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#309 上級種二体、そして侵食。




 オウムガイの上級種はふよふよと砂漠の上、四メートルほどの高さで浮いていた。確かオウムガイは殻の中にガスを溜めたり排出したりして、浮き沈みするってじいちゃんに聞いたことがあるな。潜水艇と似たその性質から、作家ジュール・ヴェルヌは自分の小説に登場する潜水艦にこのオウムガイの英名を付けた。「ノーチラス」と。

 オウムガイは素早い動きはできないというが、それがこの上級種にも当てはまるかどうか……。


「どうする……。二体も上級種が出るなんで予想外だ。まとめて倒す……なんてのは無理だよな……」


 とっておきの切り札としては、ドリル弾を撃ち出す巨大魔砲「ブリューナク」がある。あれなら上級種もうまくいけば一発で倒せる。

 しかしあれは一発撃つのに時間がかかるので、連射はできない。さらに二発目を撃つにはバビロンで一度分解して調整しなければ、狂った照準を戻せないのだ。

 おまけにあれを撃つには莫大な魔力と、火と風属性の魔法が必要になる。

 魔力は僕が注ぎ込んでもいいのだが、注入量を間違えるとドヴェルグの時みたいに暴発する可能性もある。下手したら「ブリューナク」を扱う、リンゼとリーンを危険に晒しかねない。なのでそれは却下だ。

 砂上だと【スリップ】をかけても対象となった砂がすぐ風で散らばるだろうから効果はないしな……。


「どっちにしろ……まずはくらえ、【流星雨メテオザッパー】!」


 二匹の上級種のいる上空に、晶材のかけらで作られたソフトボール大の「星」が次々と転移して現れる。あらかじめ【グラビティ】を施したそれは流星となって地上へと降り注いだ。

 空より飛来する星に気がついたのか、孔雀の上級種が首を上げる。


 キイィィィィィィィィィィィィン!!


 甲高い共鳴音を響かせて、孔雀が広げた尾羽を空に向ける。よく見ると孔雀で言いうところの、尾羽の丸い模様のところがまるでレンズのように丸みを帯びていて、そこに小さな光が集まり始めていた。まさかあれって……!

 キュバッ! と、尾羽のレンズから拡散された無数のレーザーのようなものが放たれる。それは落ちてくる星をことごとく撃ち落とした。いや、撃ち落としたというか、消滅させた。

 拡散粒子砲モドキかよ! あんなのどうやって防ぐんだ!?

 僕が焦っていると、孔雀フレイズは尾羽を折りたたみ、まっすぐに寝かせ、元の状態に戻った。まるで武器をしまうかのように。

 なんだ? ひょっとして向こうも「ブリューナク」と同じように連続では放てないのか?

 わからないが……あの孔雀の拡散レーザーはまずい! 今のうちに叩く!


「モニカ! 大至急『格納庫』から『ブリューナク』を転送してくれ! リンゼ、リーン、射撃準備!」


 バビロンにいる「格納庫」のモニカにスマホで指示を送る。

 【ストレージ】の中に【グラビティ】を施した星はまだある。が、物量的にあと一発が限度だ。今、奴に落としたところで、多少のダメージは与えられるが仕留めるまでにはいかないだろう。

 なら「ブリューナク」を撃つ前に「流星雨メテオザッパー」をかまして、奴がそれに拡散レーザーを使ったら、そのチャージ中に「ブリューナク」で核を撃ち砕く。

 問題はそれまで、この状況が持つかだが……。

 「ブリューナク」がバビロンから転送され、それをリンゼのヘルムヴィーゲと、リーンのグリムゲルデがしっかりと挟み込むようにして受け止めた。

 ブリューナクから伸びるコードをそれぞれ腰の位置にあるコネクタに接続する。ブリューナクにある鉤爪のようなアンカーが砂漠に打ち込まれた。


『ブリューナク接続。チャージ開始します』


 リンゼの声と同時に、ブリューナクの側面にあるゲージがゆっくりと伸びていく。それを横目で見ながら、僕は他の専用機ヴァルキュリアたちに指示を送った。


「エルゼ、八重、ヒルダは孔雀フレイズを牽制、リンゼたちから注意を逸らしてくれ! ルーとユミナはオウムガイのフレイズを孔雀から引き離せ! 桜とスゥはリンゼたちの護衛を! しばらく変異種は放置でいい!」


 オウムガイの方にもあんな拡散レーザーがないとも限らない。せっかくの「流星雨メテオザッパー」を、あっちに撃ち落とされたんじゃなんにもならない。

 変異種も厄介だが、重騎士シュバリエでも倒せないことはない。それにあいつらは僕らより先に、フレイズに襲いかかるだろうからな。


『くっ……! この長い尻尾、邪魔ね!』


 孔雀フレイズが向きを変えるたびに振り回される畳まれた尾羽を躱しながら、エルゼのゲルヒルデがじわじわと接近していく。

 同じように八重のシュヴェルトライテと、ヒルダのジークルーネも孔雀フレイズの元へと砂漠の上を駆けていった。

 やがて三人の機体は砂漠に立つ孔雀の右脚へと辿り着き、それぞれがその脚へと渾身の一撃を放つ。


『粉ッ、砕!』

九重真鳴流ここのえしんめいりゅう奥義、鳳雛飛廉ほうすうひれん

『レスティア流剣術、三式・斬鉄!』


 ゲルヒルデのパイルバンカーと、シュヴェルトライテの刀、ジークルーネの剣が、同時に孔雀フレイズの右脚に放たれる。

 以前出現したワニやゴリラ、リクガメといった上級種に比べて、今回の孔雀フレイズは足が細い。三機もの同時攻撃に耐えられず、孔雀の右脚は見事に砕け散った。


「よしッ!」


 足を砕かれ、孔雀フレイズがバランスを崩す。倒れてくる体に巻き添えを食わないように、三機とも素早くその場から離脱していた。

 上級種が倒れた衝撃で砂漠に砂塵が高々と舞い上がる。砕けた右脚はどうせすぐに再生されるだろうが、これで少しは時間を稼げる。

 孔雀フレイズの向こうでは、背中に装備された「ブースターユニット」の多方向バーニアを使い、素早い移動と加速を繰り返して、ルーの乗るヴァルトラウテがオウムガイを引き寄せていた。

 オウムガイはふよふよと浮かびながら、無数の触手をヴァルトラウテへ、槍のように突き出してくる。しかし、Bユニットを装備したヴァルトラウテは、右に左に素早く躱しながら、砂漠を後退していく。

 どうやらオウムガイはそれほど素早くはないようだ。飛んでいるというよりも、浮いている、というだけで、高速移動はできないのだろう。

 それでも油断はできない。本体のスピードは素早くなくても、触手を放つスピードはかなり速い。ヴァルトラウテもBユニットでなければ、これほど余裕を持って回避はできなかったと思う。

 不意にガキャッ! という破壊音と共に、オウムガイの触手の一本が砕け散る。後方にいるユミナのブリュンヒルデによる狙撃だろう。

 ブリュンヒルデは周囲に溶け込むステルス機能があるので、ここからだと確認できない。ステルスを解除すると銀のボディが太陽を反射して、キラキラと目立ちすぎるしな……。

 

『充填完了! いつでも撃てるわよ!』


 リーンからの通信に孔雀の方へと視線を戻す。

 孔雀の右脚はすでにほぼ再生していて、自力で立ち上がり始めていた。

 自分を狙う「ブリューナク」の魔力に気がついたのか、孔雀フレイズはその翼を広げ、そこからサーフボードのような形をしたものをリンゼたちへと一斉に撃ち出してきた。

 無数の水晶羽がリンゼとリーンに迫る。しかし、その前に立ち塞がったのは、すでにサポートメカと完全合体をしていたスゥの乗る巨大フレームギア、オルドリンデ・オーバーロードだ。


『スターダストシェル!』


 翳された左手から放たれた無数の星型の光が、瞬く間に並んで光の防御壁を形成する。飛来した水晶羽は全て星の盾に防がれ、弾き飛ばされた。

 防御に関してはオルドリンデの右に出る機体はない。最年少のスゥを戦場に出す以上、安全に安全を重ねたからな。

 羽根を撃ち出した孔雀フレイズの翼が再生していく。やるなら今か。


「もう一度くらえ、【流星雨メテオザッパー】!』


 今度は孔雀フレイズ単体目掛けて「星」を落としていく。それに反応し、先ほどと同じように尾羽を広げて迎撃体勢に入る孔雀フレイズ。

 拡散レーザーが再び放たれ、襲いかからんとしていた頭上の流星か、先ほどと同じように次々に消滅させられていく。


「今だ!」


 リンゼのヘルムヴィーゲとリーンのグリムゲルデが構える「ブリューナク」から、轟音を響かせてドリル弾が発射された。

 ドリル弾が砂漠の砂を舞い上げて、一直線に孔雀フレイズの胸部に突き刺さる。

 刺さった弾は凄まじい破壊音を砂漠に轟かせ、孔雀フレイズの体の中を回転しながら突き進む。そのままドリル弾は一気に胸部奥にある大きなオレンジ色の核を貫き、背中へと突き抜けた。

 孔雀フレイズの動きが止まり、体中に無数の亀裂が走っていく。次の瞬間、轟音を響かせながら孔雀フレイズは粉々に砕け散り、ガラガラと水晶の残骸となってその場に瓦礫の山を作った。


「まずは一匹……!」


 ブシューッ! という音に振り向くと、「ブリューナク」とリンゼたち二体のフレームギアから、もうもうと蒸気の煙が立ち上っていた。


「二人とも大丈夫か?」

『だい、じょうぶ、です。問題ありません』

『こっちもなんとか……。魔力はもうほとんどないけど』


 二人の魔力自体は、僕の渡した婚約指輪からある程度回復することができるだろう。

 しかし、それとは別に「ブリューナク」を使用した身体的疲労があるはずだ。魔法を使うのにもそれなりに体力がいる。一気に魔力をギリギリまで使い切ったわけだしな。二人は少し休ませないと。

 どうせヘルムヴィーゲとグリムゲルデもかなりの負荷がかかっただろうから、戦闘はしばらく無理だ。


「二人とも一回本陣に転移させるよ。フローラに診てもらうといい」


 本陣には機体整備のために「工房」のロゼッタだけではなく、「錬金棟」のフローラも控えている。戦闘で怪我をした騎士たちの治療にあたるためだ。

 【ゲート】を開き、「ブリューナク」ごと二人のフレームギアを本陣へと転移させる。

 よし、あとはオウムガイの方を……。


『冬夜さん!』


 ユミナの声にオウムガイの方に視線を向ける。そこに見えたものは、たくさんの変異種に取り付かれ、空中でもがいているオウムガイの姿だった。

 オウムガイに取り付いた変異種たちは、自らの体を融合させるようにオウムガイを侵食していた。

 オウムガイのフレイズはもがきながらも触手を伸ばし、取り付いた変異種たちを切り刻んでいた。

 しかし、いかんせん数が多過ぎる。オウムガイの体が暗金色の塗料で塗られていくように、少しずつ融合され、だんだんと変化していく。

 やがて砂漠の上にオウムガイがドズンと落ち、やたらめったらに何本もの触手を振り回し暴れ始めた。

 間違いなく変異種たちはあのオウムガイのフレイズを喰っている。いや、乗っ取ろうとしているのか。


『冬夜殿、あれを!』


 突然、オウムガイの殻から禍々しい棘のようなものがいくつも伸びてきた。細い触手が融合していき、長く太めのイカのような触腕に変わっていく。

 金属のような光沢と、鋭角的なフォルムから、軟体動物みたいなぶよぶよとした気持ち悪さはないが、不気味なことに変わりはない。

 全身を暗金色に侵食されたオウムガイがずるりと動く。────いや、もうあれをオウムガイとは呼べないだろう。イカやタコやカタツムリ、そういったものを混ぜ合わせた異形のなにかだ。

 全身も一回り大きくなったような気がする。取り憑かれた変異種の分だけ大きくなったのだろうか。

 なおも上級変異種の変態は続く。オウムガイの殻の部分であった箇所がメキメキと左右に割れ、中から円錐状の長いものがたくさんせり出してきた。

 突然、それが四方八方にまるでロケット花火のごとく無秩序に撃ち出される。その撃ち出された円錐状のものは空中で爆発すると、さらに細かい矢となって、砂漠に水晶の雨を降らせた。


「シールドッ!」


 降り注ぐ矢の雨を【シールド】で防ぐ。

 これはユーロンであのワニの上級種が使ったクラスター爆弾モドキか。

 敵も味方も関係ない。フレイズやフレームギア全てに攻撃を仕掛けやがった。変異種と同化したあいつにとって、フレイズはすでに味方ではないのかもしれないが。

 そこかしこでフレイズが砕け、フレームギアが腕や足を破損している。フレイズは核さえ無事なら再生するだろうが、こっちはそうはいかない。


「ロゼッタ! 今の攻撃の被害状況は!?」

『中破29、大破7。大破搭乗者はいずれも転移脱出済みでありまス。ただ、うち二名は重傷。死ぬようなことはないでありまスが、戦闘は不可能でありまスよ』


 コクピットに運悪く当たったのか、何発かまとめて受けたのか。なんにしろ死ななかっただけでもよかったが……。


『冬夜様! また同じものが!』

「なにっ!?」


 飛び込んできたルーの声に顔を上げて上級変異種を見ると、いつの間にかさっきと同じミサイルがせり上がっていた。

 再び打ち出されるミサイル。そしてまた広範囲に水晶の矢がバラ撒かれる。くそっ! いい加減にしろよ!

 中破19、大破8。また三人ほど重傷者が出たようだ。こんなのを繰り返されたら……。


『冬夜君、聞こえるか?』

「博士か?」


 バビロンにいるはずの博士から通信が入る。なんかあったのか?


『まだ慣らし運転もしてない状態だが、この際構わないだろ。今から君の機体を送る』

「っ! 完成したのか!?」

『九割方、といったところだがね。いくつかの装備が使用できないが、それでも君なら充分に戦えるはずだ』


 砂漠に光の粒子が集まり、次の瞬間、そこには一体のフレームギアが立っていた。

 全身に水晶の装甲をまとい、透明なその部分にいくつかの金色のラインが走る。大きさは標準的なフレームギアと同じ。背中には折り畳まれた翼のようなものがあるが、あれは装備であって翼ではない。

 左右の腰に幅広の刀を装備し、盾はない。基本的に攻撃をメインにするためだ。頭部の角は二本後ろへと伸びていて、肩も突き出すような鋭角さを持っていた。

 全体的にスタイリッシュな趣きがあるが、同時に力強さも感じる機体である。

 これが僕専用のフレームギア、多様戦万能型「レギンレイヴ」。

 「神々を継ぐもの(レギンレイヴ)」の名を冠したそのフレームギアは、太陽の光を受けて煌めいていた。








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