲ひとつなく晴れて、今日はとてもいい天気になりそうだ。

 そんな爽やかな朝だというのに、食堂は異様な緊張感に包まれていた。長いテーブルを囲むのは、僕と奥さんたち、時江おばあちゃんと諸刃姉さん、それに耕助叔父(他の神様たちはまだ寝ている)、そこにゲストとして、エンデ、メル、ネイ、リセ、そして渦中のアリスが座っていた。

 こんなに大人数だというのに、ほとんど話もなく、カチャカチャという食器と皿が擦れる音と、アリスの楽しげな声だけが響いている。


「おいしー! ボクこれ大好き! お母さんも食べなよ!」

「え、ええ。いただくわね」

 

 テーブルに乗っていたベーコンエッグを食べながら、アリスが隣に座るメルへ笑顔を向ける。

 その一挙手一投足をチラチラと伺いながら、僕らはどう話をしたらいいもんか、間合いを測りかねていた。アリスが時江おばあちゃんに口止めされたとはいえ、聞きたいことは山ほどあるのだ。


「ア、アリスちゃんは、今いくつなの?」


 おおっ、エルゼがいった。当たり障りのない話から広げていこうという腹づもりだな? 笑顔がなんか引き攣っているけど。


「ぷっ」

「えっ、えっ? な、なにかおかしかったかな?」


 ナイフとフォークを持ったまま、突然噴き出したアリスにエルゼが慌てふためく。


「先生が『アリスちゃん』とか言うからだよー。いつもと違うからおかしくって」

「せ、先生!?」

「えっと、エルゼ先生はボクの武術の師匠なんだ。あ、歳は六つだよ」

「そ、そうなんだ……」


 エルゼが師匠!? アリスは武闘士なのか……? 確かに男たちを倒した昨日の動きは武闘士のそれだったが……。

 得られた未来の情報に僕は驚くとともに少し納得もしていた。父親であるエンデとエルゼは武神の兄妹弟子だ。そういう関係だったとしてもおかしくはない。


「……ちょっと待って。エルゼが師匠って、僕は教えたりしてないの?」

「お父さん、滅多に帰ってこないし。帰ってきたと思ったら疲れて寝てるしさ」

「……帰ってこないってどういうこと? エンデミュオン……?」

「僕っ!? いやっ、知らないよ!?」


 メルに冷ややかな目を向けられ、首をブンブンと振るエンデ。いや、帰ってこないのは未来のエンデであって、現在いまのエンデを責めるのはあんまりだろ。


「仕事が忙しいって言ってた。一応」

「一応って! そこは信じようよ!?」


 必死になって娘に弁護を頼むエンデ。なかなかに面白い家庭のようだ。


「というか、こいつ仕事してたんだ?」

「冬夜まで……」

「お父さん冒険者ギルドでギルドマスターの仕事してる。担当はブリュンヒルドじゃないけど」


 へえ。ポロッと未来の情報が聞けたね。エンデのやつ、未来では冒険者ギルドで働いてるのか。ま、今でも冒険者だし、ギルドで働いてると言えば言えなくもないけど。


「だからエルゼが師匠になって教えているのか……。武流たける叔父には教えてもらってないのか?」

「教えてもらおうとしたらお父さんに止められた。『じごくをみるにははやすぎる』って」

「ナイス、僕……!」


 小さくガッツポーズを取るエンデ。まあ、わからんでもない。あの武神になんか任せたら、絶対に幼少期の性格形成に影響が出る。闘うことが全ての傍若無人な娘に育ったりしたら泣くに泣けない。


「じ、じゃあ、わ、私の子供もアリスと一緒に習ってたり?」


 接点が見つかったからか、エルゼがぐいぐいといくな。僕らも聞きたいので、あえて邪魔はしない。


「んー、エルナは蹴ったり殴ったりは嫌いだからなあ。リンネとは一緒によく戦ったりするよ。この前も……」

「アリスちゃん?」

「え? あー……えへへ、これナイショだった。あんまり喋っちゃうと会った時の楽しみが減るもんね。後でみんなに怒られちゃう。しっぱい、しっぱい」


 時江おばあちゃんの言葉に、アリスが小さく舌を出す。自分のことならまだしも、僕らの子供のことは口止めされているようだ。

 しかしもう遅い。少なくともエルゼの子供が『エルナ』、素手で戦ったりするのが嫌いということがわかった。……エルゼの子供だよな?

 たぶん娘だと思う。エルゼの娘なのに戦ったりが嫌い? なんでだろ?

 エルゼも同じことを考えたのか、微妙な顔をしている。

 それと、リンネ? って名前の子も僕の子供かな……。

 ちら、とエルゼの隣でなにやら挙動不審な動きをしているリンゼに目を向ける。うん、名前からして、リンゼの子供の可能性が高いよな……。

 僕と同じ考えに至ったのだろうが、聞きたいけれど今はおばあちゃんのブロックが入るため、リンゼはなんとか堪えているようだ。

 後で二人っきりになれれば、ポロッと漏らすかもしれないが。あんまりアリスって細かいことを気にしない子っぽいし。


「あ、じゃあ今日暇ならボクと試合してよ、お父さん」

「え、僕と?」


 アリスは横に座るエンデの腕を引く。お? 父娘対決か?

 エンデがメルに視線を送ると、メルもどうしたものかという困惑の表情を浮かべていた。


「北の訓練場ならひとつ空いてるよ。やるなら私も見学させてもらおうかな」

「やった! 決まりだね!」


 サラダを口に運びながら諸刃姉さんが提案すると、アリスがばんざーい、と両手を挙げた。

 騎士団の訓練に関しては、諸刃姉さんと騎士団長のレインさんに任せてある。スケジュールを把握している諸刃姉さんがそう言うのなら空いているのだろう。


「あ、じゃああたしも見学させて。どれくらいの実力か見てみたいし」

「お、お姉ちゃんが見学するなら、私、も」

「拙者も見学させてもらうでござるかな……」

「で、ではわたくしも!」


 ってな感じで次々と手が挙がり、結局全員見学ということになってしまった。みんなアリスに興味津々だな。もちろん僕もだけれど……。

 みんなあわよくば自分の子供の情報を、と虎視眈々とチャンスを狙っているのかもしれない。

 いずれわかるのだから聞かないでも……という気もするが、やはり事前の心構えはしておきたいよね。

 ま、それはそれとして、アリスの実力が気になるのも本当だし。アマツミの町でその片鱗は見たけど、あれが全力ではないだろう。

 それじゃあ、未来の金・銀ランクの力を見せてもらうとしようかな。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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