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#341 紅猫隊、そして亡国の王子。



「うしっ、やっぱりオレたちはこうじゃないとなー」


 満足気にニアが笑みを浮かべる。目の前には紅く塗られ、肩に猫のマーキングが入った十機の重騎士シュバリエ

 変異種が現れる間、機体のベースカラーを塗り直させてくれとニアに頼まれたのだ。

 もともと「紅猫あかねこ」用にレンタルするつもりだったから、別に構わないっちゃ構わないんだけどさ。しかし猫のマーキングとか器用なもんだね。

 「紅猫」の操縦者パイロットの中に、そういったことが得意な人がいるらしく、なんか型紙とテープだけでテキパキと塗ってしまった。

 それ以外の場所は僕が即席で作ったでっかい刷毛はけで、フレームギアを使ってお互いに器用に塗っていた。ずいぶんと慣れたもんだ。

 ちなみにペンキは【ストレージ】に無かったので、バビロンまで跳んで持ってきた。


「真っ赤にしちゃってまあ……。目立つからわかりやすいけどさ」


 エルゼのゲルヒルデと被るけど、向こうのとは少し色合いが違う。緋色ひいろくれないというか。まあ、機体の形状で判別はつくけど。

 スマホの時計で確認すると、すでに時間は午後四時を回っていた。出現するならそろそろだが……。


「夜戦になるのは勘弁してもらいたいところだなあ……」

重騎士シュバリエに暗視装置は組み込んであるんですよね?」


 僕の方を見上げ、ユミナが尋ねてくる。以前、フレイズたちと深夜戦闘になった際、外付けのバイザーのようなものを重騎士シュバリエに取り付けて戦闘を行った。

 その時の反省を踏まえ、今回の重騎士シュバリエにもユミナたち専用機ヴァルキュリアと同じように、内部に暗視装置を組み込んでいる。暗い闇の中でも問題なく戦闘はできるはずだ。


「組み込んではあるけど、機体のカメラが壊されないとも限らないからね。そうなったら真っ暗闇の中、簡単には動けなくなる。同士討ちなんか起こったら最悪だ。やっぱり明るいうちに出てほしいところだね」


 まあ、まだ日が沈むには余裕がありそうだけど。

 来るなら早く来てほしいと思うにはもう一つ理由がある。


「まあ、町からそんなに離れてないし、見つかることは想定していたけどねえ」


 町近郊の平原に陣取った、巨大なゴレムを操る怪しい集団。彼らにはそんな風に見えているんだろう。

 隠れているつもりだろうが、上空で見張る紅玉の目は誤魔化せない。こちらの平原の方を、岩場の陰から覗いている奴らが何人かいる。


《一人町へと引き返しました。おそらく連絡に走ったのでしょう》

《まあ町の警備兵とかにどうこうできるとは思えないけど、一応見張ってて。戦闘中に飛び出されても迷惑だし》

《御意》


 非常事態を察し、町から僕らを探りに何人かが斥候に来ているようだ。今ごろ町では僕らの方を襲撃者と勘違いしてパニックになってるかもしれない。説明したところで納得してもらうのは無理だしなあ。

 ここは「魔工国アイゼンガルド」って国だが、あいにくとこの国にツテはないし。侵略者扱いされて攻撃を受けないとも限らないが、こんな都から離れた場所に、軍や騎士団が来るには時間がかかるだろう。もちろん、その前に終わらせるつもりだ。

 この国はその名の通り、魔工技術が発展した工業国らしく、東の「ガルディオ帝国」と肩を並べる軍事国家でもあるとか。下手したらゴレム戦車ぐらいはあるかもしれない。そんなもの持ち出されたらたまらんからな。

 そんなことを考えていると、平原に張られたテントの中から、リーンが感知板タブレットを持って現れた。


「出現兆候を確認したわ。あと十分ほどで空間に亀裂が入るはずよ」

「来たか」


 どうやら夜間戦闘はしないで済みそうだ。重騎士シュバリエ操縦席コクピット内にあるスピーカーにスマホをつなげる。


「変異種の出現兆候確認。総員戦闘準備に入れ。約十分後に戦闘開始」


 それを聞いて、紅猫あかねこの人たちがそれぞれ重騎士シュバリエのコクピットハッチを閉める。

 低い起動音が各機体から漏れ出し、次々と紅い重騎士シュバリエたちが立ち上がっていく。


『いよいよか。腕が鳴るぜー』

『ニア。あまり調子に乗らないように』

『緊張するっスねえ』


 言葉とは裏腹に、あまり緊張してないような声がスマホのスピーカーから流れる。ま、変にガチガチになられるよりはマシか。


「リーンとユミナはサポートに回ってくれ。中級種もニアたちに任せるつもりだけど、ヤバそうなら割って入っていいから」

「わかりました」

「了解」


 ユミナたちも専用機ヴァルキュリアに乗り込む。って、ポーラも乗るのか……。リーンの邪魔すんなよ?

 数分後、バキィンッ! という音がして、空中に亀裂が入る。「紅猫あかねこ」たちが展開する真っ正面に生まれた亀裂は、雛が孵化する前の卵のようにその範囲を広げていく。


『うおお、ヒビが入った!?』

『来ましたね』

『ふああ、ドキドキするっス!』


 やがて一際大きな破壊音とともに砕け散った空間の割れ目から、暗金色の変異種がゾロゾロと這い出してきた。

 ほとんどが下級種で、形も蛇のようなものからカブトムシのようなものまで様々である。

 しかしその中でも、大きな変異種が三体ほど確認できた。中級種だ。

 フレームギアの大きさを一般的な成人男子とすると、下級種は小型犬、あの中級種は小さいバスくらいはある。

 【ロングセンス】を使い、視界を飛ばして確認する。普通の中級種よりも大きいな……。っていうか、下級種でもサイズはまちまちだし、中級種だってデカい種はいるか。

 それよりも問題なのは三体の中級種のうち、一体が飛行タイプだということだ。アレは……マンボウ型、か?

 マンボウと同じようにゆっくりとした動きをする……とは思わない方がいいな。意外と素早いかもしれない。目も口もなくて、形がそれに近いってだけだし。もうちょい形がシャープだったらエンゼルフィッシュ型だし。

 というか、空中にいるやつはニアたちには無理だ。飛べないし、射撃武器も投擲武器もないからな。


「ユミナ。あの飛んでる変異種を狙ってくれ。あれはニアたちには無理だ」

『了解です』


僕の背後に立っていた銀色のブリュンヒルデが、スナイパーライフルのような銃を構えた。フレイズと違って核の位置が透けて見えるわけではないが、経験からおおよその位置はわかる。

 マンボウ型はこちらに正面を向けていると薄っぺらいな。薄いといっても実際は何メートルもあるんだろうけど。

 そのマンボウにビシィッ! と蜘蛛の巣のような亀裂が入る。ユミナの狙撃が命中したのだ。

 よく当てられるよなー、と感心していたら、そのマンボウが内部からドゴォォン! と派手に爆散した。うわ、びっくりした!

 【エクスプロージョン】が付与された晶弾たまか。フレイズは体の表面に当たる魔力はほとんど吸収してしまうが、内部に発生した魔力はあまり吸収できないらしい。【アポーツ】利いてたしな。

 どうやら今の一撃で核を内部破壊されたらしい。マンボウが辺りに破片をばら撒き、そのまま地面に落下する。不気味な黒煙を上げて、暗金色の体が溶解し始めた。

 それを合図に戦闘が始まった。十体の紅き重騎士シュバリエが、下級種の群れへ突っ込み、剣や槍、メイスといったそれぞれの武器で次々と薙ぎ倒していく。

 マンボウは倒れたが、残り二体の中級種は健在だ。足の長いダチョウのようなやつと、恐竜……イグアノドンのようなやつが見える。もちろん大きさは違うだろうが。

 「紅猫あかねこ」たちに続いて、リーンも変異種の群れに飛び込む。グリムゲルデは殲滅戦砲撃型、大火力の機体であるが、まさかこの状況で斉射するわけにもいかない。あくまでサポートということで、「紅猫あかねこ」たちの手が回らない場所に撃ち込み、変異種たちを牽制している。

 その間にもユミナのロングショットが、変異種の攻撃を受けそうになる重騎士シュバリエを救っていた。

 その下級種の群れからダチョウ中級種の前に飛び出した一機の重騎士シュバリエ。背中に書かれたナンバーからすると、ありゃニアだな。


『うりゃッ!』


 ニアの機体が飛び上がり、首にあたる部分に剣を振り下ろす。渾身の力でもって断たれた細い黄金の首が、見事地面に落ちる。

 が、切り落とされた首の根元からすぐさま再生が始まり、元通り首が復活してしまった。


「ニアー。核を潰さないとそいつらは再生するって言ったろー?」

『わ、わかってるよ! ちょっと確認しただけだっつーの!』


 嘘つけ。忘れてたろ。下級種をまったく相手にしないで真っ直ぐ中級種に向かって行ったもんな。

 他のみんなは確実に下級種を潰していってる。今のところ問題はなさそうだ。すでに半数近くが消滅していた。

 ダチョウ中級種を相手にしているニアのところに、エストさんの重騎士も辿り着いたみたいだ。お、まずは足から潰しにいったな。おそらく核は胴体だし、まずは機動力を奪うようだ。

 もう一体のイグアノドンタイプは別の重騎士とやりあっている。背番号からすると、あの隻眼のおっさんか?

 フレームギアは個人の戦闘技量が表に出る。あの動きからすると、生身でもなかなかの実力者なんだろう。手にした槍を自在に操り、イグアノドンの動きを封じている。

 そこに新たに二機の重騎士も加わった。隻眼のおっさんに付いていた褐色の美女と糸目青年か。こちらもなかなかの腕と見た。向こうはあの三人に任せても大丈夫かな。

 ニアの方に視線を戻すと、エストさんに続き、ユニも加わっていた。

 中級種に三人ずつのグループがそれぞれあたり、残りの四人が下級種を駆逐している。うまくバラけたな。

 イグアノドンの頭部前方に光が集まる。む、光線レーザーを放つ気だな。「紅猫あかねこ」たちにはちゃんとそのあたりのことも説明しておいたから、一つのところに固まらないように三機とも散開し、止まることなく動いていた。

 放たれた一条の光は誰に当たることもなく、空中を突き進んでいく。


「あ、やば」


 外れた光線の先に町がある。上級種の荷電粒子砲モドキなら町が消滅するところだが、中級種程度なら家が吹き飛ぶくらいだ。

 だからって、もちろん放置できるわけもない。


「【リフレクション】」


 反射魔法の壁を斜め45度に展開、レーザーを空の彼方へ反射して吹っ飛ばす。やっぱり町の近くだと面倒だな。


『っりゃ!』


 倒れたダチョウ型の胴体部にニアの重騎士が剣を突き刺すと、変異種は黒い煙を放ちながら、ドロドロとその形を崩していった。やったな。

 イグアノドン型の方も隻眼のおっさんの槍が核を貫いたらしく、溶解を始めていた。

 最後の力を振り絞ってか、いきなりダチョウ型がその長い嘴を地面に突き刺した。一心不乱に何回も刺し続けていたが、やがてどろりと溶けてしまう。なんだ?

 この時、もっと注意深く観察していればと、僕はあとになって後悔することになる。

 とりあえず下級種もほとんどが打ち倒され、ほぼ殲滅完了といったところか。


「片付いたかな?」

『そのようですね』


 ブリュンヒルデからユミナの声が流れてくる。まあ、下級種百体にフレームギア十機ならこんなもんか。怪我人もいないようだし、上出来かな。

 フレイズとの戦いならこの後に晶材を集めるところだけど。変異種との戦いは実入りがないし、さっさと引き上げるか。

 本来ならばこの国「魔工国アイゼンガルド」が対処すべきことだし、僕らがしゃしゃり出てくるのは筋違いかもしれない。が、放っておけば確実に被害が広がってしまう。もっと他の国に情報を流す必要があるな。

 「黒蝶パピヨン」……っともう「黒猫」だっけ。のシルエットさんに頼んで、各国の宿屋や娼館でそういった噂話を流してもらうか。

 一人思案に耽っていると、散らばっていた紅き重騎士シュバリエたちがこちらへ戻ってきた。

 コクピットハッチを開けて、ニアが猫のような身軽さで地面に降り立つ。


「どんなもんだよ、おい!」

「いや、お前動きに無駄が多いから。エストさんとかユニの動きとか見てないだろ? 集団戦に向かないタイプだな」

「よくお分かりで」


 なぜか自慢気なニアをたしなめると、横にいたエストさんがその通りとばかりに頷く。

 まあ、本来の紅猫あかねこたちの戦いだと、ルージュを伴ったニアの力が大きいからな。そうなるのも無理ないか。

 ニアはゴレム用の機体に移ってもらう予定だし、そこはエストさんに任せて大丈夫だろ。

 全員揃ったのでフレームギアを【ストレージ】に収納する。上空うえで監視していた紅玉もバサバサと翼をはためかせ、降りてきた。


「紅玉、眷属の何羽かでここらを見張っててくれるかな。あとで状況を知りたい」

『御意』


 紅玉がピィ──ッと鳴くと、二、三羽の小鳥が空を舞い始めた。


『これで大丈夫かと存じます』

「ありがとう」

「喋んのか、その鳥……」


 ニアが会話する僕らを見て、目を丸くする。今さらかよ。お前のところのルージュも喋るだろ。

 よし、じゃあ引き上げますか。

 僕らは開いた【ゲート】をくぐり抜け、出発した廃砦へと戻る。当たり前だが、出発した時となんら変わらない風景が出迎えてくれた。


「ふぃー、わずか数時間なのに、酷く疲れたっスねえ」

 

 そう言ってユニが砦の壁にもたれる。他の団員も帰ってきた仲間の無事を喜び、用意しておいた酒や食事を野外に置いてあるテーブルに並べ始めた。宴会かよ。

 僕が苦笑していると、その中から例の三人が僕らの前へとやってくる。隻眼のおっさんと褐色美人、糸目青年だ。

 それに気づいたニアが、三人と僕の間に立つ。


「おっと、そういやそうだったな。冬夜、遅くなったけど紹介しとく。こいつらは先代からのメンバーで、おっさんが『大佐』、姉ちゃんが『中尉』、チャラいのが『軍曹』」

「大佐?」

「仮の名だ。我々は本名を悲願達成まで使わないことにしているのでね」


 凶悪な顔を歪ませて大佐が笑う。笑うとなお怖いわ。確かに三人とも、軍人的なところがなんとなくあるようにも見える。


「ユミナ」

「はい」


 僕はユミナに魔眼を使ってもらい、この三人に問題がないことを確かめた。ユミナの『看破の魔眼』なら、「少々悪人寄り、しかし根っからの悪人ではない」といった細かい魂の淀みまで見抜ける。まさか義賊団の「紅猫あかねこ」に変な野心を抱いた者がいるとも思えないが、念のためだ。

 ユミナが微笑んでこくりと頷く。どうやら大丈夫みたいだ。


「誰かを探して欲しいとのことでしたが」


 大佐は服の内ポケットから革張りの手帳を取り出し、中に挟められていた一枚のモノクロ写真を僕に手渡してきた。

 そこには瀟洒な椅子に腰掛け、赤ちゃんを抱いた女性が写っていた。歳は二十代前半といったところか。高級そうなものを着ていて、ネックレスには大きな宝石が付いている。貴族だろうか。


「この人を探すんですか?」


 大佐の奥さんとか? 目の前の厳ついおっさんと見比べる。……似合わん夫婦だな。無い無い。


「残念ながらその方はもうすでに亡くなられている。探してほしいのはその腕の中におられる方だ」

「え? こっち?」


 写真にもう一度視線を落とし、女性の腕の中で眠る赤ちゃんを凝視する。いや、この子を見つけてほしいって言われても……。僕は赤ちゃんなんか全員同じ顔に見えるぞ。

 「赤ちゃん」なんかで検索したら、地図一面ヒットしたピンだらけになるんじゃないか?


「そもそもこれっていつの写真なの?」

「十年前のだ。なので現在は十歳の子供ということになる」


 十年前かよ! この写真の子が成長して十歳になった姿なんてわからんよ! っていうか男の子なの!? 女の子なの!?


「男の子だ。その子こそガルディオ帝国と魔工国アイゼンガルドに滅ぼされた『レーヴェ王国』国王陛下の遺児、ルフレディン王子である」











挿絵(By みてみん)


■兎塚さんによるリーンとポーラのラフ。ラフっていうか、ほとんど完成品です。


■二巻のイラストも続々と上がってきて自分のテンションも跳ね上がっております。兎塚さんによる下着姿の四人のラフイラストに興奮しっぱなし。八重がスゴいの……。


■これがカラーで拝める「イセスマ」第二巻、8/22発売予定となっております。よろしくお願い致します。




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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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