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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第29章 邪神降臨。
396/637

#396 金色の破壊神、そしてゴルドハンマー。

途中から視点が変わります。





「【シールド】ッ!」


 僕は『神気』で強化させた防御魔法をレギンレイヴから放った。

 本来ならば不可視の障壁が、神々しい光をまといながら放たれた二本の荷電粒子砲モドキの前に立ちはだかる。

 『神気』をまとわせた障壁が砕け散ることなどありえないが、向こうも邪神の眷属である。やはりそれにふさわしい力を持っていたらしく、作り上げた障壁が軋みを上げていた。

 が、なんとか凌ぎきり、荷電粒子砲モドキを防ぐことに成功する。その後、【シールド】は砕けてしまったが。


「いきなりやってくれるじゃないか、この野郎……」


 正直ちょっと焦ったじゃないか。ふざけやがって。


「おい、エンデ。あの二人を別の場所に隔離するけど、そっちは任せていいんだな?」

『ああ。僕とメルたちでどうにかする』

「わかった。あとは頼むぞ。飛操剣フラガラッハ形状変化モードチェンジ晶鎖チェーン


 レギンレイヴの周りに浮かぶ四十八もの短剣が、それぞれ短い鎖の形となり、それが次々と繋がって一本の長い鎖へとその形を変えた。両先端には分銅のような水晶の球体が付いている。

 神気を込めた鎖はレギンレイヴの周りを回りながら、その長さを伸ばしていった。


「行け。あの性悪支配種を捕まえてこい。【晶鎖拘束グレイプニル】」


 水晶の鎖がものすごい勢いで動き出し、双頭竜の頭上に立つ二人の支配種へ向けて飛んでいく。それはまるで水晶の蛇のように、波打ちながら双子の支配種へと襲いかかった。


「なによ、これ⁉︎」

「なんだ、これ⁉︎」


 分銅の両端がそれぞれレトとルトを捉え、ちょうどSの形をなぞるように二人の相手をグルグル巻きにしてしまう。

 長くは持たない。拘束した二人の支配種をそのまま近くの砂浜へと鎖ごと飛ばす。


「このっ……!」


 ピキッ、と二人を拘束している鎖に亀裂が入る。腐っても同じ神気持ち、邪神の眷属と化した支配種か。

 ここでレギンレイヴの飛操剣フラガラッハを壊すわけにはいかないので、拘束を解き、二人を砂浜に投げ捨てた。

 砂浜に落下し、危なげなく着地するレトとルト。

 だが、これで終わりじゃないぞ。


「【プリズン】」


 今度は牢獄魔法で二人を閉じ込める。普通ならこの【プリズン】はなにがあっても砕け散ることはない。

 だが閉じ込める相手が変異種の、しかも支配種だとそれも怪しい。全力を出せば破壊される可能性だってある。

 ────【プリズン】破壊に全力を向けられるならば、だが。


「あとは好きにしろ。僕らは上級種を片付ける」

『サンキュー、冬夜』


 砂浜にモノトーンカラーの竜騎士ドラグーンが高機動モードで走ってくる。その手にはメルたちフレイズの支配種三人娘が乗っていた。

 停止した竜騎士ドラグーンから三人が降り立ち、コックピットからエンデも飛び降りる。


「なんだ、誰かと思ったら負け犬たちと逃げ出した元『王』じゃないか」

「あら、ネイじゃない。あんなに嫌ってたエンデミュオンの元にいるなんて、びっくりしたわ。てっきり結晶界フレイジアに泣いて帰ったかと思ってたのに」


 そう言って嗤う二人を無視し、エンデたちが【プリズン】の中に入る。変異種以外は入れるように設定してあるからそこは問題ない。


「────レト。ルト。久しぶりですね」


 メルがそう語りかけ、四人とも双子の前に立つ。

 気になる対決だが、もうここはエンデたちに任せよう。他にやることがいっぱいある。

 鎖の飛操剣フラガラッハを水晶板へと戻し、背中にドッキングさせる。

 とにかく上級種三体を片付けないと。


『冬夜さん、上級種の対応はどうします?』


 ユミナからの通信に僕は少し考えて、他のみんなへと指示を送った。


「スゥはオーバーロードでクワガタの相手をしてくれ。桜はそのサポートを頼む。八重、ヒルダ、エルゼ、リンゼはヒトデ型を。リーンとルー、ユミナは状況に応じて、騎士団たちへの援護射撃と上級種への攻撃を。僕はあの双頭竜をやる。それぞれ相手を倒したら、他のみんなのサポートへ回るようにしてくれ」


 あのクワガタの上級種はそれほど大きくはない。せいぜい七十、八十メートルといったところだろう。スゥの乗るオルトリンデ・オーバーロードだって三十メートルオーバーだ。抑え込むことは可能だと思う。

 もともとオルトリンデは拠点防衛を主とした機体だからな。守りは固い。そこに桜のサポートがあれば万全だろう。

 少し不安なのはあのヒトデ型がどういう攻撃をするのかわからないことだが、あの四人ならなんとかできると思う。

 そして僕のやるべきことは、あの双頭竜を速やかに倒し、みんなのサポートに早く回ることだ。

 頼むぞ、エンデ。支配種たちをこっちに寄越してくれるなよ。


「よし、いくぞ!」


 僕は背中の飛操剣フラガラッハを再び展開し、双頭竜へと向き直った。



          ◇ ◇ ◇



「さあ、出番なのじゃ! 腕が鳴るのう!」


 スゥはオルトリンデ・オーバーロードのコックピットで歓喜に震えていた。防御型ということもあって、今までの戦いではスゥが前線に出ることはあまりなかった。

 だが、今回は冬夜のお墨付きがある。遠慮することなく敵を倒していいのだ。


「だいたい冬夜は少々過保護なのじゃ。わらわとて冬夜の嫁の一人ぞ。上級変異種の一匹や二匹、ちょちょいのちょいじゃ」

『油断しない。王様が心配するのはスゥのそういう調子に乗るところ』

「うっ……。い、今のは心構えを語っただけじゃ。調子になぞ乗っとらん!」

『ならいい』


 コックピットのスピーカーから冷静な桜の声が飛んできて、思わず声を荒げてしまった。

 今の態度は子供っぽかったかと反省する。冬夜の婚約者フィアンセの中ではスゥは一番年下である。その次に年下のユミナやルーとは二つ違いだ。

 二つ違うだけなのに、あの二人はすでに大人のような対応ができる。(スゥがそう思っているだけで実はそうでもないのだが)

 それがまた、スゥを焦らせる。自分もあの二人と同じように早く一人前のレディになりたい。

 最近は母親のエレンに頼んで、裁縫や礼儀作法、ダンスなどを習ってもいる。成果はあまりはかばかしくはないが……。


「とにかく今は目の前のクワガタをやっつけるのじゃ!」


 スゥは本人専用にカスタマイズされたコックピット内で、操縦桿を素早く操作し、魔力を流しながら指先のボタンでコマンドを入力する。


「キャノンナックルスパイラルッ!」


 振りかぶったオルトリンデ・オーバーロードの右腕、その肘から先が高速回転をしながら発射された。

 一直線に飛んだ黄金色ゴールドの右腕は、後ろ脚で立ち上がった暗金色ダークゴールドのクワガタに炸裂する。

 二秒ほどクワガタにぶつかりながら回転を続けていた右腕が、諦めたように弾き飛んで本体の方へと帰還し、右腕は元に戻った。

 クワガタの胸元には大きめの亀裂が入っていたが、じわじわとその亀裂も再生して元に戻ってしまう。


「むう。一撃では仕留められんか」


 普通のフレイズならば核を破壊すればそれで倒せる。それは変異種でも同じだが、変異種は不透明のため、どこにあるか正確な位置がわかりづらい。

 これがさらに上級種となると、体の中にいくつ核を持っているかもわからなくなる。

 パッと見、細い脚や武器として使うであろう顎ではなく、胴体・腹部のどこかだと思うのだが。


「核の場所が正確にわかればのう……』

『それはこっちにまかせて。ロスヴァイセは支援型フレームギア。そういった能力も持ち合わせている』

「桜? 何をする気じゃ?」


 桜の乗る白いフレームギア、ロスヴァイセから再び歌唱魔法が放たれる。

 車型タイムマシンに乗り、過去へと行ってしまうという娯楽映画の主題歌であるその曲は、『愛の力』というタイトルの通り、力強い響きを乗せて上級種に襲いかかる。

 ダメージを与えるわけでもなく、その音の波と光の波は、威嚇するクワガタの全身に浸透し、その中にある核の位置を捉えた。


『核は全部で三つ。頭に一つ、胸部に二つ。胸部は前胸部と後胸部、縦にそれぞれ一つずつ。データ送る』

「お」


 スゥの左手側にあるサブモニターに、目の前の上級種の画像が映る。その体内には光る点が三つあった。これが核の位置なのだろう。


「これなら狙って破壊することも可能じゃな。あとは核まで届く攻撃ができれば……」


 スゥが画面を睨みながら、むむむと唸る。分厚い上級種の体をぶち抜いて核まで到達させるには、かなりのパワーがいる。

 桜の歌唱魔法による強化支援を受けてもそこまでのパワーが出せるかどうか。しかも時間をかけずに三つ全てを破壊しなければ、再生が始まってしまい、また初めからやり直しになってしまう。

 一か八かオルトリンデ・オーバーロードの脚部になっている、万能地底戦車『ミョルニル』のドリルパーツを腕にドッキングさせて、その上で『キャノンナックルスパイラル』を放てば……。


『こんなこともあろうかとォ!』

「わっ⁉︎ ななな、なんじゃなんじゃ⁉︎」


 スピーカーから突然声が飛んできて、スゥがシートの上で飛び上がる。今の声はフレームギアの整備責任者であり、バビロンの『工房』管理人でもあるハイロゼッタの声だ。


『オーバーロード用の専用ツールをこっそりと造っておいたでありまスよ! 今から投下するでありまス! ポチッとな!』


 数百メートル上空に待機しているバビロンから、一つの武器が落とされる。それはスゥの乗るオルトリンデ・オーバーロードの正面の砂浜に地響きを立てて落ちてきた。

 初めにドゴンッ! という重い地響き、そのあとにジャラララララッ! という金属音。


「これは……!」


 黄金きん色に輝く巨大な鉄球(鉄製ではないが)に長い鎖がついた武器。この世界ではモーニングスターとも呼ばれるそれは、オルトリンデ・オーバーロード用というだけはあって、とてつもなくデカかった。


『対上級種戦専用ギガグラビティウェポン、【ゴルドハンマー】でありまス!』


 ハンマーはハンマーでもハンマー投げの方のハンマーだろというツッコミは、その知識のないスゥにはできない。


『【ゴルドハンマー】は回転させることによって、【グラビティ】と【プリズン】が生み出す魔重力マギグラビトンがハンマー内に蓄積されるでありまス。そしてそれを相手にぶつけることにより一気に解放リリース、蓄えた何重もの超魔重衝撃波マギグラビティウェーブが標的を完全に塵と化し、破壊するでありまスよ。故に回転させればさせるほど威力が増すでありまスが、やり過ぎるとその力にオルトリンデ・オーバーロード本体が耐えられないでありまス。ご注意を』


 得意げに語るロゼッタの説明は、スゥにはさっぱりわからなかったが、とにかくすごい武器だということはわかった。

 オルトリンデ・オーバーロードの手が砂浜に落ちた【ゴルドハンマー】のハンドルを握る。取り付けられたチェーンの長さは胸のあたりまで。片手で持ち上げてみると問題なく鉄球部が持ち上がった。まだ普通の重さであるらしい。

 このままでも充分に武器として使うことができるだろう。しかし上級種を倒すにはそれだけでは足りないのだ。


「よし! 女は度胸、やってやるのじゃ!」


 オルトリンデ・オーバーロードが手に持った【ゴルドハンマー】をゆっくりと振り回し始めた。始めは軽く前後に振り子のように振り、だんだんと勢いをつけていく。

 やがてそれは縦回転となり、黄金球は唸りを上げながら砂浜の砂を宙に飛ばし始めた。

 そのまま勢いを殺さずに、縦回転を横の回転へと移行する。黄金球からは火花が飛び散り、とてつもない力がオルトリンデ・オーバーロードの両腕に負荷を掛けていく。

 その何倍もの力が黄金球に蓄えられているのがスゥにもわかる。【プリズン】による結界が力を閉じ込めているのだ。

 正面にいるクワガタ上級種が大きな顎の間に光を集め始めた。双頭竜が放った荷電粒子砲モドキを同じように放とうというのだろう。


「させるかああぁぁぁっ!」


 オルトリンデ・オーバーロードは全身を回転させ、まるで黄金の独楽コマになったかのように【ゴルドハンマー】に力を加えていく。

 そのまま限界ギリギリまで高めた魔重力の塊を、狙いをつけてクワガタ上級種へと勢いよくぶん投げた。

 弾丸のように放たれた【ゴルドハンマー】は、狙いたがわずクワガタ上級種の首元へと炸裂する。と、同時に【ゴルドハンマー】から黒い粒子が吹き出して、周りの空間を歪め始めた。

 ゴッ! と空気が轟き、大きな振動が辺りを襲う。

 それに伴い、クワガタ上級種の体がボロボロと崩れ始め、まるで砂のようにサラサラと風に流れていく。核さえも全て、細かな粒子へとその姿を変えていった。


チリとなれえぇっ!」


 すでに球状に歪んだ空間にはクワガタ上級種の姿はなかった。やがて歪みがおさまるころにはそこには何も存在せず、ただ穏やかな波が揺れていた。

 完全消滅。スゥの言葉に反して、塵さえも残らなかった。

 ぶん投げた【ゴルドハンマー】さえも、である。なんと【ゴルドハンマー】は使い捨ての究極兵器であった。


「やったぞ、冬夜! とっ⁉︎」


 コックピット内で喜ぶスゥ。しかしオルトリンデ・オーバーロードはそのまま砂浜に膝をついてしまった。全身からは蒸気と魔力の残滓が溢れ出し、両腕の装甲はボロボロに崩れてしまっている。

  電源がカットされたかのようにコックピット内の計器類も光を失っていき、最低限の機器しか点灯しなくなった。


「ど、どうした⁉︎ 動かんぞ⁉︎」

『心配ないでありまス。【ゴルドハンマー】を使った反動によるダメージが大きかったのでありましょう。一時的にオーバーヒートを起こしているだけでありまスよ。あれだけの崩壊エネルギーを扱うには、やはり今のままのオーバーロードでは無理でありましたな』


 完全に動かなくなってしまった愛機から、スゥは手動でハッチを開き、外へと出た。

 未だ海岸は戦場であり、遠目に騎士団の操るフレームギアと下級種たちの小競り合いが見える。


『おつかれ』


 眼下に白いフレームギアが滑り込んでくる。桜のロスヴァイセだ。

 オルトリンデの開いた胸部装甲の上でスゥは不満げに膨れていた。


「上級種を倒したはいいが、これでは冬夜たちを助けに行けないではないか」

『心配ない。そのぶん私が活躍してくる』

「ずるいのじゃ!」


 子供っぽいとは思うが、そう叫ばずにはいられなかった。やっときた出番がもう終わってしまったのである。


『ずるくない。スゥは役目を果たした。誇るといい。モニカ、オルトリンデ・オーバーロードをバビロンの『格納庫』にパイロットごと転送開始』

『あいよー』

「あっ、こら! まだ話が……!」


 膝をついていた黄金の巨神が、光に包まれてスゥごと砂浜から消えていく。

 その場には桜の乗るロスヴァイセのみが残された。


「さて。エルゼたちの方に行くか、王様の方に行くか……ユミナたち騎士団のサポートに行くか、だけど」


 ロスヴァイセのコックピット内で、桜が小さく呟き、検索魔法による戦場の状況を確認する。

 エルゼたちの方は心配あるまい。婚約者フィアンセメンバーのうち、エルゼ、八重、ヒルダの武闘派三人組が揃っているのだ。

 冬夜の方も桜はエルゼたち以上に心配していなかった。彼が負けるなんてありえない。天地がひっくり返っても、だ。盲目に近い確信が桜にはあった。

 となるとユミナたち騎士団のサポート一択である。もともとロスヴァイセは後方支援がメインの機体だ。そのような状況の方がその特性を活かせる。

 桜は心の中でそう決定づけると、ロスヴァイセを混戦しつつある戦場へと向けて走らせることにした。















六巻登場キャラクター②


プレリオラ。


挿絵(By みてみん)


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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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