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異世界はスマートフォンとともに。  作者: 冬原パトラ
第21章 女たちの戦い。
179/637

#179 ウッドゴーレム、そしてフラガラッハ。



「ウッドゴーレム……でもあれは大きすぎます。巨獣化している? あんなにたくさん……」


 全身を樹木で覆った20メートルはあろうかという巨大なゴーレムが何体も、周りの木々を押し潰し、薙ぎ倒しながらこちらへ向かって来る。形状はミスリルゴーレムとかと変わらない。ただアレらよりも大きい。

 ひの、ふの、みの……十体以上はいるな。ひょっとしてさっきの枯れた木は、こいつらに養分を吸収されたとか?

 一番先頭のゴーレムが聖樹域に足を踏み入れようとしたが、緑の防御壁に阻まれ、進行を止められた。

 僕の目の前に野球ボールほどの緑色の燐光を発する球体が出現する。


『冬夜様!』

「大樹の精霊か?」

『はい。現在、ほとんどの力を防御壁へ向けていますのでこんな姿で失礼します! 冬夜様たちの力で、なんとか部族のみんなをここから避難させていただけますでしょうか? アレの狙いはおそらく私……神樹を取り込むことだと思われます。精霊の力を吸収したウッドゴーレムを生み出そうとしてるのでしょう』


 ははん、精霊の宿る神樹をゴーレムと同化させ、その力を操ろうってことか。先ほどの枯れた木も、ウッドゴーレムも、どうやら初めから仕込んでおいたらしいね。

 そしておそらく黒幕はリベット族に違いない。もしもこの「剪定の儀」で優勝できたなら、新たな掟を告げる儀式の時に、神樹へ直接毒かなにかを撒き、弱らせたところでゴーレムと同化、もしくは神樹自体をゴーレム化させるつもりだったのだろう。

 しかしラウリ族に優勝を掻っ攫われてしまった。ならば強行作戦だ、ってところか。往生際というか、頭の悪い奴らだ。

 …………って、隣の諸刃姉さんが解説してくれた。そなの?

 そっかあ、昨日の夜に見たリベット族はこの仕込みをしてたのか。あの時潰しておくべきだったな。

 「フライ」で八重たちのいるステージ上へと飛んでいき、試合に出なかった五体満足なリベット族の二人を捕まえる。むろん、スタン弾で麻痺させてからだ。精霊の力が防御壁に向けられているので、ここでも魔法が普通に効果を発する。


「答えろ。アレはなんだ?」

「……我々が種の状態で持ち込んだウッドゴーレムだ。周りの木々の生命力を吸い取って巨獣化するように改良した」

「改良だと?」

「様々な毒を掛け合わせ、長い時間をかけて変質させたのだ。そしてあれは神樹をも取り込むことができる。精霊の力をも操れるのだ。その力を持って、我がリベット族がこの大樹海の支配者となるのだ……ククッ……」


 はん。諸刃姉さんの言ってた通りか。だが、そんなにうまくいくと思うなよ。お前らの敗因はこの場に僕らがいたことだ。


「ゲート」


 空中に転移陣を開き、「黒騎士ナイトバロン」を出現させる。1メートルほどの高さから落ちた黒騎士は、ズシンとウッドゴーレムとはまた違った衝撃を地面に響かせて神樹域に着地した。手には剣を、背中には新装備、「フラガラッハ」を背負っている。


「なっ、なんだ、あれは!?」

「新装備の実験にちょうどいい。お前らの自慢のゴーレムとやらが砕け散る様を見るといいさ」


 驚愕に目を見張るリベット族の男を一瞥し、呼び出したフレームギア「黒騎士」へと歩き出そうとすると、観客席からユミナとリンゼがやって来た。


「冬夜さん、アレの排除を私たちにもさせてもらえませんか?」

「え? 「黒騎士」に乗るってこと?」

「はい。ユーロンの時も今回の試合も私たち何もさせてもらえなかったので」


 そういやそうだった。ユーロンの時は魔法が効かなかったから、今回は魔法が禁止されてるから、ってことで。

 確かにフレイズと戦うことになっても今度は「フラガラッハ」があるから、ユミナたちでも魔力を使ってフレイズたちを遠距離攻撃で倒すことができる。訓練しとくに越したことはないか。


「わかった。まあ、僕もサポートするけど、気をつけて」


 「ゲート」を開き、もう一体の「黒騎士」を呼び寄せる。こっちのは色を青く塗ってあるやつでいわば「青騎士」だ。手には戦棍メイスを持っている。こいつは副団長のノルンさん用に調整してたものだが、問題ないだろ。

 「黒騎士」にユミナが、「青騎士」にリンゼが乗り込む。素早く機体を起動させると、それぞれ魔法をフレームギアで使うための設定をしていく。


『…魔力同調。第一スロット解放』

『同じく第一スロット解放。「フラガラッハ」展開。同調完了。異常無し』

『…こちらも異常無し』


 「ストレージ」からレシーバーを取り出し、二人のやり取りを受信する。どうやら問題はないようだな。


『じゃあ右手側をユミナ、左手側をリンゼが相手をしてくれ。魔力切れになりそうだったら、指輪から『トランスファー』で魔力を引き出していいから』

『わかりました』

『了解、です』


 黒騎士と青騎士が走り出し、手に持った武器を、精霊の防御壁を破壊しようとしているウッドゴーレムたちにそれぞれ向けた。


『雷よ穿て、百雷の矛、ライトニングジャベリン』

『氷よ貫け、氷結の尖針、アイスニードル』


 黒騎士の剣先からは白い雷光が、青騎士のメイスからは無数の氷片が、それぞれ相手とするウッドゴーレムへと炸裂した。

 ユミナが風属性なのはわかるが、リンゼが得意とする火属性じゃないのはやはり燃え移るのを警戒してのことだろう。雷も危ないけど、あの魔法は現実の雷と違って発火するわけじゃないからな。

 二体のゴーレムが倒れたのをきっかけに、短時間だけ解除された防御壁から二人とも神樹域を飛び出す。


『とりあえず「フラガラッハ」のテストをしてみてくれ。無理しない程度にね』


 二人は互いに受け持つ方向のウッドゴーレムへと向かっていき、数体ずつと対峙する。まずはユミナが動いた。


『「フラガラッハ」起動!』


 黒騎士の背中、そこにX状にあった晶剣四本が、一斉に空中に浮かび、黒騎士の前面に展開する。


『いけッ!』


 ユミナのかけ声と共に、ドンッ! と音速ジェット機のように飛び出した巨大な晶剣が次々とウッドゴーレムを切り裂いていく。あの硬いフレイズでさえも切り裂く刃だ、木製のゴーレムなど敵ではない。

 見事ゴーレム内部の核を切り裂いた四本のフラガラッハは再び黒騎士の元へと帰還し、今度は黒騎士を守るように、まるで衛星のように機体の周りを周回する。まあ、もともとはサテライトオーブの機能を流用してるので、本当は防御システムだからな。


『うーん、やっぱり四本別々に違うターゲットを破壊するのは難しい?』

『そうですね。できないことはないと思うんですけど、感覚が追いつかないっていうか。練習次第だと思います』


 やっぱりか。ロゼッタも別個に独立したリズムとテンポとかが大事だって言ってたな。音楽を奏でる感覚に近いらしい。まあ、確かに似てる。右手と左手に違う動きをさせるピアノのように。

 ちなみに僕はけっこう楽に四本を別々に操ることができた。子供の頃、親に習わされてたピアノのおかげかもしれない。こんなことで役に立つとは思わなかったが。

 そういやこっちの世界でピアノって見たことないな。「フラガラッハ」の練習用に作ってみるのもいいかもしれない。久しぶりに弾いてみたいしな。


『「フラガラッハ」、発射』


 今度はリンゼの放ったフラガラッハがウッドゴーレムを切り裂いて、四本のうちの二本は別のウッドゴーレムを攻撃していた。

 リンゼの方はなんとか二つバラバラに攻撃できるようだ。しかし、四ついっぺんに同じ相手に動かす時に比べ、正確さに欠けているように思える。これも練習次第か。


「馬鹿な……なんだあれは……!」


 次々と自慢のゴーレムが切り裂かれていく姿を、驚愕に顔を歪ませていくリベット族の男。

 おっと、こいつらの仲間も捕まえておかないとな。マップ検索でリベット族を全員捕捉し、「パラライズ」で動けなくさせてやった。わかりやすい格好してるから検索しやすいな。

 そうこうしているうちに、二人はあらかたのゴーレムを倒してしまっていた。これがミスリルとかオリハルコンゴーレムだったらウッハウハだったんだがなあ。品種改良を施されたとはいえ、木は木だし。素材としての価値はあまりないかな。まあ、普通に木材としての価値はあるだろうけど。


『これで、終わり』


 最後の一体をリンゼが仕留めて、全てのゴーレムが沈黙した。それを見て、神樹域にいる全ての部族から歓声と喝采、勝利を讃える雄叫びなどか湧き上がった。もちろん、リベット族を除いて、だが。

 しかし、周りの木々にけっこうなダメージを与えてしまったなあ。あの大きさからいうと、かなりの樹齢を重ねた木だったろうに。

 球体状の精霊がこちらへやってくる。防御壁に力を注いでしまってまだ人型になれないのかな。


『冬夜様、ありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか……』

「いや、こっちこそ周りの木々を破壊してしまって申し訳ない。もっとうまく立ち回ればよかったかな」

『ああ、お気になさらず。後で私が力を注ぎ、元の森へと戻しますので』


 そんなこともできるのか。さすがは大樹の精霊と言ったところか。

 ひゅん、と精霊は「審判の部族」であり、自らの代弁者たるジュジュ族の方へと飛んでいった。

 やがて「審判の部族」の長らしき者が高らかに声を上げる。


「神聖なる大神樹を己の物にしようと企んだ、愚かなる者たちの野望はここに潰えた! 遠き国、ブリュンヒルドからの使者が、我らの大神樹を護ってくれたのだ! 我ら大樹海の部族は彼らに最大の感謝と称賛を捧げる! 彼らに精霊の加護のあらんことを!」

『精霊の加護のあらんことを!!』


 割れんばかりの歓声と拍手が二体のフレームギアへと送られる。僕らはあくまでラウリ族の助っ人で、ユミナとリンゼの二人がブリュンヒルドの代表として認識されたみたいだ。ま、いいけどね。実際にウッドゴーレムを倒したのは彼女たちだし。

 やがてジュジュ族の人たちがリベット族を捕らえて連行していった。森の中に残りのリベット族も倒れているはずだから、そいつらも捕縛するように頼んでおく。

 そして改めてラウリ族が「樹王の部族」となったことを宣言し、新たな掟として「剪定の儀」を男女別にすることが宣言された。

 この掟に他の部族はどよめいたが、大神樹からの反対もなかったため、新たな大樹海の掟としてこれが認められた。

 よくよく考えてみればそんなに悪い話ではないと、他の部族でも思い至ったようだ。優勝枠がもうひとつできるようなもので、全部族にその恩恵がある。バルム族だけは女性がいないのでなんら変化が無いわけであるが。

 しかし、そのバルム族も自分たちの戦う相手から、目障りなラウリ族が消えるのは悪いことではないので、これを受け入れたようだ。

 こうして幾分かの波乱を含んだ「剪定の儀」はラウリ族の勝利で終わったのである。










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■スラムで暮らす私、サクラリエルには前世の記憶があった。その私の前に突然、公爵家の使いが現れる。えっ、私が拐われた公爵令嬢?
あれよあれよと言う間に本当の父母と再会、温かく公爵家に迎えられることになったのだが、同時にこの世界が前世でプレイしたことのある乙女ゲームの世界だと気付いた。しかも破滅しまくる悪役令嬢じゃん!
冗談じゃない、なんとか破滅するのを回避しないと! この世界には神様からひとつだけもらえる『ギフト』という能力がある。こいつを使って破滅回避よ! えっ? 私の『ギフト』は【店舗召喚】? これでいったいどうしろと……。


新作「桜色ストレンジガール 〜転生してスラム街の孤児かと思ったら、公爵令嬢で悪役令嬢でした。店舗召喚で生き延びます〜」をよろしくお願い致します。
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