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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第23章 新たなる脅威。
205/637

#205 待機、そしてフレイズ出現。




「わ、私のせいじゃない! これは不幸な事故が重なっただけなんだ!」


 王宮の一室に連れて来られたボーマンは、みんなの前でそう言い放った。

 なんでも宿主の潜在能力を引き出す代わりに、養分を摂取するという寄生植物の一種を改良して巨獣化、武装ゴーレムに取り付けたらしい。あの背中に融合していたやつだな。

 ところがこの寄生植物が武装ゴーレムの意識を乗っ取り、暴走を始めた。ゴーレムに融合させた「隷属化の首輪」の効果も無くなり、全く命令を効かなくなってしまったらしい。同時培養していた全てのゴーレムが暴れ出し、街中へと飛び出してしまったわけだ。


「ゴーレムの方はともかく、その寄生植物の方はまだ試験段階だったようです。それを強制的に成長、巨獣化させて、かなり無茶な融合をさせたみたいですね。研究所員の反対を押し切っての独断のようです」


 ボーマンの研究所から押収した資料を見ながら、騎士団長のリミットさんが教えてくれた。


「なんてことを……。こうなる可能性を考慮しなかったのですか? あなたの軽率な行動がどれだけの被害者を生み出したと……!」

「寄生植物による暴走が起こる可能性は低かったんだ! だいたいゴーレムの意識まで乗っ取るなんて誰が予想できる!? この暴走は事故なんだ! 私は悪くない! 街を破壊したのは私じゃないぞ!」


 オードリー州総督の言葉に逆ギレ気味に答えるボーマン。自分には責任がないとの言い訳にしか聞こえないが。事実、研究所から真っ先に逃げ出して、倉庫で震えていたらしいからな。


「そもそもゴーレムを今すぐ改良する必要性はあったのですか? フレイズのことはブリュンヒルド公国の力を借りるということで、ほぼ話が進んでいたはずです。明日にでも州総督全員で決を取り、正式な発表を、となっていたではありませんか」


 へえ、そこまで決まっていたのか。オードリー州総督の丘陵州だけではなく、七つある州の四つまでがブリュンヒルドに協力を仰ぐという方向でまとまりつつあったらしい。

 ロードメアは中央州、丘陵州、山岳州、湖水州、河川州、平原州、鍛冶州と分かれているが、このうち丘陵州、山岳州、湖水州、鍛冶州は賛成、中央州と平原州は反対、河川州は未だ中立と、意見が分かれていたそうだ。

 明日の州総督会議で正式な決を取り、国の方針を決める予定だったそうだが……。


「公国のフレームギアに負けたことで、武装ゴーレムに対する研究に疑問の声が上がっていましたからね。国の予算を無駄に使うべきではない、と。せめて武装ゴーレムを強化してこちらもフレイズを倒さないと、研究費が下りなくなる……そんなところでしょう」


 冷たい眼差しを向けてリミットさんが口を開くと、ボーマンはビクッと身体を竦ませた。するとなにか? 自分の研究を続けるためにあんなことをしたってのか?


「どのみちあんなゴーレムじゃ話にならないわよ。あたし一人で全部片付けちゃったし。弱すぎ」


 エルゼの言葉にボーマンが俯いていた顔を上げる。そこには驚愕と悲哀が入り混じった表情が浮かんでいた。


「あの強化した武装ゴーレムを倒した……? たった一人で? そんな……」

「制御できない力など使うべきではなかった。この罪は重いですよ、ボーマン博士。独断でゴーレムを改良し、この惨劇を生み出した責任は取ってもらいます。全ての役職を解任、博士号を剥奪の上、山岳州の鉱山行きです。いいですね、全州総督?」

「あ、ああ、そうだな。責任は、取らなくては」


 オードリー州総督の厳しい声に、ただ黙って目を泳がせていた全州総督が小さく頷きながら、引きつった笑顔を浮かべた。

 それはそうだろう。この被害を生み出した人物を登用し、研究機関を任せていたのは中央州の州総督でもある彼なのだ。知らなかったと自分だけ責任逃れはできまい。

 騎士たちに引きずられるように部屋の外へとボーマンが連れ出された。今回の騒動で死者も出ているのだ。死刑じゃないのは今までの功績が加味されているからだろうか。

 

「それと全州総督。中央州、レセプトの街から住民の避難を。事態は一刻を争います。早馬を出してください」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ。避難させておいて、もしも何もなかったらどうするのかね? 街の住民が黙っちゃいないぞ!?」

「この期に及んで何を馬鹿なことを……。何もなかったら騒がせたことを詫びて、賠償し、責任を取ればいいだけのことです。むしろ、出現を知っていながら何もしなかったと、あとでわかった場合どうなるか……。そちらの方が大問題ですよ?」


 丘陵州総督に言われて、たじろぐ全州総督であったが、彼女の言っていることに間違いはなかったので、部下に命じて早馬を街へ走らせることにした。


「公王陛下、丘陵州のリムルード、エミナス、中央州のレセプト、ここから全ての住民を避難させます。それと、フレームギアの国内配備を期間限定で許可いたします。全州総督、いいですね」

「あ、ああ。もちろん」


 オードリー州総督に言われるがままにこくこくと頷く全州総督。これじゃあどっちが国の指導者だかわからんな。

 ま、とにかくこれでフレイズを迎え撃つ用意ができる。


「ありがとうございます。全力をもって対処に当たらせてもらいます。では、すぐにでもフレイズが出現する近辺に我が国のフレームギアを配備いたしますので」


 時間的には明日にでも出現してもおかしくないのだ。急ぐにこしたことはない。

 足早に僕はロードメアの王宮を立ち去り、すぐさまブリュンヒルドの城へ戻って部隊を編成した。騎士団長のレインさん、副団長のノルンさんとニコラさん、それぞれに19機ずつ付けて、本人の機体と合わせて20機の小隊が三つ。これを現場に駐屯させ、三交代制で見張る。

 ブリュンヒルドが手薄になるが、残りの騎士と馬場の爺さんや山県のおっさんがいれば大丈夫だろう。

 東西同盟各国には18機の重騎士シュバリエと2機の黒騎士ナイトバロンを貸し出し、自分たちの国で待機してもらう。さすがにいつ来るかわからないロードメアの現場に、他国の主要騎士たちを縛り付けておくわけにもいかんし。

 うちの婚約者フィアンセのお嬢様方は、揃って出撃したいと言い出したが、とりあえずスゥとリーンには遠慮してもらった。

 スゥはまだ戦場に立つには不安だし(そもそも立つ必要はないのだが)、リーンはフレームギアの操縦にまだ慣れていない。

 エルゼは専用の新機体ゲルヒルデ、八重とヒルダは晶材の刀と剣、ルーは晶材の短剣二刀流、ユミナとリンゼは飛操剣フラガラッハを装備した、それぞれ黒騎士ナイトバロンをベースにした機体に乗り込むことになった。

 今回はロゼッタやモニカは、後方でミニロボたちとフレームギアが壊れた時などの緊急事態に備えてもらう。

 

「今回は全てのフレームギアに晶材による武器を装備させたから、かなり有利だと思うでありまスよ」


 ユーロンでの戦いで晶材は腐るほどあるからな。腐ったりはしないけど。

 ブリュンヒルドのフレームギア師団を伴って、ロードメアのフレイズ出現現場より少し離れた森の手前に転移する。

 目の前には平原が広がり、その向こうには山々が連なっていた。雲が静かに流れ、小鳥が囀る。これから戦場になるような雰囲気は微塵もない。


「さて、一応この場所を本陣とするか」


 森の手前を土魔法でなだらかにならすと、「格納庫」にしまってあった、バビロン博士のコンテナハウスをいくつか転移させ、離れた場所に配置させた。

 このコンテナハウスは「ストレージ」と同じ空間魔法が施されていて、思ったよりも中は広い。もちろん中は常温に保たれ、見張りの騎士たちの休憩所としても使える。毛布も用意してあるので、仮眠するのにもいいだろう。

 一応壁にナンバーを振っておいて、1は会議用、2は食事用、といった感じで割り振っておく。おっと、女性専用のハウスも用意しておかんとな。

 ロードメアの避難がきちんと終わっていれば、出現場所から一番近いところにいる人間たちは僕らになる。そうなれば、まっすぐにこちらへ向かってくるはずだ。

 フレームギアに搭載されている望遠レンズなら離れていてもフレイズの出現を確認できるだろう。幸い、辺りは遮蔽物がない平野だし。


「来ますかね」

「来なきゃ来ないでいいことなんだけどね。ここまでお膳立てした以上、来てもらわないと、いろいろとこっちが困りそうだ」


 コンテナハウスの平らな屋根にテーブルと椅子を用意して、ニコラさんと差し向かいで将棋を差す。監視以外やることないからなあ。

 マップ検索して調べてみると、ロードメアの避難は着々と進んでいるようだ。


「今回の戦いに諸刃様は参加されないのですか?」

「ん〜、諸刃姉さんはフレームギアの操縦できないからなあ。あの人、剣以外からっきしだから……」


 というか、フレームギア自体に興味がないというか。乗りこなせれば、かなりの戦力になるんだが……。


「でも、参加はするとは言ってた。晶材の剣も渡してあるし、それなりに働いてはくれるんじゃないかな」

「参加って……生身でですか?」

「生身で」


 一瞬、ポカンとした表情を浮かべたニコラさんだったが、すぐに小さく首を振って、


「陛下の姉君ならありえるか……」


 と、小さくつぶやいた。

 や、血の繋がりはないんですけどね。

 正直言って、今回の戦いはそんなに心配はしていない。準備期間もあったし、出現数はユーロンの時より少ないということだしな。

 ただ、上級種の存在だけが不安だ。以前のワニのようなやつならなんとかなるかもしれないが、それでもあの荷電粒子砲みたいなものを撃たれたらその被害は計り知れない。なんせ、遠く離れたユーロンの首都を壊滅させるくらいなのだ。一応、対策は考えているが、どこまで効果があるかはわからないのでなんとも言えない。

 もちろんあの時の決め手となった「流星雨メテオザッパー」用の晶材もちゃんと用意してある。

 ただ、あれは数が多くないと命中率が悪い上に敵味方関係なし、魔力の消費が激しい、と使いどころが難しいんだよな。地形も無茶苦茶になるし。

 フレイズが出現したところに先制攻撃としてぶち込むってのはアリかもしれないけど、何が起こるかわからない状況で、そういった魔力の無駄使いは避けたいところだ。

 そんなこんなで本陣を作って一日目は何事もなく過ぎていった。町の避難はほぼ終わったようだ。人間を検索しても反応はない。あとはフレイズの出現を待つだけだが……。

 二日目も変化はなかった。今さらだが、出現するなら夜は避けてほしいところだな。あいつら半透明だから見えづらいし。そんなことを考えているうちに夜が明け、三日目の朝が来た。

 朝食用のシチューが煮込まれている時に、フレームギアのモニターで監視していた者からとうとう報告があがった。


『空間に亀裂を確認! フレイズが出現しようとしています!』


 本陣に警報が鳴り響き、仮眠していた者も跳ね起きて、それぞれ自分の機体へと乗り込んでいく。

 まだ少し時間はある。その間に僕は各国に回ってフレイズ出現の報告と、準備していたそれぞれのフレームギアを現場へと転移させ送り出す。

 亀裂が入った場所に向けて、計200機のフレームギアが弓状に展開し、その迎撃準備を整える。


『陛下! 亀裂が広がっていきます!』


 「ロングセンス」で視覚を飛ばすと、空間の亀裂が少しずつ広がり、中からフレイズの身体の一部が突き出しているのが見えた。

 やがてガラスが割れるような大きな破壊音があたりに鳴り響き、それと同時に雪崩れ込むようにして、その場にフレイズたちが次々と出現する。やがてフレイズを全部出してしまうと破壊された空間も元に戻っていった。


「ほとんどが下級種と中級種だが……上級種はどうした?」

「上級種は出現までに時間がかかる。前もそうだったろ?」

「ああ、そういう……わあっ!?」


 突然の回答に「ロングセンス」を解除すると隣にエンデが立っていた。いつの間に……。相変わらず神出鬼没だな。


「出現までの時間は30分ってとこか。それまでにあいつらを片付けておきたいところだね」


 エンデは手の中のプレパラートを割り、モノクロームの竜騎士を呼び出した。そしてさっさと乗り込んでしまう。せっかちなやつだな。


「検索。確認できるフレイズの数は?」

『検索中……8141体でス』

 

 ユーロンの時は13000ほどだったから、だいたいあの時の6割くらいか?


「その中で中級種は何体だ?

『検索開始。……終了。中級種は809体でス』


 全体の約1割か。前の時もそうだったな。何か法則のようなものがあるんだろうか。

 カメラを持たせたヴァルキリーを召喚し、中継をさせる。この映像は各国の王の元に届き、戦況がわかるようになっている。とくにロードメアの首脳陣にはよく見てもらわないとな。あとでユーロンのように難癖つけられても困るし。

 本陣には予備のフレームギアと、ロゼッタ、モニカ、フローラ、リーンに控えてもらう。緊急脱出魔法の転送先もここに設定してある。


『冬夜さん、フレイズたちが動き始めました』


 耳に装着したレシーバーからユミナの声が聞こえてきた。今回はエルゼのゲルヒルデと黒騎士タイプには僕と通信できるようになっているので、なにかあった場合すぐにわかる。

 「ロングセンス」を再び発動させて、前方を確認すると、ユミナの言う通り、確かにこちらへ向かって進軍を開始していた。

 先行して飛行タイプのマンタ型と……あれは初めてみるタイプだな。イルカ……いやどっちかというとシャチ……オルカ型がこっちへ飛んで向かって来る。大きさからして中級種だ。


「よし、じゃあ始めるか」


 「ストレージ」から刃渡り二メートルもある大剣を二本取り出し、左右に構える。


『全機戦闘開始! 各指揮官に従い、フレイズを殲滅、掃討せよ!』

『おおおおッ!!!』


 地響きをあげてフレイズの群れへと、フレームギア部隊が駆けていく。

 僕も「フライ」を発動させ、飛行型のフレイズを殲滅するために飛び立った。









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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