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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
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#197 八嫁、そして雪ネズミ。



「この前から二人の間になにか変化があったのは気付いてました」


 テーブルに腰掛けたユミナがそう切り出した。リーンも他のみんなと同じくテーブルについている。が、僕だけ床に正座させられていた。酷いって? ハハハ、もう慣れましたよ。いったい何回目の正座だと?


「リーンさんも冬夜さんを好きなんですね?」

「ええ。貴女たちほど情熱的に、とはいかないけれど、私は私なりに彼を気に入っているし、添い遂げたいとも思っているわ」

「それは……」

「もちろん、彼の地位とかバビロンの遺産が目当てなんじゃないわよ? それも魅力的なのは確かだけれど、私が好きになったのは彼という一個人。そこに嘘はないわ」


 ユミナの言葉を遮って、リーンがそう言葉を繋ぐ。その目は真っ直ぐにユミナの眼差しを受け止めていた。

 やがてユミナの目が柔らかなものになり、微笑みが浮かぶ。


「わかりました。私はリーンさんが冬夜さんのお嫁さんになることに賛同します。皆さんはどうですか?」


 ユミナが周りのみんなを見渡す。真っ先に手を上げたのは八重だった。


「拙者も構わないでござるよ」

「わっ、私も問題、ありません」

「あたしも構わないと思うけど」


 八重に続いて、双子の姉妹が小さく手を上げた。それを見て慌てたように残りの二人も手を上げる。


わたくしも異存はありませんわ」

「わ、私も同じく」


 ルーとヒルダはリーンとはあまり接点がない。それでも何回かは話したり一緒に行動したりはしてるので、その人柄はわかっていると思う。

 付き合いから言うと、リーンの方が彼女たちより長いわけだけど。まさかこんな展開になるとは思わなかったが。


「この場にスゥはいませんが、おそらく反対することはないと思います。リーンさん、これからもよろしくお願いしますね」

「ええ。よろしく」


 二人とも和やかに握手を交わし、微笑み合う。なんかもうホントに僕が口を挟む余地がないな。いや、別に反対する理由はないんですけれどもね。リーンは可愛いし、頼りになるし、精神的には大人だしね。

 みんなのまとめ役がユミナだとしたら、サブリーダーとして活躍してくれると思う。

 しかし……とうとう八人目か。リーチかかっちゃったよ、オイ。っていうか、あのアホ博士が余計なこと言わなかったら、こんなことにはならなかったんじゃないのか。

 どうもユミナたちはさっさと九人の婚約者を決めたがっているような……。変な女に捕まる前に、ということだろうか。パムを受け入れなかったところを察するに、むやみやたらに決めているわけではないようだけど。


「さて、これでリーンさんは私たちと同じ、冬夜さんの婚約者フィアンセです。仲間です。同志です」

「え? あ、そ、そうね」

「で……今の今まで二人きりでどちらへ?」

「ふえ?」


 リーンから間の抜けた声が発せられる。いつの間にか他の五人にも囲まれて、にこにこと無言のプレッシャーを放たれていた。


「ち、ちょっと待って。貴女たち、なにか勘違いしていない?」

「このような深夜まで二人きり……その他にどのような理由があるでござる?」


 詰め寄る八重に、僕もいたよー、と必死にポーラがアピールするが、リーンを囲んでいるみんなには全く見えていなかった。さらに双子がリーンへとずずいっと迫っていく。


「ひ、ひょっとして……」

「し、しちゃったんですかっ!?」

「「はあっ!?」」


 リーンと僕の声がユニゾンで響く。しちゃったって……アレだよな。言った方も言われた方も顔を真っ赤にしているし。


「なっ、なっ、なにを、なにを言ってるのよ! そっ、そんなわけないじゃないの!」


 茹でダコみたいになったリーンが慌てて否定する。お、や? ずいぶんと初心うぶな反応だな……。600年以上生きている割には、見た目通りの年齢の反応というか。

 逆にその反応を見たら、こっちが冷静になってしまった。

 そこで、テンパって言葉が出てこないリーンに代わり、僕が今夜の出来事をみんなに説明する。


「事情はわかりました。が、こんなに遅くなるなら連絡のひとつもよこすべきでは?」

「う、すいません……」

「琥珀ちゃんたちを通せば連絡をよこせたのでは?」

「あ」


 そういやそうだ。ドタバタしていて気がつかなかった。確かにこんな時間までに連絡のひとつも入れず、帰って来なかったらいろんな意味で心配もするか。

 自分的にはなんの心配もないと思っていたんだけど、ちょっと調子に乗ってしまったな。

 大切な人たちに迷惑や心配をかけるのは本意ではない。以後気をつけよう。


「放っておくと何をするかわからないからね、あんたは」

「で、ござるなあ。いつだったか魔法の実験とか言って……」

「空き家一軒、燃やしちゃったんですよね……」


 エルゼと八重、そしてリンゼに溜め息をつかれる。そういう心配!? あれは火球ファイアボールを誘導弾みたいにコントロールできないかと思っただけなんだけど。失敗しましたが。

 酒を飲んで酔っ払って帰ってきた旦那が、奥さんに怒られるってのはこんな感じなんだろうか。……ってアレ? もう完全に尻に敷かれてる!?

 別に「黙って俺についてこい」的な亭主関白になる気はないんですけどね。ユミナたちが怒る時って僕のことを思っての時が多いから反論もできないし。婚約者同士も仲が良くて、喧嘩のひとつもないし、これで文句を言ったら罰が当たるよな。


「とにかく、これからは遅くなるなら連絡を入れること。できる限りでいいですから。わかりましたね?」

「了解っス……」


 それからお説教を一人一人受け、解放されてベッドに沈んだのは明け方近くだった。いろんな約束をされたが、自業自得なので仕方ない。

 なんだろうなあ……一人一人だと可愛いし、優しいし、一緒にいて心安らぐんだが、みんな揃うと勝てる気がしない。完全に主導権が握られる。でもこれも受け入れていかないとなぁ。

 ああ、もう眠い。ぐう。





 目覚めると、まず、昨日のことを高坂さんに報告しに行った。さっそくベルファストの法律に基づいて、ある程度の草案を考えてくれるそうだ。この世界は江戸時代並みに、死刑の次に軽い刑が追放という刑罰で、江戸時代だと島流しに当たる。

 他国では鉱山などで強制労働の刑罰があるそうだが、あいにくとウチには鉱山なんてもんはない。

 死刑制度を廃止すると、いろいろと不都合が出てくるのは確かなようだ。国外へ追放して他国で迷惑かけても問題だろうしな。死刑にしてしまった方が後腐れがない、ということなんだろうか。

 そう言った意味では「隷属化の首輪」ってのは罪人を罰するには適した魔道具アーティファクトなのかもしれないな。きちんと重罪人にだけ取り付けられるようになっていれば、だが。改造できないもんかな。

 とりあえずベルファストの刑罰に合わせるなら、奴隷商人のジャベールは死刑になりそうだな。今までの所業を鑑みるに当然とも言えるが。

 問題は他の船員と奴隷たちはどうするかだなあ。奴隷たちの本質をユミナの魔眼で見てもらって、問題ないようなら首輪を外してもいいんだが。

 ともかく街へ出て、宿屋「銀月」へ向かう。昨日助けた冒険者たちが心配だったからね。変なトラウマとか抱えてなければいいけど。

 「銀月」へ着いて、捕まっていた冒険者たちと話をすると、幸い10人とも冒険者を続けるということで少し安心した。これからは注意深く、気をつけて探索して欲しい。急ぐことはない。ゆっくりと強くなればいいんだから。

 カードが再発行されると聞いて、みんなさっそくギルドへと向かっていった。一歩間違えてたら……と考えると申し訳ない気持ちになるな。

 朝食を取ってなかったので(昼近くまで寝ていたからだが)、ここで昼食を取ることにした。ロップたち四人もついでに誘う。

 はじめは遠慮していたが、僕がさっさと五人分のランチをミカさんに注文してしまうと、恐縮しながらも席についてくれた。


「へえ、君らの住んでいた村にもダンジョンがあったのか」

「ダンジョンってほどじゃないですけど。小さな洞窟って感じで。でも何かの遺跡だったのは確かです。子供のころから入り込んで冒険ごっこをして遊んでました」


 冒険ごっこって言っても、子供だけじゃ危険なんじゃ? 狼とかが住み着いているかもしれないのに。


「何回か狼とか大コウモリに遭遇したこともありましたけど、あたしら四人で退治したりしてました。だからちょっとは自信があったんですけど……。ここに来て、どれだけ自分たちが甘かったか思い知りました」


 悔しそうに剣士のフランがそう語る。彼女の言うとおり、狼とかとゴブリンやコボルトではだいぶ違う。道具を使った連携もしてくるだろうしな。でもロップとフランの二人で、腐ってもランク青の相手を対処していたってことは、それなりに有望株なんじゃないのかな、この子ら。


「まあ、無理はしないで出来る事からコツコツとね。失敗から学び、自分たちのできる範囲でやれることをやることだよ。あとうまい話には乗らないこと。うまい話にゃ裏がある、綺麗な花には棘がある、タダより高い物はない、ってね」


 四人は神妙に頷いていた。まあ、今回のことで懲りたと思うけど。なんで他の冒険者がいい狩場がある、なんて言ってきたのか考えるべきだったな。自分の儲けが減るのに、それを教える向こうのメリットは何か、とかね。あまり人を疑いすぎるのもなんだけどさ。


「あの、陛下。それでこの子のことなんですけど……」

「ん?」


 魔法使いのイオンが、僕が召喚した白いハツカネズミを手に乗せて差し出してきた。あ、忘れてた。

 うーん、まだこの子らは心配だからなあ。こいつについていてもらうか。確かこいつは「スノーラット」って言う魔獣で、集団だとなかなかの強さらしいんだが、ハツカネズミにしか見えない。

 ま、こっちの世界にハツカネズミがいるかもわからないんだけど。

 「危険察知」を持っているようだし、こいつがいれば不意打ちを受けることを防いだり、危機を察して逃げることもできるだろ。


「その子は君たちに預けるよ。けっこう頭がいいし、危険を察知することができるから、探索の役に立つと思う。それと僕との連絡役にもなるから、もし、なにかあったらそいつに頼むといい」


 僕の言葉にイオンは笑顔で頷いた。どうやらこいつを気に入ったらしい。ま、仲良くやってくれれば。あんまりホイホイ連絡をよこされても困るけど。

 食事を食べ終わると四人と別れた。雪ネズミはちゃっかりイオンの頭の上に乗っていて僕に手を振っていた。あいつ、本当にかなり頭がいいんじゃ……。

 そう言えば、さっきの会話でひとつ気になったことがある。話していた四人が子供のころに入って遊んでいたという洞窟。そこにあったという遺跡の様子が、どうもバビロンの遺跡に似ている気がするのだ。

 確か彼らの出身地はレグルスのピュトン村とかいったか。マップで確認するとそんなに遠くはない。まさかこんなに近くにあるとか……。探索に放った鳥たちが見逃したのだろうか。

 あ、ひょっとして鳥目だから洞窟の中まではわからなかった、とか? いや、でもあれって間違いなんだって聞いたけど。だいたいの鳥は夜目も人間並みにきくらしい。ただ、エサが見つからないから夜は行動しないってだけで。

 ってことはやっぱりただの見落としか。ま、なんにしろ行ってみればわかるかな。

 さっそく「フライ」で飛び立とうとしたが、その前に琥珀に念話を送り、みんなへの伝言を頼んでおく。昨日怒られたばかりだからなー。二日連続で説教は勘弁してもらいたいところだ。

 さて、行ってみるか。







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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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