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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第31章 ウェディング&ハネムーン。
445/637

#445 一週間前、そして城下の人々。





 カタログリストもなんとかまとまって、【ドローイング】による印刷、『工房』による製本できちんと本になった。この中から欲しいものを選び、付属するハガキに書き込めば、ブリュンヒルドに転送されることになっている。

 ギフトはABCのコースに分かれていて、Aコースは一つ、Bコースは二つ、Cコースは三つ、贈呈品を選択できる。

 値段的なものによる差だが、ほとんど自作なので、僕にはあまりそういった感覚はないのだが。

 考えたくはないが売ったりされることも考慮して、きっちりナンバーと成婚記念品という刻印は押しておくつもりだ。まあ、僕らが選んだ招待客にそんな人はいないと思うけどね。

 さて、準備はほぼ終了し、あとは一週間後の結婚式を待つばかり。

 僕からの心配り、というわけではないけれど、婚約者のみんなは生まれ育った実家へと帰している。

 エルゼ、リンゼ姉妹はリーフリースの叔父さんの農園へ。八重はオエドの道場をしている実家、ユミナはベルファスト城へ。スゥもオルトリンデ公爵家に、ルーとヒルダもレグルスとレスティアの王家へ。桜もお母さんと一緒に魔王国ゼノアスのスピカさんの家へ行っている。生まれ育った家だからな。魔王陛下が押しかけてそうだが……。

 リーンは実家というわけではないが、ミスミドへと里帰りしている。当然、ポーラも一緒だ。

 それぞれ家族や友人たちと独身最後の時を楽しく過ごしてもらいたい。

 しかしアレだね。みんながいなくなった途端、急に静かになったね。朝食がちょっと寂しかったもの。

 諸刃姉さんと武流叔父は早朝訓練だし、耕助叔父は畑を耕しに行っちゃうし。狩奈姉さんも早朝から狩りだし、花恋姉さんと酔花は起きてこないしな……。カミサマーズは好き勝手に動くからなあ。

 奏助兄さんはいたんだけど……話さないしな……。気を使ってくれたのか、エドヴァルド・グリーグ作曲の『朝』を弾いてくれていたけど。バイオリン弾きながら朝ごはん食べるのってしんどくない?

 だからもっぱら時江おばあちゃんと話してた。

 時江おばあちゃんは大抵は城のバルコニーで世界の結界を修復しているけど(見た目は編み物を編んでいるようにしか見えないが)、その他は城のメイドさんたちと話したり、散歩と称して城下町をぶらついたりしている。

 見た目は普通のおばあちゃんなので、馴染んでしまっているようだ。これも神の力……なのだろうか。

 朝食が終わると突然暇になってしまった。高坂さんが結婚式&新婚旅行が終わるまで長い休みをくれたので、やることがない。


「琥珀……暇だね」

『良いことなのでは?』


 まあ、そうだけど。そうなんだけど。ソファにゴロンとなって、琥珀の頭を撫でる。なんか急に年食った感じが。縁側で日向ぼっこする猫と爺さんか。

 いかん、まだそんな年じゃない。どっかに出かけよう。うん、そうしよう。

 子虎状態の琥珀を抱き上げ、【テレポート】で転移する。転移した先は勝手知ったるブリュンヒルドにおける冒険者ギルドの裏庭だ。冒険者たちが訓練の場に使ったり、狩った大きな魔獣を捌くときにも使われる。

 幸い冒険者たちは裏庭の隅に転移した僕らに誰も気が付かなかったようなので、そそくさとフードを被ってギルド内へと入った。

 ブリュンヒルドの冒険者ギルドはなかなかに盛況だった。ベルファスト王国とレグルス帝国に挟まれたこの辺りには手強い魔獣などはいない。ここに来る冒険者のほとんどが転移門の先にあるダンジョン目当ての冒険者である。

 正直に言うとダンジョンは冒険者のランク上げには適していない。

 冒険者ランクを上げるには依頼を確実にこなして、冒険者ギルドに貢献しなければならない。コツコツと積み上げていけばベテランレベルの青ランクくらいにはなれる。しかし、ダンジョンの探索や魔獣退治は依頼ではない。あくまで冒険者が勝手にダンジョンへ入っているのだ。

 冒険者たちの目当てはダンジョンに眠る財宝と、そこに巣食う珍しい魔獣たちの素材だ。持ち帰ればかなりの稼ぎになる。

 もちろん、『○○の素材を集めてくれ』という系の依頼ならギルドランクも上がるが、依頼を受けて失敗し、ギルドから罰金や警告を受ける可能性もある。ならギルドの依頼を受けずに直接必要な者に売った方がよかったりもするのだ。

 ギルドでも買い取りはしてるから、そこらへんは暗黙の了解というかなんというか。

 ま、結局のところ、ウチにはお金目当ての冒険者が多いってことだ。もちろん下級ランクの冒険者には手頃な依頼がけっこうあるけど。上級者、青ランク以上を目指す人たちにはあまり旨味がない冒険者ギルドとも言える。

 ブリュンヒルドの冒険者ギルドは小さな町にしては大きく、三つの受付で依頼を受けていた。何度も来ているので馴染みの受付さんがいるカウンターへと向かう。


「ようこそ冒険者ギルド・ブリュンヒルド支部へ。今回はどういったご用件でしょ……うあ」


 猫の獣人であるミーシャさんが僕と足下の琥珀を見てすぐさま正体を悟り、引きつった笑顔を浮かべる。なんかちょっと傷付くな……。


「すみません。レリシャさんいますか?」

「えっと、ギルドマスターなら二階におります。ちょっとお待ち下さいね」


 パタパタと慌ててミーシャさんがカウンター横の階段を上がっていく。しまった。電話で連絡すればよかったか。しばらくすると、再びパタパタとミーシャさんが階段を下りてきた。


「お待たせしました。どうぞ」

「すみません。お邪魔します」


 ミーシャさんに軽く頭を下げてギルドの階段を上る。二階一番奥の、シックな造りの扉をノックしてから入室する。


「ようこそ公王陛下。どうぞこちらへ」


 ギルドマスターのレリシャさんに促され、正面のソファに座る。相変わらずエルフってのは美人だな。なんとなく恐縮してしまう。


「招待状ありがとうございました。冒険者ギルドを代表して、必ず出席させていただきます。それで、今日はどういったご用件で?」

「あ、えーっとですね……」


 レリシャさんの質問にちょっと言葉が詰まる。まさか暇だからなにかないかとは聞きにくい。


「あ、例の冒険者アカデミーはどうなっているかな、と。なにか問題とかはありませんか?」

「大丈夫です。新しく冒険者になった者は大抵アカデミーに入り二週間の研修を受けるか、ランクアップ試験を受けております。これによって初心者は最低限の知識と技術を身につけ、実力者は適したランクに振り分けられるので、無謀な依頼を受ける者は減りました」

「高ランクの依頼などはどうなってます?」

「ああ、そちらの方はエンデさんやノルンさん、あとはニアさんら『紅猫』の皆さんが請け負ってくれていますね。主にダンジョンの浅い層に強い魔獣が出てきた時などですけれど」


 え、あいつらそんな高ランクになってたの?


「エンデさんが銀ランク、ノルンさんとニアさんが赤ランクですね」

「え!? エンデのやつ銀ランクなんですか!?」

「ええ。ついこの間ダンジョンに現れたミノタウロスの群れを一人で片付けて」


 それは聞いてなかった。基本ダンジョンのことはギルドに任せてたからな。ううむ。そのうちエンデも金ランクに上がってくるかもしれない。あいつも竜騎士ドラグーンを持っているから巨獣とか倒せるだろうし。

 ノルンやニアも赤ランクか。いいことなのかもしれないが、これでは僕の仕事はなさそうだ。

 結局、レリシャさんとは当たり障りのない世間話をしてギルドを出た。

 さて、どうするかね。なんとなしに足は学校の方に向いていた。

 桜と一緒にフィアナさんがゼノアスに里帰りしているため、校長先生不在で人手が足りないのでは、と思ったからだが。

 木造建ての学校に辿り着くと、目を疑うような光景に出くわしてしまった。

 鉄棒や滑り台など遊具が設置された校庭で子供たちが先生らと遊んでいる。それは微笑ましいのだが、それに混ざってメガネをかけた少女と、紫の小さなゴレムがいることが問題ではなかろうか。


「あっ、とーやんだ。久しぶりー」

『ギ』

「いや……。なんでお前ここにいんの?」


 紫の王冠・ヴィオラとそのマスターであるルナ・トリエステ。僕が『呪い』をかけたあと釈放されたはずだが。


「なんでって、先生だから?」

「は!?」


 ルナの口から飛び出した言葉に僕は心底驚いた。先生!? こいつが!?


「あっ、しつれーだな。これでも子供たちに大人気なんだぞっ」


 何がどうなってそうなったのか。事情を聞くために、フィアナさんの留守を預かる二人の教師から話を聞くことにした。

 若い女性のミエットさんと、エルフの男性レイセールさん。フィアナさんだけでは子供たちの面倒を見きれないと雇用した先生だ。

 二人の話によると、ふらりとやってきたルナが子供たちと遊んでくれるようになったという。いつの間にか子供たちが懐き、授業の手伝いもするようになって、フィアナさんの鶴の一声で採用されたとのこと。

 そういえば、新しく職員を雇ったって高坂さん経由で聞いたような……。一応、この学校は国営だからな。


「しかしなんでまたお前が…………まさか」

「子供はいいよねぇ。感謝の気持ちに混じりっけがないんだよ。大人だとどこか義務的な『ありがとう』なんだよ。この子たちは心の底から『ありがとう』って言ってくれるの。その言葉を聞くともう、鳥肌が立ってゾクゾクっとするんだぁ。うへへへ。私、天職を見つけたかも」


 恍惚とした表情で語るルナ。こいつには他人からの感謝の気持ちが快感に感じる『呪い』を僕がかけた。完全に欲望まっしぐらじゃないか。


「こんなの雇ってよかったんで? 子供たちに悪影響があるんじゃ?」

「あはは……。ですが子供たちが懐いているのは確かですし、きちんと面倒もみてくれますから。ヴィオラも力仕事を任せられますし」


 エルフの先生、レイセールさんが苦笑しながら答える。そりゃきちんと世話をしないと感謝してもらえないからな。こいつの場合、言ってみれば快感目当ての真面目さだぞ。


「ルナせんせー。あそぼー」

「ヴィオラちゃんもあそぼーよ。いいでしょ、ルナせんせー」

「お砂場でお城作って、ルナせんせー」


 立ち話している僕らの下へ子供たちがわらわらとやってくる。そのほとんどがルナとヴィオラを取り囲み、手を引いていた。ホントに懐かれてる……。子供たち、このお姉ちゃんはド変態だよ?


「よーし。じゃあみんなでお砂のお城を作ろうか!」

「わーい! ありがとうルナせんせー!」

「ありがとうー!」

「フォワッ……!」


 感謝の言葉を告げる子供たちから顔を背けたルナの表情は、恍惚にまみれていた。うあ。その顔はあかんよ……。


「じ、じゃ、じゃあ、お砂場に行こうねー」

「うん! ほら、ヴィオラちゃんもー!」

『ギ』


 子供たちに引っぱられながらルナとヴィオラが砂場の方へと歩いていく。……なぜ内股でよろけてるんだ。いろいろとアウトな気がする。


「ああやって必ず感謝の言葉を言うように教えてるんですよ」

「いや、まあ……。それは大切なことだと思いますけれども……」


 何かの漫画で『ありがとう』『ごめんなさい』『好きです』の三つの言葉は、そのタイミングを逃すとなかなか言えなくなるとか読んだな。だからそう思った時にきちんと伝えた方がいいと。

 感謝の気持ちをストレートに伝えられる子は、まっすぐに育つような気がするけど……いいのかね、これ。

 ルナが欲望に忠実な限り、子供たちを大切にするだろうが……。かつて『狂乱の淑女』と呼ばれた人物とは思えんな。昔と比べたらはるかにこちらの方がいいに決まっているが。

 学校も僕が手伝えることはなさそうなので、他の場所に行くことにする。少々不安だが……。

 昼時になったので、久しぶりに『銀月』に行こうと足を向けた。

 時間が時間なだけに宿屋『銀月』一階の食堂は賑わっていた。相変わらず盛況だな。ここの料理は安くて美味いから当然といえば当然か。


あるじ、あそこに騎士団の者が』

「え?」


 琥珀に促されて視線を向けると、テーブルに座り、食事をしているうちの警邏騎士、ランツ君を見つけた。相変わらずミカさん目当てで通っているのか。

 鎧を身につけていないから非番かな。とりあえず彼の正面の席が空いていたので座ってみる。


「……? ッ! へっ、へい……!」

「しーっ。気にせず食事をして。僕も食事にきただけだからさ」


 声を上げそうになったランツ君を黙らせる。騒がれるのもなんだしな。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりで……あらっ?」

「しーっ」


 僕らのところへ注文を取りに来たのはミカさんだった。珍しいな。ミカさんはほとんど厨房にいて料理を作っているかと思ったけれど。


「今日は特別。リフレットから父さんが来ているのよ。ほら、あなたの結婚式に招待されたから。前乗りしてんの。で、宿代の代わりに働いてもらってるってわけ」

親父ドランさんからお金取るの……?」

「親子とはいえお互い宿屋の店主。そのへんはキッチリしないとね」


 厳しい。働かせてはいるが、結果タダで泊まらせているってところが娘の優しさなのだろうか。ドランさんも大変だな。


「父さんだけじゃなくて、リフレットのみんなはここに泊まってるわよ。武器屋熊八のバラルおじさんも道具屋のシモンさんも」


 いや、まだ一週間あるんですが。リフレットの店の方は大丈夫なんだろうか。心配だ。


「んで、注文は?」

「あ、じゃあ日替わりのランチセットで。琥珀にも同じものを」

「あいよー」


 ミカさんは持って来た水を置いて厨房へと戻っていく。僕が水を飲み、喉を潤していると、目の前のランツ君はずっとミカさんを視線で追っていた。


「……まだ告白してないの?」

「ぶふっ!? なっ、な、なにを……!」


 目に見えて狼狽するランツ。わかりやすいな、ホント。レスティア出身の人たちって生真面目で正直な人が多いよな。……エロ先先王のジイさんを除いて。


「いや、バレバレだって。気付いてないの、ミカさんだけじゃないの?」

「花恋様にもそう言われました……」


 あ、やっぱり。わかりやすいからな。

 意識されてないってのが問題だよねえ。想いを伝えて『好意を持ってます』って、まずわかってもらわないとな。僕が偉そうに言えることじゃないけど。


「それよりも、本人よりお父上のドランさんの方が察しているようで……。なんか時々睨まれます……」


 なにやってんだ、あの親父……。いや、待てよ。将を射んと欲すればまず馬を射よ、ってやつか?


「ランツって将棋できたっけ?」

「将棋ですか? こちらに来てから始めましたが。騎士団の宿舎で同僚とよくやりますよ。あれは戦術の訓練にもなりますし。それがなにか……?」

「まずは馬を射よう」

「は?」





 パチリ、と駒を置く音が響く。

 昼食時も過ぎ、人がまばらになったテーブルで、食事を終えた僕とランツは向かい合って将棋を指していた。

 一、二局対戦してわかったが、ランツ君はなかなかに強かった。正直言って僕よりも強い。このままでは勝負にならないのでちょっとインチキをしている。


『主。7六歩です』

『あいよー』


 テーブル下の琥珀から念話で指示が来る。視覚を同調させて、琥珀にはスマホの将棋アプリを利用したインチキを手伝ってもらっているのだ。

 早い話がランツ君は将棋アプリと対戦しているわけだ。


「むむむ……」


 そうとは知らないランツ君が悩みながら指してくる。将棋アプリのランクは彼の強さに合わせているので見た目は拮抗した対戦のはずだ。

 ちらり、と視線を厨房の方へ向けると、ドランさんがこちらをチラチラと見ているのがわかる。気になっているな?

 やがて飛んで火に入る夏の虫のごとく、ドランさんは僕らのテーブルの横を行ったり来たりし始め、最終的には完全に観客となって僕らの対局を観戦し始めた。しめしめ。


「王手、です!」

「……ん。参りました」


 勝負はランツ君が勝った。なかなかどころかかなり強いんじゃないかな。


「ふう。急に強くなりましたね、陛下」

「いや、最初は様子見ってやつでさ」


 ランツ君の言葉を適当にごまかす。すまんね、インチキです。僕、将棋弱いからさあ。ま、おかげで目的の魚が釣れたが。


「かなり強いね、ランツ君。さすがうちの騎士団の有望株だ。どうです、ドランさん。対局してみます?」

「え? あっ!?」


 ランツを持ち上げながら横にいたドランさんに話を振る。対局に集中していたのか、初めてその存在に気がついたランツが驚きの声を上げた。


「面白え。久々に骨がある相手と指せそうだ。お前さん、この後は時間大丈夫かい?」

「あ、は、はい! 今日は非番でありますので!」

「そうかい。じゃあやろうか」


 僕はドランさんに席を譲り、テーブル下からスマホを咥えた琥珀が出てくる。

 僕らはパチリパチリと駒を並べ始めた二人から離れ、テーブルを拭いていたミカさんの下へと向かった。


「また父さんの病気が出た……。焚き付けないでほしいんだけど」

「まあまあ。ところでミカさんはランツのことどう思います?」

「え? 真面目ないい人だと思うけど? よく荷物持ってくれたりするし」


 あかん。ホントにまったく意識してないのかしら。


「そうね……この間ランツさんが酔って暴れてた冒険者を取り押さえてくれたんだけど、その時はカッコよかったかな」


 ほうほう。まったく脈がないわけではないのかな?


「彼氏にするならランツみたいなタイプがオススメですよ?」

「あはは。あたしなんか相手にされないわよー」

「向こうはそう思ってないようですけど」

「え?」


 笑ってスルーしようとしたミカさんの動きが止まる。これで少しは意識してもらえるといいんだが。

 とか思っていたら、たちまちミカさんの顔が真っ赤になっていった。え、なにこの変化!? 

 タコじゃないんだからそんなに真っ赤にならんでも! 今まで無反応だったのに唐突過ぎるだろ! あれ!? 意識しちゃった!?


「えっ、えっ? えっ!? ど、どういうこと!? そ、それって、その、え!?」

「…………本当にまったく気がつかなかったんスか……。なんかアプローチ的なことあったでしょう?」

「あ、アプローチって、食事に誘われたり、花束をもらったりした、ぐらい、で……」

「意識してない女性に花束なんか贈りませんよ、普通は」

「そ、そうなの……?」


 うむむ。かなりの鈍チンだったらしい。これは余計なことをしたんだろうか。変に意識してしまったようだけど。こういう時に限って専門家の花恋姉さんが現れない。使えねえ。

 こりゃ普通にランツ君が告白すればうまくいったのではなかろうか。

 まあいい。結果オーライとしとこう。このあと二人がどうなるかはわからないが。


「ミカさん、三番テーブルの注文です」

「ふえっ!? ああ、はい! わっ、わかったわ!」


 ウェイトレスさんから注文表をもらったミカさんが、そそくさと厨房へと消えていく。耳まで真っ赤ですけど。

 こういうのって自分の気持ちに気付いたらあっという間なのかもしれないな。僕もそうだったし。


「帰ろっか、琥珀」

『はい』


 みんなが帰ってくるまでまだ日があるなあ。いつの間にか彼女たちがいる生活が普通になってた。やはり少し寂しい。

 ま、結婚したらずっと一緒なんだから、今のうちにこんな気持ちを味わうのもいいかもしれない。

 僕はぶらぶらと歩きながら、そんなことを思った。









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