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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第29章 邪神降臨。
400/637

#400 対策、そして黄金宮殿。



 変異種を殲滅してから二日後。あらためて各国の首脳がブリュンヒルドに集まり、今回の顛末と今後の方針を話し合った。

 やはりモニター越しにでも戦闘をその目に見せた効果があったのか、西方大陸の国王たちはすんなりと現在の危機的状況を受け入れてくれた。世界中の国々が協力しなければ、滅びの道を辿るだけだと察したのかもしれない。

 プリムラ、トリハラン、ストレイン、アレント、ガルディオ、ラーゼ、パナシェスの七ヶ国にはフレームギアの練習機、フレームユニットをいくつか貸し出し、騎士団内で訓練をしてもらうように頼んだ。次の戦いには是非参加していただきたい。

 とまあ、こっちの方はなんとか片付いたんだけれども。





「フレームギアタイプの変異種ね……。まあ、ありえなくもないか。同じような兵器をもって対抗するのは世の常だし。だから自爆装置をつけておけって言ったろう?」

「いや、やっぱりそれはどうかと思うが」


 そんなものがついてたらみんな乗ってくれなくなるだろ。

 『研究所』の机の上で設計図に線を引いているバビロン博士にそう返した。


「そのユラ? とかいう支配種は技術者だったんだって?」

「ん? ああ、メルの話じゃ、技術者でもあり、生物学者でもあり、政治家でもあり……そっち方面の天才だったとか。ま、魔法とか異能による能力はメルの方が上だったようだけど」

「ふん……大方ボクのフレームギアに興味を持って、自分で改良し、都合良く使おうってハラなんだろうが……。いるんだよねぇ、自分じゃ何も生み出さず、他人の技術を利用するだけの奴がさ」


 あれ、ちょっと胸が痛い。確かに僕も地球の技術を利用するだけしてますが。


「おまけにそいつ、ゴレム技術の方も手に入れてるんじゃないのかい?」

「アイゼンガルドのことを考えると、たぶん、な」

「逆なのかもね。ゴレム技術を手に入れたからフレームギアに興味を持った……とか。ま、どっちにしろこいつは技術者の意地にかけて負けていられないな。冬夜君、次なる開発のアイディアのため、ボクらは勉強しないといけないと思うのだが、どうだろう?」

「え~……」


 博士が鼻息を荒くして迫ってくるが、僕は嫌そうな声を漏らした。勉強と言えば聞こえはいいが、この言葉を要約すると、『ロボットアニメを観せろ』ということに他ならない。

 観せるのは構わないんだが、こいつらとんでもないもの造るからさあ……。いや、そのおかげで助かったことも多いのは確かだけれども。

 ここで渋っていて次に大負けしたらなんの意味もないしなあ。あまり気が進まないが了承すると、すぐさま博士はロゼッタたちに電話をし、みんなを『庭園』に集合させた。

 ロゼッタやモニカ、エルカ技師(フェンリルもついてきた)といった技術班に加え、スゥとか桜とかリンゼとかシェスカとか関係ない子も来てるんですけど。ポーラや琥珀たちまで来たのか。


「『あにめ』は私たち、大好きです、から」


 リンゼにそう言われては仕方がない。問題は何を観せるか、だが。

 お茶やお菓子を用意するシェスカをよそに、スマホをフリックしながら考える。

 これ……はダメだ。惑星斬りなんか観せたらえらいことになる。スゥもいるのに全滅エンドなんて観せたらトラウマになりかねん。

 これ……も、ロボットアニメというよりは政治アニメみたいなもんだしなあ。内容が難しいのはちょっとな。

 もっとわかりやすいやつの方がいいか? あ、これでいいか。ロボットアニメというか、プラモアニメだけど。平和的だし、それでいて楽しいし。いろんなロボット(プラモだけど)が出てくるから博士たちも満足するだろ。開発の役に立つかはわからないが。

 僕は『庭園』の空中に【ミラージュ】で画面を投影して、スマホと連動させたアニメを再生し始めた。





「ああ、あにめを観てるんですか。どうりで」


 三時のおやつになっても桜やスゥ、リンゼたちが現れないことを不思議に思ってるユミナに状況を説明した。

 シェスカまで行ってしまっているので、テラスのテーブルにレネが来て、紅茶を注いでくれる。


わたくしも観たかったですわ」


 テーブルに乗ったクッキーに手を伸ばしながらルーがつぶやく。ルーもけっこうアニメ好きだ。

 ルーはさっきまで厨房でこのクッキーを作っていたから、博士から連絡が来てもその場から離れられなかったんだな。


「あとでみんなのスマホに配信しておくから、暇なときに観ればいいよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「ホント便利よね。コレ。情報の共有とかすぐにできるし。国内で何が起こっているかすぐにわかるんじゃないの?」


 リーンがスマホをいじりながらそんなことをつぶやく。持ち主がまだ百人にも満たないからそこまではいかないと思うが。

 ま、所有者に国家代表が多いからある程度の情報は手に入る。むろん、流してもいい情報だけを流しているんだろうけど。


「僕らの世界じゃ、国どころか世界中の情報が普通の一般市民にも手に入るようになっていたよ。それだけじゃなく、一般の、個人の生活でさえもわかるようなものもあった」

「まさか、ずっと監視されてるんですの?」


 ルーが驚いたような視線を向けてくる。


「ああ、違う違う。個人で自ら情報を公開するのさ。例えばルーが『今日のおやつはクッキーでした。美味しかったです』と、あるところに書き込むだろ。すると、スマホを持っている人なら誰でもそれを見れたりするのさ。知らない人でもね」

「それくらいなら知られても別に問題はありませんけど……。知らない人にもわかってしまうというのはちょっと怖いですわね」

「そう。だから変なことは書き込まないようにする。知られてもいいこと、知ってもらいたいこと、そんなことを書いたりするわけ。どうでもいいことを書き込んだりもするけど」


 たぶん、やろうと思えばSNS的なものを作ることはできるとは思う。だけどそれ以前にまだ情報のやり取りが未熟だからなぁ。

『自分はこう思います 』

『あなたの考えは間違っている』

 なんて、国同士で始められてもな。元いた世界でさえ日常茶飯事に個人同士で起こっていたし。

 初めはブログ的なもので一方的な情報発信とかの方がいいのかな……。あ。


「ルー。お料理ブログをやってみないか?」

「なんですの? お料理ぶろぐ?」

「ルーが作った料理の写真を載せて、材料や作り方を書くんだ。それをみんなに公開する。見た人はそれを元に自分で作ったりできるだろ? ルーのおかげでいろんな料理を食べられるようになる。ブリュンヒルドで作られた料理が、遠く離れた国々でも作れるようになるんだ」


 幸いにして、裏世界……西方大陸の食材もこちらの世界とあまり大差はない。もともと似通った世界だからな。

 よっぽど奇をてらった料理でなければ作れるだろ。米でさえ西方大陸にもあるってラーゼの武王が言ってたし。


「面白そうですね。ブリュンヒルドだけでなく、他の国々の郷土料理も紹介できれば相互理解も進むかもしれませんし」

「そうね。例えばミスミドのカラエ料理を世界中に広めることもできるわけね。関心を持ってもらう一歩にはいいんじゃないかしら」


 ユミナとリーンが賛同してくれる。お互いに食文化から関心を持ってもらうのは悪くないと思う。

 食文化はいろいろと難しいこともあるけどな。イグレット王国でテンタクラーを食べた時もそうだったけど。その国にとっては受け入れ難い文化ってのもあるからさ。

 一応、ブリュンヒルドに招待したときに、王様たちに振る舞った料理とかでは何の問題もなかったけど。

 まあレシピを見て、食べたくない料理なら作らなきゃいい。別に強制して食べさせようってんじゃないんだし。

 僕もあちこちの国に飛んでるが、コレは食えない! って物には当たった記憶は…………。

 ………………あったな……。ユーロンで食わされた肉ラメイン……。オークの脛肉すねにくチャーシューメンモドキが。

 魔獣系の肉にはドラゴンの肉とかブラッディクラブの肉とか美味い物もあるんだけどねぇ。テンタクラーは微妙だけど。オークとか人型ってとこで自分的にはダメだけど、好んで食べる人もいるかもしれないし。


「そうですわね。簡単なお菓子とか、お惣菜とか……そういった小さなものからならできるかもしれません。冬夜様、わたくし、やってみたいですわ」

「よし、じゃあ試しにやってみよう」


 僕はルーからスマホを借りて、テーブルに乗っているクッキーの写真を撮った。


「このクッキーの材料と分量、調理器具や作り方の順番なんかを書くんだ。できるかい?」

「はい。冬夜様に見せてもらったレシピのようにですわね。大丈夫ですわ」


 あれ? 地球むこうの料理なら僕がレシピを検索して書けばよかったか? いや、こっちじゃ食材の名前が違ったりするし、こっちの料理になるとサッパリだから、やっぱりルーに任せた方がいいよな。

 他にもいろいろと情報を発信できるものや、特殊なアプリを作れたらいいかもな。火球が飛び出す【ファイアボール】アプリとか? やり過ぎか。

 でも防御用に【シールド】とか【リフレクション】アプリくらいは配信してもいいかもしれない。

 まあ、こっちの方もいろいろやってみるか。





 『研究所』に戻ると全員が画面にかじりついてアニメに夢中になっていた。目ぇ悪くするぞ。


「やはり新型の飛行ユニットは早急に造る必要があるね。独立合体方式の方がいいかな」

「ビームソード! ビームソードでありまスよ! 魔力を増幅・収束させて刃性を与えればなんとか……」

「いやいやいや、なんといってもキャノン砲だろ! 『ブリューナク』を小型化して、バビロンから魔力を送れるようにしてだナ」

「出力増幅システム……ゴレムのGキューブを媒体にすれば、一時的に限界を超えた出力を……」


 ほらー。技術班の奴らがアニメ見ながら変なこと口走ってる。もっとスゥたちみたいにストーリーを楽しめよ。

 まあ、好評だったようでなにより。その後、桜がずっと主題歌を歌い続けたのには閉口したが。



          ◇ ◇ ◇



 かつて機工都市と呼ばれたアイゼンガルドの首都、工都アイゼンブルクは衰退の一途をたどっていた。

 この国を牛耳っていた魔工王が崩御してから、誰もこの都市をまとめることはできず、人々は日に日に都を離れていった。

 人々が離れた理由はいろいろとあるが、そのひとつがアイゼンブルクを覆う不気味な黒雲である。

 いつの頃からかアイゼンガルドの上空には黒雲が立ちこめ、黒い雨が降るようになった。その不気味な現象に人々は恐れをなし、都を捨てたのだ。

 もはや工都は廃都へとなりつつあったのである。

 そんな情報を手に入れつつ、廃都へとやっと辿り着いた斥候型ゴレムのバステトとアヌビスは、都のあまりの荒廃ぶりに言葉を失っていた。


『姉御……。こりゃあいったい、どうなってるんですかい?』

『わからないわ……。ただ、異常な事態なのは確かね……』


 都のいたるところで人が倒れている。全員死んでおり、その顔には苦悶の表情を浮かべていた。身体には傷一つない。

 突然その場で死んだように、喫茶店のテーブルで、公園のベンチで、階段の途中で、人々がその屍を晒していた。

 不思議なのはどれ一つとして腐敗が進んではいないということだ。まるでつい一時間ほど前に死んだように見える。

 しかし、バステトはそんなはずはないと結論づける。死体に比べ、その身につけている服などが痛みすぎている。風雨に晒された証拠だ。

 つまり、この死体自体が異常。


『病気かなにかですかね?』

『その可能性もあるけど……まだ結論を出すには早いわ。もう少し調べてみましょう』


 黒猫バステト黒犬アヌビスはアイゼンブルクで一番高い建物であるアイゼンタワーを目指す。

 かつては王城が一番高い建物であったが、魔工王が暴走した際に崩壊してしまっている。

 アイゼンタワーに登ればこの異常事態の理由が何か掴めるかもしれない。

 入口の扉が閉じられており、タワー内には入れなかったが、二匹には関係ない。バステトがオリハルコンよりも硬く鋭い晶材でできた爪を一振りすると、分厚い扉はあっさりと斬り裂かれて倒れた。

 大きな音を立てて扉が倒れたのに誰も現れない。どうやらタワー内も生きた人間はいないらしい。

 無骨な鉄でできた階段を二匹は上っていく。外から見た様子ではタワー上部に展望室があるはず。そこを目指して二匹は駆け上がり続けた。

 やがて全面ガラス張りの展望室へと辿り着いた二匹は、窓に近づいて都の様子を眺める。

 そこから見えるのはアイゼンブルクの街並みと立ち込める黒雲、そして────。


『なんだありゃあ……』


 アヌビスのつぶやきにバステトもそちらへと視線を向けた。

 二匹の視力は人間はおろか、犬や猫、鷹よりもはるかに遠くを見渡せる。

 その高性能なカメラが捉えたものは、アイゼンブルクのはるか南にそびえ立つ黄金の塊。

 それはエンピツのような角柱が何本も伸び、クラスターと呼ばれる群生の結晶状態を作っていた。

 バステトにはそれがただの群生結晶体クラスターには見えなかった。とてつもなく巨大な群生結晶。どこか規則性のあるその姿が、まるで宮殿のように見えたのである。


『どうします、姉御。アレに潜入しますかい?』

『…………やめといた方がいいわね。あれの周りをよく見なさい。潜入は難しそうよ』

『え? ……うわっ、気持ち悪っ』


 アヌビスが黄金宮殿に視線を戻し、その周辺をよく見てみると、地面がなにやら動いていた。そこで倍率を上げてあらためて確認してみると、それは無数の黄金骸骨が夢遊病者のように徘徊している姿だったのだ。


『さすがにあの数をすり抜けて内部に潜入するのは難しいわ。それに時間もない。そろそろ撤退しないと公王陛下との約束の時間に間に合わないわ』

『あ、そっか』

『私たちの任務は情報を持ち帰ること。欲をかいて帰れなくなったら本末転倒よ。諜報活動はここまでにしましょう。ブリュンヒルドへ帰るわよ』

『へーい』


 踵を返し、二匹はアイゼンタワーの階段を下り始めた。

 










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