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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第25章 デイドリーム・ビリーバー。
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#238 ヘイロンの都、そして再会。

 かつてユーロンの帝都があった地は瓦礫の山と化していた。大地が大きく抉れ、煌びやかだった都の面影は微塵もない。

 上級種の一撃で、ここまで吹っ飛ばされるとはなあ。改めて現場に立つと、どれだけ威力がすごかったかがわかる。

 ブリュンヒルドから転移してきた僕らが辺りを見回していると、足元にいた琥珀がグルルル……と唸りをあげた。

 琥珀が睨む方向から、ガラの悪い男たちがどこからか現れ近づいてくる。それぞれ手にはナイフや手斧を持っていた。


「おい、そこの小僧。命が惜しかったら有り金全部とそこの女を置いて行きな」


 下卑た笑いを浮かべながら、男たちの一人がそう声をかけてくる。そこの女、とは僕の横に立つ椿さんのことだろう。


「なにこれ?」

「おそらくは帝都に埋もれた金目の物を漁っている盗賊団かと」


 ハイエナみたいなもんか。まあ、頭悪そうな奴らばっかりだもんなあ。


「てめえ、聞いてるのか!」

「聞いてるよ。耳はまだ悪くなっちゃいない」


 馬鹿にされたと思ったのか、囲んでいる全員がナイフを構えた。面倒だなあ。


「炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン」


 問答無用で瓦礫の山へ向けて爆発魔法をぶっ放す。派手な音を立ててその辺りが更地になった。んん? 魔法の威力が上がっているような。これも神化現象の影響か?

 こういうのがあると、たまに自分はこのまま神様たちの仲間入りをしちゃうんじゃないかと思ってしまう。寿命で死ぬことがないってのはありがたいんだろうか。


「ひぃぃぃぃぃ!?」

「こいつ、魔法使いだ! 逃げろ!」


 そんな僕のちょっとした憂鬱を無視して、蜘蛛の子を散らすように盗賊たちが一目散に逃げて行く。

 思ったよりもここは無法地帯らしいなあ。さっさとその新天帝とやらがいる都にいくか。

 マップを空中に表示し、辺りの地図を拡大する。


「ええっと、確かヘイロンの都だっけ?」

「はい。……ここですね。現在地から北西の方角へ行ったところです」

「よし、じゃあ行くか」

『ちょ、ちょっと待ってください、主。もしかして飛んでいくので?』

「え? そうだけど?」


 さらりと言うと、琥珀と椿さんの顔が絶望感に満たされた。よっぽどみんな空を飛ばされるのが嫌みたいだ。

 「テレポート」で移動してもいいんだが、遠距離移動はまだ慣れていないんだよな。川の上なんかに出たら目も当てられないし。仕方ない。


「……わかったよ。僕だけ先にヘイロンに行って、「ゲート」を開けばいいんだろ」

「それでお願いします」

『自分も同じく』


 ちぇっ、これなら高速飛行艇の「グングニル」で来ればよかった。でもあれより僕が飛んだ方が速いんだけどな。

 まあいいや。「フライ」を使って一気に飛び立つ。

 全力で三分も飛んだら目的地についてしまった。眼下に大きな都市が見える。あれがヘイロンの都か。

 このたった三分をなんで我慢できないのかなあ。都から少し離れた森の中に降り立ち、天都へと「ゲート」を開く。

 繋がった「ゲート」を抜けて琥珀と椿さんがこちら側にやってきた。


「じゃあ行こうか。おっと、変装しないとな」


 僕は自分の周りに不可視魔法「モザイク」をかけてカーテン代わりにし、着替えを済ませた。元の世界の人間が見たら全裸かと思われそうな魔法だよな。


「……派手ですねえ……」


 銀の鬼武者と化した僕を見て椿さんがそんな感想を漏らす。そうかな? 仮面はともかくとして、袴や陣羽織は黒だし、地味じゃないかと思うんだけど。


「色とかではなく、その格好が悪目立ちします。仮にも盗みに入ろうというのに、その姿はどうなんでしょう……。忍びとしては間違いなく落第点です」


 むむう。忍者検定は厳しいな。まあいいや。今すぐ忍び込むわけじゃないし。

 とりあえず椿さんと琥珀を連れて、ヘイロンの都に入る。都の入口で多少揉めたが、門番に袖の下を渡したら通してくれた。この時点で僕はこの都の警備がザルであると実感した。なってない。

 ヘイロンの都はいかにも中華風テイストの街並みであった。瓦屋根に赤い柱の家並み、高い塔も見える。屋台が並び、提灯のようなものもぶら下がっていた。

 遠くには大きな城のような建物が見える。周りを高い壁がぐるりと囲んでいるみたいで、よく見えないが。

 いろいろな物が並んでいる雑多な街だな。行き交う人たちはどこか沈んでいるようにも見えるけど、気のせいかな。


「なんかみんなこっちを見ているようだけど……」

『みんな主を見ています』

「だから悪目立ちするって言ったじゃないですか」


 ううむ。まあ、この際仕方が無い。絡まれたらその時はその時だ。


「それで、どうしますか?」

「椿さんは鉄機兵の情報を集めてほしい。琥珀は椿さんの警護な。どこに鉄機兵があるのか、誰が作ったのか、そういったことを調べてくれ。深追いはしなくていいから、夜までに集められるだけ。何かあったら電話して」

「わかりました」

『お任せを』


 椿さんと琥珀が街の雑踏の中へ消えていく。

 僕は街の人たちの話から、新天帝の噂とかを聞き込むことにする。


「こういった情報集めは酒場が基本かなあ」


 と言ってもまだ陽も高い。どこかの店で聞き込むことにするか。そういやまだ昼飯食べてなかったな。


「えーっと……ああ、あそこでいいか」


 道の端に店を出している屋台に向かい、野ざらしの席に座る。卓の上にはメニュー表が置いてあったが、聞いたこともない料理名で、どういった物かよくわからない。なんだ、「肉ラメイン」って。肉が入った物なんだろうけど、なんの肉だ?


「……ご注文は?」


 屋台の中にいる店主が声をかけてきた。仮面の効果か、なにやら怪しんでいるようにも見える。


「あー、じゃあこの肉ラメインひとつ」

「あいよ、肉ラメインね」


 料理を待っている間、行き交う通りを眺めていたが、ふと、妙なことに気付く。女子供が少ないような気がしたのだ。

 代わりに龍の頭を象った、特殊な肩当てをした兵士をよく見かける。あれってこの街の兵士たちだよな。

 何か事件でも起きて、警備に当たっているのだろうか?


「あいよ、肉ラメインお待ち」

「……チャーシューメン?」


 出てきたドンブリに入った麺をみて、思わすつぶやいてしまった。ラメインってラーメンのことか。いや、違うな、麺が細いし短い。どっちかって言うとそうめんのような。

 とにかく匙でスープを一口飲むが、やたらと薄い。麺も味気ない感じだ。病院食かよ。そのくせチャーシューは固く、ビーフジャーキーみたいな歯ごたえだ。あ、スープに浸して柔らかくするのかな? ひたひたひた。……固っ。

 もうこれはビーフジャーキーとして食おう。噛めば噛むほど味が……味が……味が……ゴムみたい。

 っていうか、そもそもこれ、なんの肉だ……?


「店主、この肉なんの肉だ……?」

「トロールの脛肉でさあ」

「釣りはいらん!」


 銅貨を叩きつけて席を立つ。

 なんちゅうもんを食わせてくれたんや……。なんちゅうもんを……。

 思わずそんなセリフが出て泣きそうになる。別の意味で。

 ここって魔王国ゼノアスに近いから、そういった食文化も混ざっているんだろうか。桜やスピカさんみたいに、ある一定の位の高さをもつ貴族になると、いわゆる魔獣肉を食べないんだそうだが。単純にあまり美味くないからだそうだけど。

 でも僕らも竜の肉を食ったりしてるからなあ。トロールの脛肉とは比べものにならないくらい美味いからな、アレは。竜が強くなかったら狩り尽くされてしまうんじゃないだろうか。

 口直しになにか飲みたいところだが、店に入ってまた変な物を飲んでしまっても嫌だしな。近くの店先にあった置き石に座り、「ストレージ」から水筒を取り出して、何の変哲もない水を飲む。ただの水がこんなに美味いなんて。ん?


「どこへ行った!? 遠くへは行ってないはずだ! 探せ!」


 なにやら慌ただしい。兵士たちが街中を駆け回っている。誰かを探しているのか? なんかあったんだろうか。


「おい、お前! 見かけない顔だな!なんだその仮面は!」


 そのうちの一人が僕に声をかけてきた。まあ、かけるよね。怪しいし。


「自分は旅の冒険者です。この仮面は昔、顔に火傷をしてしまったのでね」

「本当か? 外してみろ!」


 威丈高に命じる兵士に少しイラっとしつつも、こっそりと「ミラージュ」を仮面の下の顔にかける。思いっきり火傷で爛れたような幻を貼り付けてから仮面を外した。素顔も少し幻で変えておく。


「うっ……。わ、わかった。もういい」


 おぞましい顔を見せられて、兵士がたじろぐ。少し溜飲が下がった僕は、再び仮面をかぶりながら兵士に質問してみた。


「いったいなにがあったんで? 騒がしいようですが」

「恐れ多くも天帝陛下のお命を狙った奴らを追っている。男二人と女らしき者の三人組だ。おそらく他の偽天帝の手の者だろう」


 あらら。ユーロン名物、暗殺者送りですか?

 なんでも城の中庭で襲われたんだとか。そこまで侵入されるとは、城の警備に問題があるんじゃないかと思うんだが。天帝の警護に当たっていた者たちによって未然に防がれたが、犯人たちは逃亡したらしい。


「侵入した三人のうち、棒術使いの男は右肩を斬られて負傷している。怪しい奴がいたらすぐに知らせろ」


 兵士は言うだけ言って足早に立ち去っていった。相変わらず物騒な国だな。

 関係ないって言えば関係ないんだけどなー。敵の敵は味方ともいうし、なにか情報を得られるかもしれない。


「検索できるかな?」


 目立つので(今さらかもしれないが)、空中投影はせずにマップをスマホで開き、縮尺をヘイロンの都に合わせる。


「検索。右肩を負傷している人」

『検索終了。1件でス』


 お、できた。痛めただけなら外観からはわからないから、このヒットした奴は、もう見た目で怪我していることがわかるほど深手なのか、肩を剥き出しにしているってことだ。

 回復魔法で怪我を治しているんじゃないかとも思ったが、どうやら仲間に光属性の魔法を使える者がいないらしい。ポーションも無いのかもしれないな。

 とりあえず行ってみるか。前の暗殺者みたいに自爆されるのはごめんだけど。


「こっちか」


 通りの外れ、裏路地を進んで行くと、人通りの少ない、鬱蒼とした竹林が広がる道に出た。

 パンダとかいたら面白そうだな。いや、こっちの世界のパンダがまともなわけがない。どうせ四本腕とか、カンフーを使うとか、変なやつに決まってる。

 そんなことを考えながら道を歩いていたが、僕はその場で立ち止まった。

 いるな。この先に二人、それと別の気配が一人。この一人はもう僕に気付いていて、どこからか視線を向けてきている。っ、上か?


「はあああッ!!」

「おっと……!」


 竹林の中から飛び蹴りを放ってきた襲撃者の一撃を紙一重で躱す。

 そのまま着地し、転身した相手が連続で放つ拳を右に左に捌きながら、さらに飛んでくる回し蹴りを、バックステップでよけて距離を取った。

 真っ黒なフード付きのローブを着込んでいるのでわからなかったが、声からするとどうやら女性であるらしい。

 距離を取って対峙する。ローブの女が中腰の体勢から掌底を繰り出してきた。え!?


ッ!!」


 飛んできた衝撃を腕をクロスして受け止める。これって……発勁はっけい!?

 畳み掛けるように、隙を突いて接近した相手の拳が僕の腕に嵐のように襲いかかる。

 拳を避けるために屈んだ僕は、そのまま相手の足を払った。それを受けて、バランスを崩した相手はバク転で後ろへと下がると、再び構えを取る。その弾みでフードが後ろへ落ち、女性の顔が陽の下に晒された。


「あ────ッ! やっぱり!!」

「!?」


 突然叫んで指を差し始めた僕に驚き、少し後退する竜人族の女性。

 誰あろう、大樹海での「剪定の儀」で、エルゼと激しい激闘を繰り広げた、ソニア・パラレムその人だったのである。


「どうしたんですか、こんなところで!? あ、ひょっとして怪我した棒術使いって蓮月れんげつさん!?」

「……誰だ?」

「え? ああそうか。これじゃわからないか」


 仮面を被ったままじゃな。僕は後ろ手に紐をほどいて仮面を外した。


「ほら、僕ですよ!」

「誰だ!?」

「あれ!?」


 ビクッとしたソニアさんが、僕の顔を見て驚いている。あ、「ミラージュ」を解除するの忘れてた!

 慌てて顔に貼り付けてあった幻を解除する。ソニアさんは幻覚を見抜く魔眼を持っているんだけどなあ。発動させないとわからないのか。まあ、ユミナや教皇猊下もそうだしな。


「僕ですよ。望月冬夜」

「冬夜殿!?」


 やっとわかってもらえたみたいだ。それにしてもなんでソニアさんがユーロンになんかいるんだろう?










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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