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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第25章 デイドリーム・ビリーバー。
243/637

#243 事後処理、そして「聖域」。





 とりあえず、ヘドロボックス内で気絶しているガルゼルドを琥珀に任せて、ユーロンの城の方へ戻ってみた。

 人間は「ストレージ」に入れられないし、ボックスから出すと臭いし。近くに仲間がいるかもしれないから、放置するわけにもいかないしな。

 城へ飛んで戻るとほとんど戦闘は終わっていた。そこら中に鉄機兵の残骸が散らばっている。

 うあー……。できれば無傷のやつを持って帰りたかったが……無理かな、こりゃ。まあ、博士なら難なく直せそうだけど。

 城からは次々と兵士や女中たちが逃げ出している。あれだけの騒ぎがあっちゃなあ。

 玉座の間に戻ると、椿さんがソルとボーマンの奴を縛り上げていた。ソルはガルゼルドと一緒にフェルゼンへ、ボーマンはロードメアへ引き渡すか。


「陛下。ガルゼルドは?」

「捕まえた。琥珀が見張ってる」


 さて、と。ジェスティさんはどこかな。検索魔法は結界により使えないので、偽天帝が逃げた方向へ探しに行ってみる。すると、長い渡り廊下の真ん中で、血に塗れて事切れている偽天帝ジャオファをジェスティさんたちが見下ろしているところへ出くわした。どうやら本懐を遂げたようだ。

 ジェスティさんは身体中に切り傷を作り、手には血に染まった剣を持っていた。ソニアさんや蓮月さんは手を出してはいないみたいだ。あの二人が加わっていたら、こんな傷を負うわけはないからな。


「終わったみたいですね」

「はい……。ありがとうございます。おかげで父の仇を討てました。これで父も安らかに眠れるでしょう」


 泣いていたのだろうか。どことなく目が赤い。無惨に殺された父親の無念をやっと晴らせたのだから、無理もないか。


「とりあえずここから撤退しましょう。行く当てがなければ後でブリュンヒルドに送りますが」

「お願いします」


 そう答えたのは蓮月さんで、ジェスティさんはまだどこか放心している感がある。三人を連れて椿さんのところへ戻ってくると、八重とヒルダがフレームギアから降り立っていた。


「むむ? そちらの御仁たちは確か「剪定の儀」で……」

「あら? 本当ですね。エルゼさんとルーシアさんの対戦相手の……」

「ああ、あの時の……」

「あなたたちがあのフレームギアを?」


 四人とも互いに対戦したチームの一員ではあったが、直接対戦した相手ではないので、そこまでの面識は無かった。せいぜい顔を知っている、という程度だ。

 きちんとソニアさんたちに八重たちを紹介する。どっちも僕の婚約者と聞いて、驚いてはいたが。さらにエルゼやルーを含め、あと七人いると言ったらもっと驚いていたが。

 それはともかく、外に転がっている鉄機兵をどうしようかと悩む。「ゲート」で転移してしまえば一発なんだが……。

 結界の要ってどこに設置してんだろう。こういうのって普通、範囲内の隅か中心だよな……。隅には特に何も無かったし、中心は宮廷あそこだろ? 玉座だったならとっくに壊れてるし……あ。

 見上げた先にそれが目に入った。宮廷の屋根の上、大棟の両端部に対になって輝く、日本で言うところのシャチホコがある場所に、黄金の龍が設置されている。あれって正吻せいふんって言うんだっけか?

 僕はブリュンヒルドを抜き、それを連射してどちらとも打ち砕く。あれが結界を生み出す魔道具アーティファクトだとしても、ガルゼルドしか使えない魔道具なんかいらんしな。

 破壊してから試しに「フライ」を発動してみたが、ちゃんと飛べた。やっぱりあれが結界の魔道具アーティファクトだったか。もっと早く気付いていればなあ。

 さっそく「ゲート」を開いて鉄機兵の残骸を「格納庫」へと送りつける。

 これでこの都も天帝がいなくなって住みよいところになるといいが。いや、また新しい天帝が出てきたりするかな。イタチごっこな感じだなあ。

 実質、他の天帝とやらもジャオファが駆逐してしまっているんだし、すでにこの国は国として機能してないのは明らかだ。

 もう都市同士で同盟を組んで、その中から指導者を選べばいいとも思うけど、ユーロン人だと変な指導者が出てくるんじゃないかと思ってしまう。

 いかんいかん、ユーロン人にだって立派な人物はいるはずだ。まだ会ったことないけど……。

 今回は鉄機兵のことがあったから絡んだけど、本来ならこの国のことはこの国の人がやるべきだろうし。

 ハノック近くのユーロンの都市が、ハノック側に組み込んでほしいとかいう話があったらしいし、領土も少しずつ隣国に取り込まれていくのかもしれない。

 フレイズに襲撃されたあと、身内で争いを始めたからな、この国は。それどころじゃないだろうに。その段階でアウトだったのかもな。

 城の地下には鉄機兵の製造工場があった。しかしすでに稼働はしておらず、撤退した後だったようで、何も残ってはいなかったが。また利用されると厄介なので、念入りに破壊して僕らは宮殿から引き上げた。






 その次の日、ロードメアへ行き、ボーマンを引き渡した。当然ながら今度は鉱山送りなどではなく、死罪だという。このロードメアの囚人が脱走したことにより、多くのユーロン人がその犠牲となった。その償いはしなければならないとのこと。全州総督の厳しい沙汰が下ったわけだ。

 問題はフェルゼンへと引き渡した二人なほうだ。ソルの方はまだいい。ガルゼルドの方はものすごい嫌がられた。臭いのだ。どうしようもなく。

 おまけに情報を聞き出そうとしても、ソルの方はさほど知っておらず、ガルゼルドの方は放心してしまって、こちらの言葉を聞いているのかいないのか、わからない状態だった。

 目は虚ろで、涎を垂らし、時折、「えへっ、えへへへ……」と、引きつった笑いを漏らす。やり過ぎたか。


「公王……一体何を()たん()?」

「……カッと()てやった。反省()ている」


 フェルゼンの地下牢で、見る影もない「黄金結社ゴルディアス」の首領を眺めながら、ジト目で鼻をつまんだフェルゼン国王が睨んでくる。

 この牢は魔法を使えなくする結界が張られているらしいので安心だそうだが、臭いまでは消せない。

 僕らはたまらなくなって、地下牢から脱出する。外の中庭に出て、美味しい空気を肺いっぱいに吸い込んだ。


「それでもまだ臭い気がするな……」


 自分の服をクンクンと嗅ぐとなんとなくほんのりとヘドロスライムの臭いがするような。消臭魔法って確かあった気がする。今度「図書館」で調べておこう。

 フェルゼン国王がどこからか取り出した香水をシュッシュッと使い始めたので、僕も借りて臭いを誤魔化しておく。すっかりシトラスミントのような香りに包まれたので、これで大丈夫だろう。

 しかしよくこんなの持ってたな。似合わないと思ったが、婚約者であるエリシアさんに嫌われたくない一心で、こういったものを持っているのかもしれない。


「ところで公王。ほれ、ウチの「魔工商会」のギルドマスター、覚えてるか?」

「「魔工商会」? ああ、あのサングラスかけた胡散臭い……」


 確かイーゼスとかいったか。フェルゼンの魔法使い、商人、職人を取り仕切る、巨大ギルドのマスターだったな。


「あいつの下に三人のサブマスターがいるんだが、今朝そのうちの一人がいなくなった。で、そいつの家から見つかったのがこれだ」


 懐からフェルゼン国王が取り出したのは、黄金でできた丸に七角形のペンダント。「黄金結社ゴルディアス」のメンバーである証だ。


「ガルゼルドが捕まったのを知って慌てて逃げ出したんですかね」

「おそらく、な。しかもこいつはワシの暗殺を狙っておった節がある」


 家宅捜索をした結果、そういった類の物的証拠がゴロゴロと出てきたらしい。ガルゼルドが外から、そのサブマスターが内からフェルゼンを狙っていたのは間違いなさそうだ。


「それで奴らがやろうとしていた禁忌魔法のことですけど……」

「「聖域サンクチュアリ」だな。わかりやすく言えば、「支配」の魔法らしい」

「「支配」?」

「宮廷魔術師のルドーに聞いたのだが、いわゆる精神操作系と言われる系統の魔法らしい。恐ろしいのはかなり広範囲で発動させることも可能で、その領域にいる者は支配されていることを疑問にも思わないのだとか」


 洗脳ってことだろうか。無意識下で都合のいいことを刷り込む、サブリミナル効果のような。


「その「聖域」では如何なる理不尽なことでも、それが当たり前になる。おそらくこれを使って、ガルゼルドは魔法使い至上主義の国を作ろうとしていたのではあるまいか」


 あいにくと発動条件などはわからないらしいが。聞き出そうにもソルは魔法を少しだけ使える程度の戦士なので、このことについてはほぼ知らなかった。ガルゼルドはあのザマだし。


「仕方ない。知ってそうな人に聞くか」

「なに?」


 禁忌魔法は古代王国が生み出した古代魔法だ。なら、その時代に生きてた人に聞くのが手っ取り早い。

 懐からスマホを取り出し、ある相手に電話をかける。コール三回で相手が出た。


「もしもし? 博士?」

『はいはい。しかしアレだね。「博士」って呼び方はちょっとよそよそしく感じるね。愛人らしく「レジーナ」と呼んでくれないものかな?』


 テンション軽くバビロン博士が返事をよこす。なにが愛人だ。認めてないっつうの。


「それで博士、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」

『むう。あくまで押し通すつもりだね? ……まあいいや、で?』

「「聖域サンクチュアリ」って魔法知ってる?」

『「聖域サンクチュアリ」? ええっと……ああ、精神支配の広範囲魔法だね。それが?』

「発動のための条件とか儀式とかって知ってる?」

『んー、魔力の強い生贄が必要だね。支配する者と同じ種族が。範囲が大きくなればそれだけ多くの生贄が必要。まあそれに代わる莫大な魔力があれば問題ないけど』


 生贄ねえ。血生臭いな。まあ、得てしてそういう魔法が禁忌魔法になりがちなわけだけど。


『だけどアレって指定範囲から出てしまうと効果が消えるし、魔力の強い者には効きにくいから、あまり使われなかったけどね』

「え? そうなの!?」

『確かそうだよ。基本的に終身刑になった普通の罪人がいる刑務所ぐらいしか使ってなかったんじゃないかな。それも限られた一部の国でだけど。パルテノじゃ使ってなかったよ』


 なんだそりゃ。まあ、そういうところなら反乱を起こしたりさせないように使ったかもしれないが、生贄を使ってまでするかな。生贄も死罪になった罪人とか? それもどうなんだろう。

 

「じゃあ国全域で「聖域サンクチュアリ」を発動させようなんて……」

『あんまり意味はないね。それに国丸ごとなんてどれだけの生贄が必要になるか。それこそ戦争でもしないと無理なんじゃないかな? 聖域を持続するにも生贄はいるらしいし、そんな無駄なことしてたら人類は消えてしまうよ』


 なるほど。フェルゼンと戦争を起こし、戦死者を生贄にして「聖域サンクチュアリ」を発動させる。そんなところか。フェルゼンの魔法兵なら魔力が高いエリートばかりだろうし、生贄にはうってつけだ。

 だけど重要なところがわかっちゃいなかったみたいだな。範囲外に出れば効果が消えるなんて、そんな洗脳で国家が成り立つとは思えない。しかも、それを保つのにさらに生贄が必要とか。延々と戦争をし続けるつもりか?

 どうせどこかで見つけた古文書からその魔法の発動方法を知ったのだろうが、それ以外の重要な部分が欠けてたのか、解読できなかったかそんなとこだろう。


「なるほど。わかった、ありがとう」

『おっとお礼は他のものでお願いしたいね。こないだの「あにめ」の続きを観せてもらいたいな』

「むう……まあ、いいけど。徹夜でぶっ通しとかはダメだからな」

『わかってるわかってる。約束したよ』


 飛操剣フラガラッハを参考にした元のアニメを見せたのだが、やっぱりアレを見せたのは間違いだったかもしれない。一作目だけ見せたけど、あのシリーズ追いかけると長いんだぞ……。なんでもいろいろと参考になるんだとか。そのうち足のないフレームギアとか作らないだろうな。あれは宇宙用であって、地上用じゃないから。

 ともかく博士から聞いた内容をフェルゼン国王に話す。初めはその内容に驚いていたが、話を聞くに連れて納得したように頷いていた。


「なるほど。その聖域外に出れば効果が消えるという部分などが伝承されなかったがために、恐ろしい禁断の魔法とされて伝わっていたのか」

「いや、あながち間違いってわけでもなかったと思いますよ。「聖域外に出ることは、とても悪いことだ」とでも刷り込んでおけばなんとかなるでしょうし。恐ろしい魔法であることには変わりありませんよ」


 自分の理想とする場所を限定とはいえ作ってしまうわけだ。そう考えるとさっきの刑務所での使用ってのは、けっこう理にかなってるのかな。死刑囚を生贄にし、それで発動した魔法で囚人を縛り付ける。人道的にどうかというのは置いておいてだが。やはり禁忌魔法に指定されていて当然な気もするな。


「さて、となると「黄金結社ゴルディアス」のしてきたことというのは……」

「全くの的外れだったってことですね」


 こうなると哀れだな。ありもしないものに縋り付いている白昼夢の信者デイドリームビリーバー、か。


「だが、問題はそれを信じている輩がまだいるということだ。ソルから聞き出した話によると、「黄金結社ゴルディアス」のメンバーはかなりの数に登る。加えてまだ鉄機兵とやらも残っているのだろう? 首領は捕まり、その存在が明るみとなった今、「聖域サンクチュアリ」だけが奴らの希望。そんな奴らの取る……いや、取らざるをえない行動は…………」

「陛下!! ユーロンとの国境付近に、鉄機兵とおぼしきものと、無数のウッドゴーレムが現れ、王都へと向かって進軍しています! その数3000あまりとの報告が!」


 僕らの元へ一人の兵士が息を切らせて駆け寄り、そう報告する。

 ま、そう来るよな。

 しかしウッドゴーレムまで混じってんのか。ボーマンのやつ、いらんことを。


「なっ、3000だと……!?」


 その数に目を剥くフェルゼン国王に僕が声をかける。


「……手、貸しましょうか?」

「いいのか?」

「もともとウチの機体が盗まれたことも原因のひとつですしね。それにいい加減うっとおしいんで」


 ただでさえフレイズのことで手一杯だっていうのに、面倒事をこれ以上増やされてたまるか。

 ────ここでやつらを殲滅する。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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