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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
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#216 飛行艇、そして銀の鬼武者。




「けっこうスピードが出るもんだな」

「だろ?」


 僕は「格納庫」に眠っていた高速飛行艇に乗って空を飛んでいた。現在レグルス上空。操縦はモニカが担当している。

 高速飛行艇「グングニル」。船体の形状は短い笹の葉のようなものを真ん中だけ膨らませたような形……槍の穂先に似たフォルムの後方に、小さな翼をつけたような見た目をしている。

 航空力学的にとても飛ぶようには思えないのだが、実際に飛んでいる以上、なんらかの力が働いているのだろう。

 飛行艇と分類されているだけあって、水上に着水もできるが、陸上でも着陸できた。なかなかのスピードで飛ぶが、正直言うと、僕が「フライ」を使って全力で飛ぶ方が速かったりする。

 搭乗人数は12人ほど。それなりのスペースが確保してある。

 本来、エーテルリキッドを燃料として稼働するものを、システムから組み直して改良し、新型フレームギアと同じように光や大気の魔力を増幅し、エネルギーとしているらしい。


「この機体がスゥのフレームギアと合体するんだろ?」

「この機体は背中のパーツに変形するナ。もっともその時は自動操縦で合体するから、俺たちは不必要だゼ」


 この機体は自動操縦に切り替えることもできる。音声認識機能もついているので、ぶっちゃけた話、乗り込んで「〜へ連れて行ってくれ」と頼むだけで目的地へと向かってくれる。ただ、予想外の事態には対処できないので、全て自動操縦に任せるってのも問題だ。

 

「一応、隠蔽障壁も張ってあるから飛行中は見えないはずだゼ。ま、飛行音は聞こえるだろうけどナ」

「この飛行艇、装備は何かあるのか?」

「なんもねえよ。でも頑丈だから体当たりでフレイズも倒せるゼ」


 いや、下級種ぐらいなら大丈夫だろうけど。上級種にこいつで特攻とかはやめてもらいたい。

 グングニルはロードメアを抜けて、ユーロン上空へ辿り着く。


「荒野と廃墟が目立つなあ……」


 フレイズが踏み荒らした大地となぎ倒した木々、打ち壊した家屋、そんなものがやけに目に入る。

 そんな中ちらほらと復興している町や都市を見かける。あんなことがあっても、懸命にこの地で生きていこうと決めて生活している人々もいるんだな。

 そんな人たちに目の敵にされているのかと思うと少しブルーになったが。


『主』

「ん? 琥珀か?」


 眼下に広がる光景を眺めていると琥珀から念話が入ってきた。なんかあったのか?


『八重様が主と話したいと申され……ぐうぇ! 『冬夜殿! 聞こえるでござるか!』』

「聞こえる、聞こえるからあんまり琥珀を乱暴に扱うなよ」


 八重の声が琥珀の念話に混じって聞こえてくる。さっきの悲鳴は琥珀のだな。何を慌ててるんだ、いったい。


『先ほどゲートミラーで母上から手紙が届いたのでござる! オエドへと羽柴軍が侵攻を開始し、戦が始まったと! 羽柴軍は20万、徳川・伊達連合軍は6万……三倍以上の戦力差がある上、初戦で家泰様が怪我を負ったと……!』

「なんだって!」


 椿さんが言っていた羽柴秀義の軍か。ユーロンに攻め込む前にイーシェン統一をしようと動き出したのか?


『拙者が「シュヴェルトライテ」で乗り込み、羽柴軍を蹴散らすござる!』

「いや、それはどうだろう」


 人間同士の戦いにフレームギアを投入するのはどうかと思うんですけど。落ち着きなさい、八重さんや。パニクってるなあ。まあ、家族がピンチなんだから仕方ないか。


「モニカ、イーシェンのオエド方向へ進路変更」

「了解だゼ」


 戦場がどこかわからないので直接向かう。ここからなら10分ほどでオエド近辺へ着くからな。


『とにかく「ゲート」を開くから』


 操縦室から離れて客室へと向かい、「ゲート」を開くと、中から八重と琥珀が飛び込んできた。飛び込んできた、というか、琥珀は首根っこを掴まれて引っ張られてきたという感じだったが。


「冬夜殿! ……って、ここはどこでござる?」


 船内をキョロキョロと見回す八重の手から琥珀が落ちた。床に落ちた琥珀がよろよろっと仰向けになり、ひっくり返る。


『ぐうぅ……』


 小さな呻き声をあげて、琥珀が目を回してのびていた。ひどっ。


「ここは飛行艇の中だよ。テスト飛行中だったんでね。今イーシェンに向かっているから」

「かたじけない……。父上と兄上も戦に向かったとのことだったので……」


 前にもあったなあ、こんなこと。あの時は武田の鬼面兵が相手だったけど。

 しかしどうしたもんかな。同盟国とかならまだしも、国内の戦争だからなあ。しかもその一領主に過ぎない家泰さんに肩入れするのはマズいか? フレームギアなんか使ったら完全にバレるだろうなあ。

 「イーシェンを属国にしようとしている」なんて言い出す輩が出てきそうだし。ユーロンあたりから。


「ここはやっぱり、通りすがりの仮面の武将とかに化けるかねえ」

「仮面の……でござるか?」


 「ストレージ」からミスリルの欠片を取り出し、薄く変形させて仮面を作る。顔全部を覆う鉄仮面のようなものではなく、上半分だけを覆うやつだ。これつけたら仮面舞踏会にでも出れそうだな。角とかもつけておくか。

 あとはザナックさんからもらったイーシェン風の服が確かあったはずだ。袴と上着、足袋に草履、あとは陣羽織を着込めばイーシェンの人間に見えるだろう。「ミラージュ」で幻影をまとってもいいんだが、あれはあれで面倒だからな。

 周囲に「インビジブル」をかけ、透明になって手早く着替える。婚約者とはいえ、八重の前で着替えるのは抵抗がある。

 おっと刀を忘れていた。八重に作った「透花」の試作品が残ってたよな、確か。それも取り出して着替えた腰の帯に差す。

 最後に仮面を被って、通りすがりの鬼武者の完成だ。袴や陣羽織は黒なんでなかなかカッコいいと思うんだが。


「どう?」

「どうと言われても……。まあ、イーシェンの人間には見えるでござるが……」


 なんとも言えない表情で八重が僕を見る。そんな変かな? まあ仮面なんか被っている奴がまともに見えるわけがないけどさ。


「マスター。イーシェン上空だゼ」


 操縦室からのモニカの声に、窓から外を覗くと先ほどのユーロンとは違って緑が続く大地が広がっていた。


「オエドの西北にある平原に人が集まってやがるナ。おそらくここが戦場だゼ」

「そこへ急行してくれ。全速力」

「あいよ。1分で着くゼ」


 やがて広がる平原の中に、丘を背にして建つ城が見えてきた。城は日本風の城に、ちょこちょこ西洋風の城がミックスされた感じだ。周りは幾重にも堀が張り巡らされている。

 そしてそれを取り囲むように弓を射かける幾万の兵士たち。兵士たちの何人かは、黄金の瓢箪が並んだ旗を背に差していた。あれが羽柴軍か。とても二十万には見えないが、先行部隊かな。それでも数万はいるだろう。

 堀に渡された橋の先、城門前には破城槌と呼ばれる丸太を手にした兵士たちが勢いよく何度も突進していた。それを目掛けて城側から矢が放たれるが、風が巻き起こり、矢が逸れてしまう。風属性の魔法使いがいるな。

 そうしてる間にも丸太は城門を砕いていく。っと、見ている場合じゃないな、急がないと。


「八重は城内に入って重兵衛さんや重太郎さんを探して、僕が来たことを伝えてくれ。あ、他の人たちには内緒な。僕は琥珀と城門前にいる奴らを蹴散らす」

「わかったでござる。……拙者はその仮面を被らないでも大丈夫でごさろうかな?」

「大丈夫だろ。ユミナたちと違って、八重との婚約は大々的に発表してないしな。なに? 被りたいの?」

「ご冗談を。父上と兄上に心配されるでござる」


 どういう意味かな?

 とにかく、八重を「ゲート」で天守閣近くの場所へ送り、僕自身は大きくなった琥珀を連れて城門の上へ転移する。


「なっ!?」

「なにっ!?」


 目の前に突然現れた白虎と銀仮面の男に、両陣営が驚いていたが、気にも留めず、僕は城門前へと降り立った。


「ええい! 邪魔だ! どけえぇ!!」


 破城槌を指揮していた武将が、兵士たちに突撃の命令を下す。僕ごと城門を破ろうってことか。

 勢いをつけて迫ってくる丸太に僕は右手を伸ばす。


「グラビティ……パワーライズ」


 ズシイッ! と片手一本で丸太を受け止める。そのまま丸太を掴み、しがみつく人間ごと持ち上げて、城の堀へとぶん投げた。僕の体重を重くし、筋力増加の無属性魔法「パワーライズ」で受け止めたのだ。


「な、ななっ!?」


 慌てふためく羽柴軍に対し、今まで城壁の上から僕に弓矢を突きつけていた徳川・伊達連合軍は、敵じゃないと判断したのかその狙いを下げていた。

 琥珀の凄まじい咆哮が衝撃波となって、橋の上にいた羽柴軍を一気に吹き飛ばす。


「忠告する。ここから撤退しろ。さもないと……」

「さ、さもないと、なんだと言うのだ!!」


 堀の向こうから腰が引けている指揮官が尋ねてきた。僕はスマホを懐から出して、ターゲットロックが完了したのを確認した。もちろん、標的は羽柴軍だ。


「スリップ」

「どわっ!?」


 次の瞬間、ズンッ、と軽い地震のような衝撃が足下から響いてきた。おお、さすがにこの人数が一斉に転ぶと壮観たるものがあるなあ。目の前の兵士たちが軒並み倒れていた。

 馬に乗った奴らは無事だったみたいだ。ターゲット指定が「羽柴軍兵士の足下の地面」だったからか。ま、いいか。馬を怪我させるのは忍びない。


「なにをしている! 立て!」

「ふざけてるのか! 戦の最中ぞ!」


 馬上から状況が把握できてない上官が怒りの声を喚き散らしていた。ああいう奴の下にはつきたくないもんだね。この異変に気付いてない奴は痛い目見るぞ。


「さて、たまには運動するか」


 「ストレージ」からイーシェン風の槍を取り出す。これは刃が落としてあって、「パラライズ」の効果もあるからこういう状況にはうってつけだ。

 全員(と、言っても護符なんかで弾かれるやつもいるけど)を「パラライズ」で麻痺させてもいいんだが、そのあとが面倒だからな。捕虜にするには数が多いし、動けないとわかった徳川・伊達連合軍に殺されまくるのも後味が悪い。

 ここはある程度痛めつけて、撤退してもらうことにしよう。

 ひょいっと琥珀の背に乗る。


「準備はいいか、琥珀。一気に敵陣を突っ切るぞ」

『御意』


 ぶんっ、と槍を一回転させ、脇に構える。


「銀の鬼武者、推して参る」


 一度言ってみたかった。


 








 





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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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