表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
193/637

#193 大儲け、そして新人冒険者。




「ではこれが残りの竜の素材料になります」


 レリシャさんが差し出したずっしりとした袋を開けて、中身を確かめる。百枚の王金貨が入った袋がざっと12ほど。1200枚の王金貨だ。元いた世界の通貨とは比べようがないんだが、今までの経験からだいたい王金貨一枚1000万円くらいだと判断すると、120億円。ウッハウッハだ。

 ちなみに王金貨なんて、国や大商人などの取り引き以外、使用されることなんてあまりない。こんなもの落としたら大変だからな。

 しかもこれはブリュンヒルドを襲った竜だけの分だ。ドラゴネス島で倒した竜350頭分はまだ「ストレージ」で眠っている。

 全部売ってもよかったのだが、あまり放出するといろいろと不都合があるらしいのでやめておいた。この素材でギルドもいろいろと儲けを出すのだろう。ギルドでも一気に世間に回すようなことはしないようなので、こちらも小出しに売るとしよう。


「世間ではかなりの噂になってますよ。ブリュンヒルド騎士団が竜の大群を相手に圧勝したって」

「聞いただけじゃあんまり信じないんじゃないですかね?」

「そうですね。現場にいた私でも信じられないくらいでしたから。しかし、間違いなく強いということは伝わっていますよ。この国に変な干渉をしてくる国は減るんじゃないですか?」


 まあ、それならありがたい。ユーロンみたいなのをまた相手にするのはウンザリだからな。今だに一部のユーロン人にはあの大侵攻をブリュンヒルドの策略だと吹聴している輩がいるそうだ。「ブリュンヒルドは罪を認め償うべきだ」と叫び、賠償金を要求してきているらしい。むろん払う気は無いが。

 新天帝を暗殺したのも僕ってことになってるしな。あれから「実は私は天帝の隠し子だ」と天帝を名乗る奴が次々と出てきて、ユーロンは無政府状態だ。なかなかの廃れっぷりで、まともに国として機能していないらしい。

 こういう場合、他国が助けてくれたりもするんだが、ユーロンの今までの行いや口ばっかりの嘘つき外交のせいで、どこも相手にしてくれないという。まあ、身から出た錆だ。知ったことじゃない。

 「ストレージ」にお金を入れて、ギルドをあとにする。これでみんなにもボーナスが出せるなあ。一人どれくらい出そうかな? ここは太っ腹でドーンといくかー?

 そんなことを考えながらダンジョン転移門の前まで来ると、相変わらず露店を出している椿さん配下の透破すっぱさんに声をかける。


「やあ」

「お。お客さん、今日は掘り出し物がありますよ」


 おや? なんかあったんだろうか。しゃがみ込み、置いてある商品を手に取りながら話を聞く。


「何人か、死人が出ました」

「……そうか。冒険者である以上仕方のないことだけど、ね。魔獣に殺された?」

「と、思われます。行ったきり戻ってこないので。どれもランクの低い冒険者だったので、おそらく力量も考えず無茶な行動をとったのではないかと」


 調子に乗ってついつい下の階層へ行ってしまったのか。「少し強い相手が出てきたな」ってあたりで引き返すのが得策なんだが。命あっての物種なんだからさ。


「ただ妙なことがひとつ。亡くなったその冒険者たちなんですが、遺品がギルドカード以外全く無いんですよ」

「遺品が? 肉体はスライムに溶かされるとして、剣とか鎧とか所持品も?」

「ええ。まあ、こう言ったらなんですが、冒険者の中にはハイエナみたいな奴らもいるので……」


 死んだ奴の武器や防具、所持品を漁っている奴らがいるってことか。それ自体は決して褒められたことじゃないけど、別に悪いことじゃない。

 死んだ冒険者の装備品を発見した場合、ギルドへと渡し、死んだ奴の仲間や家族に渡るようにするのが冒険者のマナーとされている。だが、それに従う必要はない。あくまでマナーだからな。

 こんな話がある。ある冒険者が大枚はたいて、実力に合わないずいぶんと高価な鎧を手に入れた。あまりの嬉しさにその冒険者は事あるごとにその鎧を自慢していたそうだ。で、数日後、ダンジョンで死体となって発見された彼にはその高価な鎧は装備されていなかった。

 さて。彼はダンジョンの魔物に殺されたあと、高価な鎧を見つけた他の冒険者に剥ぎ取られたのか?

 それともその鎧に目をつけた他の冒険者に殺されたのか? 真相は闇の中。

 まあ今回の場合、別に高価な装備や道具を持っていたわけじゃないらしいので、狙い殺されたわけではなさそうだが。


「今までに何人くらい亡くなった?」

「見つかったギルドカードは10人ですね。どいつもこいつもそれ以外は見つかってません」


 10人も亡くなったのか。少し重い気分になる。やはりダンジョン内に魔獣に襲われない安全地帯や地上への転送陣を作っておいた方がいいかなあ。せめて初心者がうろつく浅い階層だけでも。

 透破すっぱさんと別れ、転移門の前へ行く。

 「アマテラス」の転移門へ行くと、受付の係員に入場料銅貨一枚分を青銅貨で十枚、それぞれ払っている少年たちがいた。歳の頃は十二、三歳くらいか。四人パーティーで、男の子と女の子が二人ずつ。

 男の子たちの装備は短槍ショートスピア鱗鎧スケイルメイル、もう一人は狩猟用の短弓ショートボウに革鎧。

 女の子たちの装備は片方が鉄の剣と革鎧、残りの一人は初心者用のワンドとローブだ。いかにも、ザ・駆け出し冒険者といった感じだな。

 四人は興奮しながらもアマテラスの転移門をくぐり、ダンジョン島へと消えて行く。

 さっきの話を聞いちゃうとなあ。ああいう子らがちょっと心配になってくる。

 ……追いかけて行ってみるか? いやいや、そんなストーカーみたいなこと。冒険者のための専門学校みたいなのがあれば、いろんな心得とか技術とか教えてもらえるのにな。

 ……いや、なにげにいいアイディアかもしれないな。教官とかには引退した冒険者を雇えばいいし。

 ただ、経営していけるか? これ? 高い入学金を取るのもなんだしな。卒業してから払ってもらうか? ギルドに協力してもらえばギルドカードでどんな依頼を受けたか、いくら稼いでいるかわかるし。

 レリシャさんに相談してみるか。なにか他にいいアイディアを出してくれるかもしれない。


「あら? 冬夜?」


 声をかけられて振り向くと、ポーラを連れたリーンが立っていた。相変わらずゴスロリ風の黒い服を着て、これまた黒い日傘を差している。


「リーンか。どうしたのこんなところで?」

「ちょっと買い物がてら覗きにね。なにか掘り出し物があるかもと思って。そっちは?」

「あー……。ダンジョンをちょっと改装しようかと。休憩できる安全地帯とかあれば便利かな、と思って」

「へえ。面白そうね。ついて行ってもいいかしら?」


 返事を待たずにリーンは僕の腕を取る。む、う。あれからリーンは積極的に僕にアプローチしてくる。僕と結婚したいっていうのは本気なんだろうか。

 見た目がユミナたちとほぼ変わらないから、傍目には兄と妹としか映らないだろうけど、なんか恥ずかしい。

 スタスタと「アマテラス」の転移門の受付まで来ると、リーンは腰のポシェットから銅貨一枚を取り出し、受付さんに渡して、置かれていたノートに名前を書いた。

 冒険者ギルドに登録をしていなくても、名前と入場料を払えば転移することはできる。名前の記入は、いつ入っていつ出たかわかるようにするためだ。むろん、ギルドカードがあれば一瞬ですむ。

 だけど僕も名前を記入して銅貨一枚を払った。僕のカードは金色だから目立つんだよね……。名前も「武田信玄」と偽名を書いた。別に本名を書かなきゃならない決まりはないからな。帰ってきたとき、同じく「武田信玄」ですって答えりゃいいだけの話だ。

 転移門をくぐると眩しい太陽の光が降り注ぐ。真冬のブリュンヒルドと比べるとこっちはずいぶんと暖かいな。

 あたりをキョロキョロと見渡してみるが、先ほどのルーキー四人組は見えなかった。もうすでにダンジョンに入ってしまったのだろう。

 僕らもポーラを連れて、ダンジョン内へと入る。リーンが傘をたたみ、「ライト」を発動させた。


「とりあえず地下三階ぐらいまで行ってみるか」


 「アマテラス」のダンジョンは確か地下六階まで攻略されてたはずだ。マップを開き、地下二階への階段へと向かう。


「……なんでこのダンジョンのマップが全部わかるのかしら」

「僕に聞かれてもなあ。わかったとしか言いようがない」


 リーンが空中投影されたマップを見ながら呆れたようにつぶやく。僕もまさかわかるとは思わなかったんだよ。

 迷うことなくまっすぐに階段へと辿り着き、地下二階へと下りる。たまに出会う魔獣や魔物を撃退しつつ、同じように地下三階へと下りていった。それなりに時間がかかったな。


「ここらで休憩ができる安全地帯セーフティゾーンを作っておきたいんだけど、手頃な場所はあるかな……」


 空中投影したマップを眺めながら適当な場所を探す。一応マップには冒険者たちも表示されるようにしてある。探索の邪魔するのもなんだしな。


「ここなんかいいんじゃない? 他の階段からも同じくらい近いし、手頃な広さだし」


 リーンが指差した場所はかなり開けた場所で、何組かのパーティーでも休めるような場所だった。さらに迂回路もあり、ここを通らなくても困らない場所にある。ここでいいか。

 魔獣たちを倒しながらダンジョン内を進んでいく。出てくる敵がうっとおしいなあ。ゲームで言う聖水的な魔物除けのアイテムがほしいところだ。

 やがて目的地に着いたので、辺りを調べ始めた。特にトラップとか隠し扉なんかは無いようだ。

 さっそく「プログラム」や「エンチャント」を使い、この部屋へは魔獣や魔物の類は入り込めないようにしておく。さらに壁一面に文字を書き込んでおこう。この部屋には魔獣や魔物が入り込めないので、安心して休憩を取って下さい、的な。

 罠かと深読みされると困るから、一応サインもしとこう。


「ブリュンヒルド公国公王、望月冬夜……っと」


 これで安心してもらえるといいが。そういやあのルーキー君たちとは会わなかったなあ。まあ、初心者だし、一階辺りをウロチョロしてるのかな。

 顔は覚えてるし、ちょっと検索してみるか。えーっと、一般冒険者を青い表示、転移門前で見た新人冒険者を緑で表示……っと。

 お、や。意外だな。地下二階まで下りて来てるのか。それに四人じゃない。他に三人の冒険者がいる。このパーティーに連れてきてもらったのかな?

 ? なんか変だな。この動き……魔物と戦っているのか?


「七人もいて手こずるってよっぽど初心者なのかしら」

「少なくても四人はド素人って感じだったね。田舎から出て来たばかりの少年少女って感じで」


 彼らが弱いんじゃなくて、相手の数が多いとかじゃないのかな。コボルトやゴブリンだって10匹以上に襲われたらかなり危険だろ。

 どれ、魔物や魔獣を表示…っと。あれ?

 表示されない? いや、他の地図上にはちゃんと表示されてるぞ。ってことは……。


「どういうこと?」

「……この四人は襲われている。他の三人の冒険者たちに」


 なんてこった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ