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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第31章 ウェディング&ハネムーン。
454/637

#454 エレベーター、そしてエスカレーター。





 はぐれたといえ、ユミナたちは僕の眷属でもある。僕が神の力を十全に使えていれば、彼女たちがどこにいるか細かいところまでわかるのだが、今の僕ではだいたいの方向と距離くらいしかわからない。

 彼女たちに危険が迫っていたりするとこの感覚が跳ね上がるのだが、それがないところをみると、今のところみんなはなにも危機的状況に陥ってはいないようだ。いや、こんなところで危機的状況にそうそう陥りようもないのだが。


「ちょっとくらいなら離れても大丈夫かなって思ったの。ごめん」

「いやまあ、目を離した僕も悪い。それよりも早くみんなと合流しよう」


 ここには危険はないが、面倒は起こりうる。とりあえずエルゼを連れて店を出た。もうはぐれないように手を繋ぎ、残った彼女の片手は買ったばかりの洋服が入った紙袋を手にしている。


「一階にはいないみたいだな……」


 それぞれの階層に分けて検索魔法を使うと、誰がどこにいるかわかった。大きいといっても、こういったらなんだが、ブリュンヒルドの城とそう変わらない大きさだ。探せばすぐに見つかるだろう。

 しかし見事に全階に分かれてくれたな……。ええい、面倒だ。一番上から順番に拾っていこう。どうせ最後は地下の食料品売り場に行くわけだし。そっちを最後にしよう。

 ちなみに食料品売り場にいるのは、検索結果を見る限り、八重とルーだ。予想通りというかなんというか。


「あれ? 『えすかれいたあ』に乗るんじゃないの?」

「五階だからエレベーターで一気に行く。こっちだよ」


 エルゼの手を引いてエスカレーターを素通りする。すぐその先にあったエレベーターの前に行き、僕は『△』ボタンを押した。

 光り始めた『△』のボタンをエルゼが興味深そうに見ている。やがてエレベーターが一階に到着し、扉が開いて親子連れの二人が降りてきた。

 中に入り、『開』のボタンを押す。


「ほら、入って」

「え? あ、うん」


 降りてきた親子を目で追っていたエルゼを手招きする。ちょっとびびりつつも、エルゼがエレベーターに乗り込んだのを確認してから『閉』のボタンを押した。


「し、閉まったわよ!?」

「心配ない。すぐ開くから。よっ、と」

「ひゃっ!?」

 

 五階のボタンを押すとエレベーターが動き出し、不安そうな顔をしたエルゼが僕にしがみつく。やっぱりこの感覚には驚くか。


「大丈夫だよ。僕らの入った箱が上に引っ張られているだけだから。すぐに五階に着くよ」

「わ、わかってるわよっ。『えれべえたあ』もあんたの観せてくれた映画で見たから。ただ、この感覚に驚いただけっ」


 妙な強がりをみせるエルゼを横に、僕の視線はエレベーターの階層表示に向けられる。なぜか見ちゃうよね、これ。

 五階のランプが点灯し、ゆっくりと扉が開く。先ほどと違う階だとわかっていても驚いたのか、エルゼはキョロキョロと辺りを見回していた。

 五階にいるのはスゥである。この表示を見る限り、奥の方にある店にいるようだ。

 エルゼの手を引いて辿り着いたそこは、クレーンゲームやビデオゲーム、プリントシール機などが所狭しと置かれている、いわゆるアミューズメントコーナーであった。


「なにここ? ちょっとうるさいところね……」


 エルゼが眉をしかめるのよそに、スゥを捜す。エルゼ同様、あの金髪は目立つからすぐに見つかるはず……っと、いた。

 スゥは半円球の小さなクレーンゲームの中にあるお菓子の山を、アクリル板に顔を押し付けるようにして覗き込んでいた。なにしてんだ……?


「スゥ」

「おお、冬夜にエルゼ! この『きかい』がなぜか動かんのじゃ……。他の者がやっていたようにボタンを押してもさっぱり動かぬ。わらわは嫌われているのかのう……?」


 スゥがむむむ、と眉根を寄せながらカチャカチャとボタンを押してみせる。いや、それたぶんお金入れてないだろ。みんなに渡してないし……。

 店とかでお金を払って物を買うのは向こうと同じでも、コインを入れる自販機的な物はそんなに馴染みがないか。僕が作ったオルバさんのところのカプセルトイくらいか?

 僕は財布から取り出した百円をスゥがへばりついていたクレーンゲームに入れる。それからボタンを押すと、当然ながら今度はちゃんとアームが動き、お菓子の山へとその腕先を突っ込んでいった。


「おお! 動いたのじゃ!」


 ググッ、とアームがラムネ菓子をすくい上げる。跳ね上がった衝撃でバラバラと大半が落ちたが、なんとか三つばかりをゲットすることができた。


「と、まあこうやって取るわけだ」

「わらわも! 冬夜、わらわも!」


 スゥに場所を譲る。ここは百円で三回できるみたいだから、あと二回できるはずだ。

 はしゃぎながらクレーンを操るスゥを眺めていると、背後から肩を叩かれる。振り向くと笑顔でエルゼが右手を差し出していた。……君もやんのかい。

 お金を受け取ったエルゼもクレーンゲームに勤しみ、両者五百円ほど使ったところで切り上げた。というか、切り上げさせた。ずっとやっているわけにもいかんし。

 クレーンゲームの筐体にくくりつけられていたビニール袋に、ゲットしたチョコや飴、ラムネ菓子を詰めてスゥに渡した。お菓子が取れたのでスゥはほくほく顔である。五百円も出せばもっといいお菓子が普通に買えたと思うんだが、それは言わぬが花か。

 さて、次は四階だ。

 三人でエスカレーターに乗って階下へと下りていく。

 下りてすぐに桜を見つけた。CDショップの店頭に置いてあるアイドルグループのMVミュージックビデオを眺めて、同じ曲を小さく口ずさんでいる。遠巻きながら人が集まっているぞ。

 桜は髪の色もあって容姿が目立つ。アイドルのMVを見ながら同じように歌っている姿は、微笑ましくもあるが、少し近寄り難いものもあるのだろう。誰一人として声をかけてはいないようだ。


「桜」

「王様。この曲すごくいい。欲しい」


 鼻息荒く桜が迫ってくる。わかった、わかったから落ち着け。

 確かじいちゃんちにはCDプレイヤーもあったはずだから買って帰れば聴ける。というか、ダウンロードすればすぐにでも聴けるのだが、ここはお金を払って買っておこう。桜の思い出にもなるかもしれないし。


「よほど気に入ったんだね」

「うん。もう歌詞も覚えた。歌う?」

「あ、いや。家に帰ったら聴かせてもらうよ」


 こんなところで桜に本気で歌われたら間違いなく騒ぎになってしまう。博士のマイクはないし、そもそも魔素がないから歌唱魔法は発動しないだろうが、それを抜きにしたって桜の歌は人々を惹きつけるのだ。目立たないはずがない。

 買ったCDを手にした桜を連れて、ショップを離れた。四階にはあと二人、リンゼとリーンがいる。

 二人とも同じ場所……書籍店にいるようだ。マップで見るとけっこう大きな店舗でいろんな本が置いてあるっぽい。一部、文房具店も入っているんだな。


「冬夜、あそこにリーンがおるぞ」

「え?」


 書店の中を捜していると、スゥがすぐにリーンを見つけた。場所は『神話・伝承』のコーナーで、立ち読みしている彼女の前には何冊かの本が積まれている。ギリシャ神話から北欧神話、インド、日本まで様々だ。

 眷属効果で僕が近付いていることに気が付いていたのだろう、リーンは僕らに驚くことなく微笑んで読んでいた本を閉じた。


「ダーリン、ちょうどよかったわ。この本、買っていいかしら」

「いや、まあいいけど……。こっちの神話なんか読んで面白いのか?」

「ええ。物語として色々とね。私たちの世界にも似たような英雄譚があったりするから面白いわ」


 あ、そうか。異世界むこうの人たちから見たらそうなるのか……。どちらがオリジナル、というわけでもないんだろうな、この場合。

 世界神様いわく、少しずつ似通った部分を持ちながら、まったく異なる世界が僕と彼女たちの世界らしいからな。歴史や名称、法則なんか似通ったものはたくさんある。だからこそ、世界神様は僕をあの世界に送ったわけで。

 さて、とりあえずリーンは見つけたけど、リンゼはどこかな?


「あの子ならなにか小説を探していたはずだけど」


 小説? っていうと……こっちか。

 棚に貼られた本のジャンルを示しているラベルを頼りに店内を進んでいく。ホラー、歴史、ミステリー、SF、ファンタジー、とジャンル分けされた本棚を横切るが、リンゼの姿は見えない。感覚的に近くにいることはわかるのだが。


「リンゼなら恋愛小説とかの方だと思うわよ。こっちの作品も読みたいって言ってたし」


 双子の姉の指示に従ってそちらへと足を向けると、夢中になって本を読んでいるリンゼがすぐに見つかった。

 …………確かに恋愛小説のコーナーだけど。

 なぜかリンゼの持つ表紙には赤面した可愛らしい少年にクール系で眼鏡の青年が後ろから抱きついている。


「ふぅわあぁぁぁぁ……!」


 あまりにも夢中になっているからか、リンゼは僕たちのことに気が付いてないようだった。鼻息荒く、すごい勢いでページをめくっている。ううむ、この姿を世間に晒し続けるのはあまり良くない気がするな……。やっぱり目立ってるし。

 さすがにいたたまれなくて声をかけた。


「……それ、買おうか?」

「え? ふわっ!? と、冬夜さん!? あっ、みんなもっ!?」


 わたわたと振り向いたリンゼが本を閉じて、背後に隠す。いや、もう遅いから。背景にそのジャンルの本棚背負ってるから。


「買ってうちで読もう。立ち読みは他のお客さんに迷惑だからね」

「あっ、そ、そうですよ、ね! そうします!」

「他に買いたいのはある?」

「あ、はい。えっと、これとこれとこれと……あ、これも。このシリーズもちょっと面白そうかなって。それと……」


 多い多い多い! リンゼがドカドカと本棚から本を取り出して、棚の下、新刊平積みの上に乗せていく。いや、買えないわけじゃあないけどさ!

 みんなで手分けして本を持ち、レジカウンターにそれらを積んだ。店員のお姉さんがちょっとびっくりしていたけど、何事もなく会計を済まし、手提げの紙袋に本を入れて店を出た。

 次は三階……の前に、まずトイレへ行くことにする。もよおしたわけではなくて、誰にも見られないトイレの個室で【ストレージ】を開き、重い荷物を収納するためだ。

 男子トイレ内に入ると、手を洗っていた男の人が僕を見て驚いていた。大きな紙袋をいくつも抱えた子供が個室に入っていったらちょっと驚くか。

 中に入って鍵を閉め、男の人が出て行くまで待ってエルゼの服や、スゥのお菓子、桜のCD、リーンとリンゼの本を神気を通した【ストレージ】で収納する。これでよし、と。ふう、軽くなった。

 こちらの世界に戻って、あらためて魔法って便利だなあと実感するね。見られないようにするのが大変だけど。

 外で待っていたみんなと合流する。今度はちゃんとみんないる。動かないように念押ししておいたからな。


「三階には誰が?」

「えっと……ヒルダだね。下りてすぐのところにいるな」

 

 リンゼの質問に答えながらエスカレーター横にある案内板を見る。そこには『↑五階 ■アミューズメント ■カフェ ■百円均一 ■インテリア ■一般寝具』と『↓三階 ■子供服 ■スポーツ用品 ■きもの ■ベビー用品 ■玩具』と書かれていた。


 エスカレーターで三階に下りると、すぐにヒルダは見つかった。店内入口からそう遠くないところで商品を手に、何やら難しい顔をしている。


「むむむ……」

「……なにしてんの?」

「あ、冬夜様。いえ、この全身鎧の騎士ですが、このように様々な人形や模倣した武器などが売られているところを見ると、こちらではかなり有名な方なのでしょうか」

「うん、まあ……有名っちゃ有名かな……」


 だけどそれ、全身鎧じゃないから。特撮スーツだから。

 ヒルダが持っている変身ヒーローの人形フィギュアを見ながら、なんと説明したらよいものかと僕は少し困った。

 おもちゃ売り場には所狭しと、その変身ヒーローのグッズが並んでいる。ベルトやら剣やら銃やらといろいろ。


「気に入ったのなら買うかい? それ」

「そうですね。それほど有名な方ならば記念にひとつ」


 まあ、残念ながら来年には新しい奴に取って代わられるわけだが。


「おお、ポーラみたいなものも売られておるぞ」

「あら、本当ね。ダーリン、あれもひとつ買いましょう。ポーラにいいお土産になるわ」


 いや、クマのぬいぐるみにクマのぬいぐるみをお土産ってどうなんだろう……。ポーラの嫁さんか? 【プログラム】を施せばポーラのようになるかもしれないが……。そういやあいつってオスなの? メスなの?


「こっちは魔動乗用車エーテルビークルの小さいのが並んでるわ」

「ふええ……。すごい数だね、お姉ちゃん」


 エルゼリンゼ姉妹がミニカーを見て驚いているが、そこにあるのはそのシリーズのごく一部だけだぞ。


「王様。これ、面白い。欲しい」


 ふと桜の方に視線を向けると、音が出る魔法少女のステッキ的なものを持った彼女がいた。いや、君らそれ使わなくても魔法使えるでしょうが……。

 いかん、この場所にあまり長くいるといろんなものを買う羽目になるかもしれぬ。さっさと脱出せねば。

 僕は変身ヒーローの人形とクマのぬいぐるみ、それに魔法ステッキをレジに持っていき、さっさと会計を済ませた。絶対にレジのお姉さんは僕がおもちゃを買ってもらったと思っているに違いない。違いますよ? 

 ヒルダがすぐに見つかったので、僕らは次の階に下りることにした。二階にはユミナがいるはずだ。あとは地下にいる八重とルーだけか。


「えっと……こっちか」


 二階はハンドバッグや化粧品、婦人雑貨など女性メインのフロアだった。どうもこういったフロアは場違いな気持ちになるな。今の姿は子供なんだから気にすることはないかもしれないが。

 ユミナはエスカレーターからそう遠くないアクセサリーの店ですぐに見つかった。店頭に置いてあったブローチを手に取って眺めている。


「あ、冬夜さん。皆さんも」


 僕たちに気が付いたユミナの手元をリーンがひょいと覗き込む。そこには時計を持ったウサギのブローチが握られていた。『不思議の国のアリス』がモチーフかな?


「あら、なかなかいいブローチね」

「可愛いでしょう? 造りが少々粗いのが残念ですけど」


 ユミナさん、店員さんに聞こえるので造りが粗いとかあまりハッキリと言わないでいただけると。

 どうやらここは高級アクセサリー店というわけではなく、お手頃価格で買える店のようだった。そりゃあ、お姫様のお眼鏡にかなうレベルのものは置いてないだろ……。


「あっ、このペンダントも可愛いです、ね」

「わらわはこっちの髪留めがいいのう」


 ユミナに便乗してスゥとリンゼもちゃっかり欲しいものを見つけたようだ。きゃいきゃいと僕のお嫁さんたちが店内へとなだれ込んでいく。

 ああ、またショッピングタイムか……。このあと八重とルーを迎えに行くんだから早くしてねー、という僕の声は聞こえたのだろうか。

 ついでというわけではないが、僕も八重とルーのためにアクセサリーを買っておく。八重はかんざし風の髪留めで、ルーは薄緑色のガラス玉が装飾されたブレスレットだ。気に入ってもらえるといいが。

 みんなのぶんのお金も払って店を出る。これでやっと本来の目的である夕食の買い物ができるな。

 エスカレーターで一気に地下まで下りる。よくある食品売り場のはずだが、なぜか少し騒がしい。なんだろう? なにがあった!?









■10/27 修正しました。

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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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