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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
263/637

#263 幕間、そして潜入調査。




「ふむ。戻されたか」


 「揺り戻し」により次元の狭間に戻されたユラが、なんとなしにつぶやく。いささか邪魔は入ったが、目的は達したので問題はないと考えた。


「よォ、向こうの世界はどうだったよ? 面白ェモンでもあったか?」


 狭間の闇の中からギラが声をかけてくる。ユラはそれを一瞥し、ひとつ息を吐くと口を開いた。


「貴様の言っていたトウヤとかいうヤツに会った。確かに強いな。腕を一本切られた」

「カカッ、ホレ見ろ。俺様の目は確かだったろうが。言っとくがアレと「王」の核は俺様の獲物だからな。手ェ出すならお前ェでも砕くぜ?」

「勝手にしろ。私はどちらも興味はない」

「ふン、相変わらず何考えてンのかわからねェヤツだ。ま、邪魔しねェってんなら文句はねェよ」


 舌打ちして再び闇の中へとギラが消えていく。強者と戦うこと、そしてそれをねじ伏せること、ギラの頭の中はそれしかない。

 自分は違う、とユラは思う。

 ユラも力を求めていた。しかし、それはギラのように直接的な力ではない。ユラが求めるのはいかなる存在をも屈服させる絶対的な力だ。

 以前は「王」の核を手に入れ、他の支配種をも含めた、フレイズ全てを支配することがその力だと思っていた。そのためにユラは「王」が破棄し隠蔽した、次元を渡り、世界の結界を破る法を蘇らせたのだ。

 しかし、世界を渡り、いろんな種族と矛を交えるに連れ、ユラの中で虚しさが生まれてきた。

 「王」の核を手に入れ、その力を我が身に取り込んでも、所詮はフレイズの頂点に君臨する存在でしかない。世界のひとつを支配する、その程度のことなのだ。ならば、それ以上の力を手に入れるにはどうしたらいいか?

 簡単なことだ。「王」よりも高位の存在に至ればいい。

 様々な世界で、ユラは自分たちの把握できない存在を感じていた。「神」と呼ばれる存在だ。

 その姿は確認できず、存在さえ定かではない。しかし、その力は世界のあちらこちらで見られた。それは聖剣と呼ばれるものだったり、神器と呼ばれるものであったが、「神」とやらの思念が宿っていたのは確かだ。

 そしてユラは今回の綻びが生まれる前に、ある波動を感じた。フレイズのもののようでありながら、全く違う共鳴音。興味を引いたのはその波動の中に「神」を匂わせるモノがあったからだ。「それ」はユラに呼びかけるように共鳴を続けていた。

 そして今回、その波動源近くの綻びから、あちらへ出ようとしていた上級種に便乗することにして、ユラは結界を強引に通り抜けた。なんとか「揺り戻し」の起こるまでの短い時間で、「それ」を回収することができた。途中、邪魔が入ってしまったが、こうして「それ」はユラの手の中にある。

 ユラの手の上には黄金に輝く卵があった。


「? なんだ?」


 卵が小刻みに震えたかと思うと、ドロッと溶け、ユラの手から離れる。

 やがてそのアメーバのような黄金の塊は、闇の中でだんだんと増殖し、形を成してきた。

 やがて痩せぎすで白髪の老人がユラの前に姿を現す。濁った瞳がユラを見据え、やがて辺りを見回し始めた。


「ここは……次元の狭間か。なるほど、ここなら奴らに見つかることもあるまい」

「……何者だ?」

「ワシか? ワシは……神じゃ」


 くらい黄金の覇気を揺らめかせ、そう答えた老人を見て、ユラは薄い笑みを浮かべた。





◆◆◆◆◆





「これは酷いでありまスなあ〜……」


 格納庫に回収された、リンゼのヘルムヴィーゲとリーンのグリムゲルデを見上げながらため息とともにロゼッタがつぶやく。


「機体損傷が酷いでありまスな。やっぱり「ブリューナク」のダメージが響いているようでありまス」

「パーツ総取り替えか? っかー、ロゼッタがあんなモン作っから……」

「なにおう! 巨大大砲はいくさの花形! たとえ効率が悪かろうと、燃費が悪かろうと、そこにはロマンが溢れているんでありまス!」


 ロゼッタとモニカが言い争いを始めたので、こちらへ飛び火しないうちにこそこそとバビロンの「格納庫」から逃げ出す。まあ、僕としては「ブリューナク」があったおかげで、あのリクガメ型フレイズを倒せたのだから、ありがたかったけど。

 上級種に対する攻撃方法をもう少し考えないといけないかな。毎回「ブリューナク」をぶっ放すってのも……その度に機体が壊れてちゃ、コスト的にもあまりよろしくないだろうし。

 一番の問題は大きすぎる上級種だと、武器が核まで届かないことか。槍のような長い武器が必要か? しかし、そんな大きな武器だと、スゥのオルトリンデ・オーバーロードぐらいしか装備できないしな。

 スゥにはできれば防衛の方を任せておきたいところだけど……。

 やっぱり「ブリューナク」のような射出武器になってしまうかなあ。

 僕も「流星雨メテオザッパー」以外の攻撃方法を考えないとな。今回みたいなこともまたあるかもしれないし。

 スゥは「ハンマー! ハンマー! 巨大なハンマーを作ってくれ!」とか言ってくるが、作ったところで相手を光にして消滅させる効果とかないからな。あれはスゥが観たアニメの中の効果であって……。

 はた、と立ち止まり、ちょっと考えてみる。スマホでネット検索し、ロボットアニメの設定サイトを覗く。


「強力な重力波……光子にまで分解……」


 「グラビティ」を応用すれば……できるか? 博士に話せばできそうな気がするが、うーん……。できたらできたでおっそろしいモンになる気が……。

 とにかくあとで話してはみよう。いざという時のため、戦う手段は多い方がいい。これが勝利の鍵になるかもしれないし。厳重に管理する必要があるけどな。




 地上へ戻って、王城の回廊を歩いていると、新人のくノ一三人娘がこちらへやってきた。えーっと、猿飛さるとびほむら霧隠きりがくれしずく風魔ふうまなぎ、だったか。


「あの、陛下! お願いがあります!」


 そう言って焰たちがその場に一斉に土下座した。ちょ、なんだなんだ!?


「私たちにも頭領の持っている通信魔道具をどうかお与え下さい!」

「お願いしますぅ」


 次いで雫と凪もそんなことを口にする。頭領って椿さんのことか。通信魔道具って……ああ、スマホのことね。


「一応聞くけど理由は?」

「はい。私たちは諜報活動のため、いろんな場所に侵入したり、遠出する機会が多いんです。仲間と遠くにいても連絡できるあの道具は、とても役に立ちます。ですから……」


 なるほど。まあ、わからんでもない。写真や録音機能とかがあったら、潜入部隊はかなり助かるだろうし。


「君たち今はどこを探っているんだっけ?」

「サンドラ王国です。なにやら妙な噂があるので……。三人とも明日出発する予定です」


 サンドラ王国か……。あの国は奴隷制度を今でも続けていて、ユーロンが無くなった今では世界で一番の奴隷王国だ。


挿絵(By みてみん)


 厳しい階級制度があり、ひとつでもその階級が違うと、下の者は上の者に絶対逆らうことは許されないらしい。あの国はどこの国とも接していないので、独自の文化を形成している。

 そのくせ、奴隷は世界中のいたるところから集められているようだった。なんせ、「娘が消えたなら、まずはサンドラに向かえ」という言葉があるくらいだ。エルフやドワーフなど、珍しい種族は高値で取引されるらしい。

 サンドラの人口の三分の一は奴隷という話もあるしな。酷い話だが、奴隷は道具であり、使い潰したら新しい奴隷を購入すればすむことなのだ。古い靴を新しい靴に履き替える感覚でしかないのだろうか。

 正直、あまり関わりたくない国ではあるのだが……。


「そうだな……。諜報部隊には必要になるか。ちょっと待ってて」


 何かの間違いで彼女たちが奴隷になってしまうような事態は避けたい。僕は椿さんに連絡して、中庭の方へ来てもらうことにする。

 三人娘を連れて中庭へ向かうとすでにそこには椿さんが立っていた。早いな! さすが忍者。


「というわけで、他の諜報騎士にも渡すことにするよ」


 椿さんはそれを聞いて三人娘をジロッと睨みつけた。勝手に僕に嘆願したのを怒っているのかもしれない。三人とも萎縮してしまっている。


「まあまあ。いずれは騎士団みんなに渡すつもりだったし、ま、お役目柄、諜報部隊は先行でね」

「……陛下がそう仰せならば。確かに助かりますし……ありがとうございます」


 一応、スマホには帰還魔法が付与されていて、落としたり失くしたりしても、本人の手に戻ってくる。万が一……そう万が一にだが、ウチの騎士がこれを持って逐電したとしても、僕の意思で僕の手元へと引き戻すこともできる。故に盗難とは無縁だ。

 「ストレージ」から、各国の王や椿さんに渡したやつより簡易版の黄緑色をしたスマホを十数個取り出し、椿さんに渡す。


「それぞれの番号は「設定」のところの「電話」を見ればわかるから」


 そう言って三人娘には直接手渡す。僕から手渡されたスマホを見つめて、三人ともキラキラした目で喜び、はしゃいでいた。そのため、また椿さんに目でたしなめられることになったが。


「それと諜報騎士用の乗り物を預けておくよ」


 「ストレージ」から取り出した、いわゆる「魔法の絨毯」を三つほど椿さんに渡す。これは姿を見えなくする「インビジブル」の効果もあるから便利だろう。

 壁にピタリと背をつけて、この絨毯で身を隠せば、「壁隠れの術」なんかも可能なんじゃないだろうか。もちろん触ればバレてしまうけど。

 サンドラの砂漠までは僕が「ゲート」で送っていくが、なにかあったらこれで逃げてくればいいしな。


「なにからなにまでありがとうございます」

「いや、ユーロンの時のように、後手に回るよりはね。あの国はなにかと黒い噂がつきまとっているからな。なにかあってからじゃ遅いし」


 奴隷たちを縛る「隷属化の首輪」。言ってみれば、これがあの国にとっての基盤となっている。そして、僕はそれを解除することができる。まだその事実を知られてはいないだろうが、知られたとき、面倒なことになるかもしれない。

 「ブリュンヒルドに行けば奴隷から解放される」なんて噂が立ってもな。そうなればサンドラ王国に目の敵にされるかもしれないし、またユーロンみたいに暗殺者とか送ってくる馬鹿が出ないとも限らない。

 ま、今度同じことをやられたら、どんな手を使っても黒幕を暴き出し、その報いは受けてもらうけどな。


「ぶっちゃけた話、どうなの? サンドラ王国って」

「自己視点でしか言えませんが……。王を頂点として、完全な支配による階級制度のため、富む者はさらに富み、貧しき者は希望がなにひとつない環境ですね。生まれた時点でその階級が決まっているのです。いくら能力があっても奴隷の子は奴隷、市民の子は市民。階級が落ちることあっても、上がることはありません」


 確かにベルファストの王都なども、貴族の住む区画と一般市民が住む区画に分かれていた。それ自体は珍しいことではないが、ベルファストでは能力があれば出世することは可能だ。

 スラム街出身の者が冒険者となり、名声を得て、騎士になることも難しいが不可能ではない。僕のところだってそうだ。


「市民の者はまだ国を捨て、他の国へ逃げることが可能ですが、奴隷はそうは行きません。死ぬまで働かされ、満足に食事も与えられず、死んでいくのが普通なのです」

「気分の悪くなる話だな」


 代わりなんていくらでもいる、そんな考えなのだろうか。


「で、サンドラ王の評判は?」

「評判もなにも。サンドラで王について、まともに話す者はおりません。「王は素晴らしい人物」「感謝しかない」「私たちの太陽だ」と、決まり切った言葉が返ってくるだけです」

「それって彼らの本心?」

「さあ……。上の者は本心かもしれませんし、下の者は滅多なことを言って、奴隷に落とされたくないでしょうから」


 上の階級の者を非難することは許されない、ってわけか。だとすると、諫言する部下なんかいなさそうだなあ。僕なんか毎日怒られているってのに。周りからチヤホヤされてばかりの王様が、立派な人物になるかというと……怪しいよなあ。


「それとサンドラの軍事力も侮れないものがありますね。魔獣戦士団は厄介です」

「ああ、そうか。「隷属化の首輪」はもともと魔獣を飼い慣らすために作られたものだもんな」


 魔獣戦士団。その名の通り、魔獣を「隷属化の首輪」で従えた戦士団である。サンドラはどこの国とも接していないので、侵略を受けることもすることもない。

 しかし、魔獣の多い砂漠、それに大樹海が接している環境から、危険極まりない魔獣がうろつく土地でもある。

 魔獣戦士団はそれを駆逐する存在だ。しかし、呆れてしまうのは、戦士団とは名ばかりで、騎獣になる魔獣が「隷属化の首輪」で従わされているだけでなく、乗る戦士も奴隷が多いとのことだ。つまりは奴隷兵というわけである。

 危険な仕事は全て奴隷にやらせろってことか。


「そんな危険な国へみんなを送り込むのは気が引けるな……」

「大丈夫です。毎日ちゃんと連絡しますし、危なくなったらすぐに逃げて来ます。諜報機関の一番の任務は情報を持ち帰ることですから!」


 焔がそう言って胸を張る。大丈夫かなァ……。











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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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