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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
185/637

#185 提案、そしてダンジョン。



「炎よ来たれ、爆炎の連撃、フレアバースト」


 リンゼが呪文を唱えると、連続で五つの場所から大爆発が起こり、そこにあったものを全て吹き飛ばした。

 「エクスプロージョン」の強化版……というか、元になった古代魔法のひとつらしい。とんでもない威力だな……。訓練場じゃなくて平原に出て来て正解だった。


「やったわね。やっぱり火属性はリンゼの方が合ってたってことかしら」

「…私だけではここまでできませんでした。リーンさんの助けがあったから……」

「私、火属性って一番苦手なのよね。私だけじゃなく、妖精族はみんなそうなんだけど。そもそも火属性を使える妖精族ってのが少ないもの。もともと森で暮らしてた種族だから潜在意識で忌避するものがあるのかしら」


 確かリーンは六属性持ちだっけか。闇属性だけがないって言ってたっけ。召喚魔法が使えないんで、その代わりにポーラを作ったみたいなことを言ってたな。

 リーンの足下にいるクマのぬいぐるみは爆発を見てガッツポーズを取っていた。召喚獣の代わりになるとはとても思えないが。


「リーンの方もなにか古代魔法を覚えたんだろ?」

「ええ。私は水属性の方だけど」


 リーンがリンゼの前に立ち、両手を前方に伸ばして、水属性の魔力を高めていく。


「水よ来たれ、激流の大渦巻、メイルシュトローム」

 

 前方に巨大な水の竜巻が現れ、地面を削りながら飲み込んでいく。対象がいないからわかりにくいが、広範囲殲滅魔法だな。これも凄まじい……。


「魔力の消費量が高めなのが難点ね。ま、それに見合った効果はあると思うけど」


 威力が上がれば魔力消費量も上がるのは当然とも言える。その状況によって無駄なく使い分けていくのが正しい魔法の使い方なんだろうな。魔力量には限界があるのだし。

 「図書館」の発見により、パワーアップしたのは何もリーンやリンゼだけではなかった。「魔工学」とやらの本をロゼッタとモニカが閲覧を希望し、何やらいろいろ試しているようだ。

 それと最近スゥがリーンに魔法を教わっている。スゥの属性は光のみであるが、魔力量はかなり多いらしい。特に回復系を重点に覚えていっているようで、騎士団の訓練場によく顔を出しては、その魔法を試しているとのこと。

 平行して相変わらずラピスさんたちにも稽古をつけてもらっているようだ。いったいどこへ向かう気なんだろう……。

 ファムは地上に降りてきて、城の書庫に閉じこもってしまった。あれは重症だな。活字中毒者の成れの果てだ。5000年もこじらせてたのであれば、もはや治療法はないだろう。不治の病だ。

 午後になってから冒険者ギルドの方へ顔を出す。一週間に一度は来るようにしているのだ。主にギルドマスターのレリシャさんから各地の情報を得るためだが、気晴らしにクエストを受けることもある。

 フードを被ったままギルドへと入る。相変わらずの賑わいだが、正直、僕の正体に気付いている人は気付いていると思う。だけどなにも自分から目立つ必要はあるまい。


「てめぇ! やんのかコラァ!」

「ああ!? 上等だよ、表出ろや!」


 二人の男が互いの胸倉を掴みながら、器用な横歩きで外へ出て行った。またか。来るたびになにか揉め事が起きている気がするなあ。まあ、これも日常茶飯事なんだろうけど。

 冒険者なんて我を通してナンボというところもあるからな。住民に迷惑をかけなけりゃ、互いにぶつかるのもアリだろう。


「こんちわ」

「あ! へい……あやや、冬夜さん、こんにちわ。お疲れ様です」


 受付にいた猫の獣人のお姉さんに話しかける。名前は確かミーシャさんだっけか。猫耳がピコピコと動いている。


「最近はどんな感じです?」

「そうですね。相変わらず雑事系の依頼が多いですけど、ちらほらと商人の護衛なんかも入ってきてます。ただ、ここでは大きく稼げないのが悩みの種ですかねえ。おかげでみなさんすぐに旅立ってしまって、馴染みの人がいないんですよ。だから初対面の人が多くて、毎日のようにあんな感じに」


 そう言って外で殴り合ってる二人に視線を送る。なるほど。しかし、なんだって冒険者ってのは初対面でああも「俺スゴイんだぜ」アピールをしてくるのが多いんだろうな。ナメられないように最初からガツンといこうってことなんだろうか。結果、衝突が多くなるのだが。

 得てしてそう言う輩は、初心者から抜け出したはいいが、なかなか上のレベルに行けずに壁にぶつかっている者が多い。

 ああいうのに睨みを効かせるベテラン冒険者とかがいてくれると助かるんだがな……。この国じゃ稼げないから居座る必要がないもんなあ。

 ミーシャさんに通されて二階へと上がり、レリシャさんの部屋へ入る。書類を片付けていたエルフのギルドマスター、レリシャさんが顔を上げ、ソファーへ座るようにすすめられた。


「よかった。ちょうど連絡をさせていただこうかと思っていたところなんですよ」

「なにかあったんですか?」


 書類を纏めて机の横に置き、なにか紙のような物を持って、レリシャさんが僕の対面のソファーに座った。


「情報がふたつと提案がひとつ。まず竜が現れました」

「竜ですか?」

「場所は大樹海の南、サンドラ王国です。砂漠の集落に突然飛来し、そこを荒らし回った挙句、いずこかへと飛び去ったそうです。これだけならよくある話なのですが、同じようにユーロン、ノキアでも竜が現れ、村や町が被害にあってます。しかも三匹とも別の竜だったそうで」


 確かに妙っちゃ妙だな……。竜はあまり人のいない山岳地帯などに棲み、滅多に人里を襲うことなんかないという話だが。竜にも下級種と上級種があって、人を襲うとか、そういう行動を取るのは動物に近い下級種らしい。

 僕が初めてミスミドに行った時、訪れた村を襲った黒竜も下級種だった。その後出会った赤竜は上級種で話のわかるヤツだったけど。


「まあ、ただの偶然かもしれません。竜についてはまだわからないことも多いので、なにかそういう巣立ちの時期とかかもしれませんし。こちらの方は調査を進めていますので、いずれまた。そしてもうひとつの情報とそれに伴った提案があるのですが……」


 レリシャさんが僕らの間にあるテーブルに持っていた地図を広げた。うん? どこかの海か? 島がいくつかあるけど……。


「サンドラ王国より南にある、最近発見された諸島です。調査した結果、古代遺跡がいくつかの島々で見つかったのですが……なにぶん遠く、遺跡自体の調査、発掘がなかなかできずにいるのです」

「大人数で船で渡っては?」

「この島は長く滞在するのに適していません。気温差が激しく、魔獣も多いのです。なぜこんな島に古代遺跡がと思いましたが、おそらく古代文明が栄えていた時はこの島々はもっと大きなひとつの島ではなかったかと……」


 長い時の中で島が沈んだ、と。あり得ないことではないな。それで島の人々はその地を捨てて、結果、魔獣が蔓延る無人島になってしまった……。


「さらに問題はこの古代遺跡がかなり広い地下迷宮ダンジョンだということです。おそらくは古代の魔導師か賢者あたりが作り上げたものじゃないかと思われるのですが、だとしたらどんな財宝が眠っていてもおかしくはないのです。これはギルドとしては、見逃せないわけでして」


 まあそうだろうな。宝の山を発見したようなものだ。僕は地下迷宮ダンジョンに潜ったことはないけれど、けっこう世界中にはちらほらと点在しているらしい。


「通常、こういった地下迷宮ダンジョンは冒険者に依頼を出し、探索をしてもらうのが定石です。しかし、場所が場所だけにそう簡単にもいかないわけでして。そこで提案なのですが」


 ずいっとレリシャさんが身を乗り出して来る。なんだなんだ? ちょ、近いです。美人に迫られて悪い気はしないけど。


「この地下迷宮ダンジョンがある島とブリュンヒルドを公王陛下に「ゲート」で繋いでいただけないか、と」

「は?」


 どういうこと? この国と地下迷宮ダンジョンの島とを繋げる? そんなことをしてなんの意味が?


「つまり地下迷宮ダンジョンへ挑む冒険者たちの玄関口としてほしい、ということです。この国へ地下迷宮ダンジョン探索者が集まれば、街は発展する。ギルドとしては冒険者を送ることができ、調査も進み、財宝や魔獣の素材を彼らから買い取ることができる。どうでしょう?」


 ははあ、そういうことか。確かに一攫千金を狙う冒険者で賑わえば、宿屋、武器屋、防具屋、道具屋、商売繁盛間違いなしだ。しかもそれに釣られて人も集まるだろうしな。悪くはない、か。

 向こうの魔獣がこちらへ来ないように対策はできるし、難しくはないな。地下迷宮ダンジョンで町おこし、ってか?


「質問が何点か。その島はどこかの国の領土ではないのですか?」

「現在ギルドで監視してはいますが、どこの国のものでもありません。先ほどの提案が受け入れられるのであれば、公国に譲渡してもかまわないと考えています。もちろん、遺跡に関する情報の提供や、地下迷宮ダンジョンで冒険者たちが得た財宝などの優先的な売却権利などを保証してもらえるならですが」

「もうひとつ質問が。そんな情報を漏らして、僕が直接地下迷宮(ダンジョン)を探索して財宝を独り占めするとは考えなかったんですか?」

「ふふ。そんなことをする方が、世界の王たちをまとめ、フレイズを倒そうとするでしょうか? これでもギルドマスターとして人を見る目はあるつもりです」


 ずいぶんと高く買ってもらったようだな。こりゃ期待を裏切るわけにはいかないか。

 確かに美味しい話だし、僕が探索して終わらせてしまうより、そっちの方が冒険者、ギルド、商人、全てにおいてメリットがあるか。探索して地図を作るだけでも金になる。そういった地図製作者マッパーなんかも現れるだろう。

 地下迷宮ダンジョンってことは階層が下がっていくに連れて、魔獣も強くなっていくのかな。確か地下の方が魔素が濃く、強い魔獣が好んで棲みつくとか聞いたことがある。

 魔獣によって怪我人や死者も出るかもしれないが、冒険者である以上、それは常に心構えとしてわきまえているはずだ。

 

「わかりました。その提案、受け入れましょう」

「ありがとうございます。町外れの方に地下迷宮ダンジョンへの門とギルドの出張所を作りますので、完成したら「ゲート」の付与をお願いします」


 地下迷宮ダンジョンか。これで街が賑わえばいいけど。ちょっとだけ先行調査とかしちゃおうかな。









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あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
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