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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
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#268 島の状況、そして一触即発。





「それで、どういうことが分かったの?」

「そうだな。文化レベルはこちらと大差ない。ただ、生活圏がものすごく狭い。巨獣なんてものがそこら中にいるから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。だから、限られた結界内でしか街が発展してない。他は本当にまばらに集落がある程度だ」


 食堂でクレアさんの作ってくれたラーメンを食べながら、エルゼの質問に答える。写真や材料、作り方をネットで細かく調べて教えたら、見事に再現してしまった。少し薄い気もするが、充分美味い。ナルトまで再現するとは恐れ入った。

 今度は餃子に挑戦するとか。チェーン店とかできるんじゃなかろうか。

 食堂には僕とエルゼリンゼ姉妹、八重しかいない。ユミナは弟のヤマトに、ヒルダは兄のレスティア騎士王に会いに行っているし、スゥは今日は来ていない。ルーはクレアさんの手伝いで食後の杏仁豆腐を作っている。桜は学校で母親であるフィアナさんの手伝いをしてるし、リーンは昼過ぎなのに、まだ寝ていた。夜遅くまで、「図書館」でなにか調べていたようだ。


「そんな島に、住んでいるなら、結界を、使えそうなものです、けど……」


 ふうふう言いながらリンゼもラーメンを食べている。彼女はあまり箸がうまくないので、フォークを使っていた。


「どうやらあの大規模な結界は、島全体と、東西南北の都、そして中央の神殿しか無いらしい。おそらくだけど、それ自体が「時の賢者」の遺産なんじゃないかな」


 つまりはアーティファクトってことだ。だから新しく施すことができない。生活できる安全地帯が限られているってのは大変だな。まあ、結界の外だからって、そうそう巨獣に襲われることもないはずなんだが。

 あのサイズになると、人間なんて食べても腹が膨れないからな。他の大型魔獣とか、もっと腹の足しになりそうなものを狙うだろう。

 結界外に街なんか作っても、巨獣が通りかかっただけで壊滅だしな。せいぜい、数軒の家を建てて、村のようなものを作るのが関の山だろう。


「巨獣退治はしないの? ある程度の犠牲覚悟で戦えば、勝てないこともないんじゃない?」

「や、戦ってはいるみたいだよ。都に大きな移動式の投石機カタパルトとかあるらしいし。巨獣が迫った時は結界の外に出て、それで追い払ったりしてるんじゃないかな」


 でなきゃいくらなんでも5000年も生き残ってはいないだろう。巨獣への対処法は、大陸の僕らより進んでいるんじゃないかな。それでも、結界の防御障壁頼りな面はあるだろうけど。


「種族的には人間だけなんでござろうか?」


 こちらはリンゼと違って、巧みに箸を使い、ラーメンをすする八重。イーシェンにも蕎麦やうどんはあるから、慣れたものだ。ちなみに彼女が今食べているのは三杯目だったりする。

 あれだけ食べているのに太らないんだから、実に不思議だ。まあ、食べた分だけ運動をしているのも確かなんだけれど。


「いや、人間が多いのは確かだけれども、微妙に亜人や魔族も混ざっているみたいだ。こっちとは違って偏見は無いようで、ひとつの都に一緒に暮らしている」


 そこらへんはこっち側も見習って欲しいもんだな。狭い生活圏では、仲良くならざるを得ないのかもしれないけど。厳しい環境を生き抜くには互いに協力しないと。


「あと国土の割りに人口が驚くほど少ない。これは農業とか漁業とかが、しにくい環境が関係しているかもしれないけどね」


 せっかく広い土地があっても、田畑を作ったそばから破壊されるのでは、たまったもんじゃないだろう。一年間苦労して育てた作物が、収穫前に全て潰されることもあるわけだ。泣きたくなるよな。

 考え方によっては、結界内に田畑を作った方がいいような。結界の周りに家を建て、巨獣が襲ってきたら結界内の畑に逃げる。

 家は壊されるかもしれないが、食糧は残る。こっちの方が種としては生き残る可能性が高いと思うんだが……。


「それにしても巨獣の島か……。なんだってそんな進化をしたのかしらね」

「魔素濃度が関連しているかもって話だったな。博士が言うには、だけど」

「魔素濃度?」


 あまり聞きなれない言葉にエルゼと八重が首を傾げる。

 魔獣ってのは普通の動物から大気の魔素を取り込んで、進化していった種もかなりいる。そのため、魔法に似た能力を持つものも多い。雷を放つ雷熊とかだな。

 その中でも、特に濃い濃度の魔素を取り込み続けたものが、巨獣になるんじゃないかという話だった。

 通常、魔素は拡散されていて、そこまで濃度は高くならない。しかし、大森林の奥地とか、深海、天険の霊峰などには、いわゆる「魔素溜まり」と言われる場所が稀に存在する。

 この「魔素溜まり」が巨獣を生み出す要因になっているのではないか、という話だ。

 ではなぜそんな「魔素溜まり」ができるかと言うと、魔素を吸収する存在(これは動物や魔獣だけじゃなく人間も含まれる)が、極めて少ないこと、空気や水の流れが留まりやすいこと、などが影響されるのではないだろうかと博士は言っていた。

 そして問題の「帰らずの島」だが、この島は全体を結界で囲まれている。つまり、魔素の逃げ場がない。結界で拡散されても行き場所が島しかないなら意味はない。拡散=消滅ではないからな。

 結果、魔素溜まりのようなものができやすくなる。それが巨獣を生んでいるのではないかと。


「でもその「魔素溜まり」? 人間は影響されたりはしないの?」

「人間は、自分の魔力容量より、多くの魔素を取り込んだりはしないから、大丈夫だよ、お姉ちゃん。気分が悪くなるとは思うけど」


 姉の疑問をリンゼが答える。魔獣だって、その魔素溜まりで生活していたら突然巨獣になるわけじゃない。何代も子を生み重ねて、結果、突然変異に近い巨獣が生まれるんではなかろうか。

 当たり前だが、突然変異である以上、巨獣がつがいになることはないため、一代で滅ぶはずだ。まあもっとも、巨獣の寿命は素体の種に比べて、かなり長いらしいけど。

 問題はその突然変異がポンポン生まれていることだよなあ……。

 中には近い種が出会って、二世誕生、もあり得るよな。そうなるともう突然変異じゃなく、新種なのだろうか。

 巨獣同士での戦いもあるみたいだし、まさに怪獣島だな。宇宙から銀色の戦士でもやってこないだろうか。3分しか戦えないんじゃ使えないか。


「ってことは、その結界を解けば「魔素溜まり」も消えて、巨獣が生まれる可能性も低くなるわけでござるか?」

「ま、そういうことになるね。結界を張り続けているのは、それを知ってか知らずか……。難しいところだけど」


 もしくは自分たちでは解除できないのかもしれないが。そう考えるとあの島の住民は、閉じ込められた人たちなのかもしれない。


「どっちみち、接触を図ろうとは思うんだけど、近隣の国に説明もしないといけないしな。エルフラウとハノックは会議に出席してくれるみたいだけど、パルーフからはまだ返事をもらってない。リーニエ国王がうまく口説いてくれるといいんだけど、島のことをこの時点で説明もできないしな……」


 最悪パルーフ抜きで進めることになるが。あの島と貿易をすることになれば、巨獣の素材なんかを手に入れやすくなるとは思うんだけど。ただ、通貨が島独特の硬貨だから、物々交換になりそうなんだけども。一応、金貨、銀貨、銅貨、とあるらしいので、それ単体の価値はあるとは思うが。


「接触するのはもうしばらくかかりそうかな……。ま、急ぐ話でもないんだけど、やっぱり、」

「大変です!」


 バンッ! と食堂の扉をあけて、メイド長のラピスさんが飛び込んできた。うわっ、びっくりした! リンゼが気管にネギでも入ったのかむせている。


「先ほど、大樹海のパム様からゲートミラーでお手紙が届きまして、大樹海の部族がサンドラの魔獣戦士団に襲われたそうです!」

「なんだって?」


 サンドラが大樹海へ侵攻したっていうのか? なんでまた……。大樹海の部族とサンドラ王国は、暗黙的にだが、お互いに不可侵だったはずじゃ……。


「襲ったサンドラ軍はその部族たちを次々と捕らえ、王都キュレイへと送っているとか。どうやら奴隷にするために集落を襲ったようです。この事態にパム様たち「樹王の部族」は、奪われた同胞を取り戻すために、サンドラへと向かおうとする他部族を抑えるのに大変だとか……」


 奴隷にするために襲ったのか。おいおい、盗賊ならまだしも、一国の部隊が動いたってことは、大樹海の部族と事を構えるってことだぞ? あそこはそれぞれの部族から成り立っているが、一つの国家と言ってもいいコミュニティを作っている。本気で喧嘩を売ったとしたら、戦争になるぞ……。


「やはり「隷属化の首輪」の、更なる量産化に成功したという噂は本当だったのでしょうか?」

「うーむ……」


 その噂が本当かどうかを確かめるために、三人娘をサンドラに送ろうとしていたんだけどな。

 「隷属化の首輪」が増えれば、それだけ魔獣戦士団の兵力を揃えることができる。いかに大樹海の部族が勇敢だとて、魔獣の軍団を相手にするのはキツイだろう。

 その軍団をもって大樹海へと侵攻しようというのか?

 アスタルの都が消滅したことも関係あるかもしれないが……。


「とりあえず、大樹海の部族がサンドラに攻め込むのはまずい。そんなことになったら完全に戦争になる」

「どうする気?」


 エルゼが眉を顰めて聞いてくる。


「幸い、ブリュンヒルドは「樹王の部族」であるラウリ族と友好関係を結んでいる。大樹海の部族とサンドラの間に立ち、捕らえた部族の返還をサンドラに要求しよう」

「返してくれますかね?」

「返してくれて、いろんな損害を賠償してくれたら、なんとか……。関係は最悪だろうけどね。それでも戦争は避けられるかもしれない。ひょっとしたら一部の者たちの暴走って可能性もあるしな」


 奴隷にすることが目的なら、虐殺されたりはしてないと思うが。殺されていたら……もう引き下がれないかもしれない。

 樹海の民は何よりも同胞と誇りを大事にする戦士たちが多い。どちらも傷付けたサンドラを許すことは無いだろう。


「そうだな……ある意味これはサンドラを知るいい機会かもしれない。パムと連絡をつけて、ブリュンヒルドの使いを正式にサンドラへ送ろう。そこで国王や重臣たちの考えを聞かせてもらおうじゃないか」

「使者を立てるわけ、ですね。一体誰を? まさか騎士団長を送るわけにもいかないでしょうし、副団長のニコラさんか、椿さんですか?」


 リンゼの言葉に僕はニヤリと笑う。


「僕が行く」

「え!?」

「姿を変えれば問題ないだろ。大樹海の部族から抗議文を託された、ブリュンヒルドの使者、ってわけだ」


 それにあんな物騒な国にウチの大事な人材を送れるか。悪い噂しか聞こえてこないような国だぞ。「誘拐王国」って呼び名もあるのに。

 死んだりしそうもない、ウチの姉さんやイトコたちを使者として送るって手もあるが、みんな交渉には不向きなんだよなあ……。耕助叔父くらいか。

 まあ、今回はサンドラの考えを、探ってやろうってハラだから、僕が行くのがいいだろ。

 「図書館」で見つけた魔法や、「研究所」のティカと博士に頼んでおいた、例の「秘密兵器」も完成したって言ってたし、いざとなったらいくらでも対処のしようはある。

 抗議文を渡し、最悪の答えが帰って来た場合、サンドラ王国は二度と「奴隷王国」と呼ばれなくなるだろう。

 サンドラにゃウチのダンジョンに来ていた新人冒険者たちに、ちょっかい出された恨みもあるしな。あれは奴隷商人単独の仕業だったが、その裏でサンドラ王国自体が奴隷を買い取っていたのは確かなんだ。

 しかも、わざわざウチの情報まで教えてたらしい。うまいこと自分たちの手を汚さずに、奴隷を手に入れようって考えだったんだろうが。

 他の国王たちにも確かめたが、村を襲ったりして奴隷となる人間や亜人を集めている盗賊団も、サンドラお抱えの奴隷商人が手引きしているようだった。

 つまり、あの国の奴隷商会自体が、国のお抱えなわけだ。国家ぐるみで人攫いをしている。言ってみれば犯罪王国じゃないか。

 問題は国王がそれを知った上でやっているのか、まったく知らずに踊らされているのか。……どっちにしろ最悪な感じはするが。

 そこらへんを見極めさせてもらおう。結果次第では容赦はしない。












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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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