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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
255/637

#255 黒と青、そして漁業。

 荒野に置かれた鉄騎兵の残骸に無数の弾丸が炸裂する。右手アームに装備したガトリング砲から、一秒間に何百発もの弾丸を放つのは、リーンの黒き機体、「グリムゲルデ」。ニコラさんの黒騎士ナイトバロンと同じカラーリングだが、かなり形状が違うので問題は無いだろう。

 グリムゲルデの胸部装甲が展開し、内部に仕込まれた二連ガトリング砲が火を吹く。

 続けて両肩部がガルウィングのように開き、六連ミサイルポッドが発射され、同じように開いた脚部からもミサイルが放たれる。

 左手の指先全てからも弾丸が撃ち出され、頭部バルカン砲からも発射された。まさに弾丸の雨霰だ。


「うひゃー……。おっそろしい……」


 的にと「ストレージ」から出した壊れかけの鉄騎兵が、あっという間に蜂の巣どころか、バラバラの鉄屑と化す。

 撃ち終えたグリムゲルデが動きを止めた。全身から立ち昇る白煙は、機体がかなりの熱を帯びていることを示していた。


「今のだけで何発撃ったんだ?」

「ざっと五万発は下らないかと」


 そんなにか。隣に立つロゼッタの答えに絶句する。っていうかある意味無敵じゃないのか? あの攻撃をエルゼのゲルヒルデや八重のシュヴェルトライテが受けたらひとたまりもないんじゃ……。晶材装甲である程度は防げるにしても、大ダメージは確実だろう。

 なんとかスゥのオルトリンデ・オーバーロードで防げるかって感じだよな。


「しかしそれなりに弱点もあるでありまスよ? まず、転送されるバビロンの弾倉が空にならない限り、基本的に弾切れはないでありまスが、機体の方が連続射撃に耐えられないでありまス。全力斉射すると、ああやって何分か冷却モードに入る必要があり、隙ができるでありまス」

「あとは機体自体が魔力をかなり消費する構造なんで、乗り手の疲労もかなりのもんじゃないかな。リーンか冬夜君、あとはリンゼでなんとか活用できるレベルだろうね」


 ロゼッタと博士の話を聞いて納得する。そりゃあなあ。撃ってる間、ずっと「エクスプロージョン」を発動しているようなもんだからな。


「あっつい!」

 

 鳩尾みぞおちの開閉ハッチが開き、リーンとポーラが飛び出してきた。勢いが付いて、ポーラがコクピットから転げ落ち、地面に激突する。大丈夫か、おい。


「ちょっと! まるで蒸し風呂みたいになってるわよ!」

「あー、コクピット周りを冷却するのを忘れていたでありまスな」


 むむう、とロゼッタが腕を組む。致命的だろ、それ。コクピットに熱遮断の魔法を施さないとダメなんじゃないか?


「あと爆発音がすごくて通信とか聞き取れないと思うわよ、これじゃ」

「なるほど。防音障壁も必要だね。自由に展開・解除できるようにした方がいいな」


 コクピットの真上に二連胸部ガトリング砲があるからなあ。そりゃあうるさかろう。

 広範囲における破壊力という点では、今のところフレームギア随一だな。ただ、味方も巻き込んでしまう恐れがあるので、集団戦向きではないが。どっちかというと一対多数、殲滅戦用の機体だ。

 キイィィィィィィィィン……。


「お?」


 飛行音がする上空を見上げると、青い戦闘機が飛んでくる。

 速度を緩め、こっちへ下降してくると、戦闘機は空中で変形を始め、細身の人型へとその姿を変えて着地した。

 リンゼの可変型フレームギア、「ヘルムヴィーゲ」だ。

 機体胸部ハッチが開き、リンゼが降りてくる。ヘルムヴィーゲは鋭角なラインを持つフレームギアだ。戦闘機への変形機構はロボットアニメに出てくる主人公機を参考にしているため、左手に長い盾を装備している。

 あの盾が戦闘機形態の底面部になるので、盾が破壊されたら変形出来ないという弱点がある。そのため、ヘルムヴィーゲの盾は通常の晶材よりも魔力を多めに込めて、かなりの硬度を持たせていた。


「どう? 空を飛ぶのは慣れた?」

「そうですね。まあ、なんとか。まだ、あまり速度は出せません、けど」


 リンゼがどこか苦笑気味に答えた。ヘルムヴィーゲに乗ることに慣れれば、リンゼと「フライ」で空を飛ぶのも大丈夫になるかな。

 ヘルムヴィーゲはさらに変形して、エルゼのゲルヒルデと合体、飛行サポートメカとなることもできるが、今はまだその機能がついてないらしい。


「リーン殿とリンゼ殿の機体はほぼ完成でありまスが、残りの桜殿とルー殿、ユミナ殿の機体はどうするでありまスか?」

 

 ロゼッタが僕にたずねてくる。


「博士はどれからにするか決まっているのか?」

「今のところ候補は桜かな。「音」を利用した支援魔法を使える機体はどうかと考えていてね。フレイズには魔法は効かない。だけど味方のフレームギアに魔法をかけることは可能だ。機体速度を上げたり、個体障壁を展開したりね。音に乗せて広範囲にそれを付与できれば、と」

「集団戦支援型でありまスな」


 あれか、僕の「マルチプル」のように多重展開する構造にするのか。音、いや、桜なら歌かな。それでみんなに魔法をかける、と。

 軍歌による士気高揚とか、歌による効果は昔からよく聞くけど、この場合は歌唱魔法とでも言うのかな。

 うん、悪くはない。


「じゃあ桜の機体からお願いするよ」

「了解」


 グリムゲルデとヘルムヴィーゲ共々、博士とロゼッタをバビロンへと転移させて、僕はリーンとリンゼを連れて「ゲート」をくぐって城へと戻った。が、すぐに荒野へと戻る。


 ポーラ忘れてた。





 転移して城の訓練場の前を通ると、死屍累々とした新人騎士たちが転がっていた。今日も激しそうだなあ。

 諸刃姉さんが始めた新人のためのブートキャンプはもうすでに終わったけれど、当然ながら朝夕の訓練は毎日ある。

 一部の者たちは免除されてはいるが、それでも大半の者たちは朝と夕方に、こうして諸刃姉さんにシゴかれるのだ。あの試験を合格しただけあって、誰も逃げ出したりはしないところはさすがだが。


「「メガヒール」「リフレッシュ」」


 通りすがりで訓練場に転がる騎士団のみんなの傷と体力を治してあげる。

 怪我や疲れが治ったみんなは、僕の存在にやっと気付き、一斉に頭を下げた。


「よし、じゃあ朝の訓練はここまで。それぞれ順番にシャワーを浴びて朝食を取り、持ち場へつくように」

「「「「はいっ!」」」」


 諸刃姉さんの言葉にみんなが騎士団男女別々の宿舎にあるシャワー室へと向かう。

 新人騎士たちは、すでにそれぞれの配属が決まって、仕事を覚える段階に入っている。城の警備にあたる者は来客や万が一に賊が入った場合の対処、城下の警邏にあたる者は巡回のルートやトラブルの解決方法、諜報活動を行う者たちは連絡の取り方、情報の集め方などを学ぶ。

 その他、農地開拓や事務処理、建設管理など、特性がある者たちはそちらへと配属されていた。

 新人たちはそれに加えてフレームユニットを使ったフレームギアの訓練もすることになる。

 現在、騎士団員は200人を超えているが、そのうちラミア族であるミュレット・シャレット姉妹や、オウガ族であるザムザのように、コクピットに乗ることが難しい者を除いて、ほぼ全員が一通りの操縦を覚えてもらうことになっていた。

 フレイズはいつ出現するかわからない。備えておくに越したことはないからな。





「漁業開発、ですか?」

「はい」


 執務室で宰相の高坂さんがそう切り出してきた。

 漁業って魚を獲るやつだよな、もちろん。なんでまた? そりゃあウチの国じゃ魚を食べる機会は少ないと思いますが。


「うちの国に流れている川で、魚をもっと獲れるようにするってことですか?」


 ブリュンヒルドには海はない。魚といえばほぼ川魚だ。


「川ではありません。漁師に海で魚を獲らせ、それによって利益を上げようということです」

「え? うちには海なんか……」

「あるではありませんか。転移門の先に」

「あ」


 そうか。転移門の先、迷宮のある七つの島々。あそこもうちの領土だった。

 あそこで魚を獲ってこちらへもってくればいいわけだ。ここらへんには海がないから、新鮮な魚はけっこう売れるんじゃないかな。刺身が食べられるかもしれない。


「なるほど。いい考えですね。で、あの島の一部を開発して港にするってわけですか?」

「そうですね。島自体が小さいですから、港町というまでには開発は出来ないでしょうが。それと、島には危険な魔獣がいますので、それをどうするかですね」


 うーむ。僕が狩り尽くしてもいいんだが、ああいった魔獣の素材はけっこうな金額で売れるからなあ。冒険者たちの飯の種を取り上げるのも……。かといって危険な場所で漁をしたい奴がいるかというと……。


「港には魔獣よけの結界でも施しますかね?」

「それが妥当ですかな。それとどういった海の魔獣がいるのか調査もしないといけないかもしれませんが」


 確かに。魚を獲る船が襲われるようでは話にならない。

 まあそこらへんは僕がクラーケンや水竜あたりを召喚して、島の周りにいる人を襲うような魔獣を狩るように命じておけば大丈夫だと思うけど。


「漁師とか集まりますかね?」

「そこらへんはこちらの方でなんとかします。まだ漁獲量がどれほどのものかわからないので、なんとも言えませんが、損はしないと思います」


 なら、やってみるか。とりあえず、試験的に漁をすることを許可しておく。

 明日にでも島の方へ行って、クラーケンなり水竜なりを召喚しとくか。

 バビロンの遺跡を探した時に訪れたイグレット王国を守っていた海竜シーサーペント。あれみたいに守護竜とでもいうべき竜を呼んで、守りに当たらせるか。瑠璃の眷属でちょうどいい奴を呼んでもらおう。

 ついでに妙な船が島に近寄らないようにもしてもらうか。以前のような奴隷商売船が来るのはゴメンだからな。

 高坂さんが退室したあと、机に積まれた報告書を確認する。城下の人たちの声や重要案件に目を通しておかないといけない。

 世界情勢というか、そういった情報はほとんどギルドマスターのレリシャさんからメールとかで受け取っている。


「元の世界ならネットニュースで済むんだけどなあ」


 それでも各国の王様たちからいろんな情報はメールで届くんだけどな。レグルス皇帝から第二皇女とフェルゼン国王との婚約発表とか、ベルファスト国王からヤマト王子が立って歩いたとか。これは写真添付で送られてきたが。

 こんな付き合いがあるから、東西同盟の国々ではあまり衝突はない。互いに妥協点を出し、それでも決まらない時は僕の方に話が回って来る時があるけど。

 今じゃベルファストとミスミドは前にもまして交流が深くなっているし、レグルスとロードメアの関係も改善された。ラミッシュ教国も閉鎖的な付き合いをやめ、リーニエも北のパルーフ王国と友好的な関係を結びつつある。結構なことだ。

 そんなことを考えつつ、報告書をいろいろと読んでいくと、各国に現れたフレイズの報告もかなりあった。出現したほとんどが下級種だったので、赤ランク以上の冒険者によって討伐されているみたいだ。

 僕たちが初めてフレイズを倒した時は、確かギルドランクが……あれ? そう言えば……。

 僕はスマホの写真ファイルから、初めてフレイズに遭遇した時に撮った写真を呼び出して空中に投影した。遺跡が潰れ、現物は無くなってしまったが、1000年前に描かれたと思われる絵文字だ。

 あの時は解読できなかったが、今なら「リーディング」とかで解読できるんじゃないか? それにはこの絵文字の種類を特定しなけりゃならないんだが、ファムあたりが知ってないかな。「図書館」の管理者である彼女なら特定できるかもしれない。

 ただ、5000年前にはなかった文字とかだとわからない可能性があるな。1000年前のベルファストで使われていた文字でもないという話だし、あの遺跡を作ったのは1000年前のベルファスト人じゃないのかもしれない。

 だとすれば誰が何のために……。それに一緒に封印してあったあのフレイズも奇妙だ。

 いかん、考え始めたら気になってきたな。

 僕はファムを探しに城の書庫へと向かうことにした。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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