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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
254/637

#254 面接、そして合格者。



「よろしい。結果は明後日、城の前にて張り出す。全員下がってよし」

「「「「「はっ」」」」」


 騎士団長であるレインさんの声に面接の終わった五人が返事をして、部屋を出て行く。

 全員が部屋を出たのを確認して、まずはユミナが口を開いた。


「この人とこの人と、この人。この三人はダメですね。この二人は野心が透けて見えます。いずれ他の者を押しのけて、という考えをするようになるでしょう。残りのこの人は反骨心が強過ぎます。自分の意思にそぐわない命令を、都合のいい理由を付けて破るかもしれません。和を乱す原因となりかねません」

「私も勘ですが、そのように感じました。それにどうも三人とも言葉の端々に傲慢さが滲み出ているようにも……。いくつか嘘をついていましたし」


 ユミナとレインさんの言葉を聞きながら、リストの名簿にあるその三人の名前に斜線を引いた。失格、と。


「残りの二人はどうだった?」

「そうですね、返答が多少どもりがちでしたけれど、正直に答えていましたし、悪い気質は感じられませんでした。大丈夫でしょう」

「確かに。真面目すぎて、いささか失敗しそうではありますが、充分に合格基準を越えているかと」


 そんじゃこの二人は合格、っと。

 サバイバルから二日後、城の一室で受験者の面接が行われた。

 面接官は僕、ユミナ、騎士団長のレインさんだ。僕は相変わらず「ミラージュ」で姿を変えているが。

 サバイバル試験の合格者を五人ずつ、順番に面接する。一回十分としても、80回以上面接しなければならないので、二日に分けているが、それでも大変な作業だ。

 かと言って、手を抜くわけにはいかない。妙な奴を騎士団に入れて、迷惑をこうむるのは僕らではなく、国民のみんなだ。

 何よりもウチの騎士団員として求めるのは、「国のため」ではなく、「国民のため」に働けるか、ということだからな。「王のために」とか「名誉と誇りのために」なんてのはいらない。

 なんなら僕が悪政をして国民を苦しめた時、僕を倒そうとするくらいじゃないとな。もちろんそんなことしませんが。


「よし、っと。じゃあ次の五人呼んでー」

「はい」


 僕がそう促すと、扉の横に控えていたダークエルフのスピカさんが受験者たちを呼び込む。扉の横にはラミアの双子、ミュレットとシャレットも控えていた。

 三人には悪いが、受験者の判断材料のひとつになってもらっている。

 部屋に入ってきた五人のうち、三人が魔族の彼らを見るなり眉を顰めたのを僕らは見ていた。残りの二人は驚いてはいたが、その表情には侮蔑の色はない。興味は持っているようだったが。スピカさんは美人だし、ラミアの双子は下半身が蛇だしね。

 この時点で眉を顰めた三人にはあまり関心が無くなる。それでも一応、全員に当たり障りのない質問を投げかけ、中には核心をつく質問を織り交ぜて、嘘発見器キーラーポリグラフの反応を確認した。

 嘘をついているのもあれば、正直に答えているのもある。何も僕は、全部正直に話せと言っているわけではない。多少の嘘は仕方が無い面もある。相手によく思われようとか、答えたくないことだってあるだろうし。嘘も本当も織り交ぜて、こちらでそれを判断の材料にするだけだ。

 五人を退室させて、ユミナたちと話し合うが、やはり顔を顰めた奴らはやめた方がよさそうだった。ユミナ曰く、傲慢さと虚栄心が強く感じられたとか。残りの二人の片方も出身地とか履歴とか誤魔化してたし、嘘が多かった。さすがにこれを採用する気にはならない。リストの五人のうち、四人に斜線を引いて、残った一人を合格にする。

 ふたたびスピカさんが次の五人を迎え入れた。お、や。

 入ってきた五人のうち、二人は僕が見つけた鎧の男と芋少年だった。

 二人とも魔族であるスピカさんたちを見て驚きはしたが、それだけだった。芋少年の方はガッチガチに緊張していて、それどころじゃなかったのかもしれないが。

 二人は番号が近かったのか、左端とその隣に並んで座った。

 えっと……短い金髪で鎧の青年がランツ・テンペスト、芋少年がカロンか。

 ランツ・テンペスト。出身地は騎士王国レスティア。下級騎士の三男。レスティア騎士団に兄二人がいる、か。


「なぜ我がブリュンヒルドに?」

「はっ。かねてより国王陛下のご活躍と騎士団のお噂を聞いておりました。ブリュンヒルドにおける竜退治はレスティアまで響いております。そんな騎士団で、私も微力ながら力を尽くしてみたいと思いまして」


 目の前の僕がその国王とはわからないだろうが、嘘はついてないな。でもまあ一応、聞いておくか。


「レスティアではなく、ブリュンヒルドの騎士となるわけですが、そこは大丈夫ですか?」

「ブリュンヒルド国王陛下はレスティア騎士王国王女ヒルデガルド様との婚約が成されております。ブリュンヒルドはレスティアにとって友好国であり、また、剣を捧げたからにはブリュンヒルドの騎士として、全力で働く所存であります」


 嘘はついてない。本気のようだが、なんか固いな。騎士の家出身ってのはこんな感じなのかね。

 次に視線を芋少年、カロンへと向ける。

 カロン。出身地はベルファスト王国か。


「……鬼役を勤めた団員からの報告によると、あなたは森の中で様々な食物を採取したようですが、そのような技術をどこで?」

「ぎ、技術っていうほどのものではっ、ものではなくて、家が薬師をやってまして、しょっ中森の中へ入っていたものでしたから、です、ハイ」


 緊張し過ぎ。言葉がなんかおかしいことになってるぞ。

 そうか薬師か。それであんなに植物に詳しかったんだな。使えるか、な。


「なぜ騎士団に入ろうと?」

「ぶっ、ブリュンヒルド騎士団では、農地開拓の方にも力を注いでいると聞いたので。そっ、それなら僕にも手伝えるかと思いまして。あっ、たっ戦いもそこそこできます。熊ぐらいなら倒せます」


 マタギか。まあ、あのサバイバルをくぐり抜けてきたんだし、それなりには戦えるんだろうが。鉈とか似合いそうな感じだけど。

 嘘もついてないようだし、この二人はアリ、かな。

 五人が退室した後、ユミナとレインさんに意見を聞くと、やはり僕と同じようにあの二人は採用しようという答えだった。


「ランツという青年の方は、城の警備隊に欲しいですね。カロン少年は内藤様預かりで、東の開拓にうってつけの人材かと」


 レインさんも僕と同じ考えだったようだ。よし、二人とも採用、っと。

 次に入室してきたのは、あのサバイバルの時に追い払われた、獅子族の女性、有翼人の男、ワードッグの青年、アラクネーの少女であった。それともう一人革鎧の男がいたが、こいつは同席した他の四人に対して、いい感情を持ってないようだったので、僕の中ですぐに興味を無くした。


 獅子族の女性がアシュレイ。

 有翼人の男性がバルス。

 ワードッグの青年がディンゴ。

 アラクネーの少女がリフォン。


 それぞれアシュレイはバルスと、ディンゴはリフォンと旅をしていたが、他国の噂で騎士団募集の話を聞き、すぐにブリュンヒルドへと向かったのだと言う。

 騎士団はミスミドやゼノアスにもあるが、(ミスミドは王宮戦士団と言う)ミスミドやゼノアスでは女性騎士に平民がなるのはやはり難しいし、アシュレイとリフォンの理由としてはわかる。

 バルスとディンゴはレインさんと同じく、僕の活躍を聞きつけてこの国に仕えたいと思ったらしい。念のため、給料は安いってことを念押ししたが、文句はないらしい。嘘発見器に反応はない。ホントに安いよ?

 その後もいくつかの質問をし、四人ともブリュンヒルドのために働いてくれると言うのは本心のようだった。

 五人を退室させてユミナに確認したが、問題はないそうなので、革鎧の男を抜いた四人を合格とする。

 その次の日も僕らは面接を続けた。僕ら潜入組は辞退したので、いくらかは数が減ったが、それでもかなりの量である。加えて手を抜くわけにもいかないので大変だったが。

 順調に合格者を決めていって、なかなかいい人材が集まった。

 そして最後の三人が……。


猿飛さるとびほむら霧隠きりがくれしずく風魔ふうまなぎ……」


 目の前に座る三人の忍び装束を着た少女たち。彼女らが椿さんが推薦した者たちだ。

 それぞれ猿飛さるとび左助さすけ霧隠きりがくれ彩蔵さいぞう風魔ふうま弧太郎こたろうの娘だとか。

 娘か……。本人が来るかと思ったわ。話を聞くとそれぞれの親父殿もいい歳のようなので、引退するんだとか。

 年齢は三人とも僕の二つ下で15歳。エルゼやリンゼと同い年だな。ほむらは明るい元気っ子。逆にしずくは落ち着いたクールな印象。なぎは、ぼーっとしてとらえどころのない感じだな。

 髪型も焔はショートカット、雫はロング、凪はセミロングのウェーブと、それぞれ特徴が違う。得意分野も焔は体術、雫は隠形術、凪は投擲術とそれぞれ違うが、それが得意ってだけで、一通りの忍者の修業は終えているらしい。

 ちなみにあの時は覆面をかぶっていてわからなかったが、木の上にいた僕のことを見つけたのは焔だ。


「わかりにくいですけど、あたし魔眼持ちです。かなり遠くの物も見えます。ちょっとした障害物なら、それを飛び越えて見ることも可能です」


 確かに焔の右眼は左眼より茶色がかっていた。パッと見、わからないが。この能力に焔は「千里眼」と名付けているらしい。確かに忍者には便利な能力かもしれないな。

 彼女たちはその能力から、採用されれば椿さん率いる諜報部隊に編入されるだろうが、それは大丈夫かと聞くと、問題ないとのことだった。


「私は変装術を得意としていますので、潜入捜査、または街での情報収集で力を発揮できればと思います」


 と、雫が答えれば、


「私はぁ、足が速いのでぇ、鬼ごっこでは負けませんよぅ」


 と、凪が答える。どうやらこの子はその足の速さで今回の試験をクリアしたらしい。

 にしてもこの凪って子、誰かに似ていると思ったら、うちのメイドのセシルさんだ。話し方も似てるし、確かセシルさんもナイフ投げが得意だったんじゃないかな。もともと彼女もベルファストに所属する諜報部隊の一員だったし。

 

『初めまして〜。セシルです〜』

『凪ですぅ。よろしくお願いしますぅ』

『うふふ〜』

『えへへぇ』


 二人が出会うところを想像したら、なんか脱力しそうになった。二人とも優秀では……あるんだろうけど。まさか生き別れの姉妹とか言わんだろうな。

 三人にはそれから一通りの質問をし、面接を終えた。嘘もついていないし、ユミナの魔眼でも問題はないようだった。椿さんの推薦もあるし、三人とも合格、っと。

 これで全員の面接が終わった。第二試験合格者416人中、面接試験合格者は131人。予定していた数より少ないが、あとは騎士団員ではなく、文官や事務次官みたいなのを高坂さんの方で試験・面接してもらおう。

 ここから警備騎士、警邏騎士、隠密騎士などに本人の特性によって配属しなけりゃいけないな。何人かはもうすでに配属が決まっているが、それ以外の者はほとんど決まっていない。

 まあとりあえず合格者は決まったし、あとは入団式か。





「皆さん合格おめでとう。国王として、ブリュンヒルド騎士団にあなたたちを迎えられることを嬉しく思う」


 新人騎士たちを前に壇上で挨拶する。初めて僕を見る者は少し驚いていたかもしれない。ちまたに溢れる噂では、最高ランクの冒険者にして竜殺し、古代文明の遺産(フレームギア)を操り、水晶の魔物を倒す英雄だとか言われてるらしいからな。

 それがこんな若造じゃ戸惑うのも無理はないか。侮ったりはしてないところは、さすがユミナのお眼鏡にかなった者たちと言ったところだろうけど。


「さて、前回の試験でもやったが、君たちの実力を見せてもらいたい。ここにいる全員、僕と戦ってもらう」


 一瞬、僕が何を言っているのかわからないという顔をした新人たちに対し、前回の合格者たちは「うわあ……」となんとも言えない声を漏らした。


「またアレやるのか……」

「賭けるか? 何人残ると思う?」

「賭けにならねえよ……」

「トラウマにならなきゃいいけど……」

 

 広い第二訓練場に移り、1対131の戦いが始まる。新人たちは木剣や木刀、たんぽ槍などそれぞれ模擬戦用の武器を持っていた。真剣でも構わなかったんだが、僕に対して気が咎めて、本気を出せないと困るしな。もちろん、触れされるつもりもないが。

 この戦いも彼らの配属先を決める判断材料にさせてもらおう。


「じゃあ始めようか。────アクセル」


 向かってくる新人たちに向けて、僕は加速魔法を発動した。





 前回同様、最後まで立っていられた者はいなかった。20分後には131人の打ちのめされた新人たちが訓練場に転がっていた。

 僕は彼らに「メガヒール」と「リフレッシュ」をかけて、全快状態にしてあげた。このままじゃ困るからな。

 それに対して礼を言ってくる者もいたが、あまり礼を言われると心が痛む。痛めつけたのは僕だし、これから彼らにとって最初の試練があるのだから……。


「さて、ここからは私の出番だね」


 僕と入れ替わりに訓練場に諸刃姉さんが入ってくる。なんでそんなに笑顔なんスか。鍛え甲斐があるってことなんだろうけど。

 

「ブリュンヒルド騎士団顧問剣術指南役、望月諸刃である! 入団おめでとう! 早速だがこれより訓練を開始する!」


 実はこれから一週間、諸刃姉さんの立てた地獄の訓練スケジュールが新人達には待っている。例のサバイバル試験で、自分も参加したいと言い出した姉さんを止めるために、交換条件に出されたのがこれだ。


「それではまず城の周りを走ってもらおう。50周ばかり」


 悲鳴を上げる新人たち。この城の周囲は約二キロ。かける50だからざっと100キロマラソンだ。最初から飛ばすなぁ……。

 諸刃姉さんに追い立てられ、城を出て行く新人たちを見て、無事であるようにと神に祈らずにはいられ……って、追い立てているのも神だしなあ……。

 諸刃姉さんたちは神の力をもって地上に干渉するのは禁じられている。だから、あくまで人間の範囲内での力だというが、それが超達人レベルだってのが問題だよ。

 あれって人間が1000年ぐらい修業したら辿り着けそうな境地だろ。その前に普通寿命で死ぬから。時間を無視している。エルフとか魔族、妖精族ならその高みにいけるのかもしれんが。

 まあ、確実にこれであの新人たちは強くなる。この国のためにも頑張ってもらおうかね。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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