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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第22章 冬来たりなば春遠からじ。
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#182 魔王国、そして謎かけ。


「バビロンの遺跡が見つかったって? 場所は?」

『はい。魔王国ゼノアスの中央部、その山岳地帯に』


 紅玉の報告を聞き、僕は少し考え込む。

 魔王国ゼノアスか。魔族たちの住む閉ざされた王国。魔王と呼ばれる者により統治され、他国との関わりをあまり望まない国だという。天険の地による過酷な環境でありながら、様々な種族が暮らし、また魔獣やその亜種たちが多く跋扈する魔境の地とも言われる。

 全くの未知の国にいきなり行ってもいいものか……ちょっと確認の為に、うちの騎士団にいる魔族の者を呼び出した。


「ゼノアスのことでありますか?」


 呼び出したのは赤目で色白、耳が尖ったヴァンパイア族の青年。名前はルシェード。ヴァンパイアでありながら血が苦手という変わり者だ。彼が言うには血はあくまで嗜好品であり、生きていく上で必ずしも必要なものではないのだそうだ。

 彼はことごとく僕の中のヴァンパイア像をぶち壊してくれた。まず太陽は平気だし、ニンニク料理も好んで食べる。十字架も平気だし、銀の武器もなんともなかった。コウモリ化もしないし、何より血が苦手ときた。

 最後の個人的に血が苦手ということを除けば、この世界のヴァンパイアはそういうものらしい。あ、あと血を吸われたからって相手が吸血鬼化するなんてこともない。

 暗視能力や怪力、高い再生能力など、他の優れた能力もあるのだが、この青年の頼りないイメージからか、イマイチピンとこない。

 それでもヴァンパイア族はゼノアスでは、かなり高位の一族らしいので、なにか知っているかと思って呼び出したわけだが。そんな位の高い一族に生まれた彼が、なぜうちなんかに来たのか謎である。面接の時は一人立ちしたかったから、と言っていたけど。


「ゼノアスには魔族以外の人間はいないの?」

「いえ、少数ではありますが人間や、亜人なども普通におります。積極的に他国との関わり合いを持たないだけで、別に鎖国というわけではないので。ただ、いろいろと暮らしにくいので、住むものはあまりいないかと」

「というと?」

「まず気温の変化が極端ですね。昼は真夏のような暑さかと思えば、夜は極寒の冬といった感じで。魔獣が多く、街から一歩出た途端に襲われる可能性が跳ね上がります。それと食事ですね。あまり人間が食べるようなものはないかもしれません。スライムゼリーやオーク肉なんて食べたいと思いますか?」


 オークってあれだろ? 豚人間。猪八戒みたいな豚の頭に人間の体ってやつ。あれ食うの!? いや、豚肉みたいなもんかもしれないけどさあ! 普通に豚を食おうよ!

 スライムゼリーってのも……。うん、気色悪い。食文化の差異は僕にはきついかな……。

 もちょっとマシなのがないかと聞いてみたが、ミニワームのスープとかジャイアントバットの姿焼きとかが話に出てきた。無理無理無理。僕には無理です、ハイ。食べたら美味いのかもしれんが、ビジュアル的に駄目です。


「私もこちらの食事に慣れてしまうとなかなか……。たまに食べたくなる料理もあるのですが」


 そう言ってルシェードが苦笑いを浮かべる。まあ故郷の味ってのは忘れ難いものだよな。

 それはともかく。ゼノアスに人間がいてもおかしくないなら問題ないか。ちょこっと忍び込んでバビロンへの遺跡へ行かせてもらおう。見つかったら貧乏旗本の三男坊とか言えばいいだろ。暴れたりはしないけどさ。将軍でもないし。

 よし、とりあえず行ってみるか。あいにくルシェードはその遺跡の辺りに行ったことはないそうなので、まずはユーロンに転移してから「フライ」で飛んでいくことにしよう。

 今回も「フライ」で行くので、みんなには城で待ってもらうことにした。なにかあった時の連絡用に、琥珀たちのうち一匹を連れて行こうとしたら、喧嘩になりかけて止めるのに苦労した。

 ユミナお手製の「くじ」で、連れて行くのは琥珀に決まり、さっそく以前フレイズと戦ったユーロンへと「ゲート」で転移する。

 相変わらず何もない荒野だ。ここには用はない。琥珀を「レビテーション」で浮かせて、「フライ」で一気にゼノアスの方向へと飛んでいく。

 一応見られても困るので、「インビジブル」で透明化もしておいた。

 ゼノアスの領空へと突入すると、前方からなにやらこちらへ向けて飛んでくる者たちがいた。速度を下げて伺っていると、上半身は女性、下半身と腕は鳥という二人の魔族だった。


『ハーピィーです。下半身の爪はかなり強力で熊をも倒すそうです。こちらから仕掛けなければなにもしないでしょう』


 琥珀の言う通り、二人のハーピィーは何もせずに僕の前を素通りして飛び去った。それ以前に見えてなかったんだろうけど。魔力障壁が展開しているから、匂いとかも消されるからな。

 あれは魔獣じゃなくて魔族なんだよな。境目が難しいが、基本的には意思疎通ができて、人間に近い者を魔族と呼ぶらしい。人間に近くても意思疎通ができないデュラハンなんかは魔獣、意思疎通ができても、人型には遠いユニコーンなんかも魔獣ってことになる。まあ細かい線引きはわからないが。


「一応気を付けておくか。知らん魔獣なんかも結構いそうだし」


 再び目的地へ向けて飛んでいく。地上へ目をやると荒野と岩山、そして鬱蒼とした森などが広がっていた。確かにここで暮らすのは大変な気がする。

 一応道らしきものはあるのだが、整地されているとはとても思えない。


「かなり未開な感じだなあ。まあ王都の方に行けばまた違ってるんだろうけど」

『魔素の濃度も濃く、魔獣の数が多いようですね。ここは人が暮らすには難しい場所のようです。魔族のように強靭な身体を持つ種族でないと……』


 ある意味なるべくして魔族の国となった場所なんだろうな。

 しかし、暑いなあ。こっちじゃ冬じゃないのか? 太陽がギラギラと照射されるんだが。ここの辺りの上空だけ、なんか太陽光線がパワーアップしてる気がする。これも魔素の濃度とやらに関係あるんだろうか。

 一応僕のコートには耐熱性があるからなんとか大丈夫だけど。

 飛行しながら地上を眺めていると、向こうからまたなにかが飛んできた。またハーピィーか?

 いや、鳥だな。青いコンドルのような鳥だ。あれが紅玉の眷属だな。

 コンドルは僕らの方を先導するように飛んでいく。やがて山岳地帯へと差し掛かり、その一角にある谷へと僕らを導いて行った。


「これは……」


 岩山の間に挟まるように、凱旋門のような遺跡があった。

 地上に降り立ち、門の物質を調べてみるが、バビロンの遺跡と同じ素材に思える。当たりか。

 門の高さは三メートルくらい、中へと入ると六畳一間のような部屋があり、壁にはなにか文字が刻まれていた。その左側にはなにか図形の様なものが五つ縦に並んでいる。

 中央には腰の高さまでの石柱が一本だけ。その上には赤い火属性の魔石が輝いている。

 洞窟……というよりはほこらみたいだな。周りは全部、例の黒い大理石のような材質だが。


「んん? 今までと違うな……。どういうことだ?」


 とりあえず目の前にある石柱に火属性の魔力を流す。するとブブーッ、というブザー音のような音が聞こえてきた。むむ? これってまるでクイズ番組とかの外れの音みたいだな。違うってことか? 不正解?


「やっぱりこの壁の文字と図形がヒントなのか? これって古代魔法言語だったっけ? 「リーディング/古代魔法言語」」


 魔法が発動され、壁に書かれていた文字が理解できるようになる。


『右の図形を正しい順番に上から並べよ。実際に並べ替える必要はなく、頭に思い浮かべ、魔石に触れて魔力を流せばよい』


 なんだこりゃ。クイズか? 図形ってこの横にある丸とか三角の五つの図形か。


挿絵(By みてみん)


 上から四角、半月、星型、丸、三角と並び、その中央には小さな点が、五つ、三つ、一つ、四つ、二つ、と打たれている。


「この中央の点の順番に並べ替えれば……なんて簡単なことじゃないよな」


 それでも一応頭の中に、星型、三角、半月、丸、四角と並べ替えて魔力を流す。しかしまたしてもブブーッ、と不正解のブザーが鳴った。ま、そうだろうな。


「うーん……あ、これはあれか、直線の数か」


 丸は0、半月は1、三角は3、四角は4、星型は5、と。2がないのは直線で作れる図形がないから……あれ?

 半月が許されるなら、2は円を四等分したような形でもよかったんじゃないのか?

 とりあえず丸、半月、三角、四角、星型、と並べ替えてみる。

 ブブーッ。不正解。


「やっぱりこの中の点が関係あるのか?」

『この図形はなにか別の物を表しているのでは?』

「うーん……丸……が「太陽」とかなら、この半月は「月」だよな。星型はまんま「星」なら……天体の何かを示しているのか? なら三角と四角ってなんだ?」


 上から並べる……地上からの距離で並べるのか? なら一番遠いのは「星」で、次は「太陽」、「月」……三角が「家」で、四角が「大地」とか? 並べ替えてみる。

 ブブーッ。


「くっ。むむむ……。やはり中央の点に何かヒントが……」







 それからしばらく僕らは図形と睨み合い、試行錯誤を続けることになった。で、数分後。


ピンポンピンポンピンポーン。


「っざけんなあああぁぁぁぁ!!」

『あっ、主! 気持ちはわかりますが落ち着いて!』


 ゴゴゴゴゴゴ……と横へとスライドしていく図形が刻まれた壁に蹴りを入れてやろうかとするが、琥珀にしがみつかれたので寸前で止める。


「あんな答えあるか!? なんだあの問題!!」

『いや、まあ同感ではありますが……』


 琥珀が引きつった笑いを浮かべる。さっきの問題の答え。それは、


『右に図形などない』


 だった。キレてもよくない!? 確かに図形は左側にあったけどさあ! これじゃあまるっきり「なぞなぞ」じゃんか!

 僕が気持ちを落ち着かせていると、次の部屋も同じような文字が壁に刻まれ、中央には青い魔石が嵌め込まれた石柱があった。またかよ!








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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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