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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
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#229 魔王、そして親バカ。




「ファルネーゼ!」


 バンッ! と扉を開けた魔王国ゼノアスの魔王陛下、ゼルガディ・フォン・ゼノアスは、フレンネル家の居間にいたフィアナさんの隣に座る桜の姿を見て、喜びの声を上げた。

 そのまま娘を抱き締めようと腕を広げて向かっていったが、桜に思いっきり躱され、頭からソファーに突っ込む。


「何故っ!?」

「怖い。あと汚い」


 あー……まあ、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった人に抱きつかれたくは無いわな。

 すすす、と父親から離れるように、桜は後から室内に入ってきた僕の背に隠れる。


「ブリュンヒルド公王! ファルネーゼを救ってくれたことに関しては心から感謝しているが、親の前でイチャつくのはどうかと思うが!」

「イチャついてねえよ」


 ビシィッ! と指を突き立てながらまくし立てる魔王に正直ウンザリしていた。なにこの親バカ。

 真っ赤な髪から伸びる王角と青白い肌、尖った耳に、黒に金糸の刺繍が入ったマント。この人が桜の父親であるゼノアス魔王陛下だ。

 フレイズの支配種、ギラとの戦いのあと、事情説明と桜のことを伝えるため、魔王陛下に会った。一緒にフレンネル家の家長であり、魔王陛下の護衛にしてスピカさんの父親でもあるシリウスさんにも会った。

 そこで今までの説明と戦闘の経緯、そして桜のことを話し終えた瞬間、魔王陛下が万魔殿パンデモニウムを飛び出していってしまったのだ。いや、速いのなんのって。追いかけるのに苦労した。さすがに「ブースト」や「アクセル」を使ってまで止めようとは思わなかったが。行き先はわかってたし。 

 で、そのままフレンネル家に飛び込んだってわけだ。

 突然入ってきた魔王に、スピカさんとスウェラさんもびっくりして動けないでいる。


「まあまあ、落ち着いて下さい、陛下」

「む……。シリウスは公王の肩を持つのか」

「公王様の、というよりファルネーゼ様の、ですな」


 僕の背後から現れたダークエルフの青年がスピカさんの父親、シリウスさんだ。褐色の肌に綺麗な銀の長髪を後ろでひとつにまとめている。相変わらずこの種族は若すぎる……。いや、魔王陛下も20代に見えるんだけどな。魔王族ってのも長命種なのかな。ってことは桜もある程度大人になったら老化が止まるのか。


「それに公王陛下にはファルネーゼ様だけでは無く、我が娘、我が国をも救ってもらいましたし。それは陛下とてお認めになるでしょう?」

「うぐぐぐ」


 渋い顔をして黙り込む魔王陛下。この人が魔王で大丈夫なのか? この国……。

 魔王陛下の前へフィアナさんが進み、膝を折って言葉を紡ぐ。


「陛下に申し上げます。ファルネーゼはもう一人前であり、自分のことは自分で決めることができます。娘はブリュンヒルド公王の元へ行くことを願っており、わたくしも娘と共に参ろうと思う所存にてございます。陛下の今までの厚き御恩情は深く感謝いたしておりますが、どうかお許し下さいますよう心よりお願い申し上げます」


 突然のお別れ宣言にポカンと口を開いたまま、魔王陛下は固まっていたが、やがて顔を震わせて意識を取り戻した。


「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て! ファルネーゼもフィアナもブリュンヒルドに行くというのか!? 許さん! それは許さんぞ!」

「ですが陛下。わたくしは陛下の妻ではございません。私の人生は私のものでございます」

「それはっ! ……そうだがっ……!」


 立ち上がり、凛として宣言するフィアナさんにたじろぐ魔王陛下。うおお……怖え……。母は強しという言葉が脳裏に浮かぶ。見た目だけだとフィアナさんの方が歳上に見えるしな。


「で、では我が妃としてそなたを迎えよう! すでに第一、第二王妃もおらぬゆえ、そなたを正室として……」

「お断りでございます」

「即答っ!?」


 にっこりと微笑みながらバッサリと魔王陛下のプロポーズを切り捨てる。こわあ。なんでこんなに強いの、このお母さん……。一国の王様にストレート過ぎんだろ……。

 この人が学校の先生になったら逆らえる気がしないな。ある意味、素晴らしい逸材をゲットしたのかもしれない。


「陛下とわたくしが結婚すれば、ファルネーゼは魔王とならねばなりません。それはわたくしも娘も望んではおりませんので」

「ぐ……しかし、ファルネーゼが余の娘であることは変わりないはず……」

「ええ。その通りです。ですからどうぞ娘にお会いに来て下さい。ブリュンヒルドへ」

「ぬ、ぐ……」


 魔王陛下はニコニコと笑顔を浮かべているフィアナさんに言葉を詰まらせていたが、やがて、はあっ、と深く息をついた。そしてやおら振り返り、僕の元まで来ると、深々と頭を下げた。どうやら折れたようだ。あんなキッパリ言われちゃなあ……。


「娘を、よろしく頼む」


 そこには一国の国王では無く、一人の娘を心配する父親の姿があった。これはきちんと返事をせねばなるまい。


「わかりました。お二人のことは任せて……」


 下さい、と言いかけた僕の肩をガシッと掴み、顔を上げた魔王陛下の視線が僕を貫く。人も殺せそうな、ギラリとした双眸がこちらへ向けられていた。怖いわ!


「娘を不幸にしたら許さんからな……?」


 え、なにこれ? 脅されてる?

 僕の後ろにいた桜がひょこっと顔を出し、魔王陛下へ向けて口を開く。


「私は王様と一緒にいられれば幸せ。みんなから許可はもらってるから、リンゼたちと同じお嫁さんになる。あと魔王ウザい」

「うえっ!?」

「あらあら。孫の顔が楽しみですわね」


 ちょっと待って!? またこんな展開!? つーか、許可もらってるってどういうこと!? 手回し早過ぎるだろ、嫁連盟!

 ニコニコするフィアナさんとは対照的に、膝をつき崩折れる魔王陛下。


「ウザ……ウザい……。ファルネーゼが、ウザいって……」


 ショック受けたのそっちかよ。

 使い物にならなくなった魔王は放っておいて、スピカさんの父親であるシリウスさんに向き直る。


「実はスピカさんもうちの国の騎士団に入ったのですが……」


 僕の言葉にスピカさんがシリウスさんの前へ出る。


「父上。私はブリュンヒルドで今度こそファルネーゼ様を守ります。フレンネル家の名誉と盾にかけて必ずや……」

「わかっている。お前はお前の道を行きなさい。遠くにいても私たちはお前の幸せを願っているよ」

「父上……」


 涙ぐむ娘を抱きしめるシリウスさん。はたから見てると恋人同士が抱き合ってるようにしか見えんな。同じくらいの年代に見えるもんな。

 シリウスさんはずいぶんと理解のある父親らしい。それにひきかえ……。チラッとまだ復帰しないもう一人の父親に視線を向ける。


「……ウザい? ウザくないよ? だってほら父親だし? 心配するのは当たり前だし? 普通。うん普通……」


 ぶつぶつとなにかつぶやき始めた魔王陛下を見ないようにして、ああはなるまい、と心に決めた。





「で、桜……ファルネを殺そうとした黒幕ってのはわかったのですか?」

「いや、忌々しいが尻尾は掴めなかった。わかってたら八つ裂きにしているところだ」


 僕の腕にしがみついている桜に、口の端をひくつかせながら、魔王陛下が答える。


「失礼ながら、桜……ファルネに魔王となってもらっては困る者たちの仕業だったのではと愚考しますが……」

「公王の言いたいことはわかる。倅たちのどちらかが企んだことではないかと言うのだろうが、それは無いな」

「なぜです?」


 魔王陛下は深くソファーに座り直し、腕を組む。身体は僕の方を向いているのに、視線は今だにチラチラと桜の方へ向けていた。


「まず第一皇子のファロンだが、こいつはよく言えば一本気な性格だが、悪く言えば頭が悪い。とても暗殺などと言う考えは思い浮かばんだろうよ。卑怯なことを嫌う気質だから、誰がが暗殺をそそのかしても、逆にそいつが切り捨てられるな」

「第二皇子の方は?」

「第二皇子のファレスは臆病過ぎる。暗殺などと大それたことをするくらいなら、魔王になどならなくてもいいと考えるような奴だ。あいつの頭には本、本、本のことしか無い。煩わしいことは極力避ける性格だな」


 ずいぶん息子に対して辛辣な評価だな。桜とは雲泥の差だ。そこんとこを突っ込むと、「なにが楽しくて息子に優しくせにゃならん。娘の方がかわいいに決まってる」と、身も蓋もない返事が返ってきた。

 魔王陛下としては、桜に王角が出た時点で娘と宣言し、次期魔王と公表したかったのだろうが、フィアナさんがそれを許さなかったわけだ。そもそも桜にそんな気が無かったのだから仕方がない。面倒なことになるのは目に見えていたわけだしな。

 まあ、どっちみち面倒なことになってしまったわけだが……。


「では誰が黒幕だと?」

「亡くなった第一王妃の実家、リーブック家か、こちらも亡くなっているが、第二王妃の実家、アルノス家ってとこか。もちろんこの二家に付随する貴族って可能性もあるが」


 自分たちが支持する皇子が魔王となれば、いろんな面で有利になるだろうからなあ。疑わしいのは確かだ。


「それで今の状況だと、どちらの皇子が魔王の玉座に近いので?」

「わからん。二人とも同じくらいの魔力でな。その日の調子によって上だったり下だったり」


 うーん、ますますもって面倒だな。


「ユーロンと接触しそうな方はどっちです?」

「それもわからんな。第一皇子派のリーブック家はユーロンとの国境を守る辺境伯だ。繋がりを持とうとすればできないことではないだろう。第二皇子派のアルノス家は大商家だ。我が国は他国との取り引きはしてはいないが、ツテがないわけでは無い。商人同士の繋がりを使えば交渉はできそうな気もする」


 どっちも疑わしいわけか。面倒だなあ。これ、教皇猊下引っ張ってきて、全員嘘を見抜く魔眼で「あなたたちはユーロンの暗殺者を雇いましたか?」って聞いたら楽なんじゃね?

 ナイスアイディアな気もするが、一国の代表をそんなことで連れて来るのもなあ。容疑者全員ラミッシュ教国に連れて行くわけにもいかんし。

 嘘発見器キーラーポリグラフとか「蔵」に無かったかな。あっても物的証拠にはならんか……。

 桜の記憶を覗いた限りでは、間違いなくあれはユーロンの暗殺者だった。ただ、ユーロンは壊滅してしまっているし、そっちからはたぶん辿れないだろう。

 桜が魔王を継がないと公表すれば大人しくなるか? いや、なるわけ無いよな。もう一人の皇子を潰そうとするかもしれないし、下手すりゃ第三の「ファルネーゼ派」なんてのができるかもしれない。そうなったらますます桜の身が危なくなる。

 後顧の憂いを断つ意味も込めて、徹底的に叩いてからブリュンヒルドへ帰りたいところだが……さて、どうしたもんかね。











 

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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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