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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
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#260 新たな親戚、そして歌唱魔法。





 新しい神々たちは一応僕の叔父とその子供、つまり従兄弟いとこということにしておいた。さすがにこれ以上兄弟が増えるのは困りものだし。

 まあ、四十近く見える農耕神を兄というのは抵抗があったし、王様の父親ってのも厄介だからな。

 というわけで、叔父とその子供三人、ということになった。


 叔父、望月もちづき耕助こうすけ。(農耕神)

 長男、望月もちづき奏助そうすけ。(音楽神)

 長女、望月もちづき狩奈かりな。(狩猟神)

 次女、望月もちづき酔花すいか。(酒神)


 年齢的には僕より下が酒神だけになるので、呼び方は耕助叔父さん、奏助兄さん、狩奈姉さん、酔花、といったところか。

 まず僕の親戚とかいうことよりも、ベロンベロンに酔った酔花にみんな驚いていたが。結局出てきた言葉が、「酒を飲んでいないと謎の発作が出る」というアルコール依存症とあまり変わらない言い訳だったのだが、みんな信じてくれた。

 あとでリーンに聞くと、ドワーフの子供などは、あれくらいの年齢で飲酒している者もザラにいるそうだ。酔花はドワーフではないけれど、母親がいないので、ひょっとしたら母親がドワーフと思われたのかもしれない。


「また一気に増えましたねえ」

「ごめん。いろいろとあって」


 城の東、農地へと向かう道を歩きながら、僕は隣のユミナと話していた。

 ユミナたちは僕と姉さんたちが血が繋がっていないことも、僕が異世界からやってきたことも知っている。今回の叔父や従兄弟たちというのは、「血が繋がった」という意味ではないことをわかっているはずだ。


「それで、その……叔父様たちもお義姉様と同じく……」

「あー……まあ、一芸に秀でてはいるかな。戦闘面ってわけじゃないけどね。狩猟……狩奈姉さんは弓の腕前が半端ないとは思うけど」


 獲物を決して逃さない狩人の神だからな。弓以外にも罠とか鉄砲とか使いそうだし、鉈とか斧とか……あれ? 剣しか使えない諸刃姉さんより、かなりのオールマイティーなんじゃ? いや、単純な強さなら戦闘に特化している諸刃姉さんの方が強いか。

 四人とも早くもこの国に慣れて、自分たちのやりたいことを始めた。僕の手伝いということらしいが、何をやっているのか、今日はこうして確認しに来たわけで。


「あ、あれ叔父様じゃないですか?」


 ユミナの指差す先に、畑に鍬を突き刺す農耕神こと耕助叔父が見えた。麦藁帽子に首には手拭い、農作業着を着て額に汗して働いている。似合いすぎだろ。いや、似合ってて当たり前なんだけど。農業の神だし。


「やあ、冬夜君、ユミナさん。こんにちは」


 相変わらずの糸目笑顔で挨拶してくる。なんというか……地味だ。


「自分で畑を耕しているんですか? 人を使えばいいんじゃ……」

「いやいや、働かざる者食うべからず……ってわけじゃないですけど、自分がやりたいだけですから。開墾して農地を切り開き、それが人々の新たな糧になるなんて素晴らしいじゃないですか」


 なんでも神の力を使えば一気に収穫まで行えてしまうらしいが、それでは愛着も湧かないし、つまらないとか。そもそも禁じられているから使えないのだけれど。

 それでも農耕神というだけあって、その知識はこの世界でも活かされるようだ。

 さっきもなんか撒いてたが、聞いたら魔獣の骨を細かく砕いた物だとか。魔獣の骨に含まれる魔素がどうたらこうたらと、説明されたがよくわからん。助手としてつけたアルラウネのラクシェだけはえらく感心していたが。

 畑だけではなく水田の方も見てもらえるらしいので、正直助かる。あまりにも地味すぎて神族ってのを疑いたくなる光景だけど。






 農地視察から街に戻ると、時計台のある中央広場の方がなにやら騒がしい。


「なにかあったんでしょうか?」


 ユミナと僕がそちらへ向かうと、なにやら楽しげな音楽が聞こえてきた。これってまさか……。

 人込みをかき分けてみると、中央広場の噴水の前にギターを見事に弾きならしている音楽神、いや、奏助兄さんの姿があった。

 っていうか、あのギター、桜に頼まれて僕が作った楽器のひとつじゃんか。城から持ち出してきたのか?

 ピアノを作った僕は調子に乗って、他にもフルートやトランペット、カスタネットにいたるまで、ひととおりの楽器を試しに作ってみた。けれど、練習することなく騎士団の宿舎に預けっぱなしだったんだんだよな。何人か興味を持って練習したいって言いだしたから。

 奏助兄さんの演奏が終わると、観衆から万雷の拍手が送られる。中には感涙にむせぶ者もいた。そんなにか。


「すごい演奏でしたね!」

「まあ、あの演奏に勝てる人はいないだろうねえ……」


 この世界では僕らの世界と比べると、あまり音楽は大衆のものとして広まってないから、仕方ないんだが。簡単なリコーダーやギター、ハーモニカなんかを売ったら、もっと広まるかもしれない。奏助兄さんに学校で音楽を教えてもらうのもいいかもな。

 再び演奏を始めた奏助兄さんを置いて、僕らはギルドのある通りへと向かう。ギルドの隣には酒場があって、酒場と言えば……。


「なんだこりゃ……?」


 酒場の入口に何人もの酔い潰れた男たちが転がっていた。

 その男たちをよけて店内に入ると、案の定、酔花が酒場のテーブルで酒を飲んでいた。

 酔花の正面の席にはグラスを握りしめた男が酔い潰れている。


「あー、冬夜おにーちゃん! おにーちゃんも呑みくらべするかー。あちしが勝ったら呑み代はそっち持ちだぞー」

「誰がするか」


 ケタケタと笑いながらグラスを掲げる酔花にそう言い放つ。

 店内には他にも酔い潰れた客がいて、店員がそれを引きずり外に並べていた。これ全員、酔花に呑み倒されたのか。っていうかいつから呑んでるんだ。


「まあまあ、まずは駆けつけ三杯……」

「僕は呑みにきたんじゃないっつうの。そのへんで終わりにしなさい」

「あうー」


 酔花の持っていた酒瓶を取り上げる。今回来た四人の神の中でこいつが一番タチが悪いんじゃないだろうか。

 酔花をつまみ上げて、酒場の主人に謝る。恐縮しながらも、向こうとしては儲けが出たのか、笑顔で応えてくれた。


「まったく……あんまり呑みすぎるなよ」

「久しぶりだったんで、ちょとハメ外したにゃー。いつもはもっとじっくり呑むよー? ユミナちゃん、お城で一緒に呑むー?」

「いえ、私は嗜まないので……」


 ユミナが笑顔を引きつらせて、手を振る。

 なんというか……見た目は子供にしか見えないこの子に酒を出すこの店も問題あるんじゃなかろうかとも思ったが、酔花のやつが勝手に僕の名前を出したらしい。

 怪しい幼女の言うことをなぜ信じたかと言うと、詰所から騎士団員を引っ張ってきて証明させたらしい。あとでその団員にも謝っておかないとなあ……。


「おや、冬夜たちじゃないかい」


 酒場から出ると、同じように隣のギルドから狩奈姉さんが出てきた。

 この人は早々に冒険者ギルドに登録して、狩人として活動を始めた。主に討伐依頼をこなしているようで、ダンジョンには行っていない。なんでも食えないものを狩る気はないとかなんとか。

 今回も依頼をこなしてきたのだろう。手には大きめの野鳥がぶら下がっていた。


「ちょうどよかった。こいつは今日の晩飯さね。料理長のクレアに渡しといてくんな」

「わかった」


 事実、狩奈姉さんがいろんな獲物を持ってきてくれるので、最近の食卓はバリエーションが多くなってきた。僕は狩奈姉さんから野鳥を受け取ると、「ストレージ」へとそれを納める。


「そのうちもっとでかい獲物を狩ってみたいねえ。ここらじゃあまり見かけないらしいから、そのうち、よその狩場へ連れて行っておくれよ」

「そうだね。ミスミドあたりになら行けるように打診してみるよ」


 ブリュンヒルドにはそこまで大型の魔獣はあまりいないからな。ミスミドあたりにならけっこういると思うけど。あそこは大樹海にも近いし。

 とにかく四人のうち、酔花以外にはいろいろ助けてもらえそうだな。


「むう。なんかしつれーなことを思われた気がするぞー?」

 

 鋭い。花恋姉さんといい、やはり神は侮れない。






「……王様、これはなに?」

「これはマイクと言って、音を増幅させるものだよ。ま、コレはそれだけじゃないんだけど」


 桜が目の前に置かれたスタンドマイクを見ながら首を傾げる。

 騎士団の訓練場でちょっとした実験をするために、桜と桜付きの護衛であるダークエルフのスピカさんに来てもらっている。


「んーと、そうだな……まずは軽快な曲がわかりやすいか。マイクのターゲットはスピカさんに合わせてあるから、ちょっとそっちの方に立ってもらえますか?」

「はい。ここらでいいでしょうか?」


 剣と特製の盾を持ったスピカさんが僕らから離れて訓練場の中央に立つ。


「じゃあ桜はなにか軽快な歌を歌ってみてくれ。あ、マイクに魔力を流しながらね」

「……よくわからないけど、わかった」


 桜は素直にうなづくと、スタンドマイクに向けて歌い出す。え、この曲なの?

 日本で有名なフレンチ・ポップスのスタンダード・ナンバー……まあ軽快っちゃ軽快だけど。

 確かこの曲の「シェリー」って、女の人の名前じゃなく、フランス語で「愛しい人」って意味なんだったか。


「じゃあスピカさん、動いてもらえますか?」

「はい。えっ!?」


 ちょっと走っただけなのに、ものすごい勢いで移動する。走ったスピカさん自身が驚いていた。その場で止まって、跳躍すると、三メートル近く飛び上がってしまった。


「ものすごく身が軽いです! 羽が生えているみたいに!」


 跳ね回るスピカさんをよそに、桜に歌うのをやめてもらう。


「あ」


 スピカさんの走るスピードが目に見えて落ちる。ふむ。やはり歌っている間しか効かないんだな。それと、曲調によって効果が変わるのは確からしい。


「王様、これは……」

「付与魔法のひとつだよ。歌唱魔法と名付けた。桜の魔力と歌を触媒として広範囲に補助魔法をかけられる。どういう効果があるかはためしてみないとわからないけど、あくまで味方への支援をする魔法なんで、相手の命に危険はないはずだ」


 使い方次第では奏助兄さんの演奏でも効果を出せるかもしれないな。


「じゃあ次は桜の好きな曲を歌ってごらん」

「うん」


 スピカさんに向けて次々と歌っていく桜。って、なんて言うか、選曲が渋いな……。洋楽が多いけど60〜80年代ばかりだ。まあ、僕の音楽の嗜好、特に洋楽はじいちゃんからだし、仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。なにか桜の琴線に触れるものがあったのだろう。

 魔法の効果の方は、攻撃力上昇、防御力上昇、敏捷性上昇、魔法耐性上昇、属性付与と言ったところか。まだまだいろんな効果はあるんだろうけど、今日はこんなもんでいいだろ。

 この魔法の長所は歌が届く範囲なら効果が及ぶというところだ。どんなに対象がいても、消費魔力は一曲分で済む。ただ、歌が終わると効果が切れるので、連続で歌うとその負担が桜にかかるってのが問題か。

 「リフレッシュ」の効果を付与したアイテムを用意した方がいいな。

 この魔法を発動させる機能を搭載した機体を現在博士が製作中だ。通信機を通しても効果があるから、BGMのように流すのが理想だな。

 だけど、右翼の陣は攻撃力を、左翼の陣は防御力を上昇、なんて、効果を分割できないのが悩みどころだ。録音したものでは効果がないみたいだし。

 楽しそうに歌い続ける桜を見ながら、僕はそんなことをいろいろ思案していた。

 











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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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