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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第31章 ウェディング&ハネムーン。
451/637

#451 旅行準備、そして少年。





「これでやっと名実ともに冬夜君たちは夫婦になったわけなのよ」

「まあ、スゥだけは本当に一緒に寝ただけらしいけど。まだ身体もできてないしね。ま、無理させることもないか。これからはずっと一緒なんだから」

「んで? 新婚旅行とやらにみんなで冬夜の世界に行くんだろ? 準備はできてるのかい?」

「冬夜お兄ちゃん! お酒! あちし、お土産はお酒がいいなあ! っていうか、お酒以外却下!」


 花恋姉さん、諸刃姉さん、狩奈姉さん、ついでに酔花が勝手なことをのたまう。人の噂話は本人のいないところでしてもらえませんかねぇ!

 家族が新婚さんをからかうのって趣味悪いと思うぞ……。花恋姉さんと諸刃姉さんはみんなにとっては小姑になるんだし、そんなこと言ってるとみんなに嫌われ……。嫌われないような気がするなあ。姉さんたちのにも眷属化しつつあるしな……。


「さすがに僕の力じゃ全員を一気に【異空間転移】で地球へ跳ばすことはできないよ。世界神様が手伝ってくれるって言ってたけど」


 先日結婚式をした庭園のテーブルで、人を肴にお茶会を開いていた女神様たちに僕はぶっきらぼうに答えた。

 僕という存在はあの世界では死んだことになっている。地球では死んだ者は普通生き返らない。そんな存在は世界の理(あくまで地球の、だが)から外れるので、その世界から弾き出されてしまう。

 なので僕はあくまで人間『望月冬夜』ではなく、神族『望月冬夜』として地球を訪れることになるのだ。神様の見習い、世界神様の眷属として。

 ただ心配なのは、向こうでは魔力の素になる魔素が極めて薄い。つまりこちらのように自由自在には魔法が使えないのだ。

 神力なら使えるので、僕はなんとかなると思うけど、みんなは魔法が使えない。魔力を用いないユミナの【未来視】のような眷属特性なら使えるだろうが。

 同じユミナの『看破の魔眼』は、無属性魔法が眼という器官に表れたものだからダメだろうなあ。


「それほど心配する必要はないと思うのよ。冬夜君の神器スマホを通せば魔法もある程度、神気を使って発動できるし。あ、だけどあまり多用するのはダメなのよ? 向こうではほとんどない力なんだから。怪しい秘密結社にでも見つかったら、新婚旅行どころじゃなくなるのよ」


 縁起でもないことを。しかし、スマホを通せば少しは魔法も使えるのか。誰かがはぐれたり、迷子になった時に【サーチ】とかが使えるのは助かるな。【ストレージ】も開ければ、お土産を買って帰ることも可能かな?


「しかし世界神様、遅いな。電話じゃお昼ごろ来るって言ってたのに」

「仕方ないのよ。今、神界うえじゃ保養地ここの話で持ちきりだから。きっとその対応に追われてるのよ」


 僕の結婚式に合わせて『先行体験』という名目のもと、地上に人化して降り立った十人の神々。

 舞踏神、剛力神、工芸神、眼鏡神、演劇神、人形神、放浪神、花神、宝石神、そして時江おばあちゃんこと時空神。

 あれから十日も経ち、地上におけるこの人化した神々のいろんな体験談が神界うえにはもう伝わっているらしい。それを受けてみんな興味津々、自分も早くバカンスとして地上に降りたい、という神々が増えているそうだ。


「今まで見向きもしなかったくせに勝手なもんさ。ま、堂々と地上に降りて好きに暮らせるんだからわからないでもないけど」

「人間として暮らすのが『面白い』って感覚がよくわからないんだけど……」

「にゃはは。冬夜お兄ちゃんのいた地球でいうところの『ろーるぷれい』ってやつなのだ。『なりきって遊ぶ』のは楽しいよ?」


 ろーるぷれい? ロールプレイングゲームとかのロールプレイかな? 確かに日常の自分を忘れ、別の役割を演じるのは楽しいかもしれないけどさ。神様たちも俗っぽいなあ。


「すでに工芸神や人形神なんかは自分の作品を作り始めているって話だし、演劇神や舞踏神なんかもどこかの劇団に入ったらしいよ。そのうちこの国にも名前が聞こえて来るんじゃないかねぇ」


 狩奈姉さんがけらけらと笑いながらそんなことを言うが、人化したとはいえ神は神。その専門職なら有名にならない方がおかしい。絶対に世界的な人間になるだろうな。


「わかんないのは眼鏡神が眼鏡を作るよりも、眼鏡を配って回っていることなのよ」

「布教活動じゃないかな。この世界ではまだ眼鏡の普及率は低いし。それに『眼鏡の似合わない者などいない。いたとしたらその者はまだ自分に似合う眼鏡に出会っていないだけだ』とか、いつも言ってたじゃないか」


 うん。眼鏡神イコール変なやつ。インプットした。くれぐれも問題は起こさないで欲しい。大人しく眼鏡店でも開いて商売に精を出して欲しいところだ。


「これから留守にするってのに、本当に問題は起こして欲しくないなあ……」


 ん? この感覚は……。


「大丈夫じゃよ。旅行中はワシが目を光らせておくから心配はいらんよ」


 気配を感じた方へ視線を向けると、世界神様がフッと唐突に現れた。眷属であるからか、僕は世界神様だけは出現を察知できる。


「いや、待たせてすまん。保養地計画のことで少し揉めての」

「やっぱりですか」


 どんな風に揉めたのかは聞くまい。胃が痛くなりそうだし。


「さて。冬夜君、ちょっとみんなを呼んでもらえるかの。異世界旅行の注意点をいくつか話しておきたいのでな」

「あ、はい」


 注意点? やっぱり異世界へ行くってのはなにか危険が伴うのかな? エンデとかはいろんな世界を渡っていたみたいだけど、言ってみれば違う惑星に行くようなもんだし……って、行き先は地球なんだからそんなわけないか。


 僕は懐からスマホを取り出して、みんなを呼び寄せるため、メールを打ち始めた。





「さて、明日からみんなは冬夜君のいた、『地球』という別の世界へ向かうわけじゃが」


 世界神様が集まったみんなを見渡して話し始めた。庭園に大きなシートを取り出してそこに座り、みんなで世界神様の話に耳を傾けている。

 横のテーブルでは花恋姉さんたちが静かにこちらを見守っていた。


「まず向こうの言葉じゃが、君らが持っている指輪があれば意思の疎通は問題ない。あらゆる国の言葉がわかり、話すことができるじゃろう。向こうのお金もワシが用意するので心配はいらん」


 おお。ってことは外国人とも話せるってことか。それは便利だな。さすが神器。僕は左手薬指に光る結婚指輪を眺めた。行き先が日本である以上、あまり僕は関係ないが。

 それにお金まで用意していただけるとは申し訳ない。最悪、金とか銀とかを持ち込んで、換金することも考えてたからな。


「それとお嬢さんたちの持っている『すまぁとほん』な。それもあちらで使用可能なようにしておくよ。向こうは魔素が薄いから通話とかが難しいだろうしの」


 博士特製の量産型スマホは電波などではなく、大気に漂う魔素を媒介とした通話魔法を利用している。よくわからないが、少しでも空気が相手と『繋がって』いるのなら、会話ができるということらしい。

 たとえ室内であっても、どこからか空気は繋がっているはずだからな。ってことは、空気も入らない完全なる密閉空間とかなら繋がらないのかな? 水にも魔素はあるというし、海の中でも繋がるのか? よくわからん。

 しかし向こうでも使えるって、それは普通のスマホということではなかろうか。


「魔素が薄いということは、魔法はほとんど使えぬということじゃ。気をつけるんじゃぞ。小さな火や氷などなら出せるかもしれんがの」


 大気に魔素が含まれていなければ、魔法は発動しない。酸素のないところで火をつけようとするようなものか。あれ? でも……。


「大気に魔素がなくても体内の魔力を使えば、自分には魔法を施せます、か? お姉ちゃんの【ブースト】とか」


 リンゼが僕に代わって世界神様に聞きたいことを聞いてくれた。エルゼも自分に関することなので少し関心があるようだ。


「できんことはないがあまりやらん方がいいのう。すぐに魔力が尽きて倒れることになるぞ? せっかくの新婚旅行を寝たきりで過ごしたくはないじゃろ?」

「なるほど……。魔力に変換される魔素が少ないのだから、なくなった魔力もそう簡単には補充されないってことね」


 リーンが納得したように小さく頷いた。魔力を切らすと意識が混濁し、気を失うこともあるからな……。

 魔力譲渡魔法の【トランスファー】があるが、僕も向こうじゃ魔力が回復しないわけだし危険か。

 

「では魔力をこちらで何かに蓄えて持って行くということはできないのかしら? バビロンにある魔力タンクみたいに」

「無理じゃな。向こうの世界に着いた途端に蓄えた魔力は霧消してしまう。魔力で動いている……ほれ、そこのクマなんかもあっちの世界にいったらすぐに動かなくなるぞい」


 リーンの後ろにいたポーラがガタガタと震え出す。大丈夫だ、お前は留守番だから。ということは琥珀たちも呼んだところで、その存在を保つことができないわけか。あっさりと僕の魔力が尽きて終わりだ。ほとんど回復しないんだからな。

 アーティファクトのたぐいも全部使えない、と。フレームギアでさえも向こうじゃ動かない立像に過ぎないのか。


「あれ? じゃあ魔力で充電している僕らのスマホは充電できないのかな?」

「……普通に電気で充電すりゃええじゃろ」

「……ごもっともです」


 そうだ、向こうには普通に電気があるんだった。なにをトンチンカンな質問をしてんだか。恥かいた。


「拙者たちにはあまり関係ないでござるな」

「確かに」

「ですわね」


 八重、ヒルダ、ルーの魔法を使えないグループが口々に答える。ちょっと拗ねているみたいに見えて少し笑ってしまった。


「向こうじゃ魔法が使えないのは当たり前だから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」

「じゃが、なにか危険なことがあったら、魔法が使えないと困らんか?」

「別に紛争地帯に行くわけじゃないんだから、そんなに危険なことなんかないって。僕らの行く国は比較的平和だから」


 日本であればそれほど魔法が使えなくても困ることはないと思う。というか、それが普通だし。逆に魔法が使えたりする方が危険だ。


「それとこれが一番問題なんじゃが。冬夜君のことじゃ」

「え、僕ですか?」


 突然話を振られてキョトンとしまう。


「前にも話したが、冬夜君は向こうじゃ死んだことになっとる。当然、そのままの姿で行けばいろいろと問題なのはわかるじゃろ?」

「はい。それはまあ」


 死んだ人間がうろついていたら驚くだろうし。でも【ミラージュ】で姿を変えて行けば、それほど……あ。


「ひょっとして偽装魔法って向こうじゃ使えません?」

「使えないことはないよ。ただ、さっきも言った通り魔力は使えんから神力を使うしかない。自分の神力を使ってずっと姿を騙し続けるのはかなり身体に負担がかかると思うがの。何かの拍子に気が緩んで姿が戻るとかありそうじゃし」


 う、ありそうだな……。魔力と違って神力はコントロールが難しい。加減がしにくいのだ。だから失敗すると髪の毛が伸びたり、とんでもない威力の魔法を放ってしまう。そもそもこのコントロールができていれば、時江おばあちゃんに頼らないでも僕が世界の結界を直せたわけだし。

 神力の常時発動はかなりキツいだろう。せっかくの帰郷なのに気が休まらないし、みんなと旅行を楽しむ余裕がなくなるのはちょっとな。


「そこで、じゃ。ワシが旅行中だけ、冬夜君の姿を変えてあげようと思ってな。これなら君本人に負担はかからんし、何かの拍子に戻ることもない。戻ってくるまで姿は変わったままじゃがの。少し不便かもしれんが、ま、なんとかなるじゃろ」


 お、それはありがたいかも。やっぱり常時気を張っているのは疲れるからね。


「むう。王様の姿がずっと変わったままじゃ、一緒に旅行する楽しみが減りそう。ちょっと困る」

「うむ。桜のいう通りじゃ。中身は冬夜でも別人と旅行している気分になりそうじゃし。そこはなんとかならんかのう?」


 桜とスゥが世界神様に異議を唱える。うーん、確かに僕もせっかくの新婚旅行だし、みんなの思い出に残るような旅にしたいとは思うな。

 それに一番の目的である、両親の夢枕に立って結婚の報告をするってのも、別人の姿じゃなあ……。いや、その時だけ神気を使って元の姿の幻をまとえばいいのか? 数分くらいなら持つだろうし。


「大丈夫じゃ。そこらへんもちゃんと考えておるよ。君たちが確実に冬夜君と認識できる姿にするからの。ほれ」


 世界神様がパン、と手を打ち鳴らすと、一瞬にして僕の周りにブワッと煙が立ち込めた。


「ぷわっ!? な、なんだなんだ!?」


 僕は煙を払おうと手を振った。……あれ? なんかおかしい。なんでこんなにコートの袖が余ってブラブラしているんだ?

 それにさっき出した声もなんか高かったような。なんか変だぞ? 煙が晴れて僕の視界に飛び込んできたのは、目を見開んばかりに驚きの表情を浮かべたみんなの姿だった。…………どったの?


「これなら冬夜君と旅行している気になるじゃろ?」


 したり顔で笑う世界神様だが、あれ? おかしいな。世界神様、そんなに背が高かったっけか?

 というか……、みんなの背も急に伸びた、よう、な……。ま、さか。


「す、【ストレージ】!」


 慌てふためきながら【ストレージ】を開き、姿見を取り出して中庭の低木に立てかける。そこに映っていたのはスゥよりも遥かに小さい、小学一年生くらいの僕だった。え!? 姿を変えるって、そういうこと!? 若返りですか!?


「なに、この子! 本当に冬夜なの!?」

「ふ、ふわぁ……! ミニ冬夜さん、です!」

「か、かわいいです! かわいいです!」

「はい! 小さくなったら魅力が増しましたわ!」


 エルゼとリンゼの双子姉妹が左右からステレオで叫び、ユミナとルーが駆け寄ってくる。て、テンション高いな!


「おお! 確かに旦那様の面影があるでござるな!」


 八重まで駆け寄ってきた。あるに決まってるわい。息子とかじゃなくて本人なんだからさ! 

 八重はがっしと僕の両脇の下を掴み、たかいたかーいとばかりに軽々と持ち上げた。うわ! ちょい待ち! ズボンが脱げる!

 身体は小さくなったが、服までは小さくなってはいない。パンツごとずり落ちるズボンをなんとか掴もうとしたが、八重に持ち上げられている僕にはどうしようもなかった。

 いたずらな風が吹き、シャツがめくれる。……寒い。




「と、冬夜様。そんなに落ち込まないでも……」

「君には下半身を大衆の前で露出した気持ちはわかるまい……」


 ルーの慰めも僕の心には響かない。そりゃいじけたくもなるってもんさ。頭も小学生のままなら恥ずかしくなかったのだろうか……。


「や、すまんでござる……。つい、城下の子供たちと同じような感覚で……」


 八重は子供好きだからな。気持ちはわかるけれども。それにしたってさ……。


「いつまでも拗ねるでない。わざとではないのだから笑って許せ。わらわたちの旦那様なのだからのう」


 スゥに頭を撫でられた。いつもの逆だろ、これ……。なんとも面映ゆい気持ちになる。照れくさいというか、なんというか。

 隣のテーブルでそれを見ていた狩奈姉さんと酔花がケラケラと笑う。


「小さいことを気にするねえ。みんな身内なんだから見られたって照れることもなかろうに」

「にゃはははは。冬夜お兄ちゃん、小さい小さい」


 小さい小さい連呼すんな! それは人としての器のことか!? それとも別なもんのことか!?

 僕が酔花に噛みつこうとしたその時、【テレポート】で城下の『ファッションキングザナック』に行っていた桜が戻ってきた。


「とりあえず下着も含めていくつか買ってきた」


 テーブルの上にどかっと桜が紙袋を置く。買ってきたって……なんでこんな量を!?

 大量の紙袋からは様々な子供服が飛び出してきた。ちょっとまて、なんでスカートまである!? 女の子のも混ざってるぞ!


「この服なんか似合いそうですわ!」

「こっちのもカワイイですよ?」

「こんなことなら子供用の騎士鎧を用意しておくべきでした……」


 楽しそうに子供服を手を取るルーとユミナに対し、残念そうにつぶやくヒルダ。ヒルダに子供が生まれたら本当に作りそうだな……。

 というか、どうでもいいから早くしてくれ。

 あれがいいこれがいいと、お嫁さんたちに散々着せ替え人形にされた挙句、無難なズボンとパーカーの姿に落ち着いた。……まあ、これなら向こうでも普通の子供に見えるか。


「……もういいかね?」

「っ、あ! す、すみません!」


 いかん、世界神様ほったらかしだった!


「その姿なら冬夜君だとバレないし、まったく別人の姿より、君らも冬夜君だと認識しやすいじゃろ。向こうで冬夜君の子供の頃を知っている者に会っても『よく似た子供』としか思わんしの」


 確かに『死んだやつが若返って現れた』なんて、誰も思わないとは思うけど。


「あの、これって僕を老けさせて中年とかの姿にしてもよかったんじゃ……」

「…………子供の方が一緒に行動しやすいじゃろ?」


 変な間が気になるが、確かにみんなと一緒に行動するならこの姿の方がいいか……。中年の姿でみんなと歩いていたら、おまわりさんに職務質問とか受けかねない。

 もっと老けさせて老人の姿で、という考えも浮かんだが、それだとみんなの方が落ちつかないか。小さな男の子一人と女の子九人という組み合わせより、老人一人に女の子九人という組み合わせの方が目立つしな。それに自分の老け顔なんて今から見たくはない。あれ? 神化したら老化はしないんだっけ?


「その姿は君を若返らせたのではなく、その姿に固定させた、いわば『変身』しているようなものじゃ。上級神になれば自由に使える。ちなみにワシもこの姿以外にいくつかの姿を持っておるよ?」

「そうなんですか? ……なんで老人の姿に?」

「その方が威厳があるじゃろ?」


 なんとも俗っぽい理由だった。わからんでもないけど。


「とりあえずはそれくらいじゃな。お嬢さんたちも明日の出発前には服装を変えた方がよいと思うぞ。向こうに行ったらおそらく目立つからのう」


 まあ目立つだろうな。ただ、服装云々(うんぬん)ではなく、彼女たちの容姿そのものでだろうけど。

 八重はまだしも、他のみんなは髪や目の色で外国人だと思われるだろうからなあ。それだけで目立つ。桜なんか髪も派手な色してるし。

 向こうでウィッグでも買うか? 毛染めってのもアレだし。


「服なら『ファッションキングザナック』に新作がたくさん出てた。あれは王様の世界の服をもとにしているから向こうでも大丈夫なはず」

「それならこれからみんなで買いに行きましょうか。数日分の着替えが必要になるわけだし」


 桜の提案にリーンが乗り、他のみんなも賛成とばかりにはしゃぎ出す。いや、向こうで買えばいいと思うんだけどな。せっかく世界神様がお金を用意してくれるわけだし。


「ほら冬夜、いくわよ」

「え、僕も!?」


 ぐいっ、とエルゼに手を引かれる。驚いていると、反対側の手も八重に引っ張られた。


「向こうでは旦那様しか【ストレージ】を使えぬのでござろう? ならば我々の荷物を持ってもらわねば」


 荷物持ちかい。いや、別にいいんだけどさ。それよりもこの捕まった宇宙人のような扱いをやめて下さい。


「では明日の朝、またここでな」

「あ、はい! すいません、なんか!」

 

 去っていく僕らに笑いながら手を振る世界神様。その姿を振り返りながら謝っておく。

 出発前からこの騒ぎ。この新婚旅行、大丈夫かね……。

 








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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