表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/637

#378 毒殺、そして犯人。

■推理モノとかではないです。犯人は未登場のある魔法を使っているので、マジメにトリックとか考えると損します。冬夜君も似たような魔法を使ったりしてますが。




 会議は一時中断し、誰も城から外へは出さないように宰相シュバインに頼んだ。

 部屋に争ったような痕跡はない。床に転がった湯呑みと血を吐いて死んでいる南泉侯を見る限り、毒殺の線が濃厚だ。


「【サーチ:毒物】」


 【サーチ】により絨毯に染み込んだ液体から毒物の反応が感知される。やっぱりか。

 テーブルの上にはお盆が置いてあり、その上には急須とお湯の入った瀬戸物の水差しがあった。


「このお茶は誰が?」

「会議に入る前に宰相が全員の部屋に用意させた物らしい。会議が終わるまで鍵はかけてなかったらしいから、会議中にこの部屋へ入ることは誰にでもできたと思う」


 フェルゼン国王がそう答える。て、ことは誰にでも犯行は可能だったわけか。会議に出席していた人物には無理だが、その配下の者が実行した可能性もある。もちろんこのお茶を用意させた宰相にもできたろう。

 ちなみに警護の兵士たちは会議が中断したあと、ちゃんとこの部屋の前で目を光らせていた。

 扉の前にいたのに部屋の中で倒れた音なんかを聞かなかったのか? と思ったら、この部屋の天井にも例の龍がいた。アレのせいで聞こえなかったんだな。

 後で『錬金棟』のフローラを呼んで残ったお茶を分析してもらおう。なんの毒かで何か手がかりが掴めるかもしれない。


「しかしなんで南泉侯が殺されなきゃならんのだ? こう言うと失礼だが、宰相殿や王弟殿ならまだわかるが……」


 フェルゼン国王が首をひねる。確かに。脅しか? 歯向かうとこうなるぞ、みたいな。


「あ、あの、それなんですけれど……」


 うーん、と唸っていた僕らへ向けて、遠慮がちに廊下にいた女給さんが声をかけてきた。


「じ、実はこの部屋、宰相閣下が使うはずの部屋だったんです」

「なんだって?」

「宰相様は南泉侯様にあちらの南向きで広い部屋を用意したのですけど、南泉侯様がこっちの部屋の方が狭くて落ち着くので宰相様に変えてくれと……」


 女給さんが廊下を挟んで反対側にある部屋の扉を指し示す。

 確かにこの部屋は北向きで、あまり陽が差し込まない。客人である南泉侯と東海侯には南向きの部屋を、自分には北向きの部屋を用意したのか。


「ってことは……本当なら宰相殿が死んでいたかもしれないということでござるか?」


 八重の言葉に周りの人たちが凍りつく。

 宰相を毒で殺そうと狙ったが、南泉侯が部屋を変えてくれと頼んだため、彼が代わりに犠牲になった……。そう考える方が自然か。南泉侯に個人的に狙われる理由がなければ、だが。

 王弟派からすれば宰相側の人間はみんな敵なわけだし、南泉侯が狙われてもおかしくはない。けど、この状況なら宰相を狙うよな、普通。

 部屋は八畳ほどの広さで机とソファー、大きなクローゼット、北側に窓がある。扉の横には使用人を呼ぶベルの紐が下がっていた。

 クローゼットを開けてみるが何も入ってはいない。まあここは楽屋というか休憩室のようなものだしな。

 ふと、今なら蘇生魔法と言われる光属性の【リザレクション】で、南泉侯を甦らせることができるかも、とちらっと思った。

 【リザレクション】は死んでから一時間以内で、なおかつ遺体に損傷がないこと、そして莫大な魔力と生命力が必要な極限魔法である。

 かける術者も死ぬ可能性がかなり高いため、ほぼ肉親、あるいは恋人同士などでなければ使われない。

 かける方も極限魔法を使えるほどの高レベルの術者でなければならないし、最悪、どっちも死ぬということだってある。そのため、歴史上数えるほどしか生き返ったという記録はないらしい。成功率は二割を切るとか。

 僕ならリスクなく使えるかもと思ったんだが、花恋姉さんの話によると僕の場合、魔力はまだいいが生命力を与え過ぎて眷属でもない限り、その存在を変質させてしまうそうだ。

 「溶けた氷の人形をもう一度凍らせても、人形の姿には二度とならない」とは花恋姉さんの言葉。

 

「この者の魂が迷うことなく天へと召されることを祈ります。神よ、どうか彼に安らかなる眠りを」


 教皇猊下が横たわる南泉侯へ弔いの言葉を捧げる。死んだ魂は神様のいる神界にはいかない。その下の天界へと行く。

 そこで魂を浄化されて、新たな身体へと生まれ変わる。あまりにも汚れた魂は畜生にしかなれないらしいが……この人がそうじゃないことを祈るばかりだ。

 一応、ポケットの中とか、何か手がかりがないか探してみた。

 特にめぼしいものは何もない。万年筆と懐中時計、それとタバコの葉とダンパーが入ったケースにパイプとマッチ。持ち物はこれだけか。

 後で南泉侯の遺体もフローラに見てもらおう。


「王様、ちょっと」


 振り向くと廊下から桜が手招きしている。なんだ?

 現場を離れ、廊下の桜のもとへと向かう。八重も一緒か。


「どうかした?」

「うん。あのね、最近、たまに耳がよく聞こえることがあるの」

「は?」


 たまに耳がよく聞こえる? なんだそりゃ?


「すごく遠くにいる人の話し声とか、たまに。花恋お義姉さんに聞いたら王様のせいだって」

「え⁉︎ どういうこと⁉︎」

「桜殿、『眷属特性』に目覚めたでござるか? 羨ましい……」


 八重が驚いた顔をしているが、ちょっと待て。『眷属特性』ってなにさ!


「あれ? 冬夜殿は花恋義姉上から聞いていないのでござるか? ユミナ殿は目覚めたでござろう?」

「ユミナが? ……ああ、眷属化によって生まれた例の力か」


 「神の愛」を受けて眷属化しつつある者は特殊な能力に目覚める。ユミナの場合、未来予知という力を手に入れた。まだ数秒先の未来しかわからないようだけど。

 桜の場合、耳にきたのか。そういえば桜はよく奏助兄さんと歌を歌っていた。宴会と称して酔花もよく一緒にいたし。そっちの「神の愛」もあるのかもしれない。

 八重の場合、よく諸刃姉さんといるけど、ヒルダも一緒だからな。まさか分散されてるのか?


「で、ね。さっきこの部屋から絨毯の上に何かが落ちた音がしたの。ゴトッ、て。だからちょっとそっちに意識を向けていたんだけど……」

「え? でもあの部屋は【サイレンス】が……って、ああ、そうか」


 眷属化による力なんだからそれは神の力。【サイレンス】などで防げるものじゃない。ゴトッてのは湯呑みが落ちた音だろう。


「たぶんそう。でね、その後は途切れ途切れにしか聞こえなかったんだけど、なにかガサガサやっている音とか、窓を開く音とかが聞こえた」

「ちょっと待て。なんか色々おかしくないか?」

「うん。だから呼んだ」


 どういうことだ? 毒を飲んで湯呑みを落としたのなら、死んだ後に音がするってのはおかしい。この場合、南泉侯の他に誰かが部屋にいた、ということだ。

 毒は遅効性のもので、それを飲んだ南泉侯が部屋の中をいろいろと動いた後に、毒が回って死んだ……という可能性もある、か? 殺す目的で毒を入れているなら即効性のあるやつにすると思うんだけど。


「他の部屋の音を聞き間違えたりとかは?」

「むう。伊達に【テレポート】の無属性魔法を持ってない。座標軸の空間認識能力には自信がある」


 だよな。僕も【テレポート】を使うからよくわかる。

 だけど疑問点がいくつもあるぞ。そもそも南泉侯を殺すのに毒殺という手を取ったなら、犯人がわざわざその現場に足を運ぶか? いや、苦しみ死ぬところを見たいとか倒錯した目的があるなら別だけど。

 逆に出向くなら毒殺じゃない方がいいような気もする。お世辞にも南泉侯は強いとは思えない。ナイフ一本あれば殺せそうである。

 いやいやいや、そもそも部屋に犯人がいたのだとしたら、「宰相と間違って殺された」という説は成り立たない。初めから南泉侯狙いだったということになるよな。


「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」


 バリバリと蓬髪に袴姿の名探偵よろしく頭を掻きむしる。……わからん!

 僕は現場の部屋に戻り、北側に取り付けられていた窓を開けた。そこは中庭になっており、高い木が何本か植えられている。あたりには誰もいない。


「窓には鍵がかかっていない。逃げたとしたらここからだよな」


 窓を越え、中庭に出る。足跡らしきものは見当たらない。木に飛び移って枝伝いに逃げた……ってのは無理だよなあ。窓から枝まで五メートルはあるし。僕ならまあいけるけど。


「土は柔らかい。足跡くらい残るはすだが……」


 犯人がいたとしたらどうやって脱出したんだ? ああ、転移魔法で……ってあの部屋は転移阻害の魔道具があったよな。僕みたいに空を飛べるなら逃げられるけど。

 ああ、すると犯人は僕か? なるほどそれは盲点だった。

 …………ハア。馬鹿やってないでなにか見つけないとなあ。ふと、窓の下になにかが落ちているのに気付く。


「……なんだ、木屑か」


 二センチほどの細かい木屑だった。窓枠から欠けたのかな。

 そんなことを考えていると、八重がこちらへ向かって走ってきた。


「冬夜殿! 東海侯と西森侯が!」


 八重の言葉に急いで会議室に戻ると、東海侯と西森侯がお互いに睨みあっていた。

 宰相シュバインと王弟ガノッサはいなかったが、二人の横で北山侯が苦虫を噛み潰したような顔で腕組みをして座っている。


「勘違いも甚だしいわね! なぜ私たちが南泉侯を殺さなければならないの!」

「犯人は南泉侯ではなく、宰相殿を狙ったのであろう。直前で部屋が交換されたため、彼が犠牲となった。宰相殿を邪魔に思っているのは誰だ? 言わずともわかると思うが」

「私たちは殺してなどいない! そのような卑劣な真似をするわけが……!」

「西森侯はそうかもしれませんが、他の方はどうでしょうかね?」


 その言葉に腕組みしていた北山侯がジロリと東海侯を睨んだ。


「……東海侯よ。それはワシのことかね?」

「勝つためには手段を選ばず。北山侯のよくやる手では?」

「否定はしねぇよ。北部はユーロンと接していたからな。ちょっとした油断が命取り、常に狙われる危険があった。そんな状況じゃ手段なんか選んでられねえのさ。ま、そこの公王陛下がユーロンを潰してからはかなり楽になったけどよ」


 視線をこちらに向けて北山侯がニヤリと笑う。っていうかここでも誤解されてんのか。


「言っときますが、僕はユーロンを潰してはいませんよ。国を立て直すチャンスはいくらでもあったのに、あの国は自分たちの利益にばかり走った。国が瓦解したのは自業自得です」

「……天都を消したのは公王陛下ではないのですか?」


 東海侯がこちらに視線を向けてくる。それも違うっての。


「アレはフレイズがやったことです。なぜかユーロンの人たちは『公王があの場にいなければ水晶の怪物は現れなかった。戦いも起こらず、こんなことにはならなかったはずだ』とか言いますけど、僕があの場にいなかったらユーロンの人たちは一人残らず殺されてましたよ」

「……なるほど。ユーロンの民は感謝するべきですな。さすがは公王陛下。素晴らしい」


 東海侯が手を叩いて拍手する。

 む。なんだろうな、東海侯の言葉に棘を感じる。さっき案内してくれた時はそんな風に感じなかったんだけど。親戚にユーロンの人でもいたのかな?


「公王陛下ならば今回の暗殺が誰の仕業かもうすでにおわかりなのでは?」

「いや、さすがにそれは……。まあ、調べてはいますけど、まだ自殺という可能性もないわけじゃないですし」


 無茶言うなっての。手がかりが少なすぎるわ。

 東海侯が眼鏡を外し、懐から出したハンカチでそれを拭いながら西森侯たちを睨みつける。


「こう言っては南泉侯に失礼に当たりますが、宰相殿が毒殺されずにすんでよかったですよ。宰相殿が亡くなっていたら、クオ王子がいたところで我々などあっという間に潰されていたでしょうから」

「……どうしても私たちを犯人にしたいようね」

「貴女が犯人だとは言ってませんよ。同じ派閥でもなにも知らされていない方もいるでしょうし」

 

 二人が再び睨み合い始めたところで、扉が開き、宰相シュバインと王弟ガノッサが姿を現した。


「南泉侯の家臣たちには事情を説明した。申し訳ないが、部屋を用意させたので諸君らにはしばらくここに留まってもらう」

「ガノッサ様、いいんですかい?」


 宰相の言葉に北山侯がガノッサへ向けて尋ねる。言ってみれば王城は宰相派のホームだ。警戒するのもやむを得ないだろう。


「構わぬ。我らに後ろ暗いところはない。すぐに疑いは晴れる」


 臆することなく王弟ガノッサがそう答える。本当に犯人じゃないのか、それとも証拠なんか見つかるわけがないと思っているのか……。

 現時点ではなにもわからないなあ。ここにいる人たちの犯行ではなく、一部の家臣が勝手に暴走した結果、ということだってありえるわけだし。


「では部屋に案内する。申し訳ありませぬ、フェルゼン国王陛下。陛下たちの部屋もすぐに案内させますので……」

「その前に。よろしいでしょうか?」


 ラミッシュ教皇猊下が手を上げる。お?


「神の御名においてあなたたちの良心に尋ねます。直接、間接的に関わらず、あなたたちは南泉侯を殺してはいないのですね? はっきりと『殺してはいない』と宣言してもらえますか?」


 教皇猊下のこの質問に当然ながら全員が「殺してはいない」と答えた。

 宰相に連れられて王弟と侯爵たちが退室していく。会議室には僕たちだけとなり、現れた案内の兵士たちに連れられて、王城の奥にある広めの客室へと通された。

 新しく案内された部屋の天井を見るが、ここにも龍がいる。だけどまあ一応念には念を入れて、と。


「【サイレンス】」


 音を遮断する魔法を部屋にかける。これで絶対にこの部屋の会話は漏れない。まあ、元からこの部屋に誰かが隠れていたとしたら聞こえてしまうが、その気配はないので大丈夫だろう。

 僕は教皇猊下へと目を向ける。


「で、どうでした? さっき魔眼を使ったんですよね?」

「はい。先ほどの質問に一人だけ嘘をついている者がおりました」


 質問は「直接、間接的に関わらず、南泉侯を殺してはいないか?」という限定的なもの。つまり嘘をついているということは、本人自身が「南泉侯を殺した」と認めているということだ。


「そ、それで誰が嘘をついていたのでござるか?」


 八重の言葉に教皇猊下がゆっくりと口を開く。


「はい。嘘をついていたのは東海侯────トーレン・ハノイです」












■他のHJノベルスの先生たちも公開しているので、自分も宣伝をば。


今月24日、明日より書泉様にてHJノベルスSHOSENフェアというものが開催されます。

そちらで「異世界はスマートフォンとともに。」を購入されますと、書き下ろしのSSペーパーが付いてきます。1〜4巻、どれを購入しても添付されるとのことです。

さらに数冊ではございますが、サイン本も販売されます。サインというか、サラッとペンネームを書いただけですが……。それだけだとなんなのでオリジナルのネームハンコも押させていただきました。


よろしくお願いいたします。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ