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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第30章 世界の管理者、東へ西へ。
442/637

#442 悪霊消滅、そして因果応報。

■アニメ放映日に合わせたので遅れました。

そのぶん、いつもよりちょい長めになっております。今回、ちょっとある意味、残酷……というかヒドいシーンがあります。ご注意を。





 『機甲竜』は五千年もの昔、魔法工芸師マイスターデボラ・エルクス博士が生み出した戦闘用アーティファクトである。

 戦闘力の高い竜をベースとし、その意思を剥奪、洗脳して強化に強化を重ねた生体兵器であった。対フレイズ用というだけあって、フレイズの強固なボディを打ち砕くだけのパワーを備えている。

 カナザが呼び出したそれは、デボラ博士が作った『機甲竜』の一つである。そしてそのボディにカナザのしもべたるゼベータがいま乗り移った。


『どれ』


 横にあった城の壁へ向けて、機甲竜ゼベータが左の前足を伸ばすと、爆発音とともに左手が飛び出し、城の壁を粉々に砕いた。


「おおっ!」


 カナザが歓喜の声を上げる中、飛んでいった左手が繋がれたワイヤーロープによって一瞬で引き戻された。


『使用するのに問題はなさそうですね。では』


 ゼベータは目の前にいる九人の中から最初のダーゲットを決めた。こういった場合、まずは数を減らす。一番弱そうで、かつ、そいつを消した場合、残りの奴らに動揺を生み出すことができると思われる相手へ向けて、右手の射出する爪『ストライククロー』を撃ち出した。

 飛び出した爪が棒立ちになっていたスゥへと向かう。

 鋭い爪がスゥの胸を貫こうとしたその瞬間、なんでもないことのように、彼女はひょいと身体を横に捻ってその爪を躱した。


『なにっ!?』


 女子供が躱せるはずもない攻撃をさらりと避けられて、ゼベータから驚きの声が上がる。


「遅いのう。諸刃ねえさまの剣に比べたらハエが止まりそうじゃ」


 比較対象が間違っている、と、他の八人全員が思ったが、敢えて口にはしなかった。事実、残りの八人も繰り出された爪の攻撃が見えていたし、確かに遅いとも思ったからだ。


『くっ……では、これはどうですか!」


 両肩の部分から三日月のような飛行体が連続で撃ち出される。ミスリルでできた手裏剣のようなカッターは高速で回転しながら不規則な動きを見せて、少女たちへと襲いかかった。

 しかしみんなより前面に出た八重とヒルダがその三日月カッターを全て叩き落とす。斬り裂かなかったのは、真っ二つにするとその破片が飛んで面倒になるからだ。


「飛び道具が多いオモチャでござるな」

「持って帰れば博士あたりが喜びそうですね」


 ヒルダがクスッと笑いながら八重に答えるが、実をいうとバビロン博士は五千年前にこの『機甲竜』を見ている。その上で『駄作』と散々こき下ろし、エルクス博士にキレられているので、喜ぶことはまずない。

 バビロン博士が『機甲竜』を駄作と評した理由の一つが、量産性の低さである。素体を竜としているので、どうしても数を揃えることができない。ついでに言えば、間違いなく竜族を敵に回す。人族に害を与えたはぐれの竜ならいざ知らず、それ以外の竜を捕獲して改造などしたら、竜族全てを敵に回すようなものだ。フレイズに滅ぼされる前に竜たちに襲われて国が滅ぶ。事実、バビロン博士が危惧した通り、竜たちの怒りを買って『機甲竜』計画は頓挫した。

 彼女たちの前にいるのはその『機甲竜』の生き残りである。


「【水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム】」


 機甲竜と一体化したゼベータの周囲に無数のシャボン玉が浮かび上がる。リンゼの放った浮遊するシャボン玉は、まるで機雷のようにゼベータが接触するたびに爆発を繰り返した。


『ぐぐっ! やりますね……!』


 ゼベータは周囲のシャボン玉に向けて、後頭部から尻尾の先まで並ぶ刃物のような棘を撃ち出した。棘とともにシャボン玉が爆発して消える。

 そしてそのタイミングで体を一回転し、長い尻尾を振り回して横薙ぎにユミナたちを撃ち付けようとする。金属の鎧で覆われた太い尻尾の一撃を喰らえば、少女の一人や二人、確実に即死するだろう。

 しかし、そのゼベータの企てはあっさりと瓦解する。

 両腕にガントレットを装着した少女が、尻尾の一撃を受け止めていたのだ。


『な、なにっ!?』

「最近気が付いたんだけど、どうもあたしの【眷属特性】って、『打たれ強さ』みたいなのよね……。なんともないわ」


 エルゼが丸太よりも太い尻尾を押さえながら一人つぶやく。神の眷属に与えられる【眷属特性】。今のところ覚醒しつつあるのはユミナの『未来視』、桜の『超聴覚』、ルーの『絶対味覚』である。

 エルゼの場合は正確に言うと『打たれ強さ』ではなく、全身に神気混じりの闘気を纏う【眷属特性】であるが、これは冬夜たち神々の使う『神威解放しんいかいほう』の簡易版のようなものであった。『闘神纏衣とうしんてんい』とでも呼ぼうか。


「ははあ。エルゼ殿らしいといえばらしいでござるな」

「なんか引っかかる言い方ね……。【ブースト】と似たようなものだから、使いやすいのは確かだけど、ね!」

『ぐおっ!?』


 尻尾の先を抱えたままそれをひねり、バキリ、と容易く折るエルゼ。そのまま先端が折れ曲がった尻尾の部分を蹴り飛ばした。バランスを崩したゼベータがよろける。


「なんだあの女どもは! くそっ、どうなっている!? なんとかしろ! ゼベータ!」


 ゼベータの不甲斐なさに怒鳴り散らすカナザ。

 しかしその命にゼベータが従うよりも早く、ヒルダが一足飛びで懐へと飛び込み、手にしていた剣を一閃させた。


「レスティア流剣術、三式・斬鉄」

『なっ……!』

 

 『機甲竜』の首がヒルダの剣にズパンと一瞬で刎ねられた。鎧で覆われた大きな首が、中庭にゴロゴロと転がる。

 同時に首を失った本体の方も、操り人形の糸が切れたかのように地面に力なく倒れた。


「おお。これでヒルダも竜殺し(ドラゴンスレイヤー)かの」

「これをドラゴンと呼ぶのはいささか竜族に失礼」

 

 スゥの漏らした言葉に桜がマイペースに返す。確かに斬り落とされた首から血が一滴も出ない存在を、最強種の竜とは認めたくないところだ。


『むう……!』


 倒れた竜の体から澱んだモヤのようなものが立ち昇る。機能しなくなった機甲竜の肉体を捨てたゼベータが、カナザの下へと飛んでいった。


「貴様! なんだあの体たらくは! 小娘ごときにやられおって! 役立たずが!」

『…………3番を』

「なんだと!?」

『「エルクスの遺産」から3番を。早くして下さい』

「さ、3番?」


 ゼベータの抑揚のない声に慌てながらも、カナザは小さな箱から『3』と記された球体を地面に叩きつけて砕いた。

 砕けた破片が消えると同時に、黒騎士たちと同じような鎧が現れる。しかしその鎧は黒ではなく、まるで水晶のように透き通った鎧であった。


「む?」

「あれって……」


 八重たちが動きを止める。全員がその鎧、正確に言えばその素材に心当たりがあったからだ。

 水晶の鎧は宙を舞いながら、長袍ちょうほうを脱ぎ捨てたカナザの身体に次々と装着されていく。

 手甲から下腕、肘、上腕、肩、と両腕に装備され、続いて靴、脛当て、膝当て、腿当て、と両足が覆われていった。そして腰、腹、胸、首当て、ときて、最後に兜が装着された時、そこには全身に水晶の鎧をまとったカナザが立っていた。


「お、おお……! これは……!」

水晶の悪魔(フレイズ)より造られし、最強の鎧でございます。いかなる刃も通さず、いかなる魔法も効かぬ、究極の鎧。カナザ様の鎧にございます」


 全身に水晶鎧を装着したカナザの姿は、甲冑を着た騎士というよりも、ちょっとしたパワードスーツを身にまとった兵士のようであった。

 見た目は重装歩兵のように全身を固めてはいるが、軽量化の魔法が施されているのかカナザはそれほど重さを感じなかった。

 腰には剣、背中には盾が装備され、カナザが手に取るとそちらもまるで木剣のように軽い。


「おおっ! 美しい……!」


 カナザが城壁に向けて剣をひと振りふた振りすると、まるで紙でも裂いたかのように壁が斬り刻まれた。


「ふ……フハハハハ! 素晴らしい! これさえあれば俺様を止められる者などこの世にいない!」


 カナザはもともとこのノキア王国に仕える一兵士に過ぎなかった。それがわずか数年で軍務卿にまで登りつめたのには当然ながら理由がある。

 それが『エルクスの遺産』だ。カナザがノキア北方に位置する遺跡でそれを発見したのは、まったくの偶然でしかなかった。

 その『エルクスの遺産』に納められていた箱から収納球の1番を誤って落とし、砕いてしまったことからカナザの運命は大きく変わった。

 封印が解けた収納球から現れたのは、ゼベータと名乗る一人の悪霊スペクターであった。

 『エルクスの遺産』の使い方を教える従者として、五千年もの時を封印されていた召喚獣である。

 それからカナザはゼベータに憑依術を学び、自分の都合のいいように城内の人間を次々と操っていった。利用できる者はとことん利用し、邪魔な存在は抹消する。

 いつしか彼は、自分こそが選ばれた人間だと思うようになった。力の持たぬ愚民どもを導く存在だと。

 いずれこの国を支配し、外の世界で踏ん反り返っている隣国を攻め滅ぼす。そして憑依師でありながら、偉大なる世界の王となるのが自分なのだという妄執に取り憑かれた。

 その王がこのようなところでつまずくわけにはいかぬ。この小娘どもを蹴散らして、世界の王に逆らった報いを受けさせねば。

 カナザは剣と盾を構え、少女たちに向き直った。


「もう一度だけ聞いてやろう。パフィアはどこだ? 正直に答え、命乞いをするなら奴隷として生かしてやるぞ?」

「その前にあなた一度自分の姿を鏡で見た方がいいわよ? スケスケの鎧を着て、けっこう間抜けだから」


 リーンが辛辣な言葉を吐く。あの冬夜でさえ、ブリュンヒルド騎士団の鎧を晶材ではなくミスリルで造ることにしたくらいだ。全身透明な鎧というものは、なんとも間抜けな姿に見える。完全に透明で鎧が見えないか、半透明であればそれほどではないのかもしれないが。


「それともう一つ。あなたの目は節穴のようね」

「いや、カーッとなると周りが見えなくなるタイプなのでは?」

「為政者には向かないタイプですわね」

「調子乗りのようでござるし」

「つまり馬鹿」

「桜さん、それは……」


 少女たちが口々に勝手なことを述べるたびに、カナザの額に青筋が増えていく。


「貴様ら! 覚悟はできているんだろうなァァァ!」


 カナザが剣を振りかぶり、少女たちへとまっすぐに突撃していく。


「本当に節穴のようでござるな」

「ええ。私たちの武器を見て察することができなかったのでしょうか」


 八重とヒルダが晶材の『透き通った刃』を持ち直す。これらが同じ素材であることは一目瞭然だろうに。よほど錯乱しているとみえる。

 突っ込んでくるカナザの剣を、ヒルダの剣が受け止める。否、受け止められなかった。ヒルダの剣により、カナザの剣が真っ二つに斬り裂かれたからである。


「なっ!?」


 容易く斬り裂かれた剣を信じられない目で見ていたカナザの前に、愛刀『透花とうか』を手にした八重が切迫する。


九重ここのえ真鳴しんめい流奥義、飛燕烈破ひえんれっぱ


 幾筋もの閃光がカナザの眼前を走る。次の瞬間、水晶の鎧がバラバラになり、鈍い音を立てて地面へと落ちていった。八重の刀がカナザのまとう鎧のみを斬り裂いたのである。

 同じフレイズの晶材製とはいえ、注いだ魔力の量がカナザと八重たちの武器では根本的に違う。強度も斬れ味も段違いなのだ。


「そ、んな、馬鹿な……!」


 フレイズの鎧を失ったカナザが、手にしていた剣の柄を力なく落とす。

 そこへ飛び込んできたエルゼが、前屈みになっていたカナザのボディを下から右拳で打ち上げた。


「吹っ飛べッ!」

「ごぶえぇッ!?」


 内臓が破裂しない程度に力をセーブしたが、エルゼの一撃を食らったカナザは空高く舞い上がり、十メートル以上の高さまで飛ばされた。

 空中で腹部を襲う激痛に顔を歪めるカナザ。その視界の端、国王の寝室がある三階のバルコニーに誰かが立っているのが見えた。


「お前に操られてきた人たちの無念……思い知れ!」

「パ、フィア……ッ……!」

「【来たれ閃嵐、電撃の暴風、プラズマストーム】!」


 無防備のカナザへ向けて、パフィア王女の合成魔法が放たれる。カナザは視界に映った地上にいる、自分の唯一の味方へと声を張り上げた。


「ゼ、ゼベータ! は、早く俺様を助けろッ!」

『申し訳ありませんが、お断り申し上げます』

「なっ……!?」


 自分の絶対なるしもべからの拒絶に、耳を疑うカナザ。次の瞬間、弾ける雷光と恐ろしい暴風が彼に襲いかかった。


「ふぐわあああぁぁぁぁぁぁァァァッ!」


 凄まじいほどの錐揉み状態で、反対側の壁に激突するカナザ。

 そのままこの国の軍務卿であった男は、ボロ雑巾のように地面へと落ちる。生きてはいるが、すでに気を失っていた。

 地面に落ちる際に砕けたのか、懐から壊れた箱が飛び出し、中身の球体が飛び出していた。


「バッチリです。パフィアさん、時江様」


 ユミナがスマホの通話を切る。ユミナの眼には、数秒後に空へと打ち上げられるカナザの未来が視えていた。【眷属特性】『未来視』の能力である。

 そこで結界内の時江に電話をかけて、パフィアに待機するよう頼んでいたのだ。トドメはやはりこの国を想う者が相応しい。


「さて、こやつの仕置きは後にするとして……」


 ブスブスと焼け焦げた煙を上げるカナザを一瞥し、八重の刀がゼベータへと向けられる。


「主を見捨てるのはちと感心できぬな」

『勘違いしないでいただきたい。私の真の主はそこの男ではございません』

「なに?」


 召喚獣は基本的には呼び出した召喚者を主とする。契約に従い、その契約を破らない限りは従順に従うはずだ。

 カナザもこのゼベータというスペクターと契約し、従えていたはず。しかし、それを否定するゼベータの言動にユミナたちは首をかしげた。


『我が真なる主はデボラ・エルクスただ一人。デボラの命により、私はそやつに従っていたまで……』

「デボラ・エルクス? どこかで聞いたような……」

「確か『支配の響針』とかいう魔道具アーティファクトを造った魔法工芸師マイスターじゃなかったかしら。……ちょっと待って、五千年前の人よ?」


 以前シェスカなどに聞いていた名を思い出し、リーンが驚きの表情を見せる。


『私は「エルクスの遺産」を継ぐ者に仕えるよう命じられていた……が、しかしもう幕引きのようです……』


 ふよふよと浮かぶスペクターに感情は見られないが、少女たちにはどこか疲れているようにも思えた。


『やつが身につけている金の腕輪を外すといいでしょう。さすれば取り憑かれた者たちは解放される……』


 倒れるカナザにポーラがすたたたた、と駆けていき、さっと腕を取ると、そこにあった金の腕輪をえいやとばかりに引き抜いた。瞬間、倒れていた黒騎士たちの口から濁ったガス状のものが噴出し、唸り声を上げて消滅していく。

 ひいいいい、慄く仕草をしながらポーラがリーンの下へと舞い戻り、その足にしがみついた。

 リーンがポーラから金の腕輪を取り上げ、目を細める。魔道具アーティファクトだ。リーンは直感的にそれがどういった魔道具アーティファクトかを見抜くことができた。

 妖精族にはそういった眼を持つ者が多いが、リーンはその感覚がだんだんと鋭くなっていることを自覚していた。それが彼女の【眷属特性】であることも。『鑑定眼』の能力とでも言おうか。


「なるほど。これが魔力の源。ここから召喚獣の魔力を補っていたわけね。それを取り上げられたから、召喚獣を保持できなくなった」

『いかにも。その男には憑依術師としての才能が多少なりともあった。それを活かすための魔道具アーティファクトです』


 カナザの契約していたスペクターたちは、魔力が供給されなくなったことで、全て送還された。

 ゼベータを保持する魔力は『エルクスの遺産』が収められている箱から供給されているので、関係はない。しかしその箱も倒れたカナザの懐で砕けてしまい、その力を失った。ゼベータが送還されるのも時間の問題であった。

 やっと解放される。ゼベータはあの箱にランプの精のごとく縛られて、五千年を過ごした。目覚めてみれば子供のような男にこき使われ、下らぬ手伝いを色々とさせられた。自分を呼び出し箱に縛り付けたたデボラに恨み言の一つも言ってやりたいが、それも叶わぬ。


『カナザの屋敷の地下に捕らえている女たちがいます。解放されるがよい。では、これにて……』


 存在を保てなくなったゼベータが夜の風に雲散霧消していく。五千年間縛られていた呪いからの解放である。

 夜風がやむと、そこにはもうゼベータの存在はもうすでになかった。


「……言うだけ言って勝手に消えました、ね」

「なんかスッキリしないのう……」

「ま、一番の害悪は取り除けたんだからいいんじゃない?」


 エルゼが倒れているカナザに目をやる。もはやこの男に力はない。操っていた貴族たちも元に戻り、国王もいずれ目を覚ますだろう。極刑は免れないが、その前にこの男が女たちにしてきた数々の罪を償ってもらう。

 不幸にされた女たちのことを思うと、それでも手ぬるいと言われるかもしれないが。

 


          ◇ ◇ ◇



 カナザが目を覚ますと薄暗い闇の中だった。あたりを見回すとそこが地下牢の寝台であることがわかる。首の玉飾りはなく、その地位を剥奪され、投獄されたことは明白であった。


「ゼベータ! 出てこい、ゼベータ!」


 カナザの声に答えるものはいない。ちっ、と舌打ちし、召喚獣を呼ぼうとするが、魔法が使えないことに気がつく。囚人を閉じ込めておく地下牢だ。当然ながら魔法対策はされている。


「くそっ! あのブリュンヒルドのメスどもめ! 覚えていろよ! 今度会ったら嬲り殺しに……!」


 自分の置かれている立場も判断できず、一人毒づくカナザ。怒りのために頭がまともに働いていないのかもしれない。それは元からか。

 そのカナザの耳にふと、奇妙な音が聞こえてきた。びくっ、と身体を強張らせる。

 ぶふーっ、ぶふーっ、という動物の呼吸音であった。

 何かいる。やがてカナザは地下牢の隅に、大きな生き物がいることに気がついた。


「う、馬……?」


 薄明かりの中に見えるそのシルエットは確かに馬に見える。しかし、馬に額から伸びる角はない。違う。馬ではない。短い角だが一角獣ユニコーンだ。


「なぜユニコーンが……!?」


 カナザは恐怖に襲われて、思わず立ち上がる。ユニコーンといえば処女には従順でおとなしいが、男に対しては獰猛な攻撃性を見せる魔獣だからだ。

 しかしユニコーンは暴れることなく、ジッとカナザを見ている。なぜだかカナザはその視線に不快さを覚えた。

 ゆっくりとユニコーンがカナザの方へと歩み寄ってくる。逃げようにも地下牢ではどうしようもなく、カナザは壁際へと追い詰められた。


「ひっ!?」


 ダン! と前足の蹄がカナザの顔の横に打ち付けられた。壁ドンである。ユニコーンの壁ドンなど滅多に見られるものではない。普通はしない。


『もうちっと筋肉が付いている方が好みなんだけどなァ……。ま、我慢するか。これはこれでアリだし……』

「しゃべっ……!」


 驚くカナザをよそに、ユニコーンは彼の肩口を咥え、一気に服を引きちぎった。カナザの上半身が露わになる。


『オホッ、意外といい身体してるじゃないの。着痩せするタイプ? イイネイイネ、テンション上がってきた!』

「ひいいいい!?」


 ペロリと胸を舐められる。カナザは目の前のユニコーンがどこかおかしいことに気付いた。これはなんだ? これはなんだ!?

 あっという間に下着ごとズボンも引きちぎられ、初めてカナザは身の危険を感じた。


「よ、寄るな! やめろ! やめてくれ!」

『ダイジョブ、ダイジョブ。痛くないから。すぐ終わるから』

「なにがだ!?」


 全裸で逃げ回るカナザを追い詰めていくユニコーン。だんだんと呼吸が荒くなってきているのがわかる。間違いなくこの馬は興奮してきている。


「ゼベータ!? ゼベータぁ! 出て来てくれ、ゼベータァァァァ!」

『誰そいつ? ちょっとジェラっちゃうなァ。……忘れさせてやるヨ』

「やめっ……!」


 その日、ノキアの地下牢から一日中聞こえてきた悲鳴は全て黙殺された……。







■本日7/11(火)、AT-Xで20:30より『異世界はスマートフォンとともに。』のアニメがとうとうスタートです!

明日7/12(水)の25:00にはBS11で、7/13(木)の22:00にはTOKYO MXでの放送になります。


リアルタイムで自分はどれも見れませんが! 住んでるところで映らないんで……。


7/14(金)の0:00からいろんなところで配信が始まるのでそれで見ようかと思ってます……。詳しくは番組公式ホームページで。




■しかしアニメ放映開始の記念すべき回に、こんなユニコーンの話でいいのかとちょっと疑問に感じている……。

やはり分割すればよかったか……?


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新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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