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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
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#220 看病、そして神気。



 地上へ戻るとオオサカ城から火の手が上がっていた。勝敗はすでに決していて、所々で勝鬨の声が上がっている。徳川・伊達軍の完全勝利だ。

 突然の急襲に、羽柴軍は為す術もなかったようだ。

 家泰さんの陣営に戻る前に神気を断ち、いつもの姿に戻る。髪の色は元に戻ったんだが、伸びた髪はそのままだった。ひょっとして、神気を開放するたびに伸びるのか? 繰り返してたらそのうち髪が尽きるんじゃなかろうか……。

 そんな不安をよそに家泰さんのところへ戻ると、八重と琥珀が出迎えてくれた。


「その頭はどうしたのでござる!?」

「いろいろあってね。あ、一応秀義は倒したから」


 僕の報告を聞いて家泰さんたちが歓声を上げる。これで本当に勝利が決定したのだから、まあ、わからんでもないが。

 おそらくこれで羽柴軍は瓦解、イーシェンのほとんどを家泰さんのところの徳川家が握る。ある意味歴史通りというか、まったく違うというか。

 怪我人を回復魔法で治して、僕らはお暇することにした。ここからはイーシェンの問題だからな。秀義に操られてた他の領主たちもまともに戻るだろう。

 一応家泰さんには、石田ミツナリって奴に気をつけて下さいって忠告したら、誰それ? って返された。どうもミツナリさんはこっちにいないらしい。よくわからないなあ。

 ロゼッタの操縦するグングニルに乗って、姉さんたちも含め、みんなでブリュンヒルドへと戻った。

 なんかその日はもう疲れたので、報告もほどほどに早々と就寝した。なんでそんなに髪が伸びてるのかって何人にも聞かれたけど。

 そして次の日、思いっきり体調を崩した。熱っぽいし、ぼうっとして力が入らない。食欲もないし、とにかくだるい。一応「リカバリー」とか「リフレッシュ」とか使用してみたが、効果は無かった。


「風邪の症状に似てますがどうも違うようでスの。熱っぽいと言われまスが、熱は無いでスの」


 体温計を見ながら、ナース服のフローラが首を傾げる。ベッドの上で布団に包まりながらぼうっとした頭でそれを見ていた。


「な、何かの病気でしょうか!? ど、どうすれば……!」


 ベッドの横で珍しくユミナがあたふたと狼狽えている。はは。この子もこんなに慌てることもあるんだな。

 ベッドの横にはユミナ、エルゼ、リンゼ、八重、ルー、スゥ、ヒルダ、リーンの婚約者たち、それに室内には宰相の高坂さん、執事のライムさん、騎士団長のレインさん、メイドのラピスさんとレネ、シェスカ、フローラ、花恋姉さんに琥珀、瑠璃、紅玉、黒曜、珊瑚にポーラと、勢ぞろいしていた。君ら集まりすぎ。

 心配して来てくれたのは嬉しいけどさあ。


「はいはい、冬夜君は大丈夫だからみんな仕事に戻るのよ。昨日の疲れが出ただけだから問題ないのよ。あとは私に任せてほしいのよ」


 花恋姉さんが手を叩いてみんなを追い出した。病人はゆっくりさせてあげないといけないとか、こんな大人数で押しかけたら迷惑、とかそんな声が聞こえてきたが、とにかくだるくて起き上がる気もおきない。

 バタンと扉を開くと花恋姉さんだけがベッドサイドの椅子に腰掛けてこちらを覗き込んできた。


「聞こえる? その身体の不調はおそらく神力を初めて発動させた反動なのよ。一日も寝てれば身体が慣れるから、今日はおとなしく寝てるといいのよ」


 あー、やっぱりか。なんとなくそうなんじゃないかなーって思ってた。別にどこかが痛いとか、そういうわけではないのでまだマシだが……なんと言うか力が入らなくて、だるいってのが地味にきつい。頭もふわふわしてどこか夢見心地だし。

 まあ花恋姉さんの言うとおり、おとなしく寝ている方がいいか。ぼんやりとそんなことを思っていると、睡魔が襲ってきて、僕は浅い眠りについた。




「ん……」


 目覚めるとまだだるくて力が入らない。瞼を開くとぼんやりと部屋の中が見えてくる。見慣れた天井だ。


「あ、目が覚めました?」


 ベッドサイドの椅子に腰掛けて、本を読んでいたリンゼが顔を上げてこちらを向く。ずっと付き添ってくれていたのか。読んでいた本の薔薇チックなタイトルは置いておくとして。

 サイドテーブルの上に乗っていた水差しから、コップに注いで手渡してくれる。少し起き上がって軽くそれを飲み、また布団の中に潜り込む。

 あ〜、だるう……。


「熱は無いんですけどね……本当に大丈夫でしょうか……」

「あ〜……だいじょぶだいじょぶ……。寝てれば治るってさ〜」

「でも冬夜さんでも寝込むことがあるんですね。安心しました」


 人を化け物みたいに……って似たようなもんか……。そのうちきちんと話さないとなあ〜……。


「なんだか不思議、ですね。冬夜さんと初めて会ったのはリフレットの裏路地で、それからどんどん活躍していって、今じゃ一国の王様ですもの。なんだか遠い人になってしまったような気がたまにするんです。だから不謹慎ですけど、弱ってる冬夜さんを見るとちょっと身近に感じて安心するんですよ」

「……僕は何も変わってないよ。いつだってリンゼたちのそばにいる。だからリンゼも僕のそばにいつまでもいてほしい。君たちがいてくれれば僕は強くなれる……。必ず……幸せにするから……」


 うむむ……。また眠くなってきた……。ぼんやりとした意識の中で、頬にキスされたのを感じながら、また微睡まどろみの中に落ちていった。





 次の日の朝、目覚めると生まれ変ったように身体が軽かった。本当に一日寝てたら治ったな。

 早速うざったい髪を器用なルーに切ってもらおうと思ったが、ひょっとしてまた神気を出したら伸びるかもしれないと思い、とりあえず後にすることにした。


「あ! もう大丈夫なのか? 冬夜兄ちゃん」


 廊下に出ると、レネが洗濯物の入った籠を持って、駆け寄ってきた。朝から働き者だな。


「大丈夫、もうなんともないから。心配してくれてありがとう」


 レネの頭を撫でて、その場を離れる。いろんな人たちに心配かけちゃったなあ。

 とりあえず神気のことを詳しく聞かないとな。えっと花恋姉さん……は寝てるな、絶対。となると、諸刃姉さんか。この時間なら練習場にいるかな。

 朝から騎士団の修練に精を出していた諸刃姉さんを人気ひとけのないところへ引っ張っていき、神気のことを尋ねてみた。


「神気の使い方といってもねえ。ひとそれぞれだからなあ」


 諸刃姉さんは困ったように首をひねる。


「諸刃姉さんの場合はどんな使い方を?」

「私かい? 私の場合はそのまま相手に叩きつけて牽制に使ったりもするけど、やっぱり一番は武器生成かな」


 そう言って諸刃姉さんは腰からダガーを取り出すと、あっという間にそれに神気をまとわせて、輝く光の刃を作り出した。ダガーの短い刀身の延長上に光の刀身が伸びている。おおお! ビームソードか!?


「基本的に使い方なんてないよ。どうとでもなる神の力だしねえ。ただ、あまり多用するのはオススメしないかな」

「なんで?」

「まず、地上には無い力ということがひとつ。魔力を使ってないから間違いなく魔法ではないとバレる。次にやはり身体に負担がかかるというのがひとつ。だんだんと慣れてはくるだろうけど、無理しないに越したことはない。最後に、そんなに早く神様こちら側に来なくてもいいんじゃないかってことさ」


 諸刃姉さんの言うこともわかる。リンゼにも言われたしな。本来なら神の力なんて必要ないものなんだ。

 それでもいざという時に力がなくて悔やむのは嫌だ。そのためにもやれることはやっておきたい。

 身体の中の魔力と神力を分けて、神力だけを増幅し、身体中に巡らせる。

 身体中から眩い神気が放たれ、髪の色がまたプラチナブロンドに変化する。って言うか、やっぱりまた伸びた……。膝まで長く伸びたうっとおしい髪を背中へと追いやる。


「これ、なんとかならないかな?」

「うーん、変に手を加えると、神気を出すたびに逆に抜け落ちるようになるかも……」

「このままでいいです」


 坊さんになる気はない。あとでルーあたりにバッサリと切ってもらおう。


「変化するたびに「神威解放しんいかいほう」をしてしまうのもねえ。抵抗力の無い小動物とかが、毎回気絶してしまうかも……」

「厄介だなあ」


 それから諸刃姉さんの見様見真似で、神気を操り手に持ったダガーに集めていく。ぬぬぬ……。魔力を流すよりも難しいな。

 それでもなんとかダガーから神気の刃を伸ばすことができた。一瞬で作った諸刃姉さんに比べて、かなりの時間をかけてしまったけれど。

 まだまだ実践では使えないな。


「そのうち慣れてくれば使いこなせるよ」

「そういえば、この状態だと魔法を詠唱なしで使えたりするんだけど、そういうもんなの?」

「さあ。私たちは魔法なんか使ったことないからね」


 ダメだ。まったく参考にならない。結局自分でなんとかしていくしかないということか。

 試しに空へ向けて「ファイアアロー」を撃ってみたら、とんでもない太さの炎の柱がぶっ飛んでいった。

 うおい。こんなのぶちかましていいもんなのか?

 ん? けっこう神力って減るな……。魔力とは違って回復量もあまり早くない。これはまだ馴染んで無いからなのかこういうものなのか、判断に困るな……。

 とりあえず神化(と名付けた)を解いて、元の状態に戻る。うん、確かに少しだるくなったけど、この前ほどではないな。

 諸刃姉さんと訓練場へ戻り、朝の訓練にやってきたルーを捕まえて、訓練場の隅のベンチで髪を切ってもらうことにした。

 「ストレージ」の中からハサミを取り出してルーに渡す。


「なんで昨日の今日でこんなに伸びるんですの!?」

「なんでだろうねえ。僕も知りたい」


 ハサミでチョキチョキと手際良く切っていくルー。そんなに慎重に細かく切らなくてもいいのに。最悪失敗してもまた伸ばせるしな。

 ハゲないかそれだけが心配だが……。一生分の毛が伸びたら毛根が死ぬとかは無しでお願いしたい。フローラの「錬金棟」に育毛剤ってあったろうか……。


「どうかしましたか?」

「いや、将来ハゲないといいなあってね……」

わたくしは気にしませんわよ? ハゲたって太ったって、冬夜様は冬夜様ですもの」


 ルーがそう言ってくれるが、ハゲでデブって最悪なんじゃ……。ハゲは仕方ないとしてもデブにはならないように頑張ろう……。


「そういえば冬夜様。この前フェルゼン王国のことを尋ねてましたが、なにかあったのでしょうか?」

「あー、うん。ちょっとね。なにか気になることでも?」

「ええ。姉様の留学先なので少し気になって。もし何か起こる予兆があるのでしたら、帰国させた方がいいのでは、と思ったものですから」


 ん? あ、そうか。僕はまだ会ったことがないけど、レグルス帝国第二皇女……ルーのすぐ上の姉さんが留学している国ってフェルゼン王国だったのか。

 魔法王国とも呼ばれるフェルゼンに留学するくらいだから、第二皇女も魔法の才能があるのだろう。

 しかしそうなるとちょっと不安かな……。まだ国自体が黒と決まったわけじゃないが、フレームギアを盗んだやつらが潜伏しているのはほぼ間違いない。さすがにレグルスの皇女をどうにかなんてことにはならないと思うけど……。


「あれ? てことは、レグルスとフェルゼンって、けっこう友好国なのか?」


 仲悪い国に自分のところの姫を留学なんてさせないよな、普通。

 

「そうですね。友好国……というか持ち持たれつというか。向こうは魔法技術や魔道具、こちらは鋼材や武器防具、貴重な魔石など、それなりの交易をしてますから」

「ルーは向こうの王様に会ったことある?」

「一度だけ。あちらの式典に呼ばれた時に。なんと言うか……魔法使いっぽくない方でした。どっちかって言うと屈強な傭兵という感じで」


 傭兵!? よくわからん王様だな……。

 ふむ。確かフェルゼンはレスティアとも交流があるらしいし、せっかくツテがあるんだからこっちから乗り込んでやるか?

 エサが無けりゃ魚は釣れないしな。








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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