表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
183/637

#183 なぞなぞ、そして「図書館」。



『金貨が八枚、天秤が一つある。しかしこの金貨のうち、一枚だけ偽物があるという。偽金貨は本物よりわずかに軽く、天秤で計れはすぐわかる。さて、その偽金貨を天秤で見つけるとして、最小の回数は何回だろうか? なお、この問題は不正解すると強制的に入口に戻されます』


 ……完全になぞなぞじゃんか。まあこれはまともな方だけど。

 少し考えればわかる問題だ。正解はっと……。いや……待てよ。

 考え直した答えを水属性の魔力と共に流す。


ピンポンピンポンピンポーン。


 やっぱりか! ホント性格の悪い……。ゴゴゴゴゴゴ……と開いていく壁を睨みつける。


『主、今の答えは?』


 琥珀が尋ねてくる。ん? ああ、心の中で浮かべたからわからなかったのか。


「普通に考えたらさ、何回かかると思う?」

『四枚ずつ分けて天秤で計り、1回。軽かった方の四枚を二枚ずつに分け、さらに計って2回、最後にその二枚を計って軽いものが偽金貨ですから、計3回かと』

「そうだね。でも天秤の左右に三枚ずつ乗せて計って、釣り合えば残りの二枚のうちどちらかが偽金貨だから2回ですむ。釣り合わなければ、軽い方の三枚を一枚ずつ左右に乗せて、釣り合えば乗せなかった一枚が、釣り合わなければ軽いのが偽金貨。どちらにしろ2回ですむ。普通ならこれが正解だ」


 普通なら、な。


『2回ではない、と?』

「正解は1回だよ。八枚の中から二枚取って、天秤を使って計れば「運が良ければ」1回でわかるだろ?」

『運が良ければって……』

「問題には「確実に」とか「一発で」とか指定はなかっただろ? 天秤を使った最小回数を答えろって問題なんだよ」


 やっぱりここはバビロンの遺跡だ。問題がいやらしい。あの博士の考えそうなことだ。もういい加減長い付き合いだから、なんとなく考えてることがわかる……ってのもなんか嫌だなあ……。汚れちまったよ……。




 そのあとも、



『次の計算式はある法則に従って答えが導き出されています。□に当てはまる数字を答えなさい』


36=1

108=3

2160=2

10800=□




 という比較的まともな問題があったりすると、なにか裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

 結局引っ掛けなんかはなくて、答えは普通に「5」だったが。

 どっちにしろこれは謎かけとかじゃなくて本当になぞなぞだな。確かに難しくはないんだけど、間違えると入口に戻されるのが厄介だ。壁が再び閉まって、新しい問題に変わっているのだ。ざっと上げてみると、




『端に火を付けるときっちり一時間で燃え尽きる切れない魔法のロープが二本ある。これでロープを残さず正確に45分を計るにはどうしたらいいだろうか?』




『男が魚を四匹、夕食用に用意していたところ、猫が三匹やってきてそれぞれ一匹ずつくわえて逃げていきました。男の家族は四人家族でしたが、問題なく全員一匹ずつ夕食で魚を食べることができました。なぜ?』




『袋の中に金貨が27枚入っている。三人の冒険者でこれを平等に分けて、なおかつ袋の中に5枚以上残すとすれば最大一人何枚手に入れられるだろうか?』




 という、まさになぞなぞである。戻りたくないので、答えを思いついても、もう一度考え直し、なにか見落としはないか、ひっかけはないかと結局時間がかかってしまうことが、あの博士の手の上で踊らされている気がしてきてハラが立つ。

 ちなみに先ほどの問題の答えは、




『二本のうち、一つは両端に火を付け、もう一本は片端だけに火を付ける。両端に火をつけたロープが燃え尽きたら残りの一本の端にも火を付け、それが燃え尽きれば、30分+15分で45分となる』




『猫が三匹「加えて」逃げたので、魚は全部で7匹。なにも問題はない』




『9枚。均等に分けて、一人が袋ごともらえばよい』




 と、こうである。


 ピンポンピンポンピンポーン。


 最後の無属性の部屋を突破すると、そこにはいつもと同じ、六本の石柱が立つ転送陣があった。


「やっとかよ……。まったく手間取らせてからに……」


 どうせあの博士の悪ふざけだろうが、付き合わされるこっちの身にもなれってんだ。ウンザリしながら六柱の魔石に魔力を流し、転送陣の中央に琥珀と共に立つ。無属性の魔力を足下に流し、転送陣を起動させた。

 



 光の奔流が収まり、目を開くといつものバビロンの風景だ。木々が風にざわめき、彼方に雲海が広がる。

 辺りをキョロキョロと見回すと、木々の向こうに建物が見えた。さて、「蔵」か「図書館」か「研究所」か。

 転送陣から歩き出し、建物の方に向かうと、やがて見えてきたその全貌からそれが何であるかすぐわかった。

 建物の形は円形でツナ缶のような形をしていた。全面ガラス張りで、中が窓から丸見えである。そこから見えるのはどこまであるのかと思われるほどの本棚だらけの室内、そしてそこにぎっしりと詰まった本の山。

 「図書館」だ。間違いない。

 建物の周囲をぐるっと周り、入口を探す。やがて大きく豪奢な扉が僕らを出迎えた。

 重い観音開きの扉を開くと、そのさらに奥にもうひとつ扉があり、それも開けて「図書館」の中へと入る。


「うわ……」

『これは……』


 琥珀と一緒に絶句してしまう。見渡す限りの本、本、本。書架が10メートル以上もの高さで並んではいるが、外壁に合わせてカーブを描いているので、まるで迷路のようだ。

 とても手の届きそうもない高さに本があるけど、あれってどうやって取るんだ? 周りに脚立やハシゴのようなものはないが……。

 足元の赤い絨毯を踏みしめながら、とりあえず円形の中央へと向かうことにする。入り組んでいるので、まっすぐに向かえないのだが。明らかにこれって本棚の配置ミスだと思う。

 それでも天井を見れば、放射状に広がった継ぎ目から中央の方向がわかるので、それを頼りに進んでいく。

 しばらく進むと、急に辺りが開け、机や椅子がそこらに見られるようになった。机の上にはいろんな本が山積みになっていて、その奥のソファーには一人の少女が腰掛けていた。

 持っている本に視線を落とし、こちらを見ようともしない。栗色の髪はショートカットに切り揃えられ、眼鏡をかけた横顔は、他のバビロンナンバーズと共通した面影がある。着ている服もみんなと同じだし、この子が「図書館」の管理者なんだろう。


「あの……」

「アト30分ほどで読み終わりますので話かけないでください」

「あ、はい……」


 取りつく島もない。完全に邪魔者扱いだ。仕方ない、待つか。静かな空間に少女のページをめくる音だけが漂う。手持ち無沙汰になった僕は、その辺の本をなにげなく手に取り開いてみる。


「読めない……」


 何語だこれ? 古代魔法言語でも古代精霊言語でもないな。古代パルテノ語か?


「リーディング/古代パルテノ語」


 お、読める読める。け、ど……。難しくてよくわからん……。なんか魔獣についての考察と研究のレポートみたいな感じだけど。

 「リーディング」を発動させたからか、ところどころ背表紙に書いてあるタイトルが読めるようになった。あれ全部が古代パルテノ語で書かれている本なんだろう。


「魔流体制御における干渉と考察」


「魔草学と秘薬」


「夜の手ほどき 初級者編」


 オイ。あからさまなタイトルにちょっと手を伸ばし、中をパラパラとめくってみると、案の定そういったハウツー本だった。


『お互いが楽しめるように、まずは緊張をなくすことから始めましょう。未成年でなければ軽く飲んで、少しだけお酒の力を借りるのも悪くはありません。しかし、度を過ぎては台無しですのであくまで嗜むくらいにしておきましょう。次に相手の……』


 ふむふむ……ほ、ほほう……。な、なるほど……。

 これは意外と……使えるような気が……。えっ、これって……そうなの? いや、でもなー、ハードル高いよなー。この「さりげなく」ってのが難しいだろ……。


「ナニを読んでいるので?」

「おわあっ!?」


 背後からかけられた声に思わず飛び上がる。びっくりした! あれ? もう30分たってた!?

 僕の方を訝しげに首を傾げながら少女は口を開く。


「ヨウこそバビロンの「図書館」へ。私はこの「図書館」を管理する端末、名前をイリスファムと申します。ファムとお呼び下さい」

「あ、ああ、ファム、ね。僕は望月冬夜。よろしく」


 受け答えながら後ろ手で本を元の位置に戻す。見られたかな……。


「ココへ来たということは、博士の問題を解いて来たということですね。条件を満たしたと認め、コレより機体ナンバー24、個体名「イリスファム」は、貴方に譲渡されます。ヨロしくお願いします、マスター」


 あ、やっぱりあの問題、博士の仕業だったのか。いちいちあんな風に作らなくてもいいものを。まあ、余計なエロ攻撃に晒されないだけまだマシか……。はっ!

 この次の展開に気付き、身構えようとしたが既に遅く、僕はファムに唇を奪われていた。素早く舌が差し込まれ、口腔内を蹂躙していく。「城壁」のリオラのときと比べて、あっさりとしたその行為はすぐに終了した。


「登録完了。マスターの遺伝子を記憶いたしました。これより「図書館」の所有権はマスターに移譲されます」


 くっ、学習能力がないのか、僕は。こうなることはわかってたのに。まあ、しないって選択はないから遅かれ早かれしなきゃいけないんだし、変な状況でやられるよりはいいか……。


「ソレで現状、バビロンはいかほど揃っているのですか?」

「え? えっと「庭園」「工房」「錬金棟」「格納庫」「城壁」「塔」の六つ、この「図書館」で七つめだな」

「ナルほど。ではそちらの方へ向かうとしましょう」


 机上の端末に何やら打ち込むと、「図書館」が静かに動き出した。ブリュンヒルド上空にある他のバビロンとドッキングに向かうのだろう。


「マスター。お願いがあります。この「図書館」に新たな本を入荷していただきたいのですが……」

「これ以上本がいるの? っていうか、何冊あるんだよ、これ」

「ザッと2000万冊は下らないかと」


 にせっ……! 日本の国会図書館でも蔵書数は1000万冊ぐらいじゃなかったっけ? 確か、雑誌とか新聞、非図書資料とか全部合わせると3500万くらいいくみたいだけど。


「ホトんど読んでしまったので、新しいものが読みたいのです。早急にお願い致します」

「読んだって……2000万冊を!?」

「平均二時間で一冊読んで、5000年も続けていれば、それぐらいはいきます」


 いやいやいや。24時間休まないのかよ! シェスカとかフローラは睡眠装置で何年か眠り続けたり、「塔」のノエルに至っては今だに寝てるぞ!?


「私はさほど動かないので。それでも5000年も稼働していると調子が悪くなってきてますが。まあ「研究所」が見つかればちゃんとしたメンテナンスができるでしょう」


 5000年もずっと本を読み続けてたのか……。筋金入りの本好きだな。活字中毒者と言う人種か。とんでもないな。

 とりあえずリーンの念願だった「図書館」が見つかったって報告をしておくか。リーンのことだから入り浸りそうだけどなあ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作リンク中。

■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ