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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
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#195 呪い、そして奴隷船。




 あれから僕たちは一旦ダンジョンを出て、僕だけ城の牢屋まで人攫いの三人を連れて一気に転移した。

 普通にこの冒険者たちを転移門まで連れて行くと、どうしても目立つ。奴隷商人の仲間がそれを見て、船ごと逃げられたら面倒だからな。

 レリシャさんにも連絡し、事の詳細を告げる。むろん、三人はギルドカード没収の上、登録抹消である。今後、偽名を使おうと二度と登録はできない。冒険者は廃業だ。

 冒険者ギルドからの罰はそこまでで、ここからは国としての処罰だ。

 何も知らない新人冒険者を罠にかけ、ことごとく攫った上に奴隷商人に売りつける。これはかなりの重罪である。ちなみにレグルスでの法に当てはめると、問答無用で死刑だった。

 しかし残念(?)なことに、ブリュンヒルドでは死刑制度がない。ないと言うよりか、作ってない。さて、どうしたものかと悩んでいると、最近「図書館」で読んだ古代魔法を思い出した。

 闇属性の魔法とは基本的に召喚魔法ではあるが、古代では他の魔法も闇属性にはあった。

 即ち、光属性・回復魔法の反対。生命を奪う死の魔法である。

 むろん、そんな簡単に相手を死にいたらしめることなどできない。莫大な魔力と技術、精神力が要求される。正直、僕ならできそうな気はするのだが、とても試しにやる気にはなれない。

 なにもこの人攫いの三人に死の魔法を使おうというのではない。その魔法から派生した別の魔法を使おうというのだ。

 「生命吸収」「病気発症」「恐怖付与」「精神錯乱」その系統の魔法。

 わかりやすく言えば「呪い」だ。いや、「呪い」っていうとおどろおどろしいが、もっと簡単に言えば「約束」である。

 「〜をしてはいけない。もしくは、〜をしなくてはならない」という約束事と、それを破った場合に下される罰。これが「呪い」の魔法。別名「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」の魔法。


「闇よ縛れ、の者の罪に罰を与えよ、ギルティカース」


 牢獄の中の三人に呪いを発動する。条件は単純で「人を傷付ける罪を犯すな」である。これを破ると小さな罪でも指が一本ずつ麻痺していく。やがて腕一本、足一本となり、さらに進めば、視覚、聴覚といった五感も失われ、最終的には心臓が麻痺してこの世とはおさらばだ。大きな罪を犯せば一発でおさらばだ。

 ちなみにこれは「エンチャント」と同じく付与系統の魔法なので、僕が死んだとしても影響はない。つまり呪いは解けない。

 付与された魔法の内容を三人に懇切丁寧に語る。「人を傷付ける」とは肉体的なことだけではない。罵詈雑言を浴びせ、他人の心を深く傷付けたとしても発動する。物を盗み、持ち主の心を傷付けても発動、女性に告白されたが断り、その女性の心を傷付けても発動、そのトリガーには容赦がない。

 死刑になるところを命だけは助かったのだから、それぐらいは背負ってもらう。せいぜい善人になるんだな。

 僕は他人を傷つけずに生きていくことなど無理だと思っている。人里離れた場所で、自給自足の生活でもすれば可能かもしれないが。だが、それだけで命が助かるんだ。ここがレグルスとか、他国じゃなくてよかったと思ってほしい。

 刑罰の内容を聞いた三人が真っ青になって腰を抜かす。三人の額には呪いの証である紋様が浮き出ていた。

 やがてその中のデブがガリガリノッポに「お前のせいでこんな目に!」となじり始めた。あーあ、こいつら説明聞いてなかったのか?


「うあ!? うあ!? お、親指の感覚が無い! 動かないぃぃ!?」


 デブが自分の指をつまみながら涙を流す。当たり前だ。お前の発言でガリガリノッポ君は深く傷付いた。その罰を受けたんだよ。

 呪いの効果はわかってもらえたようなので、そろそろ国外に追放してお別れしよう。そうだな……。ユーロンにでも行ってもらうか。あそこなら僕を悪く言う奴らが多いから、同情してもらえるかもしれないぞ、と。

 三人を「ゲート」でユーロンの適当な場所へ転移させる。よし、これにて一件落着。

 っと、まだだったか。今度は奴隷商人をなんとかしないと。





 日が暮れるのを待って、僕は再びダンジョン近くの森に向かっていた。申し訳ないけど、新人四人には今までこの森で待っててもらったのだ。捕まったはずの四人がうろついていると、どこで綻びが出るかわからないしな。

 一応リーンが付いていてくれたので、魔獣なんかに襲われることはなかったけれども。

 そこから奴隷船が停泊している島まで全員で「ゲート」で移動する。初めての転移に四人とも驚いていた。


「さて。じゃあ武器をよこしてくれ。捕まった相手が持ってたらおかしいからね」


 四人とも素直に武器を渡してくれたので、それを一旦「ストレージ」にしまい、代わりにロープと猿轡を取り出した。それで四人を縛り上げていく。もちろんすぐ解けるような縛り方でだ。

 それと召喚魔法で呼び出した小さなハツカネズミのような召喚獣を、ロップの懐へ忍ばせておく。これで船内の様子がある程度僕にもわかる。

 そして仕上げに「ミラージュ」を使いユーロンへ飛ばした三人のうちの一人、薄らハゲに姿を変える。……消去法でこいつしか体格的に誤魔化せないんだよ……。


「どう?」

「そっくりです……。さすが王様、すごいですね……」


 ロップが素直な感想をくれる。同じように「ミラージュ」で残りの二人の幻影を左右に映し出した。

 四人にはそれぞれ猿轡を噛ませて、その後ろに剣を持たせたデブとガリガリノッポの幻影を立たせる。これで脅されて連行されているように見えるだろう。


「リーンはどうする? 同じように捕まる?」

「遠慮しとくわ。私は船から逃げ出す奴がいないように見張っておくから」


 ポーラがしゅたっ、と手を上げる。よし、じゃあ奴隷船の場所へ向かうか。

 島の北側、切り立った岩壁のその下に、闇の中に隠れるようにしてその船は浮かんでいた。

 近くの浜に二隻のボートが繋いであり、そのそばで焚き火をしながら魚を焼いている四人の男たちがいた。四人のうち三人は奴隷だ。

 どれも屈強そうな男で、おそらく戦闘奴隷だろう。残りの一人はいかにも下っ端そうな出っ歯の男だった。どこか関西の芸人に似ている。夜の森の中にリーンとポーラを置いて、僕らはそいつらに近づいていった。


「おーう。今日もご苦労なことだな。一気に四人たあ、頑張ったねえ」


 出っ歯の男が僕らを見つけ、締まらない笑顔を向けながらへらへらと歩み寄ってくる。

 そのまま出っ歯は縄で縛られた四人を値踏みしながら、ぐるりと僕らの周りを一周する。


「男は金貨2枚、女は金貨5枚ってところか」

「それでいい。金をくれ」

「おろ? 今日は粘らねえんだな?」

「ちょっと急いでいる」


 というか、あまり話すとバレる。しかし金貨2枚に5枚か。だいたい20万から50万。それで他人の人生を買い取ってしまうのか、こいつらは。

 そのあとその数倍の値段で金持ちに売りつけるんだろう。僕は不快な笑い声を上げる出っ歯の男から金貨を受け取り、踵を返してその場から離れた。

 これ以上あの顔を見ていたら殴ってしまいそうだ。

 リーンの待つ森へ戻ると「ミラージュ」を解除し、元の姿に戻る。

 「ロングセンス」を使って視力を飛ばし、奴らを監視していると、魚を食べ終えた四人は二隻のボートにそれぞれ二人ずつ乗せて、沖へと漕ぎ出した。


「まずは潜入成功かな」

「あとはうまく他の捕まっている冒険者たちと接触できればいいんだけど。死んだとされているのは何人なの?」

「レリシャさんに確認したらやっぱり10人らしいよ。全員血だまりの中にギルドカードだけが見つかって死亡扱いになったらしい。えーっと、男が4人、女が6人だったかな」

「女の方が多いのね」

「単純に金になるのと、捕まえやすいからじゃないかな。全員、ランク黒のド素人だったし」


 他のギルドでもこう言ったルーキーいじめみたいなのはあると聞く。無理矢理パーティーに入れさせ、魔獣をおびき出す囮などに使い、さらに授業料だとぬかして新人の報酬から半分以上持ち去る。もちろん、やられたルーキーはそのギルドを去ったり、面倒をさけるためにソロで狩るようになる。ムカつく話だ。

 どこの世界でも初心者や新人を馬鹿にする輩はいるんだな。自分たちだって初めは新人だったくせに。

 とにかく10人全員が無事であればいいんだが。奴隷として売るんだから殺したりはしてないと思う。殺されてないから無事かっていうと、また違ったりもするわけだが。

 視覚をロップに持たせたハツカネズミに同調シンクロさせる。薄暗い船の甲板が見えた。無事に乗り込んだようだな。

 さらに聴覚も同調シンクロ。あたりの声が聞こえてくる。ちなみに同調させるのはここまでだ。一回味覚まで同調してひどい目にあったからな。虫の味なんて知りたくなかった。


「ジャベール様。今日は四人でした」

「ほほう? なかなかじゃないか。男も女も若いし、高値で売れそうだな」


 四人を引き連れた出っ歯が、甲板にいた小太りの男に揉み手で近づいていく。どうやらこいつが奴隷商人らしいな。

 羅紗の上着を着込み、絹の帯には金の装飾が施された短剣が差されていた。先がくるりと曲がった靴を履き、頭には不釣り合いのターバンのようなものを巻いている。インチキ太っちょシンドバッドといった姿だ。

 ジャベール、ね。十中八九、サンドラ王国の奴隷商人だな。それも違法の。

 奴隷を承認しているサンドラ王国でも、一応、拉致などで人間を攫ってきて奴隷にするのは禁止している。奴隷とは犯罪を犯した者、自らの意思で売買されることを望んだ者がなるものとなっているからだ。

 しかしそんなものは建前で、いくらでも奴隷に落とす方法はある。借金で追い込んだり、わざと犯罪を犯させ、その人間を奴隷に落とす。そして誰の目にも触れずに拉致してくるのもそのひとつだ。

 本人が嵌められたもわかっても、一度奴隷に落ちた者が何を言っても認められない。騙された、誘拐されたと騒いでも、奴隷から解放されることはないのだ。


「ほらこっちだ! グズグズするな!」


 出っ歯に繋がれたロープを引かれ、四人は船内へと連れて行かれる。

 船内の最下層、船底に狭い牢屋があって、そこへ四人とも入れられた。牢は左右に二つあり、男と女で分けられている。男が四人、女が六人。おそらく攫われた冒険者たちだろう。ロップたちも男女で分けられて、牢屋へと放り込まれた。

 出っ歯が船底から出て行くのを確認してから、ロップとクラウス、フランとイオンは、それぞれ同じ牢屋に入っているみんなの名前を聞いて回る。

 攫われた冒険者たちの名前を教えておいたので、全員無事なのかの確認だ。

 何人かは体力が落ちて元気がないが、とりあえず手荒い扱いは受けてないようだ。


「全員無事みたいだ。本当ならこのまま「ゲート」で転移してしまえば楽に片付くんだけどな」

「あの子たちにも経験を積ませてあげなさいな」

「経験って……船から脱出するだけだろ?」

「あら、敵に見つからず、周囲に気を配り、その都度状況を判断して行動する。大事な経験よ?」


 リーンがそう言って微笑む。まあ、そうかもしれないけど。

 船底のロップたちが脱出の準備を始める。あらかじめ四人にはそれぞれ二つのアイテムを渡しておいた。

 一つは刃渡り5センチほどの小さな折りたたみナイフ。もちろんただのナイフではない。晶材フレイズのかけらで作られている、なんでも切ることのできるナイフだ。これがあれば牢屋を脱出するのも容易い。

 そしてもう一つが長さが1メートルほどの巻尺。引き出して伸ばせば「エンチャント」された「パラライズ」の効果が発現する鞭として使える。

 この船には戦闘奴隷もいる。まともに戦ったらロップたちに勝ち目はないからな。それにその戦闘奴隷たちも無理矢理従わされているかもしれないし。

 さっそくロップたちはカギをナイフで切り落とし、音を立てないように静かに牢屋を抜け出した。


「じゃあそろそろ僕も動くとするか。その方があの子らも動きやすいだろうし」

「いってらっしゃい」


 ハツカネズミとの同調を切り、リーンに見送られて森から飛び立つ。奴隷船の上空に静止して、ブリュンヒルドを抜き、弾倉の弾を麻痺弾から弱い「エクスプロージョン」が込められた、爆烈弾(弱)に装填し直す。


「それじゃあ始めるか」


 僕は奴隷船のメインマストに狙いを定め、ブリュンヒルドの銃爪ひきがねを引いた。







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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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