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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第24章 王様は何かと忙しい。
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#211 レーダー、そしてダークエルフ。



「これがフレイズの音の波長っス。こっちが中級種でこっちが上級種っスね。どうやら出現前になると空間を飛び越えても聞こえるみたいっスから、それを利用すれば、だいたいの数とか級種がわかると思うっス」


 「蔵」のモノリスに浮かぶ映像を操作しながら、巫女姿のパルシェが説明していく。彼女は今回の戦いでは外部からいろいろな観察をしていた。


「出現場所や時間の確定はできるのか?」

「空間の歪みを測定し、その大きさや歪曲率からいつ空間が裂けるのか、予測は立てられるっス。二、三日のズレはありましょうが、そんなに大きくズレることはないと思うっスよ」


 二、三日はけっこうなズレだと思うが、まあ許容範囲か。今回も三日ぐらいズレたしな。


「このデータを使ってフレイズの出現を予測するレーダーみたいなものは作れるかな?」

「できると思うっスよ。ただ、そんなに広範囲をカバーすることはできないと思うっスけど」


 それでも出現を予測できるのはありがたい。複数作れば広範囲もカバーできるだろう。さっそくロゼッタに作ってもらうとしよう。

 ロゼッタは今、スゥのフレームギアを組み立てているが、こちらの方を優先してもらうか。フレイズの出現が予測できたら、対策を練る時間ができるし。

 「工房」に行ってフレイズレーダーの制作をロゼッタに頼むと、軽くキレられた。


「うがー!! あっちもこっちもそんなにできないでありまスよ!! 小生は一人でありまス!!」

 

 訂正。思いっきりキレられた。無理もない。人手不足は否めないからなあ。ミニロボたちも増員したが、もう少し手伝いがいるか。





「それでわたくしに?」

「うん」


 結局バビロンの城にいたリオラに頼むことにした。っていうか選択肢がなかったっていうか……。ドジっ子や活字中毒者、寝ぼすけに任すわけにもいかんし。


「わかりました。これでも博士のサポートを務めてましたので、アる程度の手伝イはできるでしょウ」


 さすがバビロンの長女。話がわかる。これでいくらかロゼッタの負担が減ればいいが。


「ノエルは?」

「寝てます」

「相変わらずか……。ああ、これ、クレアさんが作った弁当。ノエルに渡しといて。リオラの分もあるから」


 持っていた二つの風呂敷の包みをリオラに渡す。リオラのは普通サイズだが、ノエルのはその五倍はある。八重並みに食べるからな、あいつは。

 あれだけ食っちゃ寝食っちゃ寝していて、よく太らないもんだといつも感心する。あ、人造人間だから太らないのか?


「アりがとウござイます。わたくしたちは食べなくても平気なのですが、美味しイ食事はやはり嬉しイですね」


 風呂敷を受けとってリオラが微笑む。リオラとノエル、それに「図書館」のファムはあまり地上に降りてこないからな。

 パルシェはあまり降りてこられると困るんだが……。こないだ城のカーテンを燃やしかけてたからなあ。あのドジ属性はなんとかならんもんか。

 地上の城へ戻るとちょうど紅玉を連れた桜と出くわした。

 あれから一向に彼女の記憶が戻る予兆はない。本人も記憶が戻らなくてもいいような感じに思える。

 自分は記憶喪失になったことはないのでなんともいえないが、自分の過去とか気にならないんだろうか。

 一応身元が不明なだけに、動き回る時は琥珀たちの誰かを連れていくようにと言ってあるのだが、もう監視はいらないような気もする。


「王様。よかった、探してた」

「ん? どうかしたのか?」


 少し慌てた様子で桜が駆け寄ってくる。この子がこんな表情するのは珍しいな。少し驚いていると、そのまま僕の手を取りどこかへ向けて走り出した。


「ちょ、どうしたんだ?」

『病人です』

「病人?」


 走る僕らの横を飛んでいた紅玉が桜の代わりに答えた。病人とは穏やかじゃないな。


『城下を散歩していると、行き倒れがおりまして。「銀月」へ運び込んだのですが、どうも奇病にかかっているらしく、危ない状態です』

「奇病?」

「魔硬病。魔族だけがかかる病気。感染率は高くないけど、接触感染するから魔族は近づかないように言っておいた。発症から一ヶ月以内に死に至る」


 手を引いて走りながら桜が解説する。やけに詳しいな……。城の書庫にある医学書でも読んだか? この子もファムほどではないけど、なかなかの活字中毒者だからな……。

 しかし魔族だけかかる病気か。ってことは、当然患者は魔族ってことだよな。


「でもなんで僕を? 病気ならフローラの方に来てもらえば……」

「魔硬病は状態変化の病。治すことはほぼ不可能。だけど無属性魔法の「リカバリー」なら……」


 なるほど。状態回復魔法の「リカバリー」は麻痺や毒、失明や難聴、身体の不調と状態異常を回復する。おそらくではあるが、胆石や腎臓結石という異物なんかも取り除かれるのではないだろうか。ひょっとしたらガンなんかも治るのかもしれない。

 だけど風邪は治らないんだよな。なんでだろ? だから普通の病気とかは治せないと思っていたのだが、その魔硬病とやらには効果があるらしい。

 なら急いだ方がいいか。

 走る桜の前に「ゲート」を開き、一気に「銀月」の前に転移する。

 従業員のフルールさんに案内されて、三階の一番奥の部屋へと入ると、ベッドの上にその人は横たわっていた。

 ボロボロのマントに身を包み、身体のいたるところを包帯でぐるぐる巻きにしていた。包帯のはだけたところの肌は、赤茶けたカサブタのようになっており、剥がれた肌の欠片らしきものが、ベッドのシーツに無数に落ちている。妙な光沢があり、まるで金属みたいだ。

 長い銀髪はざんばらになって痛みまくっているし、顔まで包帯で覆われているのでわからないが、おそらく女性だ。浅い呼吸と共に、小さく上下する大きな胸がそれを肯定している。

 しかし酷いな、これは……。剥がれ落ちたところが赤くぐちゅぐちゅと爛れている。


「生きてるん、だよな……?」

「魔硬病は身体の皮膚が硬化し、どんどん剥がれ落ちていく病気。剥がれ落ちた皮膚はまた硬化し、いつまでも治らない。それは患者の体力と精神を蝕んでいき、やがて命を奪う。でもまだ彼女は間に合う。早く「リカバリー」を」


 桜に促されて、急いで「リカバリー」を彼女に施す。

 柔らかな光に包まれて、彼女の皮膚が次々と剥がれ落ちていく。一瞬、なにか失敗したかとびっくりしたが、剥がれ落ちたあとの皮膚は艶やかに汗で光沢を放っていた。健康的な小麦色の皮膚が包帯から覗く。どうやら成功したようだ。

 ついでに回復魔法と「リフレッシュ」もかけておく。傷や体力もこれで回復するはずだ。

 フルールさんが、顔の包帯を取り外し、持ってきた濡れタオルで顔を拭ってやると、パラパラと剥がれ落ちた皮膚の下から褐色の肌と長い耳が現れた。


「ダークエルフ……」

「ん」


 桜が頷く。ギルドマスターのレリシャさんと同じ長い耳。そしてレリシャさんとは違う褐色の肌と銀髪。


「ダークエルフって魔族なの? じゃあエルフも魔族なのか?」

「? エルフとダークエルフはまったく別の種族。似ているけど違う。エルフは魔法に長けているけど、ダークエルフは身体能力に優れている」

「お互いに憎しみあっていたり……」

「そんな話は聞いたことがないけど」


 さいですか。どうやら僕の薄っぺらいファンタジー知識とはまったく異なる存在らしいな。

 こうして見るとなかなか美人さんだな。これってエルフと同じく種族特性なんだろうか。ふむ。興味深い。


「あの……これから彼女の身体を拭きますので……」

「ああ、そうした方がいいね。早く硬化した肌を落とした方がいい」


 フルールさんの提案に僕も頷く。早くキレイな身体にしてあげた方がいいに決まってる。けれどフルールさんは一向に作業をしようとはせず、僕の方にちらちらと視線を投げかけてくる。? なんだ?


「あの……服を脱がしますので、陛下にここに居られると……その……」


 おずおずとフルールさんが切り出した言葉でやっと僕は事態を察した。

 あ、や! 違いますよ!? なにも彼女の裸を見たくて動かなかったわけじゃ!


 すぐさま回れ右をして扉から廊下に出て行く。ただでさえ八人も婚約者がいる好色な国王って噂されているんだ。さらに信憑性を高めてどうする!

 フルールさんと桜に彼女を任せて、僕は「銀月」を後にした。


「失敗したなあ……」

「陛下!」


 冷や汗を拭っていると、目の前にうちの騎士団の魔族連中が集まってきた。ヴァンパイア族の青年・ルシェード、オウガ族のザムザ、アルラウネのラクシェ、ラミア族の双子・ミュレットとシャレット。


「か、担がれていった人はどうなりました?」

「ああ、大丈夫。病気は治ったし、しばらくすれば動けるようになるだろ」


 僕の言葉を聞いてみんな安心したのか、息を吐いて胸を撫で下ろす。なんだなんだ、随分と大仰だな。同じ魔族だからってそんなに心配することか?


「ひょっとしてみんなの知り合いなのか?」

「いえ、でも同じ魔族ですからね。魔族が魔王国を出てくると人種差別や迫害もたまにありますし……。それにあの人は魔硬病だったから相当辛い目にあったんじゃないかって……」


 心配そうにルシェードがつぶやく。

 魔族にだけかかる病気。あの包帯は魔族ということや、その醜い肌を隠す為だけなんじゃなく、他の魔族への感染を避けるために巻いていたのかもしれない。


「ダークエルフが魔王国を出るなんてよっぽどのことがあったんでしょうね」

「どういうこと?」

「ダークエルフはヴァンパイア族と同じく長命種ですから、名家の貴族が多いんですよ。大半が国の重要職についてたりしますからね」


 ってことは、あのお姉さん、何十歳ってこともありえるのか。二十歳過ぎくらいにしか見えなかったけどなあ。

 そんなことをぼそっとつぶやくと、目の前のルシェードに「私も60歳を越えてますが」と言われた。嘘ぉ! あんたも二十歳過ぎにしか見えないぞ!? っていうか、ルシェードの入団理由って「独り立ちしたいから」じゃなかったか? 60過ぎてやっと親離れってどうなんだろう。

 魔族の風習はよくわからん……。

 普通、魔王国の貴族レベルなら、魔硬病にかかっても、人間や亜人の世話係をつけ、死ぬまでの一ヶ月間、軟禁されて死を迎えるんだそうだ。

 おそらくあのダークエルフは旅の途中に発症したのだろうな。たまたま辿り着いた国に僕がいたから助かったけど、でなけりゃ確実に死んでた。

 ……たまたまだよな?









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あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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