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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第30章 世界の管理者、東へ西へ。
436/637

#436 王女の実力、そして第二の大使。





「あてて……」


 雀卓に突っ伏すような変な形で寝てしまったため、身体の節々が痛い。【リフレッシュ】と【リカバリー】で身体を回復させる。


「それで、昨日はどうだった?」


 早朝の廊下を歩く僕の肩に紅玉がバサバサと飛んで来て止まる。紅玉には(正確には紅玉配下のフクロウにだが)あのパフィア王女一行を夜通し見張ってもらっていたのだ。


『特に変な動きはありませんでした。部屋からは一歩も外へ出ていませんし、魔法などを使った痕跡もありません』

「気にし過ぎだったのかね」


 紅玉の報告を受けて、僕はなんとなく肩透かしを食らったような気がしたが、よく考えてみればもとから一国の王女が夜這いなんてありえない話だ。


「今日はみんなと顔合わせか……。変なことにならなきゃいいけど」


 僕は大きなため息をつきながら、朝の廊下を歩いていった。





「変なことになった……」


 僕は騎士団の訓練場に立つ二人の少女を眺めながら誰に言うともなくつぶやいた。

 どちらも木剣と盾を装備している。片方は当然というか、パフィア王女。そしてもう片方は僕の婚約者の一人であるヒルダだ。

 見学者は婚約者のみんなにノキアの大使であるヤンチェ氏と、王女の侍女であるというリシア女史。それに野次馬の諸刃姉さんと狩奈姉さんだ。

 訓練場の中央でヒルダとパフィア王女が向かい合う。


「本当によろしいのですね?」

「ええ。構いませんわ。どうぞ遠慮なく、本気でいらして下さい。私も本気でいきますから」


 ヒルダの声に不敵な笑みを浮かべながらパフィア王女が応える。かなりの自信があるようだ。

 なんでこんなことになったかというと、パフィア王女がユミナたちに、まずは自分の実力を知ってもらいたいと申し出たからだ。

 すごい自信だが……折れるぞ、それ。

 パフィア王女と相対するヒルダに、目配せで『やり過ぎるなよ』と送る。向こうも小さく頷き、『わかりました』と返してきた……気がする。


「では、構えて。始め!」


 審判役を買って出た諸刃姉さんが頭上に挙げた手を振り下ろす。

 刹那、飛び込んだヒルダの剣が下から掬い上げるようにパフィア王女の剣を弾き飛ばした。


「な!?」


 驚くパフィア王女の首筋にピタリとヒルダの木剣が当てられる。

 ちょっ、僕のアイコンタクトが全然伝わってないわ! 『全力で行け』とか『手を抜くな』とかで伝わってるぞ、これ!


「勝者、ヒルダ」


 短く諸刃姉さんが勝敗を決する。遅れてカララン、と飛ばされた木剣が落ちてきた。どれだけ飛ばされたのか。

 隣をそっと盗み見ると、ヤンチェ大使とリシア女史が絶句している。まあ、そうなるわな。

 時間にしたら一秒あるかないかだもん。何が起こったかわからなかったんじゃないかな。彼らがあの動きを目で追えたとは思えないし。


「ち、ちょっとお待ち下さい! 今のは手が滑ってしまって……! も、もう一度お願いしたいのですが!」


 焦ったようにパフィア王女が食い下がる。


「だ、そうだけど。どうするヒルダ?」

「私はかまいませんが」


 ヒルダが試合開始地点に戻りながら答える。諸刃姉さんが再び手を挙げると、対面した二人は剣と盾を構え直した。パフィア王女の方には先ほどあった余裕の笑みはなく、緊張し、強張った表情が浮かんでいる。


「始め!」


 諸刃姉さんが腕を振り下ろすと同時に、パフィア王女は盾をしっかりと前に構えた。だが、先ほどのようにヒルダは飛び込んでは来ない。

 お互い相手を警戒するように、じりじりと時計回りに足を運んでいく。ヒルダは自然体の構えで剣先を相手に向けつつ、次第に距離を詰めていった。

 先ほどは攻めたから今回は守りに徹するのかな? ヒルダの表情は変わらないが、パフィア王女の表情には明らかな焦りの色が窺える。こりゃあそのうち……あ。


「やあっ!」


 シビレを切らしたのか、パフィア王女が剣を突き出す。それを難なくヒルダは盾で受け流した。


「くっ!」


 二撃三撃と剣を繰り出すパフィア王女。ふうん、言うだけあってそこそこ強いと思うが、ヒルダとやりあうほどのレベルじゃないな。僕と出会ったころの八重あたりなら負けてたかもしれないが。

 打ち込んでくる剣撃を盾で受け止め、剣で流し、最小限の動きで相手を翻弄するヒルダ。激しく動き回っているのはパフィア王女だけで、当然ながらそれはスタミナ切れという結果をもたらす。

 そのタイミングを見計って、ヒルダが再び相手の剣を弾き飛ばした。

 そして先ほどと同じように、切っ先を喉元に突きつける。


「……続けますか?」

「……いえ、私の負けですわ」


 静かに告げたヒルダの言葉に、悔しそうにしながらも自分の負けを認めるパフィア王女。よく健闘したと言ってやりたいが、嫌味ととられるかもしれないので、黙っておこう。


「ヒルダ様はお強いのですね。これほどの剣の使い手に会ったのは初めてです」

「いえ、私など諸刃お義姉様に比べれば、獅子と鼠のようなものです。上には上がいます」


 ヒルダの言葉に驚いた彼女の視線が諸刃姉さんに移る。


「鼠なんて謙遜するもんじゃないな、ヒルダ。間違いなく君は子猫くらいには強くなっているぞ」

「子猫ですか」


 ヒルダが苦笑いを浮かべる。いや、剣の神に比べて子猫なら大したもんだと思うがな。どうも姉さんたちと比べると基準ってものがおかしくなる。


「で、どうする? 剣の次は魔法ってことだったけど……」

「ええ。やりますわ。剣では遅れをとりましたが、魔法ではそうはいきません。私の実力をご覧にいれましょう」

「いい根性をしているね」


 諸刃姉さんがパフィア王女を褒める。切り替えの早い子だ。それとも魔法によほどの自信があるのか。

 ヒルダがパフィア王女の剣と盾を回収してこちらへ戻ってくる。


「おつかれさん。どうだった?」

「見たことのない流派の剣で面白かったです。確かに強いことは強いのでしょうが、いま一歩といったところでしょうか」


 魔法のターゲットとなる台車のついた大きな木の人形を、エルゼと八重が訓練場の方へと持っていく。

 あれは木製ではあるが、ミスミド王国の頑丈で燃えにくい樹木を使っている。どんな魔法を使うつもりなのかはわからないが、そう簡単に壊れたりはしないだろう。や、【アクアカッター】のような切断系の魔法だと、バラバラになってしまうかもしれないが。


「じゃあ始めて。あれは壊しても構わないから」

「はい」


 諸刃姉さんがパフィア王女から離れた。人形へ向けて手をかざしていたパフィア王女の魔力が、渦を巻くように両手のひらへと集中していく。

 魔力の大きさも質もなかなかのもんだ。ゲームキャラでいったら魔法剣士のタイプなんだろうな。

 パフィア王女が右手からバチバチとした光球を、左手から渦巻く風を生み出した。えっ!?

 それを震える手でゆっくりと中央へと重ねて弾くように放つ。


「【来たれ閃嵐、電撃の暴風、プラズマストーム】!」


 木人形を中心として竜巻が巻き起こり、無数の電撃が木人形を貫く。

 こりゃ驚いた。威力はそれほどでもないが、ありゃ合成魔法じゃないか。古代魔法文明の時代には普通に使われていたが、やがて多くの人に扱えるものへと魔法がグレードダウンしていった結果、廃れてしまった古代魔法だ。

 ボロボロになった木人形がぐらりと倒れる。地面に倒れた衝撃で人形はバラバラになった。


「どうです!」


 ドヤ顔で振り向くパフィア王女だったが、僕らの反応がイマイチなのを見て眉をしかめる。いや、驚いてはいるんだけどね。どうしても「ほう」とか「へえ」とかの反応になってしまう。


「【プラズマストーム】。光と風の合成魔法ね。いささか風の方が強すぎるような気はするけど」

「そうです、ね。それによって光属性の威力が殺されてます。そこを改善するだけでも倍の破壊力は生み出せると思います、けど」


 リーンとリンゼが今の魔法について指摘すると、逆にパフィア王女の方が驚いていた。あっさり見破られたことを不思議がっているのだろう。

 リーンとリンゼは無言でじゃんけんを始め、負けたリンゼが小さなため息をついて、訓練場へと向かう。

 後方へパフィア王女が下がると、八重とエルゼが二体目の木人形を運んできた。

 リンゼがパフィア王女と同じように、片手ずつ氷の粒と光球を生み出して素早く重ねる。流れるようなその動きは、さっき見たパフィア王女のぎこちない動きとは比べようもない。


「【来たれ氷光、七彩のきらめき、プリズマレインボウ】」


 リンゼから七色の輝きを放つレーザーのようなものが撃ち出された。

 一瞬にして木人形の上半身が消滅する。勢い余ったレーザーは訓練場にかけられている防護障壁に当たって拡散消滅した。飛び散った氷の粒がキラキラと光に反射して虹を作る。


「な!?」

「おお、綺麗じゃのう!」


 驚くパフィア王女と虹を見てはしゃぐスゥ。対照的な二人を見て、ちょっと笑いそうになった。


「合成魔法はどこで覚えたんです、か?」

「え? あ、ノキアにあるダンジョンで見つかった古代魔法の書から……」

「なるほど……。ちょっとノキアに興味が湧きました」


 パフィア王女の言葉にリンゼが小さく頷く。古代魔法文明の時代、名のある魔法使いなどはその研究記録や成果、あるいは作品などを盗難から防ぐべく、自分の城をよく造ったりしたそうだ。城や塔などもあったが、その中で一番簡単だったのがダンジョンだったとか。穴掘って土魔法で固めりゃいいだけだからな。

 バビロン博士の場合、空に浮かぶバビロンの島を造ってしまったわけだが、そういったのと同じダンジョンになら魔法書の一つや二つあってもおかしくはない。

 僕らのところに戻ってきたパフィア王女にユミナが話しかける。


「あなたの実力はよくわかりました。もう少し尋ねたいことがあるのでテラスの方でお茶でもどうでしょうか?」


 ユミナのお誘いに、返事をするのを気力も失ったのか、コクリと小さく頷くパフィア王女。

 ぞろぞろと歩き出したみんなについて行こうとすると、リーンに止められた。


「ここからは女の子同士で話したいからダーリンは遠慮して。リシア女史は構わないけど、ヤンチェ大使も遠慮していただけますか?」


 少し不満そうな表情を見せた大使だったが、リシア女史がなんとかなだめて女性陣は僕らのもとから去っていった。

 城へ戻ってヤンチェ大使と別れると、柱の陰から音も無く椿さんが現れる。


「なにかわかった?」

「はい。ノキアに飛んだ配下の者たちからの情報ですが、現在ノキア国王であるルウム・ラド・ノキアが死の床にあるそうです」

「死の床って……病気?」

「そこまではわかりませんでした。ただ、危篤状態だと。国王には長女・レフィア、次女・パフィアの二人の子がおり、国王が身罷られれば長女のレフィアが継ぐことになるだろうとの噂です」


 んー、男子がいないんじゃ順当といえば順当なのか。


「いえ、それもありますが我々の調べによりますと、ノキアにおいて第二王女パフィア姫は三ヶ月前に亡くなっておられます」

「えっ!?」


 亡くなっている? 死んでるってこと? じゃあ、あのパフィア王女は誰なんだ!?


「……偽物ってことかな?」

「鎖国していることを逆手に取り、王女に成りすまして陛下に取り入ろうとしたのやもしれませんが……。それにしては杜撰な気もします。三ヶ月前、パフィア王女は遠乗りに出かけた際に馬ごと崖下の川に落ち、数日後、遺体として発見されたらしいです」


 遺体が上がっているならやっぱり偽物なのかな……。王女が亡くなったってことを知らずに名前を騙ったのか? 

 ちぐはぐでよくわからんな。

 もし僕があの王女を十人目の妻として迎えたとして。当然、挨拶にノキアへと向かうだろ? すると、誰だそいつは、ということになってあっさり正体がバレる。なんの意味がある?

 それとも挨拶はまだいい、と長引かせ、その間に僕と既成事実を作る……とか? 怖っ。


「まだ第一報ですので、このあとも……」

「陛下!」


 椿さんの言葉を遮るように、騎士団長のレインさんが廊下をウサ耳を揺らしながら駆けてくる。今や団長様なんだから、もう少し落ち着きをだね……。

 というか、電話しなさいよ。そんなに急ぎの用事なら。


「急ぎ、謁見の間へ。ノキア王国の使者が来ております!」

「え? ヤンチェ大使が? さっき別れたばかりなんだけど。でもなんで謁見の間?」

「違います違います。ヤンチェ大使ではなく、別の大使がやって来たんです! ノキアから!」


 ……え? どういうこと?


「第二王女パフィア姫の名を騙る不届き者を、すぐさま引き渡してもらいたい、と!」


 あれっ、やっぱり偽者? わけがわからないが、とりあえず僕らは謁見の間へと向かった。











■来週火曜、5/23の18:30よりアニメ『異世界はスマートフォンとともに。』の制作発表会があります。「EXIT TUNES」のLINEアカウントより放送予定だそうです。よろしくお願いします。


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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