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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第29章 邪神降臨。
388/637

#388 黒猫と黒犬、そしてパナシェス王国。




『私たちの任務はそのアイゼンガルドという国へ赴き、情勢を探ってくるという事ですね?』

「そうだ。だけど無理する事はないぞ。何よりも自分たちの身の安全を優先して動いてくれ。


 黒猫の姿をしたゴレム、『バステト』が小さく頷く。『バステト』の横で、黒犬型の『アヌビス』の方も尻尾を振りながら頷いている。

 フェンリルと同じシリーズのゴレムなだけあって、二体には優れた言語能力が備わっていた。


『王様、俺っちに任せときな! 片っ端からブッ飛ばしてやるぜ!』


 ……犬の方は少し不安だ。僕の不安を感じ取ったのか、フェンリルがアヌビスの頭を器用に前足でぺしりと叩く。


『あいたっ⁉︎ 兄ィ、なにするんスか!』

『お前たちの任務は敵を倒す事ではない。密かに潜り込み、情報を手に入れる事である。順番を間違えるでない』

『そうよ。フェンリル兄様の言う通りよ。アンタわかってるんでしょうね? 足引っ張るんじゃないわよ?』


 起動した順番なのか、フェンリル、バステト、アヌビス、と兄弟順が決まってしまっていた。大きさでいうとアヌビスの方がバステトよりも大きいのだが。


『バステト姉ェ、俺っちがそんなに馬鹿に見え、』

『見えるわ』

『食い気味に言うなよぅ! 犬はお利口なんだぞ!』


 いや、バカ犬も結構いるけどな。っていうかお前はゴレムだろうが。

 フェンリルを見ていても感じていたが、このシリーズは人格……と言うかゴレムの個性が豊かだ。

 ゴレムの頭脳であるQクリスタルの性能が優れているのだろうか。


「本当に危ないと思ったらすぐに逃げること。あなたたちにはそのためにいろいろと力を与えたのだから」


 三体のマスターであるエルカ技師がバステトを撫でながら話す。

 彼女の相棒であるフェンリルを危険な場所に行かせるわけにはいかないと思い、この二体を手に入れたはずなのに、結局彼女にとって大切なゴレムを送り出すことになってしまった。まさに本末転倒だ。

 そのお詫びといったらなんだが、この二体には僕も様々な力を与えている。

 二体の首輪には【ストレージ】【アクセル】【シールド】【フライ】【インビジブル】などが、前足の爪には【パラライズ】や【グラビティ】などがエンチャントされている。そんじょそこらの人間やゴレムじゃ太刀打ちできない強さは持っていると思う。

 二人からの通信は『神魔毒』の影響下でも問題ないようだ。

 花恋姉さん曰く、あくまで『神魔毒』ってのは、『神、もしくは神に愛された生者が害される毒』であって、生物ではないこの二体には効果はない。

 しかし僕らには猛毒であるから、アイゼンガルド近くの島か、対岸の国あたりまで送り届けるぐらいしかできないが。

 さっそく二体を連れて、ガルディオ帝国の西、アイゼンガルドの対岸へと【ゲート】でやってきた。

 『神眼』を使って対岸のアイゼンガルド側を確認してみると、うっすらと地面から暗金色の光が滲み出ているように見える。

 神に関わりのない人間には見えないし、なんの効果もないが、あれが『神魔毒』なのだろう。見ているだけで気持ち悪くなりそうだ。


「定時連絡を忘れずに。期限は1ヶ月。情報が集まりきってなくても必ずここに戻って来るんだ。連絡すれば迎えに来るから」

『わかりました』

『がってんだいっ!』


 バステトの方は問題ないと思うが、アヌビスの方は不安だなあ。


「……おい、アヌビス。くれぐれも向こうで喋ったりするんじゃないぞ」

『えっ。なんで? ぶへっ⁉︎』


 キョトンとするアヌビスに飛び上がったバステトの猫ビンタが炸裂した。


『このお馬鹿! 犬が喋ってたら怪しさ大爆発でしょうが!』

『あっ、そっか。なるほど、そういうことか。了解!』

「……バステト。お前だけが頼りだ。このバカをなんとか使いこなしてくれ」

『バカとハサミは使いようです。うまく使ってみせます』

『二人とも酷くね⁉︎』


 抗議するバカ犬……いや、アヌビスの背にひらりとバステトが乗り移る。

 そのままアヌビスがふわりと浮いた。【フライ】を発動させたのだろう。


「じゃあ、気をつけてな」

『はい。マスターをよろしくお願いします』

『よし、いっくぜぇーッ!』


 【アクセル】を併用し、バステトを乗せたアヌビスは、ロケットのような速さでアイゼンガルドへ向けて、海面スレスレを飛んでいく。凄まじい波しぶきが立っていた。

 あのバカ、目立つなって言ったそばからかよ! 誰にも見られないといいんだが。

 しばらくするとアヌビスの姿が消えた。【インビジブル】を発動させたらしい。間違いなくバステトの判断だな。

 大丈夫かね、あいつら……。

 まあ、とりあえずこっちの方は任せるしかない。僕は僕でやれることをやろう。





「初めまして。ブリュンヒルド公国公王、望月冬夜と申します」

「これはこれは、ご挨拶痛み入る。パナシェス王国国王、ラベール・テル・パナシェスであります。ようこそパナシェスへ」


 椅子から立ち上がり、白髭のおじいさんといった感じの好々爺が手を差し伸べる。

 歳は七十過ぎくらいだろうか。しかし握られた手は力強く、若々しいものであった。

 僕は今、パナシェス王国の王城に来ていた。

 数日後に行われるリーフリース皇国との会合の打ち合わせのためにである。

 リーフリース皇国とパナシェス王国は、融合した世界で唯一、地続きになってしまった国だ。

 表世界であったリーフリース皇国の北西部と、裏世界のパナシェス王国の東部が繋がってしまったのである。

 重なり合った土地はわずかで(それでもブリュンヒルドより広いが)、人も住んでいない土地だったことからさほどトラブルにはならないと考えられた。

 しかし、そこはきちんと両国で話し合うべきなので、リーフリース皇王と重臣数名で数日後にパナシェス王国を訪れることになっている。

 もちろん僕の転移魔法でだ。今回はそれに先立ち、パナシェス王国を訪れたというわけである。

 お供には琥珀とブリュンヒルド騎士団副団長のニコラさん、そしてその部下数名である。もっともこれはカッコつけというか、見栄えを良くしようってな浅い考えだが。


「其方の事は息子のロベールより聞いておる。なんでも巨大なゴレムを乗りこなし、王であり古今無双の強さを持ちながら、謙虚さを忘れず、世のため人のため日夜世界を飛び回る、知勇兼備、天衣無縫、清浄潔白な方であると」


 どこの聖人君子だそいつは。

 僕はパナシェス王の一段下に控える、小さな青色のゴレムを従えた、カボチャパンツの王子様にジト目を向ける。


「その通りさ、父上! 我が友、望月冬夜殿は心が広く、優しさに溢れ、民草を思う素晴らしい人物なんだ!」

「ソンナコトハナイデスヨ、ロベール王子」


 この野郎。おそらくは悪意などないのだろうが、変にハードルを上げんな。あと、いつからお前と友達になった。

 エルカ博士の妹であるノルンや『紅猫あかねこ』のニアも言ってたが、確かにウザい王子様だ。善意の塊であるだけにさらに面倒極まりない。

 王子様の背後にいる青の『王冠』ブラウが、一生懸命こちらに頭を下げていなければ、さすがに『ウザッ』と口に出しているところだ。

 まあ、言ったところでこの王子様は意にも介さないような気もするが。

 とりあえずリーフリースとの会合の打ち合わせをさらりとしてから、パナシェス王にも量産型のスマホを手渡した。

 現在、元・裏世界の国でこれを持っているのは、プリムラ王国、トリハラン神帝国、ストレイン王国、ガルディオ帝国の四国だ。

 個人でだと『黒猫』のシルエットさんとかもいるけどな。

 国王同士が持っていれば何かと便利だろうからと渡したのだが、パナシェス王国は今まで島国だったし、それほど他国に連絡することがないかもしれない。ま、これからはリーフリースと地続きになったわけだし、やがて必要になってくるだろう。

 国王陛下との打ち合わせを終えると、案の定ロベール王子もこのスマホを欲しがった。が、僕は正直渡していいものか迷った。

 こいつに渡したらウザいくらいメールとか送られてこないかとちょっと心配になったのだ。

 ロベールはブラウの能力を使って空間転移ができる。そのため、僕のようにいろんなところへと飛び回っているのだが、そのたびに能力の代償として睡眠を強制される。

 親としては心配なのだろう。そんな時、連絡手段があればとパナシェス王は何度も思ったらしい。

 パナシェス王にとってロベール王子はかなり年配になってからできた子であるらしく、とても溺愛しているようだ。

 かといって、ワガママな馬鹿息子に育ててもいない。互いに互いを思いやっているいい親子関係が僕にもわかる。

 これは渡さないわけにはいかんよなぁ……。


「ありがとう! これで僕らはいつでも連絡を取れるわけだね!」

「本当に重要なとき以外はメールにしろ。メールも要点だけをつまんで短めにな」


 標的が分散されればとノルンとニアのアドレスを教えてやろうかとも思ったが、あとで二人に殴られそうだからやめとこう。


「そういえば……」


 僕は前から気になっていたことを、目の前の青いゴレムにも聞いてみようと思った。


「ブラウ。質問があるんだけどいいかな?」

『質問? かまわナイ。何カ?』

「白の『王冠』を知っているか?」

『白……「アルブス」のことカ?』


 知っている。この青いゴレムは白の『王冠』のことを知っている。


「覚えているのか⁉︎」

『我は大戦からそれほど長き眠りに入ってはイナイ。故に多少の記憶はアル』


 青の『王冠』であるブラウはパナシェス王家、いや、王家となるその前の時代から代々引き継がれてきた王冠らしい。

 そのため、他の『王冠』ほど長い休眠状態に入ってはおらず、記憶が多少なりとも残っていたようだ。

 パシャッ。


「白の『王冠』はどういった能力を持っていたんだ? その力を使えば壊れかけた結界なんかも直せる能力なのか?」


 二つの世界が一つになったことで、世界の結界にはかなりの負荷がかかっていると思われる。

 この結界がもしも破壊してしまったら、この世界は外世界に対してまったくの無防備になってしまう。

 フレイズたち……もう邪神群というべきか、それだけではなく、他の脅威もあるかもしれないのだ。壊れてもかまわないとは思えない。


王冠能力ゴレムスキルの詳細は語れナイ。他の王冠の機密事項は製作者マイスターによって漏らすことを禁止されてイル』


 むむ。そりゃそうか。簡単に聞き出せたら、他の王冠持ちに弱点とかもわかってしまうもんな。製作者マイスター……クロム・ランシェスだっけ? が、他の王冠の情報を漏らさないよう王冠たちにプロテクトをかけているってことか。


『白の王冠「アルブス」は特殊な王冠。黒の王冠「ノワール」のついにして、つい。全てを無にする愚者』


 全てを無に……? なんだその最終兵器みたいなのは。僕のイメージでは白魔道士的な、修復タイプのゴレムだと思っていたのだが。危険なものなのだろうか。

 パシャッ。


「白の王冠が今はどこにあるかわかるかい?」

『所在不明。我は黒の王冠と共にあると思ってイタ』


 そうなのか? だとしたらノワールが見つかった場所になにかヒントがあるのかもしれない。あとでエルカ博士に聞いてみるか。

 パシャッ。


「さっきからなに撮ってんだよ……」

「すごいねこれは! ほら君とブラウが映ってるよ!」

「一応撮る前に許可をもらえ。それがマナーだぞ」

「なるほど! それもそうだね! じゃあもう一枚撮ってもいいかな!」

「嫌だ」


 カメラアプリに夢中になった王子様を、バッサリと切る。こいつ、見た目に反して頭がいいから、解説書読んですぐ覚えやがった。

 自撮りの写真をメール添付とかして送ってきそうなので、それは主に王様とやってやれと釘を刺しておく。息子からの元気を知らせる写真とか、あの王様なら喜ぶだろ。

 すると王子様はかぶりを振り、真面目な口調で話してきた。


「冬夜殿、ひとつお願いがあるのだが」

「……聞くだけなら聞くけど。お願い次第ではできないこともあるからな」


 待ち受け画面にするからツーショットを撮らせろとか言うなよ? 殴るかもしれんぞ。この王子様は人との距離感が掴めなそうで怖い。


「実はストレイン王国に私の婚約者フィアンセがいるのだが、その方にもこれをひとつもらえないだろうか」

「ストレイン王国に? あー……そういえば女王陛下がそんなこと言ってたな」


 確か女王陛下の姪だったか。一応一国の王族だし、怪しい人物ではないと思うが、会ったこともない人だからなあ。

 ま、変な使われ方してもすぐにわかるようにはなっているけど。

 なんでも王子様の話では、ブラウの王冠能力でストレイン王国に行っても、代償によりその後ほぼ一日近く眠ってしまうのであまり話せないのだそうだ。確かにそれは辛いな。

 まあ、ストレイン王国の女王陛下や、その娘のベルリエッタ王女にはすでに渡してあるわけだし。王女の従姉妹いとこに当たるその人に渡しても問題ないとは思う。


「じゃあ直接本人に渡そう。【ゲート】をストレインの王都までつなぐからさ」

「それはいい! 親友の冬夜殿のことをセレスに紹介もできるし一石二鳥だね!」


 婚約者さんはセレスっていうのか。つーか、勝手に親友にすんない。同年代の男の知り合いが少ないのは認めるが。

 っていうか、エンデとかこいつとか、個性的過ぎるのが多いんだよなァ……。友人関係続けるには疲れそうでさ……。

 僕は【ゲート】を開き、ロベール王子らとともにストレイン王国の王都へと向かった。














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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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