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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
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#266 緊急招集、そして帰らずの島。




 次の日、東西同盟の代表たちに緊急招集をかけ、アスタルの都で起こった出来事を全て話した。都が滅んだその内容も問題だったが、何より問題だったのはその原因である。

 フローラの検査では、くノ一三人娘からは何も検出されなかった。結局、なにが原因で人間がフレイズ化したのか、未だにわからない。

 その報告に王様たちからは落胆の色が見えた。次に同じようなことが自分の国で起こるかもしれないのだ。そりゃ、不安にもなる。

 「魂を喰われた」人間がアンデッドになることは昔からあることらしいので、それ自体はあまり驚くことではないという。問題はその規模であり、これが魔物の仕業なのか、フレイズの計略なのかが判断がつかないところらしい。

 だが僕は、十中八九、フレイズのやったことだと考えていた。でなければあの水晶骸骨の説明がつかない。

 唯一の救い(というほどでもないが)は、骸骨フレイズ自体は普通の騎士や冒険者でも対処できるということか。

 ただ、僕が思うに、あれはたぶん副産物に過ぎない。奴らの目的は人間の魂を喰うことであったのではないかと思えてならない。

 やはり従属神が絡んでいるのだろうか。諸刃姉さんたちの言う、邪神とやらを生み出そうとしているのかもしれない。

 従属神絡みの話は王様たちにはできないしなあ。教皇猊下はわかってくれるかもしれないけど。

 とりあえず僕らにできることは今はない。せいぜい小さな変化を見逃さないくらいか。

 一応この情報はレリシャさんを通じて冒険者ギルドのギルドマスターだけに知らせておくことにした。


■「魂喰い(ソウルイーター)」をする何かが「存在」すること。


■「魂を喰われた」人間が骸骨フレイズに転化すること。


■あとこれは僕の勝手な推測に過ぎないのだが……いわゆる「負の感情」に満ちた場所に現れるのではないか、ということ。


 もともと負の感情に引き寄せられるレイスやスペクターといった「魂喰い」の魔物と、人間の負の感情を取り込んで生まれる邪神。この共通点をスルーする気にはなれない。

 アスタルの都は「奴隷都市」と呼ばれるほど、奴隷の数も多く、取引も多かったと言う。

 奴隷を売買する者たちの欲望、奴隷となった者たちの絶望、虐げられる奴隷たちの悲嘆、奴隷を虐げる者の傲慢さ、そういった「負の感情」が呼び水となったのではないだろうか。

 あくまで仮説に過ぎないが、僕の考えはあながち外れていないと思う。

 これが当たっていたら、ユーロンあたりもマズいんじゃないかな、などと考えてしまった。だけど、あの辺りは人もまばらになってしまったし、「負の感情」が渦巻くほどではないと思うが。死んだ魂が、今でも地上を彷徨っているとしたらわからないけど。

 まあ、これは僕の推測に過ぎないので絶対というわけではないし、本当のところはわからない。たまたまあの都がターゲットになっただけかもしれないし。

 とりあえずサンドラへの偵察はしばらく見合わせることにした。僕の予想が当たっているとしたら、「負の感情」が渦巻くサンドラが、再び「魂喰い」の被害に合う可能性もある。今回は助かったが、あの三人が巻き込まれるのは避けたいからな。

 邪神なんか誕生してほしくないんだが……。完全な神でもない以上、姉さんたちは神として大きく干渉できない。となれば、相手するのは絶対に僕じゃんか。

 ……どこからか伝説の勇者でも現れてくれないもんかなあ。






 会議を終えて、バビロンへと転移すると、博士が「研究所」の第二ラボでこの世界の地図をモニターに映し、首をひねっていた。

 机の上にはいろんな書類や本やペンが散乱して、飲みかけのコーヒーやら食べかけビスケットなんかも置かれている。片付けろよ。虫がわくぞ。


「なにしてんだ?」

「む? ああ、冬夜君か。なにね、ちょっと不思議なことに気がついてね」

「不思議なこと?」


 博士が手元のコンソールで、モニターに映る世界地図の右側に、同じ世界地図を映し出す。んん? あれ、この地図違うやつか? 似てるけど細かいところが違うような……。


「これはボクが生きていた5000年前の世界地図だ。フレイズとの戦い以前のね。地形を変えるほどの大規模な魔法や地殻変動により、今と比べるとかなり変化してしまったのがわかるだろう?」


 そう言って、左右の世界地図を重ね合わせる。ああ、確かに。海岸線が削られているところや、陸地が繋がっている箇所も見える。へえ、リーフリースとリーニエって、5000年前は地続きだったのか。ガウの大河がラミッシュまで伸びて無いし。

 地形が変わっているのは魔法で吹っ飛ばされたかな? まさか宇宙コロニーが落ちたわけじゃあるまい。


「フレイズには直接魔法は効かなかったからね。「大地爆散グランブレイク」のような地面ごと爆発させるような馬鹿な真似をした国もあったのさ」


 地面を爆発させて、その岩でダメージを与える魔法か。まあ、それぐらいしないと上級種なんかとは渡り合えなかったのかもしれないけど、そりゃ地形も変わるか。

 古代魔法には強力なものが多いし、危険なのはわかっていたんだろうけど。高レベルの土属性には、広範囲の地形を隆起させたり、陥没させたりできるのもあるらしい。

 実際、なり振りかまってられなかったと思うしな。人類滅亡の危機だったわけだし。


「ここがボクの住んでいた神聖帝国パルテノ。今のベルファストからレグルス、ブリュンヒルド、ラミッシュ、ロードメア、フェルゼン、レスティアやホルン王国の一部にも届く、大陸のほぼ三分の一を占める大帝国だった」


 表示されたパルテノの支配域を見る。すごいな。こりゃ。確かに大帝国だわ。西から東へほとんどの地域じゃんか。元いた世界なら、ヨーロッパから中国まで全部って感じだ。


「ボクらの時代はフレイズがゼノアスのあたりから攻めてきて、今のユーロン、ノキア、ハノックあたりにあった国が真っ先に滅んだ。だからこの辺りは地形も変化が多いんだよ」


 確かにゼノアスやユーロンの方には湖なんかが多いけど、あれってそういった戦いの名残りなのか。

 古代王国だって、フレイズに対して全力で抵抗をしただろうし、戦いは熾烈を極めたんだろうな。どんな戦いがあったのか想像もつかない。


「それで? なにが不思議なんだ?」

「うん。この……今で言うエルフラウの北にある島なんだけれど」


 5000年前の地図には、エルフラウ王国にあたる場所から北の海域に、ラミッシュ教国と同じくらいの島があった。が、現在の地図にはその島はない。沈んでしまったのだろうか。


「この島は当時、魔の島と呼ばれていてね。周りの海域には海の魔物、セイレーンがいて全く船を寄せ付けず、飛行艇で近づいても、原因不明の障害が起きて墜落する始末でね。深い霧と雲に覆われたその島を目指して帰って来た者はいない。誰ともなく「帰らずの島」と呼ばれるようになったのさ」


 ずいぶんと物騒な島だったんだな。古代文明の技術でもわからないって、相当なんじゃ……。ひょっとして、大樹海の大樹の精霊や、ラミッシュでの闇の精霊のように、なにかしら精霊の力でも働いていたのか?


「その島が現代には何故か存在しない。沈んだのかとも思ったのだけれど、ちょっと気になってね。ここら一帯を魔力検知してみたんだよ。その結果がこれさ」

 

 モニターに映し出されたエルフラウ北方海域に、魔力反応を示す赤いもやのようなものが広がっていた。これは……結界か!?

 位置的には5000年前に存在した魔の島と一致する。まさか、今まで結界でその存在を隠蔽し続けていたのか!?


「ボクのバビロンも似たようなものだけどね。5000年もの間、空を浮遊し続けていたわけだし。できないことじゃないとは思う。ただ、「誰が」「なんのために」という疑問は残るけどね」

「……どこかの国の魔法使いや魔工学者が、フレイズから逃げて「帰らずの島」へ渡り、誰にも見つからないように結界を張ったんじゃないか?」

「その可能性もないわけじゃないが……。これだけの規模の結界となると、よほどの者じゃないと張れるもんじゃない。当時、ボク以外でそんなことができそうなのは「時の賢者」と呼ばれた伝説の魔導師ぐらいだけど、彼はフレイズの侵攻前に老衰で死んでいるしな……」


 博士が腕を組んで椅子にもたれる。ナリが幼女なのでなんとも様にならない。


「「時の賢者」?」

「そのまま、その通りさ。彼は時空魔法を操る。未来視、瞬間移動、時間停止、時間逆行、空間切断……。とんでもない爺さんだったよ。ま、操るといっても自由自在に操れるわけじゃなくて、いろんな条件や準備が必要だったみたいだし、どれもこれも極めて短時間だったけど」

「時間停止って……とんでもないな、時空魔法ってのは……」

「なに言ってるんだい。君の使う「ゲート」や「テレポート」、「ストレージ」だって時空魔法のひとつじゃないか。まあ、彼のすごいところは、それをひとつの系統にまとめあげたことにあるわけだけど、誰にでも修得できるというものじゃなかった。その結果、廃れていってしまったわけだけどね」


 そうか。無属性魔法みたいに個人しか使えないというのではなく、他の属性魔法のように、より多くの人たちに使えるようにしたのか。確かにとんでもない爺さんだな……。

 そんな時空魔法を操る爺さんなら、あの規模の結界も難しくない、か。外界との関わりを遮断する、という結界の本質も、時空魔法に通じるものがあるし。


「その爺さんの弟子とかが張ったのかもしれないな」

「弟子……弟子ねえ。ま、この島へ行ければそういったこともわかるかもしれないけど。「グングニル」で飛んで行っても、機器障害で墜落させられたら怖いし、どうしたものかと思ってね」


 確かにそれは困るな。「フライ」で飛んで行っても、「黄金結社ゴルディアス」の時のような「魔力遮断」の結界だったら、落っこちるし……。

 魔力を使わない乗り物で行けばいいのか?


「瑠璃か紅玉に乗って行けば大丈夫かな?」

「ああ、その手があったか。そうだね、召喚獣なら落とされる心配もないと思う。ただ、この結界が侵入者を迷わせるタイプのものだった場合、島とは見当違いの場所へ誘導される恐れがあるけど」


 とりあえず行けそうな気がしたので、さっそく島へ乗り込もうと思ったが、博士に止められた。

 なにがあるかわからないし、まずは偵察を送り込んだ方がいいというので、紅玉配下の鳥たちをその島へ向けて放つことにした。

 結界が張ってある以上、誰かが住んでいる可能性は高い。だけど、古代文明時代にも人を寄せ付けなかった島。ガラパゴス諸島じゃないが、外界から全く遮断されてきたわけだし、僕らの想像もつかない独自の進化を遂げている可能性もある。

 一体あの島にはなにがあるんだろうか?









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