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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第23章 新たなる脅威。
201/637

#201 ロードメア、そして模擬戦。




 エンデから聞いた情報をギルドマスターであるレリシャさんに伝えたところ、彼女はすぐさま動いてくれた。

 ロードメア連邦担当のギルドマスターと連絡を取り、なんとかロードメア全州総督、フォルク・ラジールに面会ができないかと働きかけてくれたのだ。

 小国とはいえ国王からの申し入れと、同盟国として並ぶ各国の名前が効いたのか、全州総督がすぐに会ってくれることになったのは正直助かった。

 その連絡をギルドから受けると、すぐさま僕は、事情を聞いたベルファスト国王とレグルス皇帝と共に、「東西同盟」の代表として、護衛の人たち共々ロードメアへと乗り込んだのだが……。


「避難しないってどういうことです!? ユーロンの時のようなことがまた起こるかもしれないんですよ!?」

「いえ、避難しないというわけではなく。状況を正しく判断して、それから国として発表したいと考えているわけでして」


 応接室の椅子に座る僕の正面には、一人の男が同じように座っていた。

 癖がかかった栗毛の髪に、垂れ目がちな目、体格はがっしりしていて、もみあげから顎まで髭を伸ばしている。

 高そうな意匠が施された上着にこれまた高そうなズボンと靴。

 この男がフォルク・ラジール。ここ中央州の州総督であり、全州総督と呼ばれるこの国のリーダーである。

 七つの州の総督から選出されたこの男は、なかなかの自信家なのか、フレイズの来襲を聞いても特に驚くこともなく泰然としていた。


「そもそもその情報はどこから入手したのですかな?」

「詳しくは言えませんが、協力者がいまして。その者から……」

「協力者、ですか。その者は信用できるのですか? 失礼ながらそれをそのまま鵜呑みにするにはいささか問題があるのでは?」


 確かにエンデは正体不明な奴だ。しかし、あいつは実際にフレイズと敵対してる。敵の敵は味方、なんて単純な図式ではないのだろうけど、「いまのところ」敵ではない……ハズだ。


「正直、他の州総督たちの中でも意見が分かれています。直ちに避難するべきだという者、そんな必要はないという者、我らの手で討伐すべしという者……様々でしてな。すぐに決断することはできません」


 なにを悠長な。そんなことをしてる間にさっさと避難すればいいものを。国民の命がかかってるんだぞ。僕が内心イラついていると、レグルス皇帝が口を挟んできた。


「全州総督は今、討伐する、と仰ったが、フレイズの力を知った上でのお言葉か?」

「我が国にもフレイズという水晶の魔物は現れております。さらにあなたたちのユーロンでの戦いの情報から、ある程度の対策は考えていますよ。対抗する方法がないわけではないのです」


 そういやロードメアにもフレイズが出現したって噂を聞いたな。その時から対抗手段を考えていたのか? しかし、フレイズに対抗する方法……? どうする気だ?


「そうですな。実際に見てもらいましょう。その方が早い」


 薄い笑いを浮かべながら、総督は僕らを王宮の外へと連れて行った。ロードメアの建築様式は、バロック様式を取り入れたロシアのサンクトペテルブルクのそれに近い。ピョートル1世がヨーロッパ文化を持ち込んだように、ロードメアも他文化を取り入れた独自の発展を遂げているようだ。

 全州総督とロードメアの警備兵に先導されて、その王宮の裏手に広がる広場に僕らは案内された。そしてそこに立っていたモノ。それを見て僕は言葉を失う。そこにあったのは見覚えのあるモノだったからだ。


「ウッドゴーレム……」


 フレームギアの倍はありそうな大きさの、樹木のゴーレムがそこに存在していた。普通のゴーレムにしては大き過ぎる。これはあの大樹海でリベット族が操っていたヤツと同じ改良種だ。

 違うのはその外装に鎧のような分厚い装甲板がいたるところに取り付けられていることだろうか。まるで鎧武者だ。


「なぜこんなところにウッドゴーレムが!? 危険ではないか!」

「ご安心を。あのゴーレムは完全に支配されております。我々の命令以外はききません。暴れるようなことはないですよ」


 皇帝陛下の護衛、騎士団長のガスパルさんが声を荒げるが、総督はなんでもないというように、ゴーレムの足をペチペチと叩く。

 ベルファスト国王陛下も武装ゴーレムを見上げ、眉を顰めている。


「しかしこの大きさは……。本来ウッドゴーレムは10メートルもないはずだ。どうしてこんな……」

「巨獣化してるんですよ。特殊な毒を用いて、品種改良したやつです。大樹海のリベット族が成功させた技術です」

「ほう。さすがは噂に名高いブリュンヒルド公王陛下だ。ご存知でしたか」


 国王陛下の疑問に答えた僕に、誰か後ろから声をかけてきた者がいた。

 振り向くと背の低い四十手前の小太り男が立っていた。白衣を着て、かけた眼鏡の位置を神経質そうに直している。

 頭髪がかなり寂しいことになっているが、脂ぎった顔には自信満々といったふてぶてしい笑顔が浮かんでいる。


「……総督、こちらは?」

「ああ、我がロードメアの若き天才魔工学士、エドガー・ボーマン博士です。このウッドゴーレムの生みの親ですよ」


 若き? どう見ても禿げ散らかしたオッサンだが……。


「失礼ですけどボーマン博士はおいくつで?」

「私ですか? 今年で24になりましたが、それが?」


 24!? サバよんでないか!? 老けてんなあ! えー……。

 隣を見ると僕と同じ感想を抱いたと思われる国王と皇帝、両陛下が目を丸くしていた。だよね!


「こいつのベースは確かにリベット族の改良したウッドゴーレムの種が元になっている。闇ルートで入手したその種に、僕の持つ知識を加えて、さらに改良を重ね、ついに完成した作品です。装甲板はミスリルを使い、特に火属性の魔力耐性を備えていましてね。成長過程で「隷属化の首輪」を融合させ、完全に命令に従うようにさせました。弱点である核は何重にも強固な殻で覆い、もちろん再生能力も備えていますよ。おまけに低コストで量産することもでき、すでに数十体の武装ゴーレムが完成しています。たとえフレイズといえど、僕のこのゴーレム軍団にはひとたまりもないでしょう。なにか質問はありますか?」


 ペラペラとボーマンとかいう魔工博士が自慢気にゴーレムを語る。よく喋るなあ……。なんでこの人種って、知ってることを説明するとき、こんなにも早口でまくし立てるんだろうか。

 しかし、やはりリベット族が使っていたやつか。どういったルートで流れたのか知らないが、厄介なものを残してくれたものだ。

 変に力を持ってしまうと、馬鹿な行動に出てしまう可能性が高くなる。僕らに負けたコレが、いくら改良しようと、フレイズを相手に立ち回れるとはとても思えない。

 下級種までならなんとか相手になるかもしれない。だけど、中級種だと厳しいだろう。マンタ型なんかが放つ、レーザーのようなものはこいつではかわせまい。


「魔工学博士ってことは、専門は魔道具アーティファクト研究で?」

「いかにも。古代パルテノの遺産を研究しております。今はデボラ・エルクスの残した魔学書を研究中です。今回のゴーレム制作にもその成果が活かされてますよ」

「デボラ・エルクスって……」


 竜王騒動の時の「支配の響針」を作った古代文明時代の魔法工芸師マイスターか。バビロン博士にはボロクソに言われていたが。このボーマン青年はそのエルクス博士が残した魔学書を元にこいつを作ったらしい。


「公王陛下の所有する巨人兵もデボラ・エルクスの作品じゃないかと僕は睨んでいるんですよ。あのような作品は彼女のような天才でなければ作れないと……」

「あ、それは違います。フレームギアはレジーナ・バビロンって博士の作品ですよ」

「バビロン博士……? 聞いたことが無いが……いずれの書物に記載されている人物です?」

「あー……。ま、それは秘密ということで」


 うやむやに誤魔化す僕に、ボーマンは不満そうな眼差しを向けてくる。どうやらよほどデボラ・エルクスに心酔しているようだ。


「しかし総督。はたしてこの武装ゴーレムでフレイズの襲来を防げますかな。我々はユーロンでフレイズとの戦いをこの目で見た。あまり過信しすぎるのはいかがなものかと」


 皇帝陛下の言葉に全州総督の眉がぴくりと上がる。しかしその言葉に強く反応したのは総督ではなく、ボーマンの方だった。


「聞き捨てなりませんな。皇帝陛下は我が技術の粋を集めたこの武装ゴーレムが、フレイズに及ばないとでも? 失礼ながら、ブリュンヒルドの巨人兵より、こいつの方が優れていることをお分かりにならないとは……」

「貴様ッ……!」


 どこか馬鹿にしたような言葉に、皇帝護衛のガスパルさんが思わず剣の柄に手をかける。それをやんわりと皇帝陛下が押し留め、間に全州総督が割って入った。


「ボーマン君、口を慎み給え。失礼だぞ。申し訳ありません、皇帝陛下。しかし彼の言うこともわからないでもありません。このゴーレムになにか不安な点でも?」


 言葉は丁寧だが、総督の目はどこか挑戦的な色がうかがえる。そういえばレグルスとロードメアの仲が悪いのは、ロードメアの成り立ちがレグルスからの独立によるものであることが理由のひとつとか聞いたな。だけどそれも200年近くも前の話らしいけど。未だになにか確執みたいなものがあるんだろうか。


「不安な点と言うか、な。命を預けるわけでもない操り人形で、果たして国民を守る戦いができるのかと疑問に思ったまでよ」

「ほほう。では人が操るブリュンヒルドの巨人兵はこの武装ゴーレムを上回ると?」


 あれ? なんか皇帝陛下も挑発的だな。まあ、わからないでもないけど。

 このボーマンとかいう博士はどうやら自分の武装ゴーレムに絶対の自信を持っているようだ。さっきから皇帝陛下に苛立った眼差しを向けている。一国の君主に対してのその態度、こいつは馬鹿か。

 逆にその馬鹿をガスパルさんが睨みつけている。そりゃ臣下としてはその態度は許せないわな。無言でレグルスの護衛兵とロードメアの警備兵が睨み合っている。なんかヤバげな雰囲気だな。このゴーレム馬鹿が空気を読まないからこんなことに。

 この国で天才天才とおだて上げられて天狗になっちゃったのかね。

 正直、このゴーレムって、リベット族の種とか「隷属化の首輪」とか、言ってみたら寄せ集めな気がする。それを自分の作品って言い切っちゃうところがアレなんですけれども。


「冬夜殿。ここはひとつ、フレームギアの力を見せつけた方が良いのではないか?」

「……面倒なことになりませんかね?」


 こそっと僕につぶやいてきた隣のベルファスト国王に、正面で静かに睨み合うロードメア、レグルス両陣営を見ながら、そう返す。


「面倒なことなら、もうなっとる。ならいっそ、フレイズに対する認識の甘さを正した方がよかろう?」


 一理あるような、ないような。確かに「我々にはこのゴーレムがある。手助け無用」とか言い出して、きちんとした避難もせずに被害を出されてもな。

 あんなゴーレムでは役に立たないってことを知ってもらうか。


「ゲート」


 空中に転移陣が開き、その中から灰色のフレームギア、重騎士シュバリエが落ちてくる。

 ズシンッ! と大地を響かせて、広場に重騎士が着地した。

 突然の巨人兵出現に、ロードメアの面々が目を見張る。


「これが量産型フレームギア、重騎士シュバリエです。性能の上では我が国のフレームギアの中で一番低く、操作しやすいことだけが特徴の機体ですね」

「これが……」


 ロードメアのみんなが重騎士を見上げる。大きさでいうと武装ゴーレムの方がはるかに大きい。ゴーレムの一撃で吹っ飛びそうな印象がある。同じように感じたのか、ボーマンの口の端が釣り上がったのが僕にもわかった。笑ったな?


「この重騎士とそちらのゴーレムで模擬戦をしましょう。そのゴーレムがフレイズに対してどれだけの性能を持っているか、我々も知りたいですし。総督、構いませんか?」

「ほほう。いや、こちらは構いませんが。ボーマン君、どうかね?」

「面白い。こちらもフレームギアとやらが、どれだけの力を持っているのか気になりますからね。では用意してきましょう」


 眼鏡をくいくい直しながら、ボーマンが自信満々の笑みを浮かべて、警備兵になにかを伝え、ゴーレムの方へ歩いて行った。

 模擬戦は10分後ということに決まり、総督は僕らから離れ、ボーマンと何やら話している。


「さて、こっちも用意しないとな。ニコラさん、行ける?」

「はい。問題ありません」


 護衛に付いてきたウチの副団長、ニコラさんなら負けることはないだろ。そう思っていたら、意外なところから声が発せられた。


「公王陛下。その役目、我輩に任せてもらえませぬか?」

「ガスパルさん?」


 黒い鎧をまとった、泣く子も黙る隻眼の帝国騎士団長が、僕の前に進み出てきた。


「あのような木偶の坊に決して遅れはとりませぬ。帝国の誇りにかけて必ず勝利を手に入れてみせます」


 見ると他の帝国騎士も真剣な目でこちらを見つめていた。ボーマンのさっきの態度がよっぽど腹に据えかねたんだろうな。

 ちら、と皇帝陛下を見ると、大きく頷いていた。まあ、ガスパルさんのレベルなら充分勝てるだろうけど。別にこの戦いはブリュンヒルドの戦いってわけじゃない。東西同盟としては、ガスパルさんが出ても何の問題もない。


「わかりました。では頼みます。装備は槍で?」

「はい。それでお願いします」


 「ゲート」を開き、「格納庫」からフレームギア用の槍を転移させる。

 一応、ガスパルさんにはウッドゴーレムの核の位置やその特性を伝えておく。改良されているかもしれないので、あくまで気に留めておいてもらえればいい。

 さて、始めるか。重騎士に乗り込むガスパルさんを見て、薄ら笑いを浮かべているボーマンが見える。

 さて、いつまでその笑いが続くかな?









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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
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