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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
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#194 エセ冒険者、そして人身売買。




 地下二階のその場所に辿り着いたとき、短槍ショートスピアを持っていた少年が吹き飛ばされたところだった。すでに弓使いの少年と魔法使いの少女は傷付き倒れている。なんとか剣士の少女と槍の少年が二人を守っているといったところだ。


「おいおい、あんまり傷付けんなよ。大事な商品なんだからよ」

「わかってるっつーの。ったく、お前が麻痺毒忘れてきやがるから、こんな面倒なことしなきゃならねえんだぞ」

「いいから早くしろよ。魔獣なんか出て来たらさらに面倒なことにィィッ!?」


 見張りをしていたデブのおっさんの顔面を蹴り飛ばし、部屋の中へと吹っ飛ばす。ゴムまりのように勢い良く飛び込んだそいつは、仲間の前で派手にぶっ倒れた。


「なっ、なんだテメエは!?」

「それはこっちのセリフだよ。なんだお前らは?」


 デブにガリガリノッポに薄らハゲ。胡散くさい事この上ない奴らだな。

 僕に蹴られたデブが鼻血を拭きながら立ち上がった。む? けっこうタフだな。脂肪にダメージ吸収されたか。


「あら、どうやら間に合ったようね」


 リーンがポーラと一緒にやってくる。それを見た三人の顔が嫌らしく歪んだ。三人のうち、ガリガリノッポが僕とリーンの方へ剣を手にしたまま近づいてくる。他の二人も武器を手にこちらに向き直った。僕が短剣ブリュンヒルドしか持ってないと思ったんだろう。先ほどと違って余裕を見せながら、値踏みするような視線をリーンへと向けていた。


「ひひ、なかなかの上玉じゃねえか。こりゃツイてるな。おい、お前。命が惜しけりゃその娘を置いて行きな」

「……あ?」

「聞こえなかったのかよ。その娘を俺らに渡して出て行けって言ってんだよ! 殺されてえのか、ああ!?」


 僕は目を釣り上げているガリガリノッポに無言で近づくと、自分の足を振り下ろし、そいつの足の甲の骨をグシャッと踏み砕いた。


「ギャアアアアァァァァ────ッ!?」


 足を抑えてガリガリノッポがのたうち回る。涙と鼻水を流しながら、ゴロゴロと地面を転がっている。ウザい。さらに鳩尾へ蹴りを入れておとなしくさせる。


「ウゴエェェェエエッ!!」


 なんで僕がお前らなんかにリーンを渡さなきゃならないんだ。寝言は寝てから言え。このチンピラ冒険者が。殺すぞ。


「て、てめえ! 何しやがる!」

「俺たちはランク青の冒険者だぞ! 勝てるとでも……!」

「偉そうに。どうせ他人の獲物を横取りしたりして上げたランクだろう? ランク青の冒険者がこんな弱いはずがあるか。冒険者舐めんな」


 デブの膝頭を正面から蹴り砕く。自分の体重を支えきれずに、そのままデブが前のめりに倒れ、同じように悶絶し始めた。


「グガアアァァァ!? 膝、膝がァァァ!!」

「ひ、ひいっ!」


 薄らハゲが二人を置いて逃げ出そうと背中を向ける。その背中へ向けてブリュンヒルドを引き抜き、躊躇いなく引き金を引いた。


「グハッ!?」


 麻痺弾を食らい、バッタリと薄らハゲが倒れる。仲間を見捨てて逃げ出すとは大した冒険者だ。ランク青が聞いて呆れる。


「……ずいぶん過激なことするのね。ちょっと意外だったわ」


 今だにうずくまりながら嗚咽を上げるガリガリノッポとデブを見ながらリーンがつぶやく。


「あー……。悪い。リーンをどうこうするとか言われた時点でちょっとキレた」


 久しぶりにムカついたな。リーニエのバカ王子以来か。ちょっとは我慢強くなったかな、とか思っていたのだが、どうやらまだまだだったらしい。


「ふーん。私のために怒ってくれたのは嬉しいけど、ね」


 リーンが意味ありげに微笑む。くっ。なんか恥ずかしいぞ。顔が赤くなっている気がするのでリーンに背を向けて新人冒険者たちに向き直る。


「大丈夫?」

「あ、はい! オイラは少し怪我をしてますが大丈夫です。でもクラウスとイオンが……」


 槍の少年が倒れている二人に目を向ける。気を失っているだけだと思うが、一応「キュアヒール」と「リフレッシュ」をかけると二人とも意識を取り戻した。

 四人にあらためて礼を言われたが、適当に流し、こうなった経緯を尋ねる。

 なんでもダンジョン内で声をかけて来たあいつらが、安全な狩場を教えてくれるというのでついて行ったそうだ。不用心な。

 結果、ここに連れてこられて襲われたというわけだ。前衛じゃなかった二人はいきなりの攻撃に、あっという間に意識を刈られ、倒されたらしい。


「さっきの会話内容からしてこいつら人攫いかしらね。ダンジョンで行方不明になっても派手な血痕やギルドカードを落としておけば、魔獣に食われたと判断されてそれ以上は捜索もされないし」

「はい。あたしたちを奴隷商人に売るって言ってました!」


 ビシッと手を上げて、ポニーテールの少女剣士が発言する。元気だなあ。

 しかし奴隷商人か。ひょっとしたら……。

 呻いてるガリガリノッポの前にしゃがみ込み、こめかみにブリュンヒルドの銃口を当てる。


「わかりやすく肯定イエス否定ノーで答えろ。今まで死んだと思われていた冒険者はお前たちが攫ってたんだな?」


 脂汗を流しながらガリガリノッポが勢い良く頷く。やっぱりか。

 それを聞いてリーンが首を傾げる。


「でも攫ったところで転移門からは連れて行けないでしょう? いったいどうやって……」

「簡単さ。おそらく船で直接ここまで来てるんだよ。奴隷船がね。そうだろ?」


 再びガリガリノッポが勢い良く頷く。ほらな。

 この島々は位置的にはサンドラ王国の真南に位置する。そしてそのサンドラ王国は奴隷制度が未だに根付く国だ。

 「隷属の首輪」という魔道具で人の自由を奪い、品物として扱う制度の国。そこへまとめて売ろうというわけだ。


「で? 今まで攫った冒険者たちはもうサンドラへ送ってしまったのか?」


 ガリガリノッポが今度は首を横に振る。まだ送っていないということか。ならまだ助けるチャンスはあるか。

 おそらく奴隷船は何処かに隠れて停泊している。この新人君たちもここから攫われたあと、そこへ運び込まれてダンジョンで行方不明になり、死んだことにされる予定だったのだろう。

 マップ検索をしてみると、「アマテラス」のダンジョンがあるこの島の、さらに北東にある小さな島に中型の船が停泊しているのがわかった。これか。

 事件の内容はわかった。もうお前たちに用はない。「パラライズ」で呻いていた二人も麻痺させる。


「あの……どうするんですか? ギルドか騎士団の方に連絡するなら私が行ってきますけど……」


 少女剣士がおずおずと尋ねてくる。他の三人もこちらを見ながら様子を窺っていた。事の重大さに気がついたのだろう。どことなく不安さの中に興奮が混じっているように思えるが。


「連絡はこっちでするから大丈夫。そういえばまだ自己紹介してなかったね。そっちの子がリーンで、小さなクマがポーラ。で、僕は望月冬夜。この国の王様をしている」

「「「「王様っ!?」」」」


 四人が一斉に目を見開いて立ち上がり、そのあと慌ててまたしゃがみ込んでの土下座。忙しいな。


「ああ、立って立って。そういうの気にしないから。僕が元冒険者だって知っているんだろ? いや、今でも冒険者だけどさ」


 そう言って四人に金色のギルドカードを見せる。この子らは一度騙されてるからな。これが証拠になるかわからないけど。


「金色だあ……」

「すげえ……」

「り、竜とかゴーレムとか大悪魔とか倒してる……」

「お父さんたちに自慢できるよぅ……」


 どうやら信じてもらえたようだ。この子らは基本的にお人好しの部類だなあ。なんでも信じていると痛い目にあうぞ。って、もう痛い目にあったのか。

 四人はガチガチになりながら自己紹介をしてきた。全員レグルスにあるピュトンという村の出身で、揃ってこの国へやって来たらしい。

 短槍ショートスピア鱗鎧スケイルメイルの少年がロップ。

 鉄の剣と革鎧の少女がフラン。

 短弓ショートボウと同じく革鎧の少年がクラウス。

 ワンドにローブの少女がイオン。

 それぞれのイメージはロップが素直、フランが元気娘、クラウスが委員長、イオンがポヤポヤって感じか。ちょっと心配になるパーティーだな。


「それでどうするの? もちろん捕まっている冒険者たちを助けるんだろうけど」

「そうだな。奴隷船の位置もわかったし、乗り込んで殲滅してくるか」

「あっ、あの! あたしたちに何かできることないですか!?」

「お、おい、フラン!」


 慌てるクラウスを横目に少女剣士のフランが声をかけてくる。

 んー、やる気があるのはいいことなんだけどな。正直言って、冒険者に成り立ての新人が役に立つかって言うとさ。

 経験を積ませてやって鍛えてあげたいところだが、さて、どうするか。


「相手は奴隷を扱う商人だ。おそらく戦闘奴隷なんかもいるかもしれない。こう言ったらなんだけど、君たちの腕前でなんとかなるとでも? 逆に捕まってそれこそ本当に奴隷にされてしまうよ?」

「うっ……」


 フランが悔しそうに俯く。歳で言ったらこの子たちはユミナやルーより上、エルゼ・リンゼ姉妹よりは下ってとこで、僕とだってそんなに離れてはいないんだけどな。

 僕らの場合、状況が状況で、フレイズを相手にしたり、竜を相手にしたり、クーデターに巻き込まれたりと、濃い経験をしてきてるからなあ。……大半が僕のせいだけど。


「この子たちでも戦闘はできないけど、偵察はできるんじゃないの?」

「偵察?」


 リーンが提案してきた話に眉をひそめる。偵察って…それも危険度が高いだろうが。見つかったらそれこそ酷い目に合わされるかもしれないんじゃ……。


「偵察って言ってもわざと捕まって潜入するってことよ。こいつらに捕まったことにして奴隷船に潜入できれば、他の捕まっている人たちの状況もわかるでしょう?」

「なるほど……。でもこいつらが言うこときくかね?」


 ぐったりと麻痺して動かない三人に目を向ける。脅したりすれば従いそうだけど、露骨に表情に出て、あっさりとバレるんじゃないかなあ。


「貴方が「ミラージュ」で幻影を纏えば姿を変えられるんじゃないの?」

「あ、そうか」


 確かにそれならこいつらに化けた僕がみんなを引き連れて、奴隷船に行くことができるな。捕まった冒険者たちのところへ行ければ、その人たちの安全を確保できるかもしれない。

 捕まっている冒険者たちを人質とかにされると厄介だし、悪い作戦ではないと思うけど……。

 正直、僕一人が「インビジブル」で姿を消して潜入し、監禁場所を見つけて救出した方が手っ取り早いんだけどなあ。

 ちら、と四人の方を見てみると興奮気味に目をキラキラさせながらこっちを見ている。うむむ。どうしたもんか。冒険したいお年頃ってやつか? 奴隷にする以上、商品だから手荒な扱いはされないと思うけどさ。


「じゃあ、やってみる……?」

「「「「はい!!」」」」


 元気のいい四人の声が返ってきた。大丈夫かなあ。











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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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