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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第29章 邪神降臨。
394/637

#394 迎撃準備、そして支配種たち。




 一国につき黒騎士ナイトバロン二機、重騎士シュバリエ十八機の計二十機のフレームギアを貸し出す。

 参加国は表世界……東大陸のほぼ全ての国々だ。その数はブリュンヒルドを除いて十八ヶ国。(大樹海の部族は入っていない。彼らは己の肉体で戦うことを誇りとする。故にフレームギアには乗らない)

 この十八ヶ国のそれぞれ二十機、計三六〇機と、ブリュンヒルドから五十機、さらに僕のレギンレイヴとユミナたちの専用機ヴァルキュリア九機を合わせて、合計四二〇機のフレームギアで変異種に対抗する。

 ユーロン大襲来の時は二〇〇機ほどだった。今回はその二倍、さらに僕らの新型機もある。あの時よりも有利なはずだが、今回はフレイズではなく変異種だ。油断はできない。

 それとは別に、ノルンとニアのオーバーギア二機と、強引にエンデの竜騎士ドラグーンも引っ張ってきた。

 準備万端整えて戦いに挑む。問題は……。





「やはり、出現場所が海ということだね」


 『研究所』のモニターに映し出されたマップを見ながらバビロン博士が腕を組む。


「フレームギアの防水対策はどうなってる?」

「冬夜君のレギンレイヴやあの子たちの専用機ヴァルキュリア……あとオーバーギア二機にエンデ君の竜騎士ドラグーン、ここらは大丈夫だ。水中に潜っても浸水することはない。動きは鈍くなるけどね。しかし他のフレームギアは基本的にコックピットが密閉式じゃないから危険だね。腰ぐらいまでなら海に浸かっても支障はないが、それ以上になるとコックピットが水浸しになる。操縦者の命の保障はできないね」


 最悪溺死するかもしれないってことか。

 もちろん緊急転移装置があるから、その前に脱出することも可能だ。しかし気を失って海に倒れたりでもしたら、逃げられずに溺れてしまうことだってありうる。やはり戦うなら地上の方が安全だな。


「変異種の行動が読めないからな……。出現してから検索魔法で捕捉しつつ、向かう先で待ち伏せ……ってことになるか」

「海だけじゃなく、空を飛ぶやつもいるだろうから、そっちの方も考えた方がいいね」


 空中の敵に対して対処できる機体は、空を飛べる僕のレギンレイヴ、リンゼのヘルムヴィーゲ、遠距離攻撃可能なユミナのブリュンヒルデ、リーンのグリムゲルデ、桜のロスヴァイセ、あとは砲撃ユニットに換装したルーのヴァルトラウテか。なんとか対処できると思うけど。

 博士たちにフレームギアの調整を頼み、ブリュンヒルドの城に戻る。ちょうどテラスに花恋かれん姉さんがいたので気になっていたことを尋ねてみた。


「変異種が『神魔毒』を使ってこないかって?」

「そう。あれをばら撒かれたら、僕やユミナたちは戦闘どころじゃなくなるからさ」

「ああ、大丈夫なのよ。『神魔毒』は大地に吸収されて定着することによって、その辺り一帯を神にとっての毒の沼地にするようなものなのよ。前も言ったけど、この毒は流れる水と相性が悪くて、海になんかばら撒いても海底に吸収される前に散り散りになって消えるだけなのよ。それにそんな簡単に『神魔毒』は作れるもんじゃないし」


 そうなのか? ならあの流星群のやつであの毒は打ち止めなのだろうか? 


「そもそも『神魔毒』は神の魂を生贄として生み出されるのよ。そしてたぶんあの邪神が生贄にしたのは……」

「……取り込んだ従属神、か」


 もともと自分が生み出した邪神に肉体を取り込まれ、さらに魂は『神魔毒』を造る生贄にされたわけだ、あのニート神は。救われないな。ま、自業自得だけどさ。

 すると、アイゼンガルドを覆っている『神魔毒』はあのニート神の呪詛ってことか。ち、死んでも迷惑をかけるやつだな。厄病神か。


「どっちにしろ『神魔毒』をなんとかしないと邪神を倒しにも行けないんだけどな……。なんか対策は思いついた?」

「農耕神……耕助叔父さんが、『神魔毒』を吸収し、無害な魔素に変える神種の植物を生み出そうとしてるのよ。……あまりうまくいってないようだけど」

「難しいのかな?」

「そりゃあね。言ってみれば農耕神の眷属を、一から生み出そうとしているわけだから。精霊誕生よりも大変なことなのよ?」


 そうだったのか。どうりで最近、耕助叔父を見ないと思った……。今度なにか差し入れをしよう。

 そんなことを考えていると、懐のスマホが着信を知らせてきた。ん? エンデか。


「もしもし?」

『あ、冬夜かい? ゴメン、ちょっと話があるんだけど、こっちにって来れるかな?』

「家の方か?」

『うん、そう』


 エンデとメル、そしてネイ・リセ姉妹のフレイズ組は城下町の一軒家で暮らしている。すぐそこなので歩いて行くことにした。

 その前にテラスから見えた北の大訓練場に寄っていく。たしか今日はロゼッタがオーバーギアの最終調整をしていたはずだ。

 城の北にある大訓練場では黒と赤の機獣が「伏せ」の体勢で待機していた。ノルンとニアのオーバーギアである。

 と、その二機の前で何やら騒いでいる怪しいカボチャパンツの王子が一人。


「なんでお前がここにいる……」

「あっ、冬夜君! これ、すごいねえ! まさか『王冠』の力をこんな風に使えるなんて!」


 ロベールはキラキラした目で二機のオーバーギアを見上げる。

 こいつ、ブラウの転移能力でまた来やがったな……。神出鬼没なのは花恋かれん姉さんだけで充分だってのに。


「ノルン! ニア! 僕もあれに乗せておくれ! さあ! さあさあさあ!」

「やかましい、この寝ボケ王子が!」

「寝言は寝てから言いなさいよ」


 二人に迫ったロベールはニアからはアイアンクローを、ノルンからは脛蹴りを食らっていた。相変わらずのウザさだ。通常運転とも言える。


「オーバーギアは乗り込むゴレムに合わせて造られているから、マスター以外は動かせないぞ。つまりお前が乗っても動かない」

「えっ⁉︎ そうなのかい⁉︎」

「もともと『王冠』のゴレム専用に造ったものだからな。ノルンの『レオノワール』とニアの『ティガルージュ』は同型機だけど、ゴレムの互換性はない。もう一機予備に基本フレームは余っているけど、『王冠』じゃないと意味が……」


 そこまで話してから、はっ、と口を押さえたが遅かった。キラキラした目でこちらを見るロベールの視線が僕を襲う。うえ。熱のこもった男の視線なんか嬉しくもなんともない。


「ということは、『王冠』であるブラウ専用の機体を造れるってことだね! つまり、僕が乗り込める機体を! すごいよ! ワクワクしてきた!」

「いや、ちょっと待て。そう簡単にはだな……!」

「面倒くさいからさっさと造ってやった方がいいと思うわよ。あなたが『造る』というまで毎日つきまとうと思うから、そのダサ王子」


 マジか。

 ノルンの言葉には今までの経験から裏打ちされた重さが感じられた。オーバーギアを整備していたロゼッタを見上げると、やれやれとばかりに小さなため息をついている。


「ベースは同じでありまスから、機体自体は造れないことはないでありまスよ。ゴレムに合わせた調整が一からになるので、そっちの方に時間がかかるでありまスが」

「ノルンは獅子、ニアは虎だね。僕は何にしようかなあ。鹿なんか優雅でいいね! いや、二人ともネコ科だから犬……狼とか狐もアリかなぁ。二人ともどう思う?」

「激しくどうでもいいな。バカは馬か鹿でいんじゃね?」

「熊でいいんじゃないの。そのまま一生冬眠すればいいわ」


 ニアとノルンの冷たい声に、まったく堪えることなくロベールは楽しそうに話しかけていた。この王子、メンタルが強すぎだろ。


「どっちにしろ今回の戦いには間に合わないからな。お前は西大陸の王様たちと同じく見学組だ」

「むむむ……。仕方がない。次までにはお願いするよ。しかし僕がいなくて大丈夫かなあ。ノルンとニアだけじゃものすごく心配だよ!」

「あ? ケンカ売ってんのか、コラ」

「あんたに心配される筋合いはないわ」


 再びニアにアイアンクロー、ノルンに脛蹴りを食らうロベール。いや、今のは純粋に心配したんだとは思うけど。言い方がな……。

 二人の責めに対し、少しもへこたれてないドM王子。おっと、いつまでもこいつの相手をしてはいられない。ロベールたちと別れ、城下町へと急ぐ。

 町外れのそこそこ大きな庭付きの家を訪れると、僕のあげた魔道具で人間の姿に偽装したメルが出迎えてくれた。


「トウヤさん、いらっしゃい。久しぶりね」


 フレイズの『王』とはとても思えない。エプロンをして、どこかの若奥さんかと思うほどだ。なんか無性にエンデを殴りたい。

 それなりに広いが余計なものが置いていないシンプルな家の中に入ると、エンデとリセ、ネイの三人が待ち構えていた。

 手ぶらというのもなんなので、【ストレージ】に入っていたクッキーの詰め合わせをお土産としてリセに渡す。


「わざわざ悪いね。ちょっと相談があってさ」

「なんだ? 明日の戦闘のことか?」


 出されたお茶を飲みながら、僕はエンデに尋ねた。エンデには竜騎士ドラグーンで参加してもらうことになっている。なにか問題でもあったのだろうか。


「うん、それも含めてなんだけど。まずメルたちフレイズの支配種は、元は同胞であった変異種の存在を薄っすらと知覚することができる。いわゆる空間の狭間からこちら側へ乗り込んでくる時の奴らの気配がわかるんだ。ギルドにある感知板タブレットのように詳しい数や時間まではわからないけどね。だけど、メルたちの方が優れている部分もある」

「優れている部分?」

「識別する力さ。明日の変異種出現だけど、間違いなく上級種が現れる。それだけじゃない。変異した支配種もいるらしい」

「なっ……!」


 変異した支配種……。フレイズたちはユラの率いる邪神側とネイの率いるメル側に分裂した。結果、ほとんどのフレイズが邪神側に吸収されて糧となり、ネイはリセを頼ってこちら側へときてメルと再会、僕らの側へついた。


「もしもこの変異した支配種がレトとルトの姉弟だった場合、僕らに任せてくれないか。奴らに借りを返したいんだ」

「レトとルトって、あれか。お前がボコボコにされて泣いて逃げ出したっていう……」

「泣いてないよ! 逃げ出したのは本当だけど、泣いてないからね⁉︎」

「そうだっけ? でもその後、別世界で神器の双剣を盗んで、武流たける叔父に記憶を失うまでボコボコにされて、トリハランの元老院議長にいいように使われてた……」

「あー! あー! 聞・こ・え・な・いー!」


 エンデが耳を押さえて喚き始めると、横にいたネイの鉄拳が飛んだ。


「うるさい!」

「ぶうっ⁉︎」


 殴られてソファに沈むエンデ。


「レトとルトには私も借りがある。どうか聞き届けてもらえないか?」

「いや、それは構わないけど。でも危なくなったらこっちも手を出すぞ。それでもいいなら」

「構わない。感謝する」


 ネイが小さく頭を下げる。こいつもブリュンヒルドに来て、丸くなったな。前は触れれば切れそうな殺気をまとっていたもんだが。メルたちのおかげかね。

 ま、彼女の目的はメルに会うことだったんだから、当たり前とも言える。


「そういえばこっちも聞きたかったんだけど、向こうの支配種って何人いるんだ?」

「私がいた時はユラ、レトルト姉弟、それにギラだけだった。しかし、あれから増えてないとも限らない」

「どういうことだ?」


 僕はネイの説明に片眉を上げる。ギラは僕が倒したからあとは三人だけじゃないのか?


「我々は『王』であるメル様を追ってこの世界に来た。しかし故郷である『結晶界フレイジア』からユラの召喚に応じた者がいないとも限らない。奴は結晶界フレイジアにいた頃からメル様の力を狙い、『王』になろうと画策していたからな。子飼いの支配種が数人いてもおかしくはない」


 ちっ、その支配種たちも変異種化したら……いや、間違いなくさせるだろうし、今回襲ってくる支配種ってのはそいつらの可能性だってあるな。

 エンデたちの目当てであるレトとルトじゃなかったら、そっちの方は諸刃もろは姉さんと狩奈かりな姉さん、武流たける叔父に任せるか。文字通り神頼みだ。あくまで建前は新神候補の僕のサポートって立ち位置でお願いするが。


「そういや根本的な話なんだけど、変異化した支配種に勝てるのか、お前?」

「あ、馬鹿にしないでくれよ。これでも武神の弟子として、あの地獄の特訓を耐えてきたんだぞ。……何度死んだと思ったかわかるかい? わからないよねえ? ハハハ、武の境地は無我の境地。虚心坦懐、明鏡止水さ。ハハハハハハ」


 なにか思い出したのかエンデの目から光が消え、渇いた笑いが漏れ出した。明日大丈夫か、こいつ。


「しっかりして、エンデミュオン」

「はっ。……ああ、大丈夫だよ、メル。ちょっと辛いことを思い出しただけさ」


 メルに揺さぶられ、正気を取り戻すエンデ。やり過ぎじゃないのか、武流たける叔父。エンデと同じく弟子になってるエルゼがちょっと心配になってきた。


「ごちそうさま」


 ……さっきから一言も発しないと思っていたら、リセが渡したクッキーを全部平らげていた。なんてマイペースな。

 明日、大丈夫だろうか……。いや、大丈夫だ。迎撃準備は整っている。あとは奴らを撃ち砕くのみ。

 心強い(?)新たな仲間たちもいるんだ。大丈夫に決まっている。

 たぶん、きっと。













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