表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第25章 デイドリーム・ビリーバー。
240/637

#240 阻害結界、そして城内侵入。





「なるほど。鉄機兵は城内地下の格納庫に収納されているのか」

『はい。城に潜入はしませんでしたが、その数1000近くとか』

「そんなにあるのか……」


 椿さんからの電話を受けて、その内容にちょっと驚いた。1000体近いってのは結構な数だ。ウチのフレームギアでさえもせいぜい400機くらいだからな。

 これは資材量の差なのか、生産能力の差なのか。はたまた、なにか別の原因があるのか。ひょっとして「工房」のような施設があるのかもしれない。

 材料が城に持ち込まれてるとしたら、そこに生産工場があるはずだ。逆に言えばそこを潰せば、鉄機兵はもう簡単に作れないだろう。

 後顧の憂いを断つ意味を込めて、工場は全部ぶっ壊すか。


『それと、城には強固な結界が張られているようです。魔法関係は全て打ち消されてしまうとか』

「それは面倒だな……」


 ってことは、鉄機兵をいただくには転移魔法ではダメってことか。直に乗り込んで持ち出さないといけないわけだ。

 たぶん魔法が打ち消されるというよりは、邪魔されるというタイプの結界なのだろう。

 結界にもいろいろあって、


 魔法の対象になるのを避ける、回避結界。

 魔法の発動を阻害する、阻害結界。

 何かしらの効果を与える、付与結界。

 侵入を阻む、防護結界。

 脱出を阻む、封印結界。


 僕が知っているだけでもこれだけある。他にもいろいろあるみたいだが、このうち護符や御守りなどは回避結界、フレイズの出現を防いでいる、世界に張られているという結界などは防護結界に当たるんだろう。

 もちろん結界にも強さがあって、頑丈なものを作り上げるには、それなりに魔力やら時間やらがかかり、大変だというが。

 一番手っ取り早いのは、結界を生み出している魔道具アーティファクトや術式をぶっ壊すことだが、それ自体にも結界が張られている可能性も高い。検索魔法なんかにゃ引っかからないだろうな。

 いや、もっと簡単なのは「都ごと消滅」だけどさ。うん、まあ却下だな。盗む鉄機兵も消滅だし。

 とにかく椿さんと一度合流することにした。

 さて、あとはソニアさんたちだが……。


「城に潜入するなら連れて行ってもらえないだろうか。ジャオファをこれ以上放置するわけにはいかない」

「どうかお願いします!」


 ソニアさんだけでなく、ジェスティさんにも頭を下げられた。まあ、連れて行くのは構わないんだけどさ。


「都に戻って大丈夫ですかね? 顔を見られたりしました?」

「見られた、かな。ジェスティに至っては名乗りまで上げてしまったし」

「父の仇討ちですし、それは仕方ないでしょう」

「うう……」


 となると、今ごろ人相書きが出回っている可能性が高いな。おまけに連れは竜人族の女にスキンヘッドの男ときた。目立つことこの上ない。


「仕方ない。幻影魔法で姿を変えましょう」


 ま、城に潜入したら解除されてしまうかもしれないけどな。

 阻害結界は、魔法の発動を邪魔する結界だ。そこに入れば、魔法の持続効果も邪魔される。

 まあ、街中だけだし問題無いか。

 三人とも「ミラージュ」で平凡な町人の男女に姿を変えて、元の竹林に「ゲート」で戻った。

 椿さんとの待ち合わせ場所へ行く途中も、たくさんの兵士たちが都中をうろついていた。「ミラージュ」のおかげで三人に気付く者はいなかったが、仮面のせいで僕が何回も職務質問された。なんでだ。






 それから夜が更けて、辺りはすっかり暗くなった。

 僕らは行動を起こすべく、人気ひとけのない道を選んで、城の近くへと向かう。あらためて見ると高い城壁だなあ。


「さて、どうやって忍び込むか」


 城壁の近くへ移動して、試しに「ライト」を使ってみたが、一瞬だけ光を放ったが、すぐに消えてしまった。どうやらすでに結界の範囲内らしい。


「魔法は使えないようですね」

「正面の城門は警備が厳しくなってるし、どうしたもんか……」


 考え込む蓮月さんとソニアさん、それにジェスティさんの「ミラージュ」もすでに解けている。

 魔法は使えない。「インビジブル」あたりで透明になって忍び込もうかと思ったけど……。


「うーん。面倒だなあ。いっそ正面から突破してしまうか」

「「「「え?」」」」


 向こうも魔法は使えないんだし、こっちには銃もあるしな。弓矢とかが怖いけど、かわせないこともない。僕一人ならどうとでもなる。


「ちょ、ちょっと待って下さい。あまり派手に暴れられるとジャオファが逃げてしまうかもしれません。それは困ります」


 ジェスティさんが慌てて止めに入る。あ、そうか。忘れてた。魔法が使えなくても、この城ぐらい僕一人で制圧できるような気もするが。うーん、そうなると……。

 不意に琥珀がピクッと耳を動かして、闇を凝視する。


『主。誰かがこちらへ向かってきます。おそらく見回りかと』

「まずいな。みんな近くの茂みに隠れろ!」


 僕の声に反応し、みんな素早く茂みの中に飛び込んだ。

 闇の中で目を凝らしていると、先ほどいた場所を、二人の兵士が通り過ぎて行く。どうやらこちらには気付いてはいないようだ。

 兵士二人の気配が遠くなって、安全圏になってから、僕らは茂みの中から出て、あらためて城壁を越える方法を考える。

 さすがにこの高さは飛び越えられないか。十メートルくらいあるからなあ。五、六メートルくらいなら魔法なしで飛び越えられるようにはなってるんだが。


『主。私なら楽に飛び越えられますが』

「背中に僕を乗せても大丈夫か?」

『問題ありません』


 なら、それでいくか。ぐずぐずしてるわけにもいかないし。

 琥珀が元の大きさに戻ると、椿さん以外の三人がまた驚きの表情で固まったが放っておく。

 「ストレージ」からロープを取り出そうとしたのだが、一瞬だけ開いて、すぐに閉じてしまった。結界の影響か?

 城壁からそれなりに離れたら開いたので、中から長めのロープを取り出す。

 そうか、中に入ったら魔法を使えなくなるかもしれないんだからな。今のうちに打てる手は打っておくか。

 いざという時のちょっとした保険をしておいて、みんなのところへ戻り、持ってきたロープの端を椿さんに預けて琥珀の背に乗る。

 スッと体勢を低くした琥珀が、一気に飛び上がる。十メートル以上も飛び上がり、城壁内へと音も無く着地した。

 幸い、辺りには誰もいない。低木や木が植えられた、庭のようなところだった。すぐさま近くの木へロープを結び付け、それを引いて椿さんに合図を送る。

 周囲に気を配り、いつでもブリュンヒルドを抜けるようにしておく。

 そういえば……ちょっと疑問に思ったので試してみよう。


「ブレードモード」


 ブリュンヒルドの刀身が少しだけ伸びる。なるほど。まったく発動しないわけじゃないのか。


「ブレードモード」

「ブレードモード」

「ブレードモード」

「ブレードモード」


 何回か繰り返して、やっと刀身が伸びきった。瞬間的な魔法なら使えないこともないか?

 「スリップ」なら一秒未満でも充分だし、「ブースト」や「アクセル」も瞬間的に使うなら問題なさそうだ。アポーツもおそらくいけると思う。なら、ガンモードのリロードも一瞬だから大丈夫だろう。

 「ファイアボール」とかだと至近距離じゃないと消滅してしまうだろうが、どのみちその距離で発動させたら、巻き添えでこっちも吹っ飛ぶな。

 「マルチプル」がすぐ消えてしまうから、スマホでのターゲットロックがまったく使えないのは痛い。「パラライズ」とかも接触すれば使えなくもない、か。

 あっ! 「テレポート」で瞬間移動すれば壁を越える必要無かったんじゃ!? 一瞬なら阻害される恐れも無いかもと思い、試してみたら、思った位置に移動しない。やはり阻害はされているようだ。危険で使えないな。

 そんなことを試していたら、城壁の上にソニアさんが現れた。ソニアさんや蓮月さんは身が軽いので手慣れたもんだったが、ジェスティさんは城壁に登るのに少々手こずっていたようだった。

 全員が登り切ると、登ってきたロープを手繰り寄せ、今度は城壁の出っ張りにひっかけて反対の城内へと下ろす。そしてそれを使って、するするとみんなが降りてきた。

 全員が城壁内に降り立ったあと、椿さんが片方の端を引っ張ってロープを回収する。一応低木の茂みに隠しておくが、鉄機兵をいただいたあとはそれに乗って脱出するので、必要無いかも…………って、待てよ。

 鉄機兵を奪っても果たして操れるだろうか。なんとなくフレームギアと似たような感じで、動かせると思い込んでいたけど、どうなんだろう?


「まずはこの邪魔な結界から壊さないと駄目か」

『主。また見回りの兵が』


 すでに小虎状態になっていた琥珀が注意を促してくる。

 どうやらここは城の裏庭に当たるらしい。木の陰から覗くとカンテラを持ち、巡回ルートを回ってきたらしい兵士二人が見えてきた。


「よし、あいつらからこの城の情報を聞き出そう」

「どうします? 私がやりますか?」

「いえ、僕がいきます。一人は行動不能にして、もう一人から聞くことにします」


 蓮月さんの申し出を断って、僕が前に出る。カンテラの灯りが接近してきたタイミングを見計らって、「アクセル」を一瞬だけ起動し、一気に飛び出した。すぐに「アクセル」は霧消したが、兵士二人の背後に回るだけなら充分だった。

 そのまま一人の背に手を当てて、「パラライズ」を発動させ、麻痺させる。そして残りのもう一人、その喉元にブリュンヒルドの刃を突き付けた。


「声を出すな」

「ひ……!」


 倒れた同僚を殺されたと思ったのか、刃を突き付けられた兵士はすぐに大人しくなった。

 木の陰からソニアさんたちが姿を現し、倒れた兵士が持っていたカンテラの火を消す。


「ここの城に張られている結界はどうすれば消える?」

「し、知らない。結界はガド様が張られているので、わからない」

「ガド? 誰だそいつは?」

「て、天帝陛下の側近だ。ソル様と二人でいつも一緒に行動しているお方だ」


 詳細に人物像を聞き出すと、ソニアさんたちが戦って、蓮月さんを斬ったのがソルという剣士、その相棒の魔法使いがガドと言うらしい。

 どうやらこのガドという魔法使いが、この結界を設置したらしい。間違いなくこのガドとソルという二人が、「黄金結社ゴルディアス」のメンバーだろう。

 結界には何かの魔道具を使っているようだが、そこまではこの兵士もわからないようだ。

 これ以上何も知らないようなので、こいつも「パラライズ」で動けなくなってもらう。

 麻痺した二人を蓮月さんが引きずって藪の陰に隠してきた。

 とりあえずそのガドとかいう魔法使いを捉えて結界を解除させるか。天帝の側近だというし、ジェスティさんの仇討ちもある。鉄機兵は後回しだ。

 目指すは天帝のところだな。さっきのように兵士たちに聞いていけば辿り着けるだろう。


「じゃあ行くとしますか」


 僕らは城内へ侵入を開始した。






 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ