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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
253/637

#253 サバイバル終了、そして忍者たち。





「まず、こいつらは問題外だな。さっきからぺちゃくちゃお喋りばっかりだ。緊張感が足らん」

「こいつとこいつはちゃんとあたりに警戒して気を配ってる。今回は見逃してやろうぜ」

「この三人は……判断に迷いますね。戦ってから決めましょう」


 誰を見逃して誰を失格にするか、この時点で粗方決めておく。問答無用で失格にする者、あるいは見逃す者は一撃で沈めてもいい。あとでバッジを奪うか奪わないかすればいい。

 判断に迷うものはそれなりに戦ってみて、最低レベルを超えていたら見逃す、それ以下なら失格という風にする。ま、最終的にはみんな気絶させるわけですが。

 作戦としては全員潰す方向でいくわけで。

 特にあの差別的な連中は、遠慮する必要性を感じないけどな。ま、これは試験なんだから、いたぶらずにさっさと退場してもらうことにしよう。


「そんじゃ行きますか」


 みんなはそれぞれ得意な剣や槍の長さのスタンロッドを手に持ち、仮面をかぶって立ち上がった。

 打ち合わせ通りに焚火周辺の森の中で三方に分かれた。一斉に奇襲をし、まずはすでに失格者と決めた者たちを一撃で片付ける手筈になっている。

 それぞれ持ち場に着くと、馬場の爺さん、ニコラさん、僕の持つスマホで時間を合わせ、決められた時間ピッタリに三方向から飛びかかる。


「……3、2、1、0!」


 僕らは一気に焚火をしている奴らへ向かって森の陰から飛び出して行く。


「っ! 鬼だっ!」

「襲撃! 襲撃だっ! 迎え討て!」

「こっ、こっちからもだぞ!?」

「向こうからも!?」


 警護をしていた者たちが一斉に声を上げるが、大概の奴らはすぐに反応できず、手間取っていた。

 自分の剣を慌てて抜こうとした受験者の腹に、すれ違いざまスタンロッドを叩きつける。遅い! 警戒をしていた者と、いなかった者、その差がこういうところで出てくる。


「ぐはっ!?」

「ひいっ!」

「うごえっ!?」


 バタバタと受験者がわずか10名ほどの鬼に倒されていく。

 中には女性の受験者もいたが、これも仕事なんで申し訳ないが問答無用で倒していく。それでも心持ち軽い打撃で。男は遠慮しないが。


「くっ!」

「お?」


 へえ。手を抜いていたけど、あの初撃を受け止めた。まあ、二撃目で沈んだけど。一応番号は覚えとくか。こいつは残しておこう。

 そんな感じに見極めながら倒していくと、向こうの方で例の獣人と魔族たちを追い払った奴らが、二メートルほどの棍状のスタンロッドを持った、ニコラさんと対峙していた。


「くっ! オラァ!」

「……なってないな」


 飛びかかってきた奴の腹にニコラさんの容赦無い突きが入る。


「ぐほえぇ!?」


 吹っ飛んだ男は白目を剥いてその場に倒れ、気を失った。アレ、スタンロッドの効果なくても気絶すんじゃ……。


「くっ……!」


 ニコラさんに気圧されるように、男たちが後ろにじりじりと後ろに退がっていく。


「……どうした? 獣人一人にこれだけいて何もできないのか? 口ばかりだな」


 仮面を被り黒装束を着て、ニコラさんの頭の上に出ている狐耳はなんとか隠せても、フサフサの尻尾までは隠せない。相手にも獣人だってことはわかってるはずだ。

 ウチの獣人で狐系ってのはニコラさんしかいないから、調べりゃ誰かってのはバレバレですが。じゃあ鬼の格好なんて意味ないじゃんと言われれば、そこはまあ、様式美としか。

 

「と、取り囲んで一気にかかるんだ!」

「ほう」


 ニコラさんを六人ほどの受験者が取り囲む。それに馬場の爺さんや、他の鬼たちも気付いていたが、あえて助けるための手を出さない。必要ないからな。


「らああああああああっ!!」

「くらえぇぇっ!!」


 一斉に繰り出される武器よりも速く、ニコラさんは棍を地面に立てて、それを軸に真上へと飛び上がる。

 そのまま取り囲んだ奴らの外へと着地すると、必殺の突きを次々と繰り出し、戦闘不能にしていった。


「がっ!?」

「ぶふうっ!?」


 腹へ一撃を食らった一人は、食事後だったのか、倒れる前に消化の終わってない胃の中身を地面にぶちまけて、ご丁寧にその中へと顔面を沈めた。うわ。

 ニコラさんに一撃を加えることもできずに受験者たちはその場に次々と倒れていく。無慈悲過ぎるその戦いぶりはまさに鬼だ。鬼がいてはる。

 最後の一人に向けて、ニコラさんが歩を進める。


「ひ……っ!」

「ブリュンヒルド騎士団をあまり舐めないことだ。視野の狭いお前たちが入れるほどぬるくは無い」

「わあああああっ!!」


 斬りかかってきた受験者を難なく躱し、棍の一撃をその頸へと見舞う。痙攣し、白目を剥きながら最後の一人が地面へと沈んだ。

 辺りを見回すとほぼ片付きかけていた。僕はニコラさんへと近寄り声をかける。


「や、お疲れお疲れ」

「……ちょっとムキになってしまいました。申し訳ありません。まだまだ修行が足りないようです……」

「いいんじゃない? 僕ら今は鬼なんだし。僕だったら素っ裸にして全員木に吊るすけど」


 ちょっと落ち込んでるのを慰める意味も込めて、冗談を言ったんだが、ニコラさんは引きつった笑いを浮かべるだけだった。あれえ? 本気にしてます?

 しばらくすると、焚火の周りに集まっていた受験者は一人残らず気絶させられていた。僕と博士の作ったスタンロッドは麻痺させるだけじゃなく、意識を刈り取ることもできる。個人の魔力抵抗値や肉体の頑強さによって、効果の効き易さはあるみたいだが。

 鬼のみんなはそれぞれ自分の倒した奴らからバッジを奪ったりしていく。見どころのある奴は今回は見逃すことにしていたが、それでも100人ぐらいいても10人もいなかった。

 一応、30分ほどで目を覚ますはずだ。気絶中に他の受験者にバッジを奪われるなんてことがあってはならないので、鬼のみんなは全員森の中へ戻り、意識が戻るまで遠目で監視する。


「ここは我々が見ていますので、陛下は別の受験者のところへ行って下さい」

「そお? じゃあ行ってきます」


 ニコラさんの言葉に甘えて、僕はその場を離れる。

 森の中を木の枝から木の枝へ飛び移っていく。今更だけど僕ってこんなに夜目がきいたかな。集中すると闇の中でも結構見える。変な能力に目覚めつつあるなあ……。

 その日の夜は受験者を襲っていた魔獣を何匹か倒したり、(魔獣を倒せないレベルの受験者も倒したが)森の中に仕掛けられた罠にはまった受験者たちを助けたりして、(もちろんかかった奴らは失格)なんとか朝を迎えた。





 そんなサバイバルの三日間がようやく過ぎ、受験者の付けていたバッジから騎士団長レインさんの声が響いてきた。


『試験終了時間だ。おめでとう。現時間をもって、バッジを所持している者は第二試験の合格者とする。バッジを外し、本陣へと転移されたし』


 森の中から次々と合格者が本陣へと転移していく。もちろん僕もバッジを外し、本陣へと転移した。

 本陣ではすでに転移した合格者たちが、番号と姓名を告げている。この後の面接は二日後だ。

 合格者に目を向けてみると、僕が目を付けた忍者、鎧の男、芋少年の姿もあった。芋少年はよく生き残ったな……。かなりやつれているけど、ずっとどこかに隠れていたのかもしれない。

 それと、例の焚火から追い払われた獅子族の女性と有翼族の男性、ワードッグの青年に、アラクネーの少女も合格していた。よかったよかった。

 一応、森に残った者はいないか検索魔法で確認する。うん、全員帰還しているようだ。

 すすっと合格者のフリをして、僕に近付いてきた椿さんに、それとなく合格者人数を聞く。


「合格者人数は416人です。ここから二日後の面接でだいたい150人までに絞ります」

「ユミナにも手伝ってもらうから、その時に怪しい奴やいかがわしい考えを持った奴は落とされるだろうけど、150人も残るかどうかが問題だね。だからって不適合な人間を採用する気はないけど」


 言ってみればここからが本番だ。ウチの騎士団に相応しい人間かどうかじっくりと判断させてもらう。

 博士に嘘発見器キーラーポリグラフは作ってもらったし、ユミナの魔眼と合わせれば、その本性を知ることも難しくないだろう。

 ちなみに嘘発見器をお披露目した時、婚約者達みんなに様々な質問を投げかけられた。もちろんヤバイ質問には答えませんでしたよ!?

 嘘か本当かを判断する魔道具アーティファクトなので、答えなきゃ反応はしないし。黙秘権です!

 胸は大きい方が好きかとか、好みの下着の色はとか、そんなことを答える必要は無いはずです! みんなのことを好きかという質問だけは答えさせられましたが。


「そういえば、合格者の中に忍者っぽい奴がいたけど、あれって椿さんの推薦者?」


 騎士団の幹部クラスには、誰か推薦者がいたら声をかけておいてくれとは言ったが、一応試験は一緒に受けてもらった。実力があれば、合格できるはずだし、推薦者と言っても面接で少し有利になる程度でしか無い。


「その一人かもしれません。私が声をかけたのはイーシェンの忍びたちでして。この間の秀義ひでよし事件で、いくつかの家がお取り潰しになり、路頭に迷った者が何人かいたので声をかけさせていただきました」

「え? 何人かって一人じゃないの? 全員忍者?」

「はい。甲賀と伊賀、それに風魔が一人ずつ」


 甲賀とか伊賀? それに風魔って。ずいぶんとまあ流派がバラバラですな。それに伊賀と甲賀って仲悪いんじゃないのか?

 そんな質問を椿さんにすると、別にそんなことはないとのことだった。個人のレベルで互いにライバル視している者もいるだろうが、その二人は違うとのこと。もともと同じ家に仕えていたとかで、その家がお取り潰しになり、こちらへ流れてきたらしい。その家がどうも羽柴側だったみたいで。

 

「うーん、あの戦いには僕も一枚噛んでいるしなあ。複雑な気分だけど……」

「二人は仕えていた真田家を離れ、新たな仕官先としてブリュンヒルドへ来たわけですから、陛下が負い目を感じる必要はないかと」

「そうは言うけど…………真田?」


 真田って……真田家? 真田に仕えていた甲賀と伊賀の忍者……って、まさか。


「その二人の名字ってひょっとして、猿飛さるとび霧隠きりがくれとか……」

「え? そうですが……なぜおわかりに?」


 マジっスか。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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