表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
191/637

#191 竜の襲撃、そして騎士団の力。




「というわけでまもなく竜の大群がこちらへやってきます。面倒なんでサクッと殺ってしまいましょう」

「馬場殿……俺、なにから突っ込めばいいかわからねぇよ」

「安心しろ山県。儂もわからん」


 会議の席で山県のおっさんと馬場の爺さんが呆れたような目を向けてくる。

 「ゲート」を使ってブリュンヒルドへと先回りした僕らは、すぐさま騎士団の幹部連中を集め、話を切り出した。突然のことにみんな目を点にしていたが、やがて副団長のニコラさんが、はっ、と我に返り、椅子から慌てて立ち上がった。


「ちょ、ちょっと待って下さい、陛下。竜って、あの空飛んで口から火を吐く、あの竜ですか?」

「うん、その竜。どうやら一部の馬鹿が調子に乗って、僕らの国を滅ぼそうとこっちに向かって来てるらしい」

「あの……大群って、何匹くらいなんです……?」

「通常の竜が20くらい? あとはワイバーンみたいな翼竜が100くらいか。こないだのフレイズに比べたら大した数じゃないだろ?」

「「いやいやいや」」


 おずおずと手を上げて、質問してきた団長のレインさんに答えると、ニコラさんと二人して目の前で手を振って否定してくる。


「これってあれよね? 陛下がサクッと殺っちゃうってことよね?」


 若干引き攣った顔でノルンさんが口を開く。頭上にある狼の耳がぷるぷると震えていた。


「初めはそう思ってたんだけど、ついでなんでこれを利用しようかと思ってさ」

「利用?」

「そう。騎士団の集団行動訓練をしようと思って。竜相手なら充分でしょ?」

「ええっ!?」


 レインさんが驚きの声を上げる。正直、うちの騎士団はかなり強いと思うんだけど、魔獣も少なく、友好国であるベルファストとレグルスに囲まれている立地上、ほとんど戦闘の機会がない。そんなわけで、ここらへんで少し経験値を、という思惑もあった。


「うちの騎士団は諜報部隊を合わせても百人いかないんですよ!? 一人一匹以上倒すなんて無理です! それに空を飛んでる相手とどうやって戦うんですか!?」

「飛んでるのは僕が落とす。あとはブレスに気をつけてみんなでね。騎士団の盾には耐熱障壁ついてるんだから、なんとかなるでしょう」

「なんとか、って……」


 一応、安全策はいくつも取ってある。瑠璃や琥珀たちも投入するし、僕らもサポートに回るつもりだ。正直、そう簡単にはやられないと思う。

 それにこれはチャンスだと思う。僕らはできたばっかりの国だけど、そこの騎士団が100体以上もの竜を撃退したと知れ渡れば、今後ユーロンみたいな馬鹿な国が、おいそれと手を出してこなくなるかもしれない。


「ま、まあ、フレームギアがあれば竜ぐらい倒せますよね。なら……」

「フレームギアは出しません」

「ええ!?」


 今回に関しては、思い上がった竜へ人間の底力を見せるという面もある。奴らが下等な生物と見下している人間の力を思い知らせてやるのだ。あいつらの目的は完全な逆恨みだからな。

 それにフレームギアならあっさりと勝てるだろうが、それでは生身での集団戦の訓練にならないし。フレームギアがあれば無敵だ! とか、借り物の力を自分の力と勘違いされても困るしな。


「それと、これが一番大事なことなんだけど……」

「?」

「竜の素材はお金になります」

「…………」


 そうなのだ。竜は皮から骨からかなりの高額で取引される。一体でもひと財産なのに、それが100体以上。大儲けのチャンスですよ。


「お金があればいろいろと助かります」

「…………」

「みんなに賞与ボーナスも出せます」

「やるか!」

「「「おおっ!」」」


 チョロい。






『見えました。あと三分ほどでここに来るかと』


 瑠璃に言われて「ロングセンス」で視界を伸ばすと、確かに竜の群れがこちらへ向かっているのが見えた。僕らはブリュンヒルドの城下町から南にある平原で、襲い来る竜たちを待っている。ここなら町へ被害が出ることもないだろう。


「なんかギャアギャア言ってるなあ」

『「皆殺しだ!」とか「焼き尽くせ!」とか言ってますね。あとは「ギャハハハハ」とか下品な笑い声が。我が眷属とはとても思えぬ落ちぶれようです。それともあの魔道具になにか狂気をもたらす効果があるのか……』


 あいにくと竜語はわからないので瑠璃が翻訳してくれた。よく聞こえたな。しかし、そんなこと言ってんのか。どうやら遠慮する必要はなさそうだな。

 それじゃあ問答無用で地べたを這いつくばってもらうか。


「嵐よ切り裂け、億万の風刃、テンペストエッジ」


 「図書館」で得た風属性の古代魔法をドラゴンたちに向けて発動する。

 突如として巻き起こった嵐に、全ての竜が巻き込まれ、風の刃にその翼をズタズタに引き裂かれた。


「ギャオァアアアアァァ!!」

「グギャオオオォォォォ!?」


 様々な悲鳴を上げて竜が次々と落ちていく。本気を出せばもっとダメージを与えることもできるのだが、翼を引き裂き、飛行能力を奪う程度にとどめておく。

 全ての竜を地面に叩き落とすと、巨鳥の姿に戻った紅玉が巨大な火焔弾の雨を空中から竜たちに浴びせかける。


「ブリュンヒルド騎士団、全員突撃ぃ────っ!!」

『おおおおおお──────ッ!!』


 その隙を突き、団長のレインさんの号令で、水晶の剣と盾を構えた我らが騎士団が、一斉に竜へ向けて突撃していく。

 それに対し地面に倒れたままの竜たちが、首をそちらに向けて火炎のブレスを吐き出す。しかし、突如現れた水のカーテンに阻まれて、その威力は半減してしまった。


『残念でしたぁ。そう簡単にはさせないわよぉ』

『我らはもともと守りの方が得意じゃからな』


 ブレス対策は黒曜と珊瑚に任せてある。元の大亀と大蛇に戻ったその甲羅の上に乗り、僕が竜たちの方へ目をやると騎士団のみんなが斬りかかったところだった。

 それに負けじと大虎へと変化した琥珀が飛竜へと駆け出し、咆哮による衝撃波を放つ。それをくらった飛竜は後方へと勢い良く吹っ飛ばされる。


『では私も参ります。琥珀あやつばかりに任せてはおけませんからね』

「あくまでみんなのサポートで頼むね」

『心得ております』


 翼を広げた瑠璃が天に向かって咆哮し、それを聞いた竜たちの動きがビクッと一瞬固まる。なんか叫んだみたいだな。竜語はわからないんだけど。さすがに翻訳魔法「トランスレーション」でも動物たちの言葉まではなあ。そこまでいくと「テレパシー」とかになるような。そんな魔法……探せばありそうだが。

 瑠璃が飛び立ち、奥にいた竜たちへ向けて火焔弾を放つ。それだけで何匹かの竜が吹き飛んだ。

 うーむ、そいつらはお金になるんだから、あんまり吹き飛ばしたりして欲しくないんだけどな。

 瑠璃ももうあいつらを仲間とは見てないらしく、倒した竜を売ることには反対しなかった。ずいぶんとドライなんだなとも思ったが、弱肉強食の自然界ではおかしくもないことなのかもしれない。


「私たちも支援魔法を」

「そうですね」


 後ろに控えたリンゼとユミナが広域支援魔法を唱え始める。これも「図書館」で見つけた古代魔法のひとつだ。


「炎よ退け、防炎の障壁、ファイアレジスト」

「風よ与えよ、祝福の追風、テールウインド」


 騎士団のみんなが赤と緑、二つの燐光に包まれる。炎の耐性を与える補助魔法と、素早さを上げる補助魔法だ。


「大盾隊前へ! 突撃隊、その後に続けえッ!!」

『おおっ!!』


 防御障壁を展開しながら、盾を構えた十人が横一列に並び、竜のブレスを受け止める。そしてその盾と盾の間から長い水晶槍を構えた騎士たちが一緒になって竜へと突っ込み、その体を容易く貫く。


「ガアァアアアアァァ!?」


 鋼よりも硬いはずの自らの鱗を難なく貫いた槍。竜はそれに驚き戸惑っていたようだが、それが命取りになる。


「はああああああッ!!」


 兎獣人の跳躍力を活かし、盾隊の頭上からレインさんが竜へと飛び込んだ。空中で抜き放った晶剣を竜の脳天へと深々と突き刺し、剣をそのままにすぐさまそこから離脱する。

 二、三度大きく痙攣したかと思うと、そのまま竜は静かに倒れた。


「よし! 次に行くぞ!」

『おう!』


 なかなかやるな、うちの騎士団も。装備や支援魔法のおかげってのもあるけど、それでも十人足らずで竜を倒せたら御の字じゃないかな。しかも「支配の響針」で上位竜並みに強くなっている竜を相手にだ。伊達に毎日、剣の神様にボコボコにされているわけじゃないか。


「冬夜君、やはり私も行ったらダメかな?」

「だから諸刃姉さんが行ったら、訓練にならないでしょうが」

 

 戦いたくてウズウズしているその剣神様がすぐ横にいる。そもそも戦うったって、竜相手じゃ晶剣やよほどの業物じゃないとすぐ刃こぼれしちゃうだろうに。まあ、諸刃姉さんならなまくらを渡してもそれなりに戦ってしまうだろうけど。


「しかしだね、万が一ということもある。そんな状況に対応できるように、私はあそこにいた方がいいと思うんだ」

「む……う。基本はみんなのサポートですからね? 無双しちゃダメですよ?」

「わかっている、わかっているよ。ほら、だからなんか剣を!」


 「ストレージ」から水晶大剣を取り出して諸刃姉さんに渡す。次の瞬間、嬉々として竜たちの元へ走り出し、その刃を振るい、出会う竜の足首を次々と斬り落としていった。無双するなって言ったのに……。まあ、これでこちらの負けはないだろう。ある意味ウチの最終兵器リーサルウェポンを投入したわけだし。


「あたしたちは行っちゃダメなの?」

「君らまで行ったら本当に騎士団の出番がなくなりそうだからダメ」


 エルゼ、八重、ルー、ヒルダがぷうっとふくれる。そんな顔してもダメです。サポートは諸刃姉さんだけでもう充分過ぎます。

 こうも数が多いと混戦になりがちだが、うまいこと紅玉が牽制して、珊瑚と黒曜が防ぎ、琥珀と瑠璃はみんなが戦いやすい状態へと導いてくれている。

 僕は僕で傷つき倒れた者の怪我をある程度まで回復魔法でフォローしていた。ブレスは珊瑚たちが抑えてくれているので、よほど深入りし、大きな一撃を食らわない限りは即死するということはないだろう。


「お?」


 飛竜の一匹が傷ついた翼でなんとか飛び立とうとしている。が、10メートルほど浮かんだところで、紅玉の火焔弾に叩き落とされた。ナイス。


「うらあああぁぁぁ!!」


 そこへ雄叫びを上げた馬場の爺さんの水晶の大槍が飛竜の側頭部に突き刺さった。その一撃で完全に飛竜は絶命する。

 歳も歳だし、後方支援に回って欲しかったんだがなあ。言うこと聞きゃしない。その横では別の飛竜相手に大剣を振り回し、竜の足を斬り落としている山県のおっさんがいた。


「オラオラオラ! かかってこいよ、トカゲども!」


 久々の戦いだからかテンションが上がってるなぁ。馬場の爺さんと山県のおっさんはフレームギアに乗りたがらない。なんでも戦ってる気がしないとのことだが、生身の身体で行う、命のせめぎ合いという境地を楽しんでいるように思える。安全が一番だと思うんだけどなあ。いくさ人の気持ちはわからん。


「ふっ!」

「やあっ!」


 ニコラさんの槍斧ハルバードが唸り、ノルンさんの双剣が乱舞する。今回は団長のレインさん共々、召喚獣の騎乗はやめてもらった。

 戦場に立ち、その状態から戦況を見極めて欲しかったからってのもあるが、グリフォンやペガサスに乗ったままでは、ブレスを盾で防御しにくいからである。乗ってる本人はいいが、召喚獣たちは無防備だからな。

 なんだかんだ言っているうちに、ほとんどの竜は倒れ、動かなくなってきている。

 残りの竜もなにやらギャアギャア言っているようだが、相変わらず何を言っているのかわからん。足下の珊瑚に巻きつく黒曜に尋ねてみる。


「なんて言ってるんだ? あれ?」

『んー、罵詈雑言の嵐ね。「下等生物が!」とか「群れなければ勝てぬ弱者め!」とか。どの口が言ってるのやら』


 まったくだな。先に群れて襲ってきたのはそっちだろうに。

 喚き散らしているその竜へ、瑠璃が最大級の火炎ブレスを浴びせ、黒焦げにする。あああ、だから売れなくなるってのに。


『瑠璃ちゃんもかなり怒ってるみたいねぇ。そりゃあ、あんなのが自分の眷属なんて泣きたくもなるわ』


 半面、琥珀は淡々と騎士団に襲いかかる竜を衝撃波で吹き飛ばし、その爪で目を切り裂きながら、一匹も仕留めることなく戦闘不能にしていく。まるで自分が相手にする価値もないと言うように。


『そろそろ終わりそうねぇ』

「こいつら本当に上位竜ほどの力を持ってたのか? 弱過ぎない?」

『一匹一匹はそれに近い力を持ってたのかもねぇ。でも集団での戦い方がまるでダメ。各々勝手に暴れてるだけでまったく連携が取れて無いんだもの。頭の悪さまでは引き上げられなかったようね。歳上の「老竜エルダードラゴン」が一匹いたら、また違っていたかもだけど』


 そもそも竜は群れで狩りをするということはしない。それが顕著に表れたってことかな。

 黒曜の言うとおり、すでに勝敗は決した。かろうじて息のある竜も、次々と騎士団たちによって屠られていく。

 やがて全ての竜が動きを止めた。こちらの被害は軽傷者が何人か。圧勝である。


「勝鬨をあげろ────っ!!」

「「「おおおおおお─────ッ!!」」」


 いくつもの竜の屍が晒された平原に勝利の雄叫びが響き渡る。勝ったな。ちょっと拍子抜けだが。

 ふと気がつくと背後の方にはたくさんの見物人がいた。まあ、あれだけ騒いでいれば目立つか。町からだいぶ見物人がやって来ていたようだ。ここから見るかぎり、冒険者が多い気がするな。


「へ、陛下っ! これは一体……!」


 何人かのギルド職員を引き連れて、ギルドマスターのレリシャさんが見物人の中から現れた。一瞬、巨大になった珊瑚と黒曜に怯んだ様子を見せたが、僕の召喚獣だと悟って気にせずに駆け寄ってくる。


「ドラゴンの集団がこちらへ向かっているとの情報を得たので、お伝えしようと城へ行ってみたら、陛下はいないし騎士団もいないし……!」

「ああ、それはすいません。入れ違いでしたね。でも片付いたんで」

「の、ようですね……」


 レリシャさんは呆れたような表情で、横たわる竜の屍を見渡す。そうか、冒険者たちにも手伝ってもらったらよかったかなあ。まあ、彼らにはうちの騎士団の武勇伝をせいぜい伝えてもらうことにしよう。


「で、ですね。これギルドで買い取ってもらえますか?」

「これっ……全部をですか!? いや、買い取るのは問題ないんですけど、今すぐ全部の代金は払えないんですが……10匹程度なら今すぐ払えますが……」

「じゃあ残りは僕が保管しておきます。残りはお金が用意できたときってことで」


 「ストレージ」に入れておけば腐らないし大丈夫だろ。あとは何匹かの肉を焼いて、町で配るか。竜の肉は美味だっていうしな。お裾分けしてあげよう。

 勝利に沸いている騎士団のみんなにスマホの空中投影で話しかける。


『騎士団のみなさんお疲れ様でしたー。あとで竜肉を焼きますので腹いっぱい食べて疲れを癒してくださいねー。もちろん賞与ボーナスもちゃんと出しますよー』

「うおおおおお!! やったー!!」

「肉! 肉!」

「腹減ったー!」

「これで借金が返せる……」

「ブリュンヒルドばんざーい!」


 様々な叫びが戦場にこだまする。喜んでもらえてなによりだ。


『で、明日はフレームギアでドラゴネス島の竜の巣を殲滅しに行くのでよろしくお願いしますねー』

「「「「「えっ!?」」」」」


 驚いた声と見開かれた目が一斉に僕に向けられた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ