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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第29章 邪神降臨。
414/637

#414 偽騎士、そして遠征。





 その日、何回か『聖樹』へ向けて変異種たちの攻撃が繰り返されたようだ。

 すでにフレームギアを投入しているため、下級種数匹ぐらいでは鎧袖一触がいしゅういっしょくといった状態らしいが。

 状況はエストさんから逐一電話連絡してもらっている。神魔毒のせいで検索魔法がきかない彼の地でも、スマホで電話をするぶんには問題ないからな。

 『聖樹』も一日ですくすくと育ち、もう少しで森の木々よりも大きくなりそうだという。

 そこまで育ってしまうともう隠しておくことはできない。どこからでも目立つようになってしまうし、変異種は攻撃はさらに増えることだろう。

 僕はノルンとノワールの黒の『王冠』コンビにオーバーギア『レオノワール』を、ロベール王子とブラウの青の『王冠』コンビに同じくオーバーギア『ディアブラウ』を付けて『聖樹』の森に送り出した。

 一度向こうに行ったから【ゲート】が使えるのは楽でいい。

 今現在、向こうでは三体の『王冠』が『聖樹』を護っていることになる。生半可な相手ではどうにかできまい。

 『聖樹』を狙った攻撃も、ロベールのディアブラウなら空間歪曲の力を使った障壁で防御できるしな。


「それで突入はいつ頃になるでござるか?」

「そうだなぁ。感覚としてはあと二日……。それだけあれば、もう『神魔毒』に影響されることも無くなると思う」

「それまでは我らは待機ですか……。歯痒いですね」


 訓練の汗をタオルで拭いながらヒルダが呟く。そうは言ってもな。僕だけじゃなく、ヒルダや八重たちにも危険が及ぶわけだし。つい昨日味わったあの状態で戦うなんてのは無理だ。

 僕ほどではないにしろ、婚約者フィアンセのみんなも神々の愛をいろんな形で受けている。間違いなく『神魔毒』の強い影響を受けるだろう。

 どんな剣の達人だって、へべれけの泥酔状態では素人にも倒されるかもしれない。

 …………一人酔ってても倒されないかもしれない剣の達人が思い浮かんだけど、アレは無しだ。だいたいあの女神ひとこそ『神魔毒』の影響を受けまくりで死ぬかもしれないわけだし。例えが悪かった。

 アイゼンガルドで戦っているニアたちだって全く影響を受けていないとはいえない。いつもより若干は体調が悪いとかがあるかもしれない。多かれ少なかれ、僕との縁があるわけだから。本当に『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』を徹底して体現した毒だよ。

 『聖樹』が育てば育つほどその浄化の力は強くなる。やがてその力はアイゼンガルド全域へと及ぶだろう。その時がこちらが攻勢に入る時だ。

 決戦は近い。

 そんな気配を感じているとき、バビロン博士からスマホに連絡が入った。


「はい、もしもし」

『冬夜君、どうやら予想してた通りの状況になったようだよ。アイゼンガルドに新しい変異種が現れたようだ』


 新しい変異種? それってまさか……。





「これは……!」


 『研究所』のモニターに映るその姿を見て、僕は言葉を失う。予想はしていたけど、実際に目にしてみるとやはり衝撃はそれなりにあるな。

 モニターに映る光景はアイゼンガルドにいるニアたちのフレームギアによるカメラ映像だ。

 そこに映るオオサンショウウオのような数体の下級変異種に混じって立っている、アレが特殊な変異種か。

 ダークゴールドの輝きを放ち、二本の足と二本の腕、そして頭と、明らかに人型。しかし支配種ではない。その大きさはフレームギアと同じ……いや、姿さえも似通っていた。ご丁寧に剣と盾まで持っていやがる。


「フレームギア型の変異種……」

「前回の戦いで捕獲した重騎士シュバリエをモデルにしているんだろうね。まあ、かなりアレンジしてあるようだが」


 博士が口に咥えたアロマシガレットを上下させながら答える。

 確かに形態は重騎士と似ている。が、そのフォルムはどこか禍々しい。なんというかいびつなのだ。色ですぐわかるが、色がなくても重騎士と間違えることはあるまい。


「しかし妙だな。フレームギア型にするメリットはなんだ? どちらかというともっとこう、人間に近い……言ってみればサイクロプスやトロールのような巨人型の方がいいと思うんだが」


 確かに。フレームギアと同じサイズで似た形ならば、ゴーレムのようなものをモデルにすればいいはずだ。金属的な質感だからロボットチックにしました、ってわけじゃないだろうし。わざわざフレームギアを捕獲した意味もわからない。


「わざわざ機械のフォルムをとらなくても……む?」


 映像に映るエストさんの紅騎士レッドリンクスの剣がフレームギア型変異種の胸部を横薙ぎに斬り裂く。バラバラになった破片が地面へと降り注いだ。


「そうか……そういうことか」

「わからん。どういうことだ?」


 一人で頷いてないで僕にも教えろっての。


「大きいものより小さいものの方が壊しにくいってことさ」

「……わかるように説明」

「いいかい。変異種……フレイズもだが、下級種、中級種、上級種、それに支配種もか。全て弱点はその内部にある『核』だ。これは間違いないよね?」


 博士の説明に僕は頷く。何をいまさら。


「で、この『核』はそのボディの大きさに比例するように大きくなる。それも間違いないよね?」


 うん、まあそれも確かに。下級種は野球ボールからソフトボールくらい、中級種はバスケットボールからバランスボールくらいまで、上級種は直径二メートルから三メートルもの大きさになることもある。逆に支配種の『核』は大きめのサクランボくらいなのだ。


「そこで、あのフレームギアもどきだが。どれくらいの大きさの『核』だと思う?」

「え? アレは……たぶん中級種ぐらいじゃないかな。だから……これくらい?」


  僕はバスケットボールよりちょっと大きいぐらいを手で示した。博士はそれを見て横に首を振る。違うの?


「違うね。おそらくあのフレームギアもどきの『核』はこれくらいさ」


 博士が小さな親指と人差し指で二センチほどの大きさを示した。


「そんなに小さいのか⁉︎」

「見てごらん、ここを。紅騎士レッドリンクスの足元を。何が見える?」


 博士の示した画面をじっと見る。すると、紅騎士の足元に散らばっていた黄金のかけらが吸い付くように再生し、ひょこっと黄金の骸骨が立ち上がった。


「なっ⁉︎」

「うまくできている。つまりはこのフレームギアもどきと黄金骸骨は二つで一つ。『核』はパイロットたる黄金骸骨にあるんだろう。砕いたフレームギアもどきも再生しているね。再生能力自体は核の大きさに関係ないようだ。つまり、この黄金骸骨を破壊しない限り、このフレームギアもどきも破壊できないというわけだ」


 なるほど。しかしその黄金骸骨の『核』はビー玉くらいの大きさしかない。戦闘中、フレームギアで砕くのは至難の技だ。いや、踏み潰せはいいんだろうけど。

 僕はすぐさまエストさんへと連絡し、判明したことを伝える。

 それを受けたモニターの中の紅騎士が、自分の分身へと戻ろうとしている黄金骸骨を、容赦なく踏み潰した。

 と、同時に倒れていたフレームギアもどきがどろりと黒い煙を上げながら溶解し始める。博士の推測通りか。


「ふん、なかなかに趣味が悪い。フレームギアもどき……いちいち呼びにくいな、『偽騎士フェイクス』とでも呼称するか。この偽騎士フェイクスはあの黄金骸骨とペアでありながら意思を持たない。まさにフレームギアとパイロットの関係だね。もっともフレームギアはパイロットがやられても消滅したりはしないが」

「あの偽騎士を倒すにはコクピットを狙うしかないのか?」


 僕の【アポーツ】なら核を引き寄せられるかとも思うが、【アポーツ】は引き寄せる物を正確に認識する必要がある。見えていない核を抜き取るには『神眼』で見極めなけりゃならないしな……。


「ま、今の紅騎士がやったように、黄金骸骨を引きずり出して踏み潰す、ってのが一番楽なんじゃないかな。それか、コクピットもろとも消滅させる攻撃とかか」


 リーンのグリムゲルデならバルカン斉射とかで倒せそうだけど、エルゼが乗る格闘戦用のゲルヒルデや八重、ヒルダたちのシュヴェルトライテ、ジークルーネなどは剣がメインだから難しそうだ。

 倒したらコクピットを踏み潰す、ってのがやはり一番楽か。


「ここにきて面倒なヤツが出てきたな……」

「いや、そうでもない。見てごらん」


 博士が指差す先のモニターでは、紅猫あかねこ仕様の重騎士シュバリエ偽騎士フェイクスと剣と盾で打ち合っていた。これがなんだっていうんだ?


「気がつかないかい? この偽騎士は変態して攻撃してこない。普通の変異種なら腕の一本も刃腕化して伸ばしてきてもいいはずた」


 そういえば……。再生はするけど腕を伸ばしたり自由に変態したりはしないな。なぜだ?


「おそらくその手の能力は核の大きさに依存するものなんじゃないかな。あの黄金骸骨の小さな核に大きなボディ。変態させる力がないんだと思う」


 なるほど。小さな核では黄金骸骨本体の変態だけで精いっぱいってことか。となると偽騎士自体は戦いやすいとも言えるな。

 モニターの中で再び重騎士が偽騎士の胴を真っ二つに斬り裂いた。倒れ落ちた上半身の胸部を重騎士の足が二回、三回と踏み潰す。するとたちまち偽騎士がどろりと溶け、黒煙を上げながら消滅し始めた。


「うーん……。あんまりスマートな戦いではないなあ」

「戦いにスマートさを求めるのが無理ってもんさ」


 確かに。だけど倒れた敵に追い討ちをかけるような感じがなんともなあ……。

 そうこうしているうちに攻めてきた変異種たちを殲滅したらしい。重騎士たちが剣を鞘に収めた。

 すぐさま僕のスマホに連絡が入る。ニアからか。


「はい、もしもし?」

『おいコラ、飯はどうなってんだ? ここじゃロクな獲物も手に入らないし、あたしらを飢え死にさす気か!』

「あ、忘れてた」

『なにィ────ッ⁉︎』

「いや、用意するのをじゃなくて運ぶのを。すぐに届けるから待ってろ」


 いかんいかん、ついうっかり。

 腹が減っては戦はできぬ。特に遠方での戦いでは兵糧の有無によってその勝敗が決まることもあるのだ。まあ僕らの場合、距離は関係ないが。

 『研究所』の空いたスペース……空いたスペース……空いたスペースがない。床一面、紙やら工具やらパーツやらが転がっている。片付けろよなー。

 仕方ないので廊下に出て、【ストレージ】から次々とコック長のクレアさん&ルーの作った料理を並べていく。飲み物の樽と少しだけ酒も。【ストレージ】に入れておいたので熱々出来たてだ。


「おいコラ、つまみ食いすんな。意地汚い」

「ひと皿くらいいいじゃないか。ボクも今日はまだ食べてないんだよ」


 いつの間にか博士が横から炒飯チャーハンの皿を手に取り、スプーンでモグモグと食べている。


「【ゲート】」


 並べ終えた料理の床に転移の扉が広がり、スッと床へと沈んでいく。

 ニアたちがいるアイゼンガルドの『聖樹』の前に転移されたはずだ。

 すぐにエストさんから電話があり、お礼を言われた。これも必要経費だからは問題ない。そろそろうちの騎士団も投入して交代制にしないとな。

 騎士団の宿舎に行き、決めておいた先発メンバーを呼び出す。国の守りを疎かにするわけにもいかないので半数は残すつもりだ。

 副団長のニコラさんを筆頭に、五十名ほどの騎士を送り出す。


「これが簡易テントと食料諸々。【プリズン】で小さくしてあるけど、向こうで『解放リリース』すれば元の大きさに戻るから。定時連絡を忘れずにね。あと、体調がおかしくなるかもしれないけど、なにか小さな異変でも必ず知らせてくれ」

「はっ。了解です」


 ニコラさんに二センチほどに縮小したサイコロのような【プリズン】を手渡す。この中にニアたちのぶんもまとめて入っている。

 ニコラさんは【プリズン】をポケットへとしまうと振り向いて騎士たちへと号令をかけた。


「では遠征に出発する。総員搭乗!」


 バビロンから呼び寄せた四十九機の重騎士シュバリエに騎士たちが乗り込み、ニコラさんは指揮官機である黒騎士ナイトバロンへと乗り込む。

 ニコラさんの黒騎士ナイトバロンには、完成したばかりの『フライトギア』が楯状態で装備されている。飛行型の変異種が出てきても対応できるはずだ。

 僕が大きな【ゲート】を開くと、ズシンズシンとフレームギアたちが行進し、次々にアイゼンガルドへと転移していく。


『では陛下。行って参ります』


 最後にニコラさんが外部スピーカーからそう発して【ゲート】の奥に消えた。


「行っちゃったね。私も行きたかったなあ」


 ニコラさんと同じ副団長のノルン、いやノルエさんが狼族の耳をピクピクさせ、尻尾をゆらゆらとさせながら不満そうにつぶやいた。

 それに対し、厳しめの口調で団長であるレインさんが注意する。


「副団長が二人とも行っちゃったら誰がこっちで指揮を執るの。僕らには僕らの役目があるんだよ?」

「そんなこと言ってー。レインちゃんも後発で行くんでしょうが。あたしだけお留守番なんてズルくない?」

「そんなこと言われても。陛下が決めたことだし……」


 おいおい、矛先がこっちに回ってきたよ。だって団長、副団長二人と三人とも向こうに連れて行くわけにもいかんでしょうが。

 馬場の爺さんと山県やまがたのおっさんがいるけど、あの人たち厳密には騎士団員じゃないしさ。


「悪いけど今回は諦めてくれ。その代わりってわけじゃないけど、ニコラさんたちが帰ってくるまで、留守番部隊には毎日スイーツの差し入れをするから」

「えっ! 毎日⁉︎ それを先に言って下さいよう! あたしプリン・ア・ラ・モードがいいなぁ!」


 ばっさばっさと尻尾を振り始めるノルエさん。現金だなぁ。


「あのう……。出発するまでは僕もスイーツをもらえるんですかね……?」


 おずおずとこちらに視線を向けるレインさん。彼女もスイーツには目がないらしい。まあ、ついでだしよしとしとこう。恨まれるのもなんだしな。

 明日には他の国々の騎士団も送り、『聖樹』の膝下を前線基地としなければならない。

 それが終われば、各々方(おのおのがた)、いざ討ち入りでござる。


 ────時に元禄十五年十二月十四日。

 江戸の夜を震わせて、響くは山鹿流の陣太鼓。

 亡き主君、浅野あさの内匠頭たくみのかみ様のご無念を散じたてまつらんが為、我ら赤穂あこうが遺臣四十七士、高家筆頭、吉良殿の首級くびしろを頂戴致す。


 ……などと、忠臣蔵の世界に酔っている場合じゃない。だいたいこの設定だと切腹させられた浅野あさの内匠頭たくみのかみのポジションは僕じゃないか。縁起でもない。

 ま、願わくば赤穂浪士あこうろうしのように、誰一人欠けることなく帰還……して切腹させられるじゃないか、彼らは。いかん、だから例えが間違ってる。

 とにかく全員無事で戻ってこないとな。そんな決意を新たに、僕はリクエストされたスイーツを作るため城の厨房へと向かった。









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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