表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第26章 明日のためにできること。
251/637

#251 試験開始、そしてサバイバル。




 ブリュンヒルドでの新規騎士団員採用試験の通達はギルドなどに張り出され、それなりに注目されているようだ。

 それなりに、と言うのは、なにぶんウチの騎士団は給料が安い。加えて出世しても大して上がることもなく、実入りの良さで選ぶなら、他の騎士団に行った方がいいと思われる。

 冒険者などは狩った魔獣や手に入れた財宝などで、当たり外れが激しいが、それでも二流の冒険者でも確実にウチの騎士団員より稼ぎがいいはずだ。もっと国が潤ってきたら給料を上げてやりたいところだが、今はまだ無理。

 メリットと言えば、ある程度は安定した収入を得られるってことと、衣食住がタダってことくらいか。あと冒険者ほど命の危険もない。フレイズと戦ったりもするけど、フレームギアに乗らない騎士団員もいるし。

 そんなわけだから、せいぜい前回と同じ1000人くらいしか集まらないと思っていたのだが(それでもかなりの人数だけど)、予想に反してその三倍の3000人以上の受験者がやってきた。ちょっとびっくり。

 この内150人くらいを採用予定だから、倍率はだいたい20人に1人の割合か。 

 とりあえず城の中庭で試験をするのは難しいので、城の北部にある大平原に希望者を集めた。

 一般の見学者もなんでか数名来ている。ちょっとした見世物だな。まあ、街の住民たちがいてくれた方が、これからやろうとしてることには都合がいいんだけど。


『ブリュンヒルド騎士団団長、レイン・ネザーランドである。これより新規ブリュンヒルド騎士団員採用試験を行う』


 平原に作られた壇上で、レインさんがマイクに切り替えたスマホでスピーカーを通し、受験者たちに名乗りを上げる。

 ちなみに、副団長の一人、ニコラさんにはストランドという家名があったが、レインさんともう一人の副団長、ノルンさんには家名がなかった。

 それではイマイチ格好がつかないというので、僕が家名をつけて、レインさんは「レイン・ネザーランド」、ノルンさんは「ノルン・シベリア」となった。どっちも兎と狼の種類からだが、こっちの世界の人にゃ言わなきゃわかんないから多分大丈夫。獣人である彼女たちにはピッタリだと思うんだが。

 一応、今回の試験では僕は表に出ない方がいいと思い、公式には出ていない。けれど「ミラージュ」をかけて、受験者に成りすまし、参加している。やっぱり自分の目でいろいろ確認したいし。けっこう僕の顔は城下じゃ知られているので、知ってる受験者がいると面倒だからな。

 現騎士団員のみんなにはそのことを知らせてあるので、怪しまれることもない。一般の受験者として扱うように言ってある。

 それにここからだと他の受験者たちがよく見える。早速だが何人か不適合者が見つかったし。

 壇上のレインさんが女性で、しかも獣人ということから、舐めているのか、初めからまともに話を聞く気もない輩が何人かいる。間違っても彼らが合格することはないだろう。

 集められた受験者たちを見渡すと、やはり女性が多いように思える。四割近いんじゃないか? まあ、女性騎士を採用する騎士団は少ないし、さらに言うならそのほとんどが貴族の家柄だったりするからな。そこらへん、平民だろうが構わないウチに来るのはわからんでもない。

 それに、獣人や魔族も前回より多いな。獣人はまだいいが、魔族はまさか魔王からの差し金じゃないだろうな。娘である桜の情報を逐一得るためとか? いくらバカ親、いや親バカでもそれはちょっと引くぞ。……普通の受験者だと思いたい。


『それでは最初の試験に入る。後ろを見たまえ』

『え?』


 レインさんの言葉と共に、受験者ぼくらの背後からバッサバッサと翼をはためかせる音がした。振り向いた彼らの視界に映ったものは、空中でこちらを睥睨する巨大な竜の姿。


『ゴガアアアアアァァァァァァァァッッ!!』


 サファイアの輝きをした竜が天へ向けて咆哮する。おいおい、やり過ぎじゃないか? 脅かせとは言ったけどさあ。


「ひいいいいっ!?」

「り、り、りり、竜だ! なんでこんなところに……!!」

「逃げろっ! 殺されるっ……!!」


 蜘蛛の子を散らすように、大多数の受験者が我先にと逃げ出した。空に浮かぶ竜────瑠璃は、黙ってそれを見つめている。

 もちろん、逃げ出した彼らは失格だ。一般の見学者もいるのに、それを放置して真っ先に逃げ出すような奴らはいらない。

 ふむふむ、三分の二くらい減ったかな?

 しばらくしてドズンと瑠璃が地面に降り立つと、レインさんが口を開いた。


『守るべき国民を守らず、自分の保身を優先する者は我が国の騎士にあらず。おめでとう。残った諸君たちは合格だ』


 レインさんの言葉で、これが試験であったことにやっと受験者たちが気付く。中にはヘナヘナと腰から崩れ落ちる者もいた。余りにも驚き過ぎて逃げ出すことができなかった者もいるようだが、まあ想定内だ。どのみちそういった輩はこれから先の試験や面接で弾かれるだろうし。

 逃げ出した奴らの中には、言い訳がましく街に戻って守りを固めようとした、とか、周りに流されてつい走ってしまった、とか言ってくる者もいたが、試験官であるノルンさんたちは一切取り合わなかった。それでも食い下がってくる者がいたので、念話で瑠璃にひと吠えしてもらうように頼むと、風の速さでその場を去っていった。これで言い訳できまい。

 役目を終えた瑠璃は、バッサバッサと空へと帰っていく。その姿をポカンと見送る受験者の耳に、再びレインさんの声が響いた。


『さて第二の試験だが、ここから西にある森の中で三日間過ごしてもらう。食料の持ち込みは禁止、水は川が流れているので心配はない。水筒も支給する。期限が来るまでに森から出た者は失格だ。さらに、その森には数人の「鬼」役となった我が騎士団員がいる。「鬼」には殺されることはないが、意識を失うと森の外へ放り出されるので注意したまえ』


 レインさんが次の試験内容について説明すると、受験者から次々と質問が飛んだ。


「「鬼」に抵抗するのは有りでしょうか?」

『むろん、有りだ。倒してしまっても構わない。もちろん、殺すのはなるべく避けてもらいたいが』

「森の中で、受験者同士が徒党を組むのも有りでしょうか?」

『それも構わない。ただ、集団で固まっていれば、それだけ「鬼」に見つかりやすいことを覚えておきたまえ』

「「鬼」は何人いるのですか?」

『それは答えられない。1人かもしれないし、100人かもしれない。ただ、全員「鬼」の面をかぶっているので、見ればすぐわかるはずだ』

「魔法の使用は許可されますか?」

『残念だが今回は魔法の使用を禁止する。森の中は特殊な結界が施されていて、君たちの魔法は一切使えないので注意するように』


 火属性の魔法で森を焼かれたら、かなわんからな。要は三日間「鬼」から逃げのびればいいのだから、魔法が無くてもなんとかなるはずだ。


『三日後まで森に居続けた者が第二試験合格とする。人数に上限はない。全員残っていれば全員合格とする。また、事故による生命の危機、あるいは試験を放棄をする場合、これから配るバッジを外して捨てれば、ここへ転移できるようになっている。もうダメだと思ったら無理せず転移するように。ちなみに森の外へ出ても、このバッジが働き、ここへ転移される。もちろん失格になるが』

 

 前回の試験でも使った転移バッジが配られる。最後に僕が受け取ると、番号は1192番だった。お、いい国作ろうとは縁起がいいな。あれ? そういやあれって今は別の年になってるんだっけか? まあ、どうでもいいけど。


『最後に、当たり前だが故意に他人のバッジを奪ったり、森の外へ追いやる行為も禁止する。むろん、それを行った場合、失格となる。諸君らが目指す、騎士として相応しい行動を期待する』


 レインさんが壇上から降り、ニコラさんが先導する形で西の森へと受験者を連れて行く。

 ぞろぞろと歩く受験者に交じり、僕も歩いていると、隣を歩いていた軽装備で黒髪の女性が声をかけてきた。


「準備は全て整いました。いつでも動けます」

「まず、2時間くらいは様子を見よう。どういった行動をとるか見たいしね。あ、でもなんかズルするような奴がいたら、問答無用で森の外へ放り出して」

「御意」


 隣を歩く椿さんが小さく頷く。彼女も僕と同じく潜入班だ。実は彼女だけじゃなく、何人か受験者の中に騎士団員が紛れ込んでいる。ほぼ、椿さんの配下だが。

 食料もなく、いつ襲われるかわからない。そんな状況にこそ、その人の本性が出やすいものだ。それを見極める人員……ってのもあるが、一応、安全のための人員ってのが本当である。

 よからぬ考えをする奴らもいないとは限らないからな。それにあの森にはそれなりの魔獣もいるし。

 いろいろと仕掛けもしてあるし、果たして何人が逃げ出さずにいられるか楽しみだ。くっくっく……。あ、いかん、悪者みたいになってしまった。反省、反省。

 西の森はけっこう広く、木々も深々と生い茂っていて、視界がかなり狭くなる。元々ブリュンヒルドは魔獣の多い土地だったのを、僕が一掃したのだが、それでもまたこの森に住み着く魔獣はかなりの数になってきている。

 時たま、ギルドからの依頼で素材獲得のために入る冒険者がいるくらいで、普段はあまり人間の立ち寄る場所ではない。街道から離れているため、被害はほとんどないが、この際だから危険そうな魔獣は狩ってしまおうかとも考えてたりもする。

 そんなことを考えてたらいつの間にか森へ差し掛かっていた。

 ニコラさんが全員を止め、説明を始める。


「ここからが試験領域となる。水筒を受け取って、番号の順番に入ってもらうが、この時点で棄権する者は自分の番が来た時に申し出るように。また、武器の全くない者は申し出れば普通の武器程度なら貸し出そう。森へ入ったら自由に行動して構わない。「鬼」はすでに森の中にいるので気をつけたまえ。それでは1番、2番……」


 ニコラさんがスマホで森へ入る人間をカメラで撮り、確かに入ったかチェックしていく。

 同じようにノルンさんもチェックを始め、30分以上かけて、やっと最後の番号である僕の番号になった。カメラで撮る必要はないのだが、一応撮られておく。


「じゃあ転移先には本陣を置いて、回復魔法を使える人と、フローラを控えさせておいて下さい。えっと、ニコラさんとノルンさんも「鬼」役でしたっけ?」

「はい。このあと森の中へ入ります」

「あたしも入るけど、森の中で陛下や潜入組のみんなに会ったらどうしたらいいのかな?」

「他の受験者がいる時は同じように襲ってくれてけっこう。こっちもバレない程度に抵抗するよ。それに夜になったら僕も「鬼」側に回るし」


 僕の返事にノルンさんが引きつった笑いを浮かべた。


「……手は抜いて下さいよ? 陛下の相手してたら、こっちが危ないから」


 まあ、潜入班のみんなもそこらへんはうまく立ち回るだろう。

 「鬼」役は騎士団員から内勤組を除いたほとんどが参加している。馬場の爺さんも、山県のおっさんも参加しているのだ。ちなみに「鬼」たちには見どころがあると思ったら、わざと見逃せとも言ってある。何か光る物があるのなら、面接までしてみたいからな。

 「鬼」役のみんなには、「パラライズ」を付与したスタンロッドを持たせているので、受験者を傷つけることはないはずだ。倒しても、見どころがあればそのまま見逃せばいいし、無ければバッジを奪って転移させ、失格にしてしまえばいい。

 この「鬼」役に諸刃姉さんも参加したがったが、なんとか宥めすかして辞退してもらった。まったく冗談じゃない。誰一人合格者を出さない気か。


「さて、僕も入るとするか。じゃ、何かあったらスマホで連絡を」

「わかりました」

「いってらっしゃーい」


 折り目正しく頭を下げるニコラさんと、腕をブンブン振るノルンさんに見送られて、僕は鬱蒼と茂る森の中へと足を踏み出した。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ