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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第23章 新たなる脅威。
202/637

#202 模擬戦終了、そして丘陵州総督。




「バカな! どうなっている!?」


 脂汗を流しながら叫ぶボーマン。目の前では武装ゴーレムの攻撃を躱し、手にした槍でゴーレムの右肘から下を切り落とした重騎士シュバリエが、軽やかに立ち回っていた。

 切り落とした右肘から下が再生し始めているが、そのスピードよりも早く、今度は左肘から下を切り落とした。

 全く相手にならない。動きがのろ過ぎるのだ。それに思ったよりパワーもなさそうだ。いろいろいじったせいなのか、本来のウッドゴーレムの強さが失われているような気がする。

 武装ゴーレムの喉元が赤く光る。それに伴い両腕の再生スピードが上がり、やがて元通りに再生された。腕に装備された装甲板までは無理だったが。魔力を振り絞って腕の再生に回したんだな。

 再生された腕でまたしても殴りかかってくるが、それが重騎士に当たることはなかった。


「くっ、当たりさえすれば……!」

「それはどうかなあ。たぶん無駄だと……あ、ほら」

「なッ……!?」


 ボーマンのつぶやきに僕が答えた矢先、襲いくるゴーレムの拳を重騎士が片手で受け止めた。ほらな。

 そのまま重騎士がもう片方の手で持った槍を勢いよく突き出し、かがんでいたゴーレムの喉元を貫く。さっきの再生で核の位置がわかったからな。重騎士のパワーなら貫ける。

 核を砕かれたゴーレムはそのままゆっくりと傾き、盛大な地響きを立てて地面へと倒れた。あっという間にゴーレムは枯れ木のようにバラバラに砕け散り、その残骸を辺りにばら撒くことになった。

 それを信じられない目で眺めながら、ボーマン博士が膝から崩れ落ちる。


「バカな……。私の最高傑作が……」


 最高傑作って。あれでか? やっぱり事前に確かめておいてよかったな。あんなゴーレムじゃ、フレイズの中級種なんかが出てきたら、あっという間に殲滅されてしまう。それどころか下級種でも集団で襲われたら危なそうだ。


「総督。ちなみにフレイズの中級種はあの重騎士シュバリエ数体がかりでやっと倒せる強さを持っています。それが数千、さらにそれよりも桁違いに強い上級種を伴って、このロードメアに出現するのですよ? やはり住民たちを避難させた方がいいと思います」

「あ、ああ。他の州総督とも検討してみますよ。……決まったら、連絡をいたします」

「よろしくお願いいたします」


 引きつった顔の全州総督と、地面に膝をついたまま動かないボーマンを残して、僕らは重騎士から降りたガスパルさんの元へと向かった。


「少々やり過ぎましたかな?」

「いや、他国とはいえ人の命がかかってるんです。中途半端はよくないんじゃないかと。これで避難することを考えてくれるといいんですが」


 避難と言ってもそう簡単にできることじゃないのはわかってる。まず情報を信じられるかどうかになるし、避難しても、今まで住んでいた町や村を捨てることになる。

 なるべく被害を出さないようにはするが、一旦戦場になったら、家などがまともに残るかも怪しい。中級種、上級種のレーザーで吹っ飛ぶ可能性だって高い。

 人が全くいなくなった町ならフレイズも襲うようなことはしないと思うが、それが通り道にあった場合、よけてくれるとは思えない。おそらく街並みを踏み潰して進軍するだろう。

 住む家だけじゃない。店や畑、生活の基盤になっていたものを失うのだ。命が助かったからよかった、と割り切れるものではないだろう。

 フレームギアを「格納庫」へと転移させて、僕らも一旦お暇しようかと思っていたら、僕らの前に二人の女性が現れた。

 一人は白の上着にショールを羽織った40代ほどの、落ち着いた雰囲気がする銀髪の女性で、その後ろに控えていたのは背の高い、セミロングで茶髪の二十歳くらいの女性騎士だった。


「お初にお目にかかります、ブリュンヒルド公王陛下。私はロードメア連邦丘陵州総督、オードリー・レリバンと申します。こちらは丘陵州騎士団団長、リミット・リミテクス」

「……はあ、どうも……」


 いきなりだったのでなんとも間抜けな返事になってしまった。丘陵州? って、ロードメアにある七つの州のうちのひとつか。そこの総督ってことは、この国でさっきの全州総督の次に偉いんじゃないか?


「このたびはお伺いしたきことがあり参りました。少々時間をいただけますか?」

「はあ、構いませんが。いったい何でしょうか?」

「フレイズが現れるという出現位置を正確に教えて欲しいのです。そしてその後の行動予測なども」


 オードリー総督の話に従い、マップを空中投影で出現させる。州総督とお付きの女騎士が驚いていたが、構わず操作して、エンデに教えてもらった正確な場所を指し示す。


「ここですね。多少ズレるかもしれませんが、一週間から十日後にフレイズが出現します」

「これは……やはり……」

「総督……!」


 ぬ? 二人が考え込むようにマップに見入る。どうかしたのか?


「……失礼しました。この場所は位置的には中央州なのですが、すぐ隣は我が丘陵州。もしここにフレイズが出現した場合、公王陛下はどう動くと見ますか?」

「そうですね。フレイズは人間や亜人の殺戮を目的に行動します。もしここに出現したとすれば、すぐ近くの村や町へと向かうでしょう。ここからだと……あれ?」


 マップを縮小してロードメア全体を表示してみると、フレイズの出現場所は中央州なのだが、そこから一番近い町となると、お隣の丘陵州となってしまう。つまり、州と州の境目近くなのだ。


「あー……このリムルードの町? へとまっすぐ向かうかと」

「やはりそうですか」


 オードリー総督が深くため息をつく。そりゃそうか。自分の治める領地へと攻め込んでくるんだからな。


「リムルードの町から全ての住民を避難させれば、その進軍ルートは変わるんでしょうか?」

「そうなる、と……次に近いこの丘陵州のエミナスの村か、同距離にある中央州のレセプトの町かと。さっきも言った通り、多少のズレがあるので、どちらに向かうかは断言できないのですが」

「なるほど……。では出現したフレイズを東西同盟の方々で撃退してくれるとのことですが、それに対する見返りはなんでしょうか?」

「特にありません。もはやそのような段階の話ではないのです。何もしなければ、他の国もすべて古代文明崩壊の再現となるでしょう。ユーロンの時は間に合いませんでしたが、今回は事前に出現が予測されています。なんとか被害を最小限で食い止めたいのです」


 オードリー総督の視線を真っ正面で受け止めて、しっかりと言葉を紡ぐ。こちらに領土侵略などの意思はない。そこは信じてもらうしかないが、もはやロードメアには残された選択はあまりないということをわかってほしい。

 フレイズが暴れまわって、この国が滅びてもかまわないなら最初から放っておく。所詮は他国のことだからな。だけど、ここで生きる人たちにも選択する権利はある。

 ロードメアがどうしても動かないなら、こっちでフレイズ来襲の情報をロードメアの国民にバラ撒く。逃げるか留まるかは自分自身に決めてもらおう。パニックが起こるかもしれないが、それも覚悟の上だ。

 上の身勝手で生きるチャンスを握り潰されては、死ぬに死ねまい。


「……わかりました。我が丘陵州は独自に避難を敢行いたします。また、東西同盟の立ち入りも全面的に許可します。全州総督の許可はまだですが、反対されたとしても、これは丘陵州の決定です。文句は言わせません」

「総督……よろしいのですか? それでは全州総督の決断次第では、その命に背くことになるかも……」


 心配そうに背後のリミットさんがオードリー総督に話しかける。代表である全州総督の考えを聞かずに行動し、一州で他国の侵入を許そうというのだ。反逆者と判断されてもおかしくはない。


「町や村の住民を一気に避難させるには時間がありません。すぐさま行動を起こさなければ。全州総督の決断を待ってはいられません。責任は全て私が取ります」

「あ、いや。許可さえいただければ避難はなんとかなると思うんですよ。僕の転移魔法でこう……」


 そこまで話して、ふと、思いついたことがあった。最初は「ゲート」を開き、村人や町人に安全な場所で一日二日過ごしてもらおう、くらいの考えだった。だけど……。


「待てよ……町ごと転移できるかな……」

「「「は!?」」」


 ベルファスト、レグルス、ロードメア丘陵州、それぞれのトップが奇妙な声を上げた。

 そこまで広範囲の転移はやってみたことはない。ブリュンヒルドの城を建てる時、もともとの城であったリプル城を転移させたのが最大か。

 町を転移、というよりは、高低差をそのままに地形ごと転移させるので、転移先の地面を真っ平らにしておかないとまずいけど。

 なんというか……大きなお盆の上にたくさんの味噌汁のお椀を乗せて、それを畳の上に置くのは問題ないけど、階段みたいな段差のあるところに置くとお盆ごとひっくり返ってしまう……みたいな?

 さすがに人ごと転移させて何かあったらマズいしな。とりあえず避難はしてもらおう。そのあとできるなら町も転移させるが、あまり期待はしないでもらいたい。

 もちろん住人が全員避難すればフレイズの進軍ルートも変わるだろうから、町が無傷で残る可能性は高い。

 とにかく無人地帯にすることが大事なのだ。頑固者が一人でも町に残ると、その者の命が危ないだけでなく、その町自体が被害を受ける。そこをよく町の人たちに説明してもらいたい。


「場合によっては強制連行も仕方ありません。戦闘はどれだけの規模になりそうですか?」

「ユーロンの時よりは小規模……としか。まあもっともあれは出現がわからなかった上に、全くユーロン側の協力が得られなかったので、あれだけの惨事になってしまったとも言えますが」


 言い訳をしたってしょうがないが。今度は事前に戦う準備ができる期間がある。やれることはやっておかなければ。

 とりあえずオードリー総督には町の人たちを避難させる準備をしてもらうことにする。直前に僕が転移させてもいいんだが、なにか手違いがあった場合を考えると、その方がいいんだろう。最終的には残った人がいないか検索魔法でチェックするが。

 あとは新型機の製作だが、おそらくエルゼの新機体とエンデの竜騎士改修だけでいっぱいいっぱいだろうなあ。

 今回もマンタ型のような飛行フレイズが出現するとしたら、また僕が落とすしかないのか。あれ? ってことは今回も僕はフレームギアで戦えない?

 くう。飛行型のフレームギアってのも考えないとダメかもなあ。

 追加装備で飛べるようになるとか……。あらゆる状況に対処できるやつ……換装型か。

 今回は間に合わないかもしれないが、ロゼッタに相談してみるか。










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あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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