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375/637

#375 芽生え、そして協力。

長くなったので二話に分けております。1/2





 ガレージ前では言い争う二人の声が聞こえていた。ものすごい剣幕で二人が対峙している。どうやら僕には気がついてないようだ。


「なんであそこで突っ込んできたんですか! あなたまでクラッシュする必要はなかったでしょう⁉︎」

「じゃあ君はあのまま崖下へ転落して、完全にリタイアになってもよかったって言うのか⁉︎ そんな終わり方、僕は納得できない!」

「だって……っ! このままじゃ、あなたまでリタイアに……!」


 次第にベルリエッタ王女の顔が悲しみを帯びて俯いていく。


「まだリタイアじゃない。まだ可能性はある。幸い僕らはドライバーであり、技術者でもあるんだ。現場で直して走るようにすることだってできる。優勝するのは難しいかもしれないけど、完走はしたいだろ?」


 確かにルール上、リタイアを宣言せず、規定時間をオーバーしていないならば、修理することもOKである。もちろんコース内にドライバー以外の者が入ればそのチームは失格になるが。

 ガチャガチャと大きな工具箱に道具を入れて、ルーフェウス皇太子が立ち上がる。

 ベルリエッタ王女は俯いたまま動かない。その王女の手を取り、半ば強引に皇太子が引っ張っていく。


「とにかく向こうに戻ろう。考えるのはそれからでも遅くない」

「……うん」


 二人はピットポイントのゲートから障害コースへと転移していった。

 なかなか行動力があるな、ルーフェウス皇太子は。そういや例のオバサン婚約者を捕縛するときも、先頭に立って真っ先に行動してた。まああれはだいぶ私怨があったようにも思えるが。

 なんとかレースに復帰できるといいけど。この最終コースの規定時間は長いから十分に可能性はある。

 ここまできたついでに自分のガレージを覗いてみると、ミニロボたちがブリュンヒルド号を修理しているところだった。あれ、思ったより早く直ってるな。それほどダメージはなかったのか?

 そういえば車体に焦げたあととかが全くない。まさか……あの爆発って見せかけだけの幻影魔法か? 吹っ飛んだのは風魔法?

 くっ……騙された。これだったらリタイアしなくてもよかったかもしれん。早まったか。

 それとミニロボたちの力を甘く見てた。よく考えたらこいつらも古代文明の技術力の結晶なんだよなあ。そりゃ優秀なはずだわ。フレームギアでさえ扱えるんだもんな。


『おおっと! トリモチゾーンにフェルゼン号が突っ込んだニャ! 強引に進もうとするが……動かない! なんて強力なトリモチニャ! ニャニャッ⁉︎ フェルゼン国王、車を降りて自らの車を持ち上げたニャー⁉︎』


 ガレージの中にある小型映像盤(モニター)にはネバつくトリモチに塗れてまたしても自分の車を持ち上げるフェルゼン国王の姿が映っていた。なにやってんだこの人……。

 そのまま車をトリモチゾーン外へと運ぼうとするが、当然自らの足もトリモチに捕まっている。

 その時になって初めて『しまった!』という顔をしたフェルゼン国王が映し出された。いやいやいやいや、わかるでしょうが、普通!

 なんとか足を踏み出そうとしているが、溶けた飴のようなトリモチに絡め取られて踏ん張りがきかず、最終的にバランスを崩して車ごと倒れてしまった。


「ぬおおおっ!」


 それでもまだ抜け出そうと、もぞもぞと動いている。その姿はまるで台所に設置した捕獲器にひっかかった……いや、それを言うのはやめておこう。

 これではフェルゼン号は実質リタイアだろう。

 ルーフェウス皇太子とベルリエッタ王女が優勝するのは難しいだろうから、残るはラピスさんの白鳥号とロゼッタ&モニカの銀星号、あとニアの紅猫号か。

 この三台はどれもロゼッタたちの製作した車であり、スペック的にはさほど差はないはずだ。となるとあとはドライバーの腕にかかってくるわけだけど。

 障害コースに設置されたトリモチゾーンを白鳥号と銀星号があざやかにクリアしていくのに比べ、なんとも危なっかしくニアがクリアしていく。大丈夫か、あいつ。

 モニターの端に映る分割されたサブ画面にはトリモチから逃れようともがくフェルゼン国王の姿が見えた。いい加減リタイアすればいいのに。

 その下のサブ画面には海峡ゾーンに辿り着き、自分たちの車に向かうルーフェウス皇太子とベルリエッタ王女の姿が見えた。……修理の方、大丈夫かな。

 気になったので現場に【ゲート】で向かう。僕はリタイアしたし、車のことはさっぱりなので手伝うことはできないけど。


「どう? 直りそうかな?」

「公王陛下?」


 ボンネットを開けてなにやら確認していた皇太子が僕の声に顔を上げる。


「魔動機の発動刻印とエーテルラインが完全に焼き切れてます。かなり無理な加速をしましたからね。車体の強度ばかりに目がいっていて、魔動機内部の強度までは手を入れてなかった」


 皇太子が悔やむように声を絞り出す。車体の方も無事とは言い難く、後輪の一つは歪んでいた。


「そっちの方は?」


 タイヤを外していたベルリエッタ王女にも声をかけた。ストレイン号は前輪を二つとも外され、リヤカー状態になっている。


「前輪が一つ海に落ちたみたいで、このままじゃ走れません。残った車輪を真ん中に取り付けて、三輪にすればなんとか走れるんじゃないかと思ったんですけど……」


 三輪バイク……トライクのようにするつもりだったのか。

 それならなんとか……と思った僕に、彼女は座席の下に落ちていたモノを見せる。それを見た僕は、思わず「あちゃー」と声を出してしまった。

 ハンドルじゃんか、それ。


「折れました。速さを追求するあまり、強度は二の次でしたので……」


 あれじゃあトライクとして復活しても意味がない。曲がれないんじゃなあ……。

 ……ん?

 僕は目の前にある故障した二台を見比べた。その僕の視線につられて、二人も自分と相手の車に目をやり、やがて二人の視線が交錯する。

 あ。


「あのさ……二台の部品を合わせたりとかってできない、」

「「それだっ!」」


 の? と聞こうとして声を引っ込める。できるみたいです。確かにルール上、協力して走ってはいけないとは言ってなかった。


「ストレイン号の魔動機はアイゼンガルドのキエリス馬車に積まれているタイプか?」

「うん。テリオン製。ゴレム馬車でもかなりの高級品よ」

「よし、なら大丈夫だ。魔動機の移し替えは僕がする」

「私はストレイン号のタイヤをトリハラン号の歪んだやつと交換するわ。あ、青いピンから先に外さないとエーテルリキッドが漏れるから気をつけて」

「わかった」


 目の前でお互いにテキパキと僕にはわからん指示を出し、ものすごいスピードで作業が進んでいく。


「なるほど……。起動刻印を少しズラしてるのか。どうりで干渉を起こさないはずだ」

「へえ……。ここをこのパーツで補うことによって耐久性を上げているのね。こっちのも……」


 かなり厳しい状況なのに二人には楽しそうな笑みがこぼれている。どうなってんだか。


「きっかけができたのよ。一気に距離が縮まったのよ」

「……出たな、野次馬神」

「酷っ! お姉ちゃんは恋愛神なのよ!」


 背後から聞こえてきたいつもの声に、軽いため息をつく。いきなり現れてももう驚かないぞ。


「お互いのことを認め始めているのよ。まだまだ淡い恋心だけど、確かに芽生えているのよ」

「そーですか」


 よくわからんが、その手の神様が言うんだからそうなんかね? ついさっきまで怒鳴りあいの喧嘩をしてたのに、もう仲良くなるってのはどういうことだ?

 もともと同じ趣味だし、性格が合わないこともなかったんだろうけど。歯車が噛み合ったってことなのかねえ。


『おおっと! トップを走る白鳥号、突然目の前を横切る猫の親子に立ち往生ニャ!』


 は? なにやらニャンタローがわからんことを口走っているので、撮影係のヴァルキリーの子に視覚をリンクする。

 すると停車している白鳥号の前を、猫の親子がズラッと横一列に並び、横断している姿が見えた。長っ! 子猫何匹いるんだよ!

 これもコースの障害なのか⁉︎ 確かに強引に走るわけにもいかないけど……。

 背後から追いかけてきた二番手の銀星号もその場で止まる。ありゃ。追いつかれた。

 猫の横断は終わることなく続いている。ラピスさんとロゼッタは困った顔をしているだけだが、モニカがイラつき始めたな。まあ、気持ちはわかる。

 このままじゃニアにも追いつかれるぞ。あ、ほら後方からやってきた。

 ニアも子猫たちを見ると急ブレーキをかけて停車する。結局、三台が同じ位置に並んでしまった。

 ある意味なんて恐ろしいトラップだ。ものすごく和むけどさ。


『ニャニャ……。これを障害と言うのは立場的にものすごく複雑ニャ……』


 まあなあ。ニャンタローはケット・シーだし。

 その間もニャンニャンニャンと子猫が横断し続ける。101匹いるのかもしれんなあ……。

 あ、モニカが車から飛び出した。どうやら我慢できなくなって、自分で子猫を向こう側へ運ぶつもりらしい。

 モニカが横断している子猫の一匹を優しく持ち上げようとした瞬間、


『ニャニャッ⁉︎ 子猫がすり抜けたニャ⁉︎』


 子猫たちの映像が揺れる。幻影魔法か! モニカが次々と子猫たちに触ろうとするが、どれもこれもすり抜けるばかりで実体はなかった。

 ニアの紅猫号が飛び出す。それに続いてラピスさんの白鳥号も走り出した。モニカが車に戻るのを待って銀星号も発進する。

 つまりはあの幻影は時間稼ぎか。意地の悪いことだ、まったく。


 フィィィィィィン……フィィィィィィン……。


 ルーフェウス皇太子とベルリエッタ王女が組み立てた魔動乗用車エーテルビークルは、トリハラン号の後部フックに後輪だけになったストレイン号が接続されて、6輪になっていた。

 トリハラン号だけで走ってはストレイン号はリタイア扱いになってしまうとはいえ、無理矢理感が否めない。

 そのトリハラン……いや、合体したからトリレイン号か? の魔動機が先ほどから唸りを上げているが、まったく起動しない。魔力がうまく循環していないのだろうか。


「頼む、動いてくれ……!」

「動いて……お願い!」


 運転席に座り、魔力を流すルーフェウス皇太子。それを祈るように助手席から見つめるベルリエッタ王女。

 ん? あれ、今……。


「かかった!」

「やった!」


 ドゥルンッ! と、一際大きな轟音を響かせて、さっきまで沈黙していた魔動機が突然目を覚ます。唸りを上げてエーテルリキッドの残滓光が後部マフラーからキラキラと噴き出した。


「行くよ!」

「はい!」


 6輪となり生まれ変わったトリレイン号が、ものすごい勢いで海峡エリアから走り出した。あっという間に小さくなって見えなくなる。

 

「おー、速い速い。もう見えなくなったのよ」

「……花恋姉さん、さっき神力ちから使ったよね?」

「さぁー? なんのことやら、なのよ」


 すっとぼけてるが、あの魔動機がちゃんと動いたのは姉さんが何かしたからだ。ほんの僅かだけど神気の動きを感じた。なにをしたかまではわからないが。


「恋する乙女の祈りには、いつも奇跡が起きるのよ」


 ウインクしながら花恋姉さんが楽しそうに笑った。











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