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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第29章 邪神降臨。
403/637

#403 アルブス、そして時の記憶。




「僕は望月冬夜。この国……ブリュンヒルドの国王だ。お前はノワールの兄弟機、白の王冠・『アルブス』で間違いないな?」

如何イカニモ』


 アルブスがこちらを見ながら返事をする。どうやらちゃんとコミュニケーションは取れているようだ。


「お前の現在のマスターの名は?」

『アーサー・エルネス・ベルファスト。ベルファスト王国国王ナリ』

「な……!」


 ベルファスト⁉︎ おいおいおい、初めからとんでもない名前が出てきたな!


「どういうこと? ベルファスト王国の国王とやらがこの子のマスターなわけ?」

「いや、違う。現在の国王は確かトリストウィン・エルネス・ベルファストだ。別人だよ」


 腕を組み、首をひねるノルンに僕はそう返す。一応義父になる人だ、名前ぐらいは覚えてる。たぶん。

 そのトリストウィンに兄弟はオルトリンデ公爵……スゥの父親しかいない。

 現在、ベルファストの名を持っているのは四人……わかりやすく言えばユミナの家族だけのはずだ。

 父・トリストウィン、母・ユエル、その娘・ユミナ、そして息子のヤマトである。アーサーなんてのは聞いたこともない。


「そのアーサーってのがあんたのマスターなわけ?」

『如何ニモ。「黒」ト同ジアルジデアル』

『否定。我、主、ノルン・パトラクシェ』

『……デアルカ』


 アルブスの発言をノワールが否定する。それに対し、アルブスは一言返しただけだった。

 アルブスの発言通りなら、そのアーサーって人は『黒』と『白』、両方の王冠を従えていたことになる。それがなぜ『白』だけパレット湖の湖底に、『黒』は裏世界の鉱山にいたのか。

 いや、そもそもなぜ裏世界で造られたゴレムが表世界に……。くそ、ごちゃごちゃしてきたな。





『確かにベルファスト王家には『アーサー』という名の国王は存在する。そうだな、今から千と十九年前になる』


 1019年前……。

 電話の先で、ベルファスト国王が家系図の巻物の中からその名を発見したようだ。約千年前っていったら、日本で言えば平安時代。藤原道長の時代か。

 そう考えるとこちらの文明ってあまり発達してないような……。半分くらいのスピードか? 戦争による文明発達ってものがなかったのかとも思うが、魔法がバンバン飛び交う世界だからな……。魔法文化は発展したのかもしれない。

 精霊や魔法のない僕らの世界と一緒にしたらいけないのかもしれないけど。小さな火魔法が使えりゃライターはいらないし、光魔法の【ライト】が使えりゃ懐中電灯はいらないわけで。でもカンテラとかあるよな、この世界……。ま、日本も明治中期までランプ使ってたし、そんなもんか。


「そのアーサーについて何かわかりますか?」

『そうだな。例の……冬夜殿が見つけた地下遺跡。あの旧王都から現在の王都へと遷都した国王でもある』

「やっぱり」

『しかしアーサーについてはそれくらいで、やはり『王冠』とかフレイズの襲来などは記録されていない。いったいどういうことなのか……』


 ベルファスト国王がむむむと唸る。マスターであり、国王であったアーサーが、なぜ後世へとそのことを伝えようとしなかったのか。その理由がわからないということだろう。

 一瞬、『リセット』による効果か、とも思ったが……もし、フレイズの襲来を『なかったこと』にしたのなら、旧王都は滅んでいないはずだ。なにか別の理由がある。

 とりあえず礼を言って電話を切った。


「どうだった?」

「確認が取れた。『アーサー』王は確かに存在していたよ。千年前だけどね」

「なるほど。つまり君のマスターはもう亡くなっているわけだな。長命種でもない限り」


 博士がアルブスへと視線を向けるが、彼は「……デアルカ」と一言返すのみで、それ以上の反応はない。


「いったい千年前、五千年前に何があったのか……。詳しく教えてもらえるかな?」

「マスターノ許可無ク、ソノ要望ニ応エル事ハ出来ヌ」

「いや、君のマスターは千年前に死んでいるだろう? そりゃ不可能ってもんだよ」

「ナラバ不可能デアル」


 博士が肩を竦めて僕へと視線を向けた。お手上げってか? ゴレムのくせに石頭なのか、人の死という概念が理解できていないとか? そんなわけはないか。

 お手上げムードが漂う中、エルカ技師が口を開く。


「これはサブマスター登録をするしかないわね」

「サブマスター登録?」


 なんだそりゃ。


「ゴレムは基本的にマスターの命令しか聞き入れない。だけど、考えてみて? もし戦闘でマスターが死に、ゴレムだけが無事だったとしたらどうなる?」

「えっと、マスターは死んでるんだろ? だけど登録はそのままだから……誰の命令も聞かない?」


 そんな野良ゴレム、迷惑なだけだな。でもそんなことになってないってことは……。


「そう。そんな時のための機能がサブマスター登録よ。ゴレム自身が己のマスターが死亡した事を認識していて、かつ、そのマスターの血縁者のみが、ゴレムの仮のマスターとして登録できる。ゴレムは財産だからね。子々孫々に受け継がれていく機体もあるわ」

「あっ、ひょっとしてロベールのとこのブラウも……!」

「パナシェス王家の青の『王冠』ね。血族の中に適応者が出れば仮じゃなく、本当のマスターになれるわ。ロベール王子はマスターだけど、その前のマスターは彼の曽祖父。祖父と父親はサブマスターだったってわけ」


 なるほど。仮のマスター、仮のマスターと受け継がれてきて、いつか本当のマスターを子孫から得るってわけか。


「もちろんこれは特殊なゴレムだけよ。本来なら適応者なんて縛りはなく、父から子へと受け継がれていくゴレムの方が多いんだから。サブマスター登録をした後に前マスターの登録を消去して、ちゃんとしたマスター登録をするのが普通よ」


 そりゃそうだ。親父が死んだら親父のゴレムを受け継ぐ。ゴレムに拒否された、なんてのは普通のゴレムにはないのだろう。


「マスターとサブマスターってなにが違うんだ?」

「まず、ゴレムの能力スキルを使えないわね。性能も一段階落ちるわ」

「じゃあ例えばノルンが死んで、その娘にノワールが受け継がれたとしても、サブマスターだったら『代償』を払うゴレムスキルは使えないってことか」

「縁起でもない例を出すんじゃないわよ。ぶつわよ?」


 ノルンにこめかみをピクリとさせながら睨まれた。おっと、口が滑った。

 まてよ……じゃあアルブスにサブマスター登録をさせようってことは、千年前のベルファスト王、アーサー王の血筋ってことで……。


「……ひょっとしてユミナに?」

「正解。千年も前の血縁者がサブマスターになれるかなんて試したこともないからなんともいえないけど、ひょっとしたら、ね。王家ともなれば、それほど血が薄れてはいないと思うし」


 エルカ技師の言う通り、王家直系の血筋ならば、従兄弟とかの近親婚も多いかもしれない。

 確かユミナの母、王妃のユエル様も遡れば王家の血を引いている侯爵家から嫁いだとか聞いたな。それほど血が薄まってなければいけるのか? しかし何しろ千年前だからなあ。何代前よ?


「危険性はないんだろうな?」

「ないわ。仮にユミナちゃんが適応者だったとしても、正規のマスター登録をしなければ、あくまでも仮のマスターにすぎないわ。『代償』の能力は発動しない」

 

 なら大丈夫か。とりあえずユミナを呼んで、説明をしよう。これで何かがわかればいいんだが。





「オープン」


 再び(『リセット』される前を含めると三たびなのだが)、アルブスの胸部が開かれて、Gキューブが陽の光を浴びる。


「これでいいんですか?」


 魔力を流し、胸部を開いたユミナが振り返ってエルカ技師に確認する。

 本来ならば休眠状態になっていないゴレムの内部ハッチを開くなどマスターにしかできない。なぜならゴレムの自己防衛システムが働くからだ。具体的に言うと、めっちゃ抵抗する。

 しかし開けられる例外が二つあって、一つは製作者マイスターによる解除。もう一つがゴレムがマスターを失った状態での血縁者による解除である。

 つまりユミナが開けた段階で、アルブスは己のマスターが千年前に死亡したことを認め、ユミナを血縁者と認めたわけである。


「え、と。このあとどうすれば……?」

「Gキューブを取り出さずに、その中へあなたの髪の毛を一本入れて。それでサブマスターへの登録は終わるわ」


 エルカ技師に言われた通り、ユミナがその金色の髪の毛をGキューブの入ったガラス球へと差し入れる。抵抗なく髪の毛はGキューブへと吸い込まれ、輝きが増した。


「……拒否されなかったわね。これでユミナちゃんがアルブスのサブマスターになったわ」


 また『リセット』が発動するんじゃないかと身構えていた僕は、エルカ技師の言葉に全身から力を抜いた。

 これで白の『王冠』が、千年前のマスターから千年後の子孫へと受け継がれたわけだ。

 胸部ハッチを元に戻すと、静かな駆動音とともにアルブスが覚醒する。


『クラウンシリーズ、形式番号CS-01『イルミナティ・アルブス』、再起動しまス。暫定とされるサブマスター名を登録して下さイ』

「えっと、ユミナ・エルネア・ベルファスト、です」

『登録シマシタ。サブマスター登録変更完了。マスター権限をアーサー・エルネス・ベルファストからユミナ・エルネア・ベルファストへと一時的に移行。再起動シマス』


 カメラアイが開き、再びアルブスが立ち上がる。その目はユミナをまっすぐに見つめていた。ユミナも身長が低いが、アルブスはそれよりも小さい。自然と見上げるような姿勢になる。

 やがて騎士のように片膝をつくと、登録の時とは違う音声で発言した。


『白ノ王冠、イルミナティ・アルブス。今後ハ貴女ニ従オウ。ドウカ許可ヲ、マスター』

「はい。よくわかりませんが、よろしくお願いしますね」

『御意』


 立ち上がり、アルブスが頷く。

 そこへ、パンッ、と博士が一つ手を打ち、にやけた笑顔で口を開いた。


「さて! これでユミナ君がアルブスのマスターとなったわけだ。さっそくだが、千年前と五千年前、アルブス、そしてノワールに起こった全てを教えてほしい!」

「直球だなあ……あんまり興奮すんなよ」

「そうは言うがね、冬夜君! ボクとしては五千年前からのモヤモヤを晴らせるかもしれないんだよ? なぜあの日、突如としてフレイズの侵攻が無くなったのか。滅びかけていた世界がなぜ首の皮一枚で繋がったのか。その答えがそこにあるんだ。興奮するなってほうが無理ってもんだよ!」


 まあ、博士の立場から考えるとそうか。いったい『白』と『黒』の王冠が、どのようにしてフレイズを追い払ったのか……。


「まず……そうだな、約五千年前にアルブスやノワールのマスターだった者の名は?」

『クロム・ランシェス。『王冠』達ノ製作者マイスターニシテ、『白』ト『黒』ヲ束ネル、ハイマスター』

「やっぱりね」


 エルカ技師も予想はしていたのだろう。五千年前、『白』と『黒』を従えたマスターが、裏世界における古代の天才ゴレム製作者マイスター、クロム・ランシェスだったということを。


「いったいクロム・ランシェスは五千年前に何をしたんだ?」

『クロム・ランシェスハ、我ラ『黒』ト『白』ノ能力ヲ使イ、世界ヲ飛ビ越エタ。ソシテ────』


 『白』の王冠アルブスが語る真実。その内容を僕なりに頭の中で整理していく。

 まず、『白』と『黒』の王冠を従えたクロム・ランシェスは、その二体の能力ちからを使い、自らの世界を飛び越えた。裏世界から表世界へと転移したのである。

 これはノワールの時空を操る力が主によるものらしい。僕の【異空間転移】と同じ力だ。

 表世界から裏世界へと飛ばされた、プリムラ王国の建国王、レリオス・パレリウスと逆だな。そうか、クロム・ランシェスに出会っていれば、レリオス・パレリウスは表世界へと戻れたかもしれないのか……。

 世界を飛び越えたクロム・ランシェスだったが、当然、代償も凄まじかった。表世界へと辿り着いたときは、老人であったクロム・ランシェスは少年の姿まで若返っていたらしい。一歩間違えれば若返りすぎて命を失うところだったわけだ。

 なぜ彼が自らの世界を捨て、別世界へと跳んだのか、それはわからない。新たな知識や技術を求めたのか、それとも他に理由があったのか……。アルブスでさえも知らないという。若返りたかっただけではないと思うが。

 ともかくクロム・ランシェスは五千年前の、今でいうと魔王国ゼノアスに流れ着いた。


「そのころそこにはピライスラ連合王国ってのがあってね。ボクの所属していた神聖帝国パルテノには及ばないが、技術水準の高いなかなかの大国だったよ」


 と、博士が補足説明をしてくれる。

 とにかくクロム・ランシェスはその国に住み着き、古代魔法文明の叡智を学んだ。ゴレムたちは博士の持つミニロボのような存在と認識され、特に騒がれることもなく馴染んだらしい。

 クロム・ランシェスが十年をかけて、魔法も使いこなすようになったころ、そのピライスラ連合王国に、突然絶望という名の来訪者が現れる。

 フレイズの出現であった。












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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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