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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
230/637

#230 黒幕、そして学校。




 暗い路地を抜けて男は一人、その場所へと辿り着いた。魔王国ゼノアスの王都、ゼノスカルの商業地区に位置する、寂れた倉庫街の一角である。

 この倉庫、以前は大商家のひとつが所有していたものだが、その商家が手放してから放置されているものであった。所々がかなり痛み、修復するのにも金がかかるので買い手がつかないというわけだ。

 そんな誰も寄り付かない倉庫に、フードがついた黒いマントをまとった男が重い扉をこじ開け、中へと入った。

 なにも無いガランとした倉庫の天井には大きな穴が空いていて、月の光が差し込んでいた。

 その月光の下、男は探していた相手を見つける。

 黒装束に仮面を被った男だ。


「どういうことだ。仕事が終わったらもう会わない約束だろう。それともユーロンがあんなことになったから、雇って欲しいのか?」

「……もう一人邪魔な奴がいるんじゃないのか?」


 くぐもった仮面の男の声を聞き、やってきた小太りの男がフードを外しニヤリと笑う。青白い、メフィスト族だという三十路を過ぎた脂ぎった顔がテカテカと光った。


「……ほう。お前たちが第一皇子を消してくれるならありがたいが、見返りはなんだ? 前のように武器の横流しか?」


 そう言った小太り男の背後から、第三者の声が飛ぶ。


「……なるほど。それが取り引きの内容か。お前がゼノアスの武器をユーロンに横流しし、その見返りに仮面の黒装束らに依頼した、というわけだ」


 倉庫内に響いたその声に、驚きのあまり、後ろを振り返る小太り男。そこに立っていた、いるはずのない人物にさらに目を見開いた。


「ま、魔王陛下!?」


 倉庫の入り口に立つ人影は、まさしくこの国の魔王、ゼルガディ・フォン・ゼノアスだ。

 そこで、僕も「ミラージュ」を解除して仮面の黒装束から元の姿へと戻る。


「なっ、き、貴様……っ!?」

「悪いが引っ掛けさせてもらったよ。えーっと、あんた。セブルス・アルノスだっけ? 親父さんは何も知らないみたいだねえ。仮面と手紙を見ても首を捻るだけで何もわからないようだったし」


 そう。結局僕らは怪しいと思われる奴ら全員へ、仮面と「前の仕事のことで話がある」という内容、そしてここの住所を示した手紙を、それぞれの個室へ忍ばせておいた。もちろん、僕の召喚したハツカネズミに見張らせて、だ。

 大半はわけがわからず首を捻ったり、誰のイタズラだと家の者に怒りを振りまいたりしたが、その中で一番挙動不審だったのがこの男、セブルス・アルノスだ。

 こいつだけは手紙を読んだ後、誰にも知られぬように仮面を机の引き出しに隠し、そそくさと手紙をポケットにしまった。

 この男は第二皇子、ファレスの母の実家である商家、アルノス家の嫡男、つまり第二王妃の弟、ファレスにとっては叔父に当たる。いずれアルノス商会のトップとなる男であった。


「貴様が犯人とはな。さぞかし父のアルノス商会長も残念に思っていることだろう」

「ち、違います、陛下! 私は姫君を殺害してなど!」

「ほう? 余は「殺害した」などとは一言も言っておらんが。それにファルネーゼのことをなぜお前が知っている?」


 全身が凍りついたように動けなくなるセブルス。語るに落ちたな。桜のことは一部の人間しか知らないし、知らないのだから殺されたなんて情報も入って来るはずが無い。

 確かに第二皇子が魔王となれば、セブルスは魔王の叔父となる。その地位は商売人では収まらず、政務にも口を出せるほどの権力を持つかもしれない。そんな狙いがあったのだろうが……。

 倉庫内に親衛隊長であるシリウスさんが率いた部隊が雪崩れ込んで来る。いよいよもって年貢の納め時だな。


「そいつを捕らえろ。本来ならこの場で八つ裂きにしてやるところだが、まだ聞くことがあるからな」

「はっ! 縄を打て!」


 シリウスさんの命令により、呆然としていたセブルスは抵抗することも無くお縄になった。兵士たちがセブルスを連行して行く。


「これで一件落着ですかね」

「馬鹿を言ってもらっては困る、ブリュンヒルド公王。ここからが本番だ。まず、あいつの罪状を決定的にするためには、ファルネーゼの存在を公表せねばならん。しかし、ファルネーゼが魔王になることはフィアナが許さんときた。ならば、公表と同時に王家から切り離さねばなるまい」

「えーっと、それってつまり……」

「公王陛下とファルネーゼ様の婚約発表ですな」


 シリウスさんがズバッと切り込んできた。ですよねー。うん、わかってた。

 この状況では回避は不可能か……。


 ▶︎冬夜は逃げ出した!

 ▶︎しかし魔王からは逃げられない!


 そんな心境。


「えーっとですね、すでに僕には婚約者が居まして……」

「ぬ……? まあ、おかしいことでは無いか。余も二人いた。王たるもの妻のひとりやふたり……」

「8人、いるんですけど」

「はちぃ!?」

 

 と、驚いていた魔王陛下の目がすぐさま座る。力強く肩を掴まれ、引きつった笑みを浮かべて語りかけてきた。なにこれこわい。


「公王陛下。ちょおっと詳しくお話ししようじゃないか。なあに朝までには終わるよ。これから長い付き合いになるわけだし、酒でも飲みながらどうかね?」


 いえ僕は未成年ですので、と逃げようとしたが、こっちじゃ国によって違うが、だいたい15で成人として扱うんだった。飲まなくてもいいと思うけど、絶対絡まれる。


 ▶︎冬夜は再び逃げ出した!

 ▶︎しかし魔王からは絶対に逃げられない!


 うぐう。






 結局、桜の存在を公表すると同時に、僕との婚約も発表された。

 その裏ではセブルスの犯した罪が明るみとなり、これにより第二皇子の祖父であるアルノス家当主は隠居、家は末娘の結婚相手が婿に入って継ぐことになった。

 本来なら一族全員処罰されても文句を言えないほどの大罪であるのだが、仮にも第二皇子の血縁であり、第二皇子自らが王位継承権を放棄したことにより、減刑となった。

 第二皇子はもともと魔王の座にはあまり関心が無いようで、それが逆にセブルスの焦りに繋がったのかもしれない。もちろん、セブルス本人は断頭台の露と消えることになる。

 フィアナさんと桜の親子は、すぐさまブリュンヒルドへと連れてきた。正直、長居して魔王陛下に絡まれるのはもうごめんだった。結局、絡み酒だったし。

 ユミナたちは桜をあっさりと受け入れ、どこかホッとした顔をしていた。


「これで9人揃ったわけだから、もうこれ以上は増えないってことよね」

「変な人が入ってこなくてよかったでござるよ」

「どうかしら? 嫁は9人でも愛人ポジションとかありそうよね……」


 エルゼ、八重、リーンがなんかひそひそと話しているがスルーした。変なフラグ立てるのはやめてください。

 魔王国ゼノアスは相変わらず他の国とは交流を持たない方向らしいが、ブリュンヒルドとは人材派遣という形で人をよこすようだ。

 未だ魔族差別が残る他国に比べ、うちの国なら安心して働けるからな。それにかこつけて、魔王陛下が直々に桜に会いにやって来ないかだけが、ちょっと心配である。






「とりあえずここに学校を建てようと思ってるんですよ」

「いいですね。町に近いし、通うのにもちょうどよさそうです」


 僕はフィアナさんを学校の建設予定地に案内していた。建設責任者の内藤のおっさんとボディガードの紅玉も一緒だ。


「まずは小さい校舎から始めて、少しずつ増築していこうと思います。教師はまだフィアナ様しかいませんし、大人数は無理でしょう?」

「そうですね。20人ほどから始めたいと思います。それぐらいならなんとか」


 内藤のおっさんがフィアナさんの要望に応えて、細かいところを摺り合わせていく。これで子供たちも将来の選択肢が増えればいいのだが。

 しかし学校を作るとなると、もう一つの学校の方もなんとかしたいところだな。

 冒険者学校。冒険者の初心者たちが技術を学べる学校。どちらかと言えばこちらの方が命に関わるので早急になんとかしないといけないか。

 ついでだし、ギルドの方に顔を出してギルドマスターのレリシャさんと相談することにした。

 フィアナさんたちと別れ、ギルドへと向かう。ギルドは相変わらずの賑わいで、ダンジョン攻略も少しずつだが進んでいるようだ。もはや馴染みとなった受付の猫獣人のお姉さんに案内されて、ギルドマスターの執務室へと入る。

 ざっと思い描いている構想を話すと、レリシャさんは少し考え込んでいたが、やがて口を開いた。


「悪くない考えだと思います。授業内容はまだ少し考えないといけませんが、これには幾つかのメリットがあります。無駄に死んでしまう初心者を減らせることや、引退したベテラン冒険者が再び活躍できることなどです」

「それにこの学校から卒業した者が成果を上げてくれれば宣伝にもなるし」

「そうですね。入学金はそれほど高く設定しなくてもいいでしょう。訓練期間は半年から一年といったところでしょうか」


 メモ帳に書き込みながらレリシャさんは考えをまとめていく。彼女の頭の中ではすでに壮大な計画が進められているようだ。


「それと年齢別に分けた方がいいかもしれませんね。13歳から15歳、16歳から20歳、あとは20歳以上とか。ある程度人生経験積んでいる者といない者では教え方が違ってくるでしょうし」

「なるほど。確かに」


 レリシャさんの言葉に頷く。一応この学校はギルドが主体となって運営することになる。僕はアイディアを出しただけに過ぎない。なので、教師や教官の手配はギルドの方でするだろう。

 おそらく20歳過ぎて冒険者になろうなんて輩は少ないと思うけど、例えば騎士団の人間が騎士をやめて、冒険者になるってのもないとも言えないしな。冒険者の方が、一発当たれば儲けはデカいわけだし。


「わかりました。この案は次のギルドマスター会議で提案してみましょう」

「お願いします。何か必要な設備などあれば、うちの内藤に言えば手配できると思いますので」


 充分な手応えを感じ、正直ホッとする。冒険者の基本的な技術や、心構え、注意すべきこと、魔獣との効率良い戦い方など学ぶべきことはたくさんあるだろうからな。

 普通ならそれを自分で経験し学んで行くのだろうけど、冒険者は一歩間違えれば死だ。そのノウハウを先達に教えてもらえるなら、それはかなり強力な武器となるだろう。


「ところで公王陛下におかれましては、魔王国ゼノアスの姫と婚約なさったそうで」

「うぐっ、相変わらず情報が早いですね……」


 やんなっちゃう。まあ、ギルドは情報が命のところもあるからなあ。ゼノアスにも潜り込んでる情報源がいるのだろう。


「それでですね、少々お願いがございまして」

「なんです?」


 レリシャさんが語った内容は、つまるところゼノアスにも冒険者ギルドの支部を置きたいということであった。その橋渡しをして欲しいとのことだが、またあの魔王陛下に会わないといけないと思うと少々げんなりしてしまう。

 確かにゼノアスに感知板タブレットが無かったせいで、さしたる準備もなしにギラとやり合うはめになったわけだが。

 ゼノアスにもフレイズの襲撃が無いとも限らないからな。必要なことだろうなあ。

 結局レリシャさんの頼みを引き受け、後日、再びゼノアスへ向かうこととなった。

 ギルドのことはレリシャさんと共に、桜も連れて行ったので、あっさりと承諾された。チョロい。

 その後で魔王陛下が桜にいろいろと話しかけていたが、桜に「ウザい」と切り捨てられていた。

 凹む魔王陛下を見ながら、将来、娘を持つことに一抹の不安を感じてしまう。あれが未来の自分の姿かもしれない、と思うとなあ……。

 桜に魔王陛下になるべく優しくしてあげたら、と諭すと、これ以上どうしろと? みたいな返事をされた。

 ぬ、う。











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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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