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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
221/637

#221 フェルゼン、そして橋。



「無理を聞いてもらってすいませんね」

「いえいえ、お気になさらず」


 笑顔を浮かべながらレスティア騎士王国国王は手を振った。相変わらずのイケメンだ。さすがラインハルト義兄あに上。まだヒルダとは結婚してないけど。

 僕らは今、レスティア騎士王国の馬車に乗り、フェルゼン王宮へと向かっている。騎士王がフェルゼン国王との面会の段取りを取ってくれたのだ。

 「ゲート」でいきなり王宮に押しかけてもなんなので、王都手前まで護衛騎士と共に馬車ごと転移し、そこからパカパカとラインハルト騎士王とやってきたのだ。

 騎士王に例の盗難事件の調査結果を示し、フェルゼンが怪しいことを伝えると、腕を組んで首をひねっていた。理由を問うと、


「なんと言いますか……あのフェルゼン国王がそのようなことをするかな、と」


 レスティアとフェルゼンはお隣同士。レスティアはその地理上、フェルゼンとライル王国としか国境を接していないため、基本、この二国との付き合いも深い。

 長い歴史の中では敵対したりもしたらしいが、今のところは程よい付き合いが続いているらしい。

 騎士王が言うには、フェルゼン国王は豪放磊落にして天衣無縫、細かいことにはこだわらない、まったく魔法使いに似つかわしくない性格とのことだ。趣味が肉体トレーニングって言うんだから変わってる。

 フェルゼン王国の先王は魔術研究に没頭し、研究中の事故により崩御したのだという。そしてその後を継いだのが、その弟であった現国王らしい。

 現フェルゼン国王、ブランジェ・フロスト・フェルゼンは子供の頃から兄とは違い、どちらかというと魔法よりも武術の方が好きだったという。それは国王になった今でも変わらないようだ。

 今回、表向きの訪問理由は、ロードメア、フェルゼン、ライル、レスティアの四国の中央、ガウの大河につながるロンド海に浮かぶエンラッシュ島についてだ。


挿絵(By みてみん)


 この島は一応レスティアの領土となってはいるが、採掘される資源もなく、島には強力な魔獣が多いらしい。土地は痩せていて作物もあまり育たず、付近の大河にも船を襲う魔獣が潜んでいたりと正直持て余している島であった。

 しかし僕はこの島の位置を見て、ひとつ思いついたことをレスティア騎士王に提案した。

 まあ早い話が、この島を中心にして、四つの国を橋で繋げてしまおう、ということだ。

 ものすごい距離の橋だが、不可能ではない。そうすればレスティアからロードメア、ライルからフェルゼンの交易も可能になり、だいぶ楽になる。また、この島で買い付けや取り引きができるようになれば、商業市場として発展できるかもしれない、と。

 もちろん各国に税関のようなものを設置して、輸出入荷物の取り締まりはしてもらうことになるが。

 島からそれぞれの国への橋は僕が造る。島の魔獣退治も引き受ける代わりに、この島を経由する通行税の一部をもらうことになっている。

 ロードメアとライルの許可はすでにもらっていた。あとはフェルゼンの許可をもらうだけだ。もしも許可が降りなくても三国だけで交易路を造るつもりなので、この状況で自国だけ損をするようなことはしないと思うが。


「フェルゼンは魔法技術が発展していると聞きましたが」

「そうですね、魔道具アーティファクトや、古代魔法の研究、刻印魔術、付与魔術、符術、忍術、獣操魔術といったもうすでに廃れてきている魔術も研究しているとか」


 基本的に「魔法」は7属性しかないが、これとは別に独自の発展を遂げた魔力を使用した「術」も存在する。分かり易いところで椿さんの使う忍術だ。

 これらは魔法のように適性といったものに左右されることはない。誰でも身につけることができると言われているものだ。しかし、とんでもなく厳しい修業が必要となる。習得に五年かかる者もいれば、十年修業しても初歩の技術しか習得できない者もいるそうだ。そういった意味では魔法よりも才能が必要な分野なのかもしれない。

 また、一部の地方や、ある家系でしか受け継がれてないものも存在するので、全てを把握するのは難しい。確か符術ってのはユーロンの方で、道士という奴らが使っている術だと思ったが。


「冬夜殿もお持ちですが、魔法が付与された武器や防具のほぼ6割はフェルゼンで作られています。冬夜殿の「エンチャント」と違って、成功率が100%では無いので、安定した量産ができるほどではないでしょうが」

「失敗が多いということですか? どれぐらいの確率なんですかね?」

「10回中1回成功すればいい方らしいですよ」


 一割切ってんのか……。そりゃあ高価にもなるよなあ。

 付与魔術の成功率を上げる方法とかも「図書館」にありそうだな。いや、独自に発展していった系統だと、無いかもしれない。実際、忍術が生まれたのはイーシェンだけど、5000年前はあそこに人は住んでなかったらしいし……。

 そんなことを考えているうちに馬車は城下町を抜け、フェルゼン王宮に入城する。

 フェルゼンの城はどことなくフランスの館のような城とは違い、イギリスの城塞のような趣きがあった。重厚というか歴史を感じるというか。丘の上に建ち、レトロチックな魔法使いの城、といった感じがするな。

 城の玄関口に到着し、騎士王に続いて僕が降りると、玄関ホール入り口に一人の男が立っていた。

 年は四十過ぎ。かなりの長身とバッキバキの筋肉の鎧を身につけている。アメフト選手かプロレスラーみたいだ。

 髭が顔の下部分を覆い隠し、乱雑に撫でつけたオールバックの髪は、幾分か白髪が混じっている。短めの白いマントには金の刺繍が施され、その手には白金の王錫が握られていた。

 それよりも目を引いたのは頬に大きく付けられた爪痕である。なにアレ? 虎とでも戦ったの?


「ようこそフェルゼンへ。レスティアの騎士王とブリュンヒルドの若き公王よ」


 そう言ってその巨漢───フェルゼン王国国王、ブランジェ・フロスト・フェルゼンはニヤリと笑った。





「なるほど、エンラッシュに橋をな。確かにそれが成れば、それぞれの国にもたされる利益はかなりのものになろう。しかし……」


 僕らの話を聞きながら顎髭をなでるフェルゼン国王。


「なにか問題でも?」

「橋がかかったとしてもエンラッシュはレスティアの領土だ。と、言うことは、レスティアの思惑次第で他国の交易を停止することも可能なのではないのか?」

「それについてはご心配なく。橋ができた時点であの島を四分割し、それぞれの国へ譲渡します。その代わり、自国への橋の通行税の一割を建設費としてブリュンヒルドに払ってもらいますが」


 フェルゼン国王の懸念にレスティア騎士王がきっぱりと答える。

 正直、タダで橋を造ってもよかったのだが、ロードメアの全州総督が言うには、こういうことはきっちり受け取った方が後腐れないと言うことなので、もらっておくことにした。

 かなり格安だが、それでもかなりの長距離の橋をかけるのだから結構な金額である。そのお金は通行税の一割をもらうことで返済に当て、満額になったらそれ以上は貰わないという取り決めをした。順調にいけば十年ほどで返済できる計算になる。むろん、一括で払えるなら払ってもらって構わないが。

 本当は転移門とかを設置しようと思ったんだが、その場合壊れた時直せるのが僕だけになっちゃうからなあ。先々のことを考えたら橋の方がいいだろ。


「しかしブリュンヒルド公王。橋を、しかも各国に一本ずつ計四本、本当に架けることができるのですか?」


 そう口を開いたのは僕らが座る円卓に同じように腰かけていた初老の男だった。栗色の髪に青い目。鷹のような眼付きの、フェルゼンの宰相。確か名前はアモンドだったか。


「材料さえ揃えば三日もあればできますよ。複雑な橋を作るわけじゃないですし」

「いくらなんでも三日とは言い過ぎではないですか? 公王の持つフレームギアという巨人を使ったとしても、四つの橋を三日でできるわけがないでしょう?」


 アモンドが露骨ではないが疑わしげな目を向けてくる。ま、信じられないのも仕方ないか。それに建設するのにフレームギアは使わないし。

 「工房」でブリュンヒルドの城を作った時と同じ作業をするだけだからな。あの時よりも大変だが、「塔」によりパワーアップした「工房」ならそれぐらいで完成させられる。


「建設にフレームギアは使いません。素材を取り込んで指定した形に転送できるものがあるんですよ。つまり石の塊を橋の形に作り直せるわけでして」

「……それはアーティファクトですか?」

「まあ、そんなものです。僕にしか使えませんがね」


 横から口を挟んできたのは、痩せぎすのなにを考えてるのかわからない陰気な男だ。さっきまで死んだ魚のような目をしていたのに、今は目がギラギラと輝いている。フェルゼン王国の宮廷魔術師のひとり。ルドー、だったか。


「なぜ公王しか使えないので?」

「そういうアーティファクト、としか答えられません。これは我が国でも極秘事項になるので、ご勘弁を」

「そうですか……。残念です」


 小さくため息をつくと、ルドーはまた死んだ魚のような目に戻った。興味のないことにはとことん無関心のようだ。

 フェルゼン国王が苦笑いをしながら僕に視線を向ける。


「すまんな。あいつは研究が行き詰まっていて疲れているのだ」

「ああ、いえ。お気になさらず」


 未知の魔法に過剰反応するのは見慣れているからな。ベルファストのシャルロッテさんや、その師匠のリーンとか。

 この場には僕とレスティア騎士王、フェルゼン国王に宰相のアモンド、宮廷魔術師のルドー、それともう一人。


「公王陛下は巨人兵といい、素晴らしいアーティファクトや道具をお持ちなのですなあ。やはりどこかの遺跡から発見されたので?」

「……全部が全部そうではありませんが。僕自身が作ったものもありますし」

「ああ、なるほど。公王陛下は「エンチャント」をお持ちの上に、全属性持ちであらせられましたな。実に羨ましい」


 そう言って笑ったのはフェルゼンにおける魔法使い、職人、商人、全てを取り仕切る巨大ギルド、「魔工商会」のギルドマスター、イーゼスだ。白髪混じりの髪に、サングラスをかけている。サングラスなんてあったんだな……。しかもなんか魔力を帯びている。何かしらの付与がついているのは間違いないな。

 胡散臭い。まあサングラスをかけているだけで怪しいと断定するのもなんだが。

 正直、フェルゼン国王に会ってみて、レスティア騎士王の言う通り、この人がフレームギアを盗んだ黒幕とは思えない。直感でしかないので、うまく本性を隠しているのかもしれないが。

 宰相のアモンド、宮廷魔術師のルドー、商会長のイーゼス。

 ひょっとしたらこの中の誰がが黒幕かもしれない。フェルゼン国王に無断で独自に動いていたとしたら。三人ともそれだけの力は持っているだろう。

 っといかんいかん。誰も彼も疑ってかかるのも失礼な話だ。


「橋の件は了承した。建設が終わったのなら他の三国と同じように通行税の一部をブリュンヒルドに払い、建設費の返済に当てるとしよう」

「陛下。よろしいのですか?」


 宰相のアモンドが確認するように問いかける。


「ここで我が国だけ乗らなければ大損することになるかもしれん。他の三国が共謀して、我が国を侵略すると考えるには手が込みすぎているしな。あのブリュンヒルド公王が仲介に立っているのだし、なにかあれば公国が助けてくれるのだろう?」

「もしそんなことになれば、ですけどね」


 この四国は今のところ友好な関係と言える。しかしなにがきっかけとなって戦争にでも発展するかわからない。その侵略ルートに橋が使われる可能性だってある。一応その対策として防御障壁や隔壁なんかも作るつもりだけどな。

 

「さて、橋のことはこれで良いとして、ブリュンヒルド公王に見てもらいたいものがあるのだが、かまわんかな?」


 僕を見ながらフェルゼン国王が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。なんだ?









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あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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