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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
215/637

#215 時計塔、そして昇格祝い。





「とりあえずこんなもんかな」

「いや、なかなか立派なもんですよ」


 隣にいる内藤のおっさんが、顎を撫でながら目の前の時計塔を眺める。

 城下の中央広場に大きな時計塔を設置したのだ。時計なんてもんは大貴族しか持ってないので、今までは鐘を鳴らしたりで時間を知らせていた。だけど聞き逃す人もいたり、細かい時間も知りたいだろうというので、この際と思い建設した。

 参考にしたのはロンドンのビッグ・ベンだ。正式名称はクロック・タワー、あ、エリザベス・タワーになったんだっけか。

 「蔵」の中にあった巨大時計を取り付けただけのものだが、文字盤に光魔法が付与されており、蛍光塗料のように夜でも光って見える。文字盤が古代パルテノ数字なのだが、12に分割されているのは同じなので、大して困りはしない。

 鐘は正午にだけに鳴るようにした。塔の四方向全てに文字盤があるので、鳴らなくても見れば一目で時間がわかる。欠点は時計塔の真下だと時間がわからないことか。

 ロンドンのようにこの街のシンボルになってくれればいいのだが。


「おお、これはまた立派な時計塔ですなあ」

「あ、オルバさん。やあ、アルマも」

「お久しぶりです! 冬夜さ……あ、陛下」

「冬夜でいいよ。久しぶり」


 振り向くとミスミド商人のオルバさんと娘のアルマが立っていた。二人とも狐耳がピクピク動いている。

 オルバさんはしょっちゅうブリュンヒルドに来ているが、アルマが来るのは珍しいな。


「今日は鋼材の納品に来ました。アルマは学校が長期休暇になりましたので、一緒にこの国へ来たいと言い出しまして……」

「なるほど」


 オルバさんには野球の道具やらベーゴマからけん玉まで、僕の考えた(正確には僕が考えたわけではないが)商品の売り上げの何割かを鋼材で払ってもらっていた。フレームギアの材料となる鋼材は、あって困るもんではないからな。


「それと……この間の頼まれ事ですが……」

「どこか引っかかりましたか?」

「フェルゼンですね」


 なるほど、フェルゼン王国か。たぶん間違いないんだろうな。

 フレームギアの各部パーツにはオリハルコンなどの希少金属が使われている。フレームギア全体の量からすれば少ないが、それでも一体に使われているオリハルコンの量はかなりのものだ。剣に打ち直せば10本ほどにもなる。

 フレームギアのパーツを盗んだ奴がまずやることは、分解して構造を知ることだろう。そしてその次には、自分たちで造ろうとするに違いないと思った。

 だからあえてオルバさんに頼み、オリハルコンを大量(と言ってもフレームギア一体分に使われている分だが)に市場に流してもらった。もちろん、買い手を探すために僕が出した物だ。むろんオルバさんの商会は通さずに、偽の商会を立ててだが。

 オリハルコンのような貴重金属はそうそう出回るものではない。しかも買うとなるとかなりの値になる。

 あくまでオリハルコンを売りたいと言う人がいる、という噂を流して、買いたいと言ってきた人がいても、求めているのが少量ならば適当な理由をつけて断る。

 普通は剣一本ほどを求める人が大半だ。オリハルコンは貴重な上に加工が難しい。安値で売られているならいざ知らず、相場よりも高い値をつけてあるのに、あればあるほど欲しいなんて客はまずいない。

 そのいないはずの客が来る。高くてもいいからあるだけ売れ、と。怪しいことこの上ない。


「売った先はラオ工房。調べてみましたが、そんな工房は存在しませんでした。オリハルコンはそのままフェルゼンへと送られ、そこからの追跡はできませんでしたが……」

「どうしてです?」

「あの国は商人ギルドがないんですよ。商売も魔工商会が仕切ってますしね」


 魔工商会。フェルゼンの魔法使い、職人、商人、全てを取り仕切る巨大ギルドだという。商人ギルドと違い、フェルゼン国内のみの商会なので、オルバさんでも介入できなかったってとこか。


「ってことはオリハルコンの買い手は誰かわからないってことか……」


 存在しない工房を名乗ったことから、限りなく黒に近いな。あれを買ったんだから、かなりの資金力があるところだとは思うが……。大きく考えればフェルゼン王国全体、小さく考えれば個人資産家……。どっちにしろ碌でもない奴に決まってるが。

 ちなみにあのオリハルコンは表面だけが本物で、中身は同じ重さに「グラビティ」で調整した鉄クズである。金メッキならぬオリハルコンメッキ? しかも鉄クズの中にはオリハルコンの代金と同じ価値の宝石を入れておいた。

 嫌がらせ以外のなにものでもないが、盗っ人にオリハルコンを渡すわけにもいかんし、かといって騙して金をせしめるのもどうかと思った末の考えだが、よく考えたらあいつらだって僕からフレームギアのパーツを盗んでいるじゃないか。宝石なんて入れなくてもよかったか。

 これがフェルゼン王国主導のことなのか、それとも一部の組織とかそういった奴らの行動なのか。そこんとこ気になるな。なによりユーロンからの難民が一番入り込んだ国ってのがなあ。


「フェルゼン王国は魔法や魔道具アーティファクト研究でも有名な国ですよ。東方では「魔法のフェルゼン、剣のレスティア」と言うぐらいで」


挿絵(By みてみん)


 そういやパーツを盗まれた時、変な視覚遮断の魔法を使ってたな。あれもフェルゼンの技術か?

 魔法技術に優れた国。フレームギアを作れる技術を持っているとは思えないが……。

 まあ、この段階でフェルゼン王国が黒というわけではない。ただ、フェルゼン王国内にフレームギアのパーツをちょろまかした犯人がいる、もしくは組織があることは十中八九確実だろうと思われる。


「オルバさん、フェルゼンで何か変な動きがあったら教えて下さい。お礼はしますので」

「いえいえ、そんな。ただでさえこんなに儲けさせていただいているのに、これ以上いただいたら罰が当たります」

「そうですか? 実は暖かい飲み物や冷たい飲み物などを長時間保存できる水筒とかがあるんですが」

「詳しくお聞かせ願いたいですな!」


「ストレージ」から僕が作った魔法瓶を取り出す。二重容器の中を真空にするのは、風属性の魔法を使える者がいれば作るのは難しくない。そりゃ地球の魔法瓶に比べれば性能は落ちると思うけど。

 地面に図を書きながら構造を説明する。いつの間にか内藤のおっさんも地面を覗き込んで説明を聞いていた。アルマだけがつまらなさそうにしていたので、「ゲート」でユミナのところへ先に送ってあげた。

 サンプルとして大小いくつかの魔法瓶と、構造を理解するための真ん中から真っ二つにしたやつもオルバさんに渡す。その際、内藤のおっさんが物欲しそうにしていたので、僕の分をおっさんにあげた。

 そういや、内藤のおっさんは外回りが多いから、こういった水筒は欲しいよな。気がつかなくて申し訳なかったと反省する。

 それからオルバさんの馬車数台に積まれていた鋼材を、「ゲート」でバビロンの「工房」へ送り、二人と別れた。オルバさんはこのまま自分の店のブリュンヒルド支店へと顔を出すそうだ。内藤のおっさんも建設現場の視察がある。

 「ゲート」で城へ帰ろうとしたときに、ふと街中に見知った顔があったので声をかけた。


「やあ。元気だったかい?」

「え? あ、へ、陛下!?」


  持っていた槍を落とし、ロップ少年が驚いた顔で振り向く。それに反応して、連れの三人も僕を見て目を見開いていた。無反応だったのはポヤポヤ少女の頭の上に乗っていた白ネズミだけである。膝をつこうとするので、慌てて止めた。

 例の奴隷船事件の時の新人冒険者たち、ロップ、フラン、クラウス、イオンの四人組だ。イオンの頭の上に乗ってる白ネズミは僕の召喚獣でもある。


「そいつ、役に立ってる?」

「はい! スノーは魔獣の接近を感知してくれますし、罠だって見破って警告してくれるんです」

「へえ。やるな、お前」


 魔法使いの少女、イオンの頭の上に立ち、ヒゲをピクピクさせる白ネズミ。……おい、いま照れ臭そうに頭をかかなかったか? このネズミ、本当に賢いんじゃ……。

 しかしスノーって名前をもらったのか。種族名のスノーラットからかな。


「おかげで昨日の探索であたしたち紫に昇格したんです!」


 剣士の少女、フランが嬉しそうに報告してくる。へえ。けっこう早いな。これで初心者卒業ってわけか。

 ダンジョン捜索の場合、依頼されているわけではないので、基本的には昇格ポイントは貯まらない。しかし、隠し扉、新たな魔獣、下層への階段の発見など、いわゆるマップデータ更新に貢献した場合、ポイントが貯まる。

 ギルドカードのランクは黒→紫→緑→青→赤→銀→金と上がっていく。普通でも黒から紫には時間をかければ上がるので、そう難しくはない。


「スノーが隠し通路を見つけてくれて。その先に宝箱があって、いろんな物の中からこれを見つけたんですよー」


 そう言ってフランが見せてくれたのはミスリル製の剣だった。古いが見た目も悪くない。けっこうな価値がありそうだが……。


「これ、どうするつもり?」

「みんなとも相談したんですけど、せっかくだし、あたしが装備して使おうかなあって……」

「売ったほうがいい」

「えっ?」


 キョトンとしている四人に説明する。黒から紫に昇格したとはいえ、まだ駆け出しの若い冒険者。そんなひよっこが、売ればかなりの価値になるミスリルの剣をぶら下げている。さて、ここに金に困っているチンピラ冒険者が数人いるとして、どういう行動に出ると思う?


「そっか……」

「盗まれるならまだしも、襲われる可能性もある。目をつけられないようにした方がいいと思うけどな」


 体験談から忠告する。目をつけられてもねじ伏せられれば問題はないんだけどね。だけど彼らにまだそんな実力はないだろうし。


「うーん、あたしこの剣気に入っていたのになあ……」

「だが、僕らにとってリスクが大きすぎる。危険は避けた方がいい」

「そうだけどぉ……」


 弓使いクラウスの言葉にフランが口を尖らせる。彼の言うことがもっともだとわかってはいるんだろう。


「売ったお金でみんなの装備を新しくした方がいいんじゃないのか? けっこうみんな痛んできてるだろ」

「……そうですね。みんなで見つけたのにあたしだけ新しい剣ってのもちょっと悪い気がしてたし。売ることにします」


 僕の言葉にほんのわずか逡巡するそぶりをみせたが、フランは結局従ってくれた。


「よし、じゃあ僕がその剣を買い取ろう。相場より少し高く買い取るよ。昇格のお祝いだ」


 そう言って金貨二十枚ほどを取り出そうとしたとき、この子らに大金を与えていいものかちょっと考えた。

 いきなり大金を渡して、その金目当てにチンピラ冒険者に襲われたらなんにもならないしな。十三歳の子たちに200万円渡すって考えるとちょっと躊躇ってしまう。


「……それともお金で買い取るより、ミスリルの剣と交換で、僕が君たちの装備を新しく作ってもいいけどどうする?」

「「「「本当ですか!?」」」」


 わー、食いついてきた。少し胸が痛む。なんかこの子らからミスリルの剣を取り上げてる気がしてきた。

 金貨二十枚分の仕事はしないとなあ。

 宿屋「銀月」の裏庭を借りて、「ストレージ」から素材を取り出し、「モデリング」で加工していく。

 ロップには鎧と槍、フランには軽装鎧と剣、クラウスには革鎧と弓、イオンには杖とローブか。

 素材はミスリルとかを使うわけにはいかないので、普通の鋼材だ。ただし、鎧はかなり軽く「グラビティ」で調整する。見た目には普通の鎧にしか見えない。装備すればわかるが、他人の鎧なんか装備するヤツはいないからバレないだろ。

 剣や槍も刃の部分を薄っすらと晶材でコーティングした。これで斬れ味が増し、さらにある程度軽くする。

 クラウスの弓は軽い「アクセル」の付与が矢に施されるようにした。今までより威力のある矢が、今までと同じ力で撃てるはずだ。弦の部分も晶材を糸状にしてより合わせたものを使う。革鎧は表と裏の革の間に竜の鱗を挟んである。見た目は革の鎧そのものだ。

 イオンの杖は先端に赤と黄色の魔石が埋め込まれている。彼女の属性が火と光だからだが、実はこれ、赤と黄色に偽装した晶材だ。これにより少ない魔力で大きな威力の魔法が撃てるようになる。ローブの方も、普通の布に晶材を糸状にしたものを織り込んである。これも見た目にはわからない。

 てな感じで、見た目は地味な装備が出来上がった。出来上がりがショボいので、あからさまにガッカリしている四人に装備の説明をすると、驚きながらも確かめるように、それぞれ自分の装備を手に取った。


「言っとくけど他の冒険者には教えない方がいいぞ。一応、世界で一つだけの装備だからな。もし売るときはオルバさんのストランド商会で買い取ってもらうといい」


 絶対に金貨二十枚以上で売れる。あの店の鑑定眼は確かだからな。

 お礼を言ってくる四人に気にしないよう言い聞かせながら、ついでに竜の肉を四人分プレゼントした。中央広場の時計塔から鐘が響いてくる。ちょうど正午だ。

 「銀月」のミカさんに肉を渡して、四人に料理を振舞ってもらうように頼むと、僕はその場を後にした。

 僕も城に帰って昼飯にありつこう。












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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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