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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
222/637

#222 コレクション、そして義兄。




「これは……」

「どうだ。なかなかのものだろう?」


 フェルゼン国王に連れて来られたのは、彼のコレクションルーム。そこには壁や台座に所狭しと武器が並べられていた。

 剣や槍、弓や斧に始まって、大剣、短剣、刀に鎖鎌なんてのもある。どれもこれも特殊金属で作られていて、なにかしらの付与がされていた。

 あまりの数に、僕も騎士王も言葉を失う。普通に武器庫だろ、これ。


「こいつは500年前の英雄、竜殺し(ドラゴンズレイヤー)の戦士、バクラムが使っていた斧だ。火炎球ファイアボールの付与が付いていて、魔法が使えなかったバクラムが大層重宝したという話だ」


 そう言ってフェルゼン国王は赤い斧を持ち上げる。確かに年季の入ってそうな斧だった。


「フェルゼン国王は武器が好きなんですね」

「おっと。勘違いされちゃ困るが、ワシは武器が好きなんじゃない。それを使いこなし、大業を成し遂げた英雄たちの生き様が好きなのだ」


 なるほど。と、いうことはここにある武器は全てそういった英雄たちの遺品ということか。


「武器を取り、それを携えて戦った英雄たちに思いを馳せると年甲斐もなく興奮するのだよ。ワシは英雄譚などの話が好きでな。子供の頃は夢中になって読んだもんさ」


 とことん魔法使いに向かない人だな。大丈夫なのかと他国ながら心配になる。


「子供の時は自分を勇者だと信じて疑わなかったからな。調子に乗って勝手に魔獣の住む森へ入り、無謀にもタイガーベアに喧嘩を売った。その代償がこれよ」


 フェルゼン国王が自嘲気味に自らの頬の傷を指差した。タイガーベア……ああ、あの虎縞の熊か。確かギルド依頼で八重が倒したことがあったな。子供の頃にあんなの相手にしたのか。無鉄砲な性格だったんだなあ。


「正直ワシは公王が羨ましい。竜を倒し、ゴーレムを倒し、悪魔を屠る。冒険の連続だ。ワシも兄さえ倒れなんだらそんな生活をしてみたかった」


 どっちかと言うと僕の場合は冒険者がスタートなんで、当たり前の生活だったんだが。


「時に公王は変わった武器を使うとか。その腰のものを見せてはくれんか?」


 フェルゼン国王が僕がぶら下げているブリュンヒルドに目をやった。隠すことでもないのでホルスターから抜いて見せてやる。


「国名と同じく、ブリュンヒルドと呼んでいます。遠距離狙撃、白兵戦、どちらにも使える武器で、僕が作りました」


 フェルゼン国王の前でブリュンヒルドをブレードモードに変化させる。いきなり伸びた刀身に驚いたのか、目を丸くしていた。


「これを自ら作ったのか……。ううむ、信じられん……」

「ブリュンヒルド公王は武器職人としても一流なのですよ。私の剣も公王に作っていただきました」


 そう言って今度はレスティア騎士王が腰の剣を抜いて、テーブルの上に置く。聖剣レスティアに似せて作った晶剣だ。


「おお! これは素晴らしい! 気品溢れる剣だ……」


 どちらも晶材を使い作られたもので、ここまでの加工技術はまだどの国にもない。

 

「作ってもらったと言われたが……」

「はい。私の戴冠式に贈り物として。以来、常に持ち歩いています。斬れ味鋭く、また驚くほど軽いので、どんな魔獣にも勝てるような気がしてしまうのが難点で」


 実際に試し斬りぐらいはしてるんだろうけど。上級フレイズ以外なら容易く斬れるだろうから、攻撃が届きさえすれば倒せるだろうな。

 羨ましそうに晶剣を見ていたフェルゼン国王がここぞとばかりに話に切り込んでくる。


「どうだろう、公王陛下。ワシにもひとつ作ってもらえんだろうか? それなりの礼はするぞ?」

 

 うーん。まあ、晶材のことはもう結構な数の人に知られているし、今さら武器ひとつ渡したところで、どうこうできるわけでもないしな。せいぜいフェルゼン国王のコレクションが増えるくらいか。


「構いませんよ。で、何を作ればよろしいので?」

「本当か!? そうだな……。やはり剣がいいが……なにか付与もつけられるのか?」

「できますよ。何種類も付けろと言われると困りますが」


 あとはあまり強力なのもちょっとな。古代魔法とか付与したらとんでもない武器になってしまうし。まあ、一発撃ったら魔力を枯渇して倒れるだろうが。でも、それを覚悟で何人かで使い回せば、連発できないこともなくなってしまうし。


「毒とか麻痺とか……そう言った状態異常を回復できる魔法は付与できるだろうか?」


 毒とか麻痺? ずいぶんと物騒な話だな。たぶん「リカバリー」で大丈夫だと思うが。


「できますけど、本当にそれでいいので?」

「ああ、それでいい。剣は幅広の……そうだな、こんな感じで。これは410年ほど前の流浪の豪傑、ガンダルの剣でな、振れば砂塵を巻き起こし……」


 見本として出してきた剣の講釈に入ってしまいそうだったので、さっさと製作に入ってしまうことにする。

 「ストレージ」から晶材を取り出し、ガンダルの剣とやらに似せて「モデリング」で変形させていく。剣の大きさなどは似せるが、柄部分や細部は違うデザインに変えていく。剣の表面にフェルゼン王家の家紋を入れて、と。形はこんなもんでいいだろ。あとはこれに「グラビティ」の軽量化と「リカバリー」を「エンチャント」しておしまいっと。

 重さを確認してもらうと、少し軽すぎるというので調整した。軽けりゃいいと思ったんだが、ある程度の重量がないと剣を持つ手応えが楽しめない、とのこと。よくわからん。


「うむ。これなら問題ない。素晴らしい剣だ」

「剣の柄に手を置いて、魔力を流せば「リカバリー」が発動します。ですが、かなりの魔力を持っていかれるので、誰でも使えるわけではないのが難点ですが」

「なるほど。試してみよう」


 え? 試すって?

 フェルゼン国王はコレクションの中から黄金の短剣を手に取り、それを左腕に当てて軽く切った。途端に顔が真っ青になり、顔から大量の汗が流れて、苦悶の表情が浮かぶ。


「こ、これは、義賊アレハンドロが、つか、使っていた短剣でな、ど、毒の付与が、か、か、かけられているのだ。こ、この、この、剣を使って、アレ、アレハンドロは」

薀蓄うんちくはいいから早く「リカバリー」を!」


 ダメだ! このおっさんアホだ!

 すぐさま僕が作った剣に魔力を流し、「リカバリー」が発動されると、フェルゼン国王の顔色があっさりと元に戻った。

 思わず僕と騎士王は安堵の息を吐く。ここで死なれたら、僕らが犯人にされてしまいそうだ。一応、部屋にはフェルゼンとレスティアの護衛の人間がいるけどさあ。って言うか止めろよ、お前ら。


「うむ。確かに回復している。大丈夫なようだな」

「ちょっと勘弁してくださいよ……。もし魔力が足りなかったらどうするつもりだったんですか?」

「ワシも王家の人間だからな。魔力量だけはそこそこあるらしい。もし足りなかったとしても、公王がいるのだから治せるだろう?」


 そらそうだけど! 僕が剣に「リカバリー」を付与しないとか、倒れたあんたに魔法をかけないとか考えないのか?

 レスティア騎士王に顔を向けると、苦笑いされた。確かにこの人は腹芸ができるような人じゃあなさそうだ。


「それにしても状態異常回復魔法とか……。なにか毒でも盛られる危険がおありで?」

「ん? まあ、転ばぬ先の杖と言うやつだ」


 フェルゼン国王は曖昧に誤魔化したが、なんとなくそれが嘘だと直感した。どうやら命の危険を多少なりにも感じているらしい。なにかあるのか?


「それよりもだな。実はブリュンヒルド公王が来ると聞いて、ひとつ相談があったのだ」

「相談?」


 もしかして盗まれたフレームギアに関する情報か? やっぱり、黒幕はこの国にいて、国王はそれを知っているとか? もしくは毒殺される、なにか予兆のようなものを感じたとか?


「あー……その〜……なんだ、ワシは今年で42になるのだが、今だ独り身でな」

「……はあ」

「若い頃は王位を継ぐのは兄上と決まっていたので婚約者もいなかったし、ワシもあまり関心がなかったしな。これと言ってふさわしい相手も見つからなかったので、面倒だし、後回しにしてしまったということもあるのだが……。まあ、なんというか、遅過ぎる来訪というか、出会いは運命と言うか……」


 四十越えた筋肉ムキムキのおっさんが、もじもじしてるのは正直キモいんですが。結局なんの話!?


「もしかしてご結婚なされるので?」

「うん、まあ、そうなのだ」


 横から助け船を出したのは騎士王であった。ああ、そういうことか。回りくどい言い回しするから、わからなかった。っていうか、おっさんがニヤケ顏で照れるのもなかなかキモいな……。


「それはおめでとうございます。で、僕に相談というのは?」

「あ、うむ。それなんだが……。ちょっと待ってくれるか。会ってもらった方が早い」


 フェルゼン国王は警備の兵士に言伝を頼んで走らせた。会ってもらった方が早いってのはどういうことだ?

 やがて扉をノックする音が聞こえ、国王が入室を許可すると、パステルブルーのドレスに身を包んだ一人の女性が現れた。

 歳は僕と同じか少し上か? 17、18と言ったところだろう。綺麗な銀髪はショートでまとめられ、瞳には強い意志が感じられる。……あれ? この人、どっかで見たような……?


「お初にお目にかかります、ブリュンヒルド公王、レスティア騎士王両陛下。お会いできて光栄ですわ」

「あ〜、こほん。彼女が婚約者のエリシアだ」


 おいおい歳の差幾つだよ……。24、5くらい離れているだろ。二人並ぶと親子にしか見えないんだけど。フェルゼン国王ってばロリ……。


「特にブリュンヒルド公王には妹がお世話になっておりますし、ぜひ一度お会いしたかったので嬉しいですわ」

「え?」


 僕の思考をぶった切ってその女性、エリシアがにこやかに微笑む。妹? え?


「自己紹介が遅れました。わたくし、エリシア・レア・レグルスと申します。ルーシアは元気でしょうか?」

「あ、ああ!!」


 そうか! 誰かに似てると思ったら、ルーだ! この人がフェルゼンに留学しているっていう、レグルス帝国の第二皇女か!

 思いがけない出会いに呆然とする僕。はー……。レグルスの皇女がフェルゼン国王とねえ……。立場的にはお似合いなんだけどな……。どうしても犯罪くさいイメージが……。

 その妹、13歳と結婚しようっていう奴の言うセリフじゃないかもしれないが。

 一応僕らは4つしか離れてないしー。たぶんセーフ。と、思いたい。

 ……あれ? ちょっと待って。ってことはエリシアさんは僕の義理の姉に当たることになって……その結婚相手のこの髭筋肉のおっさんが義理の兄になるの!? えええ!?


「どうかしましたか?」


 呆けている僕に騎士王の義兄にいさんが声をかけてくる。


「僕……ラインハルト義兄にいさんと重太郎義兄(にい)さんだけでよかったよ……」

「え?」


 ボソッとつぶやいた声は誰にも届かなかった。

 あ、そういやレグルス帝国皇太子の義兄にいさんもいたっけ。

 いや、あの人影薄いからさ! えっと、えっと、ルクス義兄にいさん。……確か。

 やべ。顔が思い出せない。すごいいい人なんだけど、印象が残らないってある意味凄い。

 とりあえず心の中でルクス義兄にいさんには謝っておこう。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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