表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第23章 新たなる脅威。
199/637

#199 新機体、そして来襲予言。





「こいつでどういったことができる?」

「そうでありまスな……。まず、エーテルリキッドを不要にできるでありまスな。あ、いや、要らなくなるというわけではなく、交換する必要が無くなるという意味でありまス」


 「工房」の机に、「蔵」で手に入れた設計図を広げながらロゼッタが説明する。エーテルリキッドの役割は搭乗者の魔力を増幅し、機体の隅々まで行き渡らせることだ。今までは魔力に満ちたリキッドを消費して動かしていたのだが、新型の中核には光や大気から魔力を取り込み、増幅する装置が取り付けられるらしい。乾電池が太陽電池になったようなものなんだろうか。

 しかもその装置の素材に使われているのはフレイズの欠片である晶材だ。やっぱりというか博士もフレイズの特性に気付いていて、それを応用する方法を思いついていたんだな。


「新型はメインシステムとなる中枢のコア、それと骨組みになる数種のボーンフレームに、それぞれ特性のついたパーツを組み立てて作り上げていくコンセプトになっているでありまスよ。つまりはこれと言って決められた形がない、ということでありまス」

「自由に作れる……いや、逆に言えば、どんな機体にするか決めないと、作りようがないってわけか?」

「その通りで。適当に作れと言われたら作れるでありまスが、使えない駄作ができるだけでありまスよ」


 そんなもったいない無駄使いはできない。そうだな……まずはわかりやすいのを作りたいところだが……。


「機動性、出力、装甲、魔力変換率、精密性、装備、いろんなバランスを取らないといけないでありまスが、当然のごとく、装甲を厚くすれば機動性が失われ、出力を上げれば魔力変換率が悪くなったりするでありまス。マスターのようなバカみたいな……いや、えー、すごい魔力量があれば、いろんな補助魔法を起動して、なんとでもなるでありまスが」


 バカみたいで悪かったな。しかし、どうするかな。僕のはどうとでもなるみたいだが、みんなのはやっぱりその特性を活かした機体の方がいいよな。例えばエルゼの機体はパワーとスピード重視とか。

 新機体は完全に個人に合わせて作るので、他の人間が操縦しても使いこなせない。それどころか、魔力を同調させて反応を高めているので、他人では動かすのもひと苦労なんだそうだ。


「とりあえずは「蔵」にあったミニロボを回収して、手伝わせるでありまスよ。小生とモニカだけではとても手が回らないでありまス」


 ごもっとも。僕は「工房」内をとてちてた〜と走り回っている二頭身のお手伝いロボを見た。こいつらは意外と器用で、覚えさせると大半のことはそつなくこなす。自分で考えて新しい行動をすることができないのが難だが、助手としてはかなり重宝する。

 あとは新機体を作るのに「工房」はフル稼働してしまうので、しばらくは重騎士なんかの量産は中止だ。ある程度の量産は済んでいるので問題はない。


「そうだな……。やっぱりまずはエルゼの機体から作ってみよう。パワーとスピードを重視して、腕部と脚部の装甲を頑丈に。魔力変換率はそれほど気にしなくていい。あとは作ってから調整かな」

「わかったでありまス」


 なんでエルゼのからって言うと、戦い方がわかりやすいからだ。とにかく殴って蹴って、相手を破壊する。そのバトルスタイルなら余計なバランスも要らないかと。一点特化型というか。

 開発の方は「工房」のロゼッタに任せて「蔵」の方へと向かう。


「およ? マスター、お疲れっス」


 「蔵」に入るとパルシェがモノリスに向かいながら出迎えてくれた。その姿は足袋に草履、白衣びゃくえに緋袴という、典型的な巫女装束だった。確か巫女さんがポニーテールってダメなんじゃなかったか?


挿絵(By みてみん)


 まあ、向こうの決まりをこっちでごちゃごちゃ言うのもナンセンスだから構わないけど。

 ザナックさんに渡した資料に巫女装束なんてあったかな……。もう何を渡したか覚えてないんだけど、そのチョイスはどうなのか。ドジ巫女ってのはなあ……。神様もさぞ迷惑じゃないかと。


「「蔵」にあるものの一覧表を作っておいたっス。全部で1093点っスね」

「けっこう多いな」


 渡された一覧表をペラペラとめくり、確認する。ある程度わかるのもあれば、全くわからない物もある。……この博士の「決戦用下着」とか「危な過ぎる水着」とか「ビキニアーマー」なんかは封印でいいんじゃないか?

 ん? 「豊胸剤」? これってそう言う……。戦争が起きるな……。


「パルシェ、このリスト及び、「蔵」に収めされているアイテムは、僕の許可無しに誰かに漏らしたり、渡したりは厳禁とする。いいな」

「? 了解っス」


 大きくても小さくてもそれは個性である。どっちが上とか下とかは関係ない。ご飯が美味いからパンが不味いというわけではないのだ。ご飯もパンも美味いのだ!

 まあ、中には大のご飯好き、パン好きがいるのは確かなのだが。僕はどっちもアリだと思う。

閑話休題。 

 

「そういや、ここにエーテルリキッドも備蓄されているんだっけな。それ「工房」のロゼッタと「格納庫」のモニカの方へ渡しといてくれ」

「了解っス」


 パルシェがモノリスを操作すると、床から立方体が9個せり上がってきた。中身を確認すると、相変わらずメロンソーダと間違えそうな液体が、500mlのペットボトルのような容器に入って、ぎっしりと詰まっていた。

 それを九体のミニロボたちが頭に乗せて、とてとてと「蔵」を出て行く。


「パルシェ、このリストにある斜線が入ったのって……」

「はあ、落っことした数点っス」


 肩を落としてパルシェがつぶやく。「吸魔の腕輪」とか「防壁の腕輪」とかはあるが、「不死の宝玉」はないな。

 ……ひょっとしてこの「亡者の瞳」ってのがそれか? 名称が違うのは拾った奴が勝手につけたからか。

 そういやあの腕輪には内側になんか文字が刻まれてた気がする。あれって品名だったのかもしれない。


「ってことはこの「治癒の剣」ってのが聖剣レスティアか。リプルは「生命の額縁」かな」


 それを除いても数点行方不明のものがある。まあ今更探すのも面倒だ。誰かの所有物になってたら、かなりの値打ちものだろうし、返せと言って返してもらえるものでもないだろうし。

 だいたい見つけようもないしな。名称だけわかっても、僕の検索魔法は見たこともない物、一目で判断できない物は検索できない。あいにくとリストには写真なんて添付されてないしな。


《主》

《ん? 琥珀か。どうした?》


 突然、城にいる琥珀から念話が入ってきた。なにかあったのか?


《城の西平原に赤いフレームギアが立っているとの報告が》

《赤いフレームギア?》


 って、あ、エンデの竜騎士ドラグーンか? なんだってこんなところに?

 場所をマップで確認して、「ゲート」で転移すると、平原の真っ只中に竜騎士がポツンと立っていて、その肩の上でエンデが寝転がっていた。


「エンデ!」

「あ、冬夜。久しぶりー。ここで待ってればそっちから来てくれると思ったよ」


 竜騎士ドラグーンの肩から長いマフラーをなびかせて、エンデが地上に降り立つ。相変わらず身の軽い奴だな。


「いったい何でこんなところに?」

「いや、竜騎士こいつがね、急に動かなくなったからさ。冬夜なら直せるかと思って」


 動かなく? ……ああ、エーテルリキッドが切れたのか。ずいぶんともったもんだな。普通なら動かさなくてもひと月で稼働しなくなるのに。エーテルリキッドは炭酸が抜けるように、だんだんとその効果が薄れていくはずなんだ。

 ひょっとしたらエンデの持つ、あの不思議なプレパラートに収納してたのか? あれが僕の「ストレージ」と同じような効果があるとすれば、収納したものは時間が止まるのかもしれない。


「うーん、この際だからエーテルリキッドが要らないように改装するか。いちいち来られても面倒だし……」

「そうしてもらえるとありがたいね」

「三日くらいかかるけどいいか?」

「構わないよ。その間、僕はこの国を見て回るから」

 

 あんまりウロチョロされても困るんだけどな。一応フレイズを退治してもらってるみたいだし、協力者としては頼りにはなるんだけど。ダンジョンとかに入られて最深部まで制覇されてしまったら困る。営業妨害もいいところだ。


「三日で直るならありがたいね。さすがに生身で上級種と戦うのは面倒だからさあ」

「………………なに?」


 今なんて言った? 上級種? フレイズの上級種が出現するのか?


「おい……上級種って……」

「たまたま空間の歪みを見つけてね。あの様子だと一週間から十日後ってところかな。この前よりは少ない出現数だと思うけど」


 いやいやいや! 多いとか少ないとか、問題はそこじゃない! 上級種が現れるってとこだろ! 街ひとつ吹っ飛ばす怪物だぞ!?


「ちょ、ちょっと待て! どこに歪みが見えたって!?」

「え? えーっと、ここから東の……あ、地図ある?」


 急いでマップを空中に投影させると、エンデはある一点を指差した。


「ここだね。少しはズレるかもしれないけど、確実に出現すると思う。知り合いがいるなら早いうちに逃がした方がいいと思うよ」


 エンデが指差した場所。幸い、というかそこに僕の知り合いはいない。


「ロードメア連邦か……」


挿絵(By みてみん)


 レグルス帝国の東、七つの州が集まった連合国家。その中央州から少し外れた場所をエンデは差していた。

 まずいな……首都から離れているとはいえ、現れた上級種がこないだのワニみたいなのだったら。あの荷電粒子砲もどきをぶっ放されたらひとたまりもないぞ……。

 実にまずい。これは確実に被害が出る。なんとか近くの住民を避難させて、被害を少なくした上で倒したいところだが、なにぶん他国の領地だ。

 警告をしてもきちんと受け取ってもらえるかどうか。信じてもらえない可能性の方が高いか。ユーロンの例があるから、まったく信じてもらえないってのはないと思いたいが。


「……確実に出現するんだな?」

「確実に出現するね」


 断言された。くそ、こいつの言うことはいちいち当たるからなあ。

 とりあえずロードメアの国王、いや、あの国では全州総督って言うんだっけか? に、話を聞いてもらうしかないか。

 レグルス皇帝の方から話を回してもらえば……って、あ、そういえばロードメアとレグルスってあんまり仲が良くないんだっけか?

 となると……顔が広いレスティアの先々王か、ギルドマスターのレリシャさんあたりに頼むしかないか。

 話すならまず、レリシャさんか。ロードメアにも冒険者ギルドがある。ユーロンの時のような壊滅的な被害を食う前に避難できるかもしれない。

 そこを通して冒険者たちにも情報を流せば、いくらかは避難してくれるかもしれないしな。

 そうとなれば急いだ方がいい。竜騎士を「ゲート」で「工房」へと送り、僕はレリシャさんのいるギルドへと向かった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ